89 / 554
第6章 死と絶望の果て
第80話 写真と妻
しおりを挟む(……写真?)
手帳から滑り落ちてきたのは、一枚の写真だった。
狭山は、その写真を目にした瞬間、前屈みになった体勢を整えるもの忘れて、その写真に釘付けになった。
にこやかに笑っているのは、若い頃のミサだろう。どこか古びたその写真の中のミサは、今とはまるで違う、少女のような屈託のない笑みを浮かべていた。
そして、その隣には、優しく笑う男性の姿。
ミサとは違う黒髪。だが、こちらの男性もなかなかのイケメンで、まさに美男美女と言ってもいいくらいだろう。
そして、その二人の間には、ミサの腕に抱かれるようにして、金色の髪をした赤ちゃんがいた。
(……家族写真か?)
それは、親子が三人で写っている何の変哲もない家族写真だった。
この赤ちゃんは、エレナちゃんだろうか?
なら、この男の人はエレナちゃんのお父さん?
つい気になって、狭山がその写真を穴がたきそうなくらい見つめていると
「……狭山さん」
その思考を遮るように、ミサが声をかけてきた。
「あ、すみません」
「いいえ。こちらこそ、すみません。落としてしまったみたいで」
そう言って柔らかく微笑むミサの姿は、いつもと変わらない。だが、その瞳は有無を言わさず「返せ」と言われているようにも感じた。
そんなに、大事な写真なのだろうか?
狭山は、そんなことを考えながら写真をミサに手渡す。
「家族写真ですか?」
「えぇ……」
「エレナちゃん、赤ちゃんの時から可愛かったんですね~、隣の方はお父さんですか?」
「いいえ」
「はい?」
「これは……別れた夫と息子の写真です」
まるで流れるように平然と言い放ったその言葉に、狭山は瞠目する。
別れた夫と……息子?
「わ、別れたのに、持ってるんですか?」
「いけませんか?」
そう言って、また綺麗に笑ったミサの声は、とてもひんやりとしていて、狭山は、その刺すような雰囲気に反論も肯定もできず口ごもる。
もちろん、いけなくはない。
いけなくはないが
別れた夫が写る写真なんて、わざわざ持っておきたいものだろうか?
なんか、それってちょっと……
(……怖くね?)
◇
◇
◇
───パリーン!!
「!?」
ロサンゼルス。広々としたワンルームの一室で、パソコンに向かい仕事をしていた侑斗《ゆうと》の背後から、何かが割れるような音が響いた。
我が子達と離れて、一人で暮らす侑斗。自分以外、誰もいないその部屋で、突如鳴り響いた音に、侑斗は何事かと振り返る。
「え!? なんで、落ちた!? なんで割れた!? ちょっと、怖いんだけど!?」
振り向き確認すれば、本棚の一角に飾っていた写真立ての一つが、その棚から落ちたようで、フローリングの上には、写真立ての割れたガラスの破片が、バラバラと散らばっていた。
その光景を見て、侑斗は深くため息をつく。
「あー……マジか」
再度パソコンに向かい、手がけていた仕事の文書を保存すると、その後、イスから立ち上がった侑斗は床に散らばったガラスを片付けるため、割れた写真立ての元に向かった。
前屈みになり、背を向けた写真立てを拾い上げると、するとそこには
──最愛の「妻」の姿が写っていた。
「……しかも、アイツの写真か」
そこには、優しく微笑む"黒髪の女性"が写っていた。はるか遠く日本にある我が家にも、同じ写真が飾ってある。
だが、よりにもよって、この"写真立て"かと、侑斗は残念そうに息をつくと、その写真を見て目を細めた。
棚の上には、ほかにもいくつか写真立てが飾ってあった。我が子が三人で写るものや、家族四人で撮ったもの。
海外で一人暮らす父が寂しくないようにと、華がわざわざ写真立てにいれて持たせてくれたものだ。
だが、この妻の写真だけは違った。
この写真だけは、長い間ずっと、この写真立てに入れられたまま、侑斗が持ち続けてきた物だった。
「せっかく、一緒に選んだやつなのにな……」
これは、結婚した時、妻と一緒に選んだ写真立てだった。
もう、15年は昔のことだ。
だけど、今でも思い出す。
優しく笑う君の姿も、自分を呼ぶ君の声も
そして、あの日──
妻が突然、亡くなった日のことも……
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。
昼寝部
キャラ文芸
俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。
その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。
とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。
まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。
これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる