神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜 あやめ

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第6章 死と絶望の果て

第81話 死と絶望の果て 1

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 妻が亡くなったのは、とても急な話だった。

 朝、いつも通り笑顔で送り出してくれた妻。
 だけど、その日なんの前触れもなく、彼女は帰らぬ人となった。

 そして残酷なことに、妻の異変に最初に気づいたのは、その時まだ小学二年生の

 ──飛鳥だった。

 その日、飛鳥が学校から帰ると、華と蓮の泣き声が聞こえてきて、家に入ると妻が倒れていたらしい。

 慌てた飛鳥は、そのあと救急車を呼んで、俺にも電話をしたらしいが、会議中だった俺は携帯にはでれず。

 その後、俺が妻のことを知ったのは

『星ケ峯総合病院の者ですが……』

 電話口から聞こえてた、看護師からの残酷過ぎる知らせをうけた時だった。

 死因は、心筋梗塞。

 妻の母も同じ病で病死していたことから、もともと心臓の弱い家系だったのだろうといわれた。

 病院に駆けつけると、霊安室の前の病院特有の硬いソファーの上で、子供たちが三人身を寄せあって座っていた。

 泣き疲れたのか、華と蓮は飛鳥に身を預けるようにして眠っているようだった。

 飛鳥は、そんな華と蓮を抱き抱えたまま、その青い瞳を兎のように赤く腫らして

 ただひたすら──声を殺して泣いていた。





 ◆

 ◆

 ◆



「侑斗君には悪いけど、下の子供たちは施設にいれた方がいいんじゃないかしら?」

 妻の葬儀の最中、まだ呆然としている俺たちの周りを、親戚たちが取り囲んだ。

「男手ひとつで、三人も育てるのは大変でしょう?」

「それに、こんな小さな子には、やっぱり母親が必要だし」

「俺たちは、侑斗のために言ってるんだ」

「そうよ。まだ二歳なんだから、分からないわよ!」

「…………」

 亡くなった妻の前で紡がれる非情な言葉。

 まだ分からないからと、子供たちの前で容赦なく紡がれた言葉。

 それは、まるでナイフのように、槍のように、俺の心を引き裂きズタズタにし、心ないその言葉に

 酷くこの世を呪った。

 だけど、その中でも一番頭にきたのは、自分の"母親"から受けた言葉だろう。


 ◆


「アンタもつくづく結婚に縁がないよねー。再婚したと思ったら、"あの子"死んじゃうなんてさぁー」

 葬儀のあと、もう長く連絡をとっていなかった俺の母、神木 阿沙子《あさこ》から呼び止められた。

 俺が子供の時から、最悪な母だった。
 外に男をつくってばかりの──"女"だった。

 愛情をかけられた記憶なんて、全くない。

 だからだろう。俺は、もともと両親とは折り合いが悪く、頼れるような親戚も、ほとんどいなかった。

「来るなって言っただろ」

「なにさ。嫁が亡くなったんだ。姑が来ないわけにはいかないだろう?」

 喪服姿で、ケバい化粧と鼻につく香水を撒き散らした母は、普段と変わらない抑揚のある声を発しながら、俺たちの元に近づいてきた。

 こんな人が、自分の生みの親かと思うと、正直、自分の血を呪いたくなるくらいだった。

 しかも、この母《ひと》は、なぜか飛鳥のことは酷く気に入っていて、母はコツコツとパンプスの音を響かせながら、後ろに隠れていた子供たちに近づくと、そっと飛鳥にむけて手を差し出してきた。

「それにしても、飛鳥は相変わらず綺麗ねー。今どこで、どうしてるのか知らないけど、は、"あの女"に感謝しなくちゃね。ねぇ、アンタも一人じゃ大変でしょう? この子なら、後々いい感じで金稼いでくれそうだし、飛鳥は私が引き取ってあげるわ!」

「!?」

 母がケラケラ笑いながら、飛鳥の頬に触れた。

(引き取る? 何言ってんだ、こいつ……っ)

 正直、その言葉には、嫌悪感した生まれなかった。

 俺のことすら、ほとんど見向きもしなかったくせに、何を言っているんだろう。

 母にとって、子供とは、一体なんなのだろう。


「飛鳥に触るなッ!」

 飛鳥に触れた手を咄嗟に払い除けて、俺は実の母を威嚇するように睨みつけた。すると母は、呆れたように笑って

「そんな怖い顔しないでよ。アンタのために言ってるんじゃない 」

「何が、俺のためだよ……っ」

「だって母親なしで、こんな小さな子供三人も育てられるわけないでしょ」

「心配しなくても、お前らに頼ったりしねーよ!」

「相変わらず馬鹿な子ねー。なら、華と蓮は施設にでもいれなさい」

「!?」

「子供は一人いれば十分よ。それに、みんな言ってたじゃない。華と蓮はまだ小さいし、里親に出しやすいうちに捨てときなって……片親で貧しい思いするよりも、他所にもらわれた方が、この子たちも"幸せ"よ」

「……っ」

 フツフツと怒りが込み上げてくる。

 妻を亡くした息子の心に寄り添うこともなく、平然と大切な我が子を捨てろという母親に──

「アンタにとって子供ってなんなんだ!? 飛鳥は渡さない! 華と蓮も施設に入れたりしない! 子供たちは俺が」

「でも侑斗と一緒にいたら、みんな"不幸"になっちゃうじゃない」

「……ッ」

「前の女とは離婚して、今回は死別でしょ? 侑斗のそばにいたら、みーんな不幸になっちゃう。次は、

「……っ」

 その言葉は、深く俺の心に突き刺さった。

 確かに、家庭環境には恵まれなかった。
 前妻とは離婚。

 そして、やっと手にいれた安らぎも、あっけなく俺のもとから去っていった。

(なんで……っ)


 どうして、こうなった?


 俺の……せいなのか?






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