神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜 あやめ

文字の大きさ
91 / 554
第6章 死と絶望の果て

第82話 死と絶望の果て 2

しおりを挟む

 葬儀が終わってからも、心が休まる暇はなかった。

 まだ小さい華と蓮の子守りに加えて、仕事に復帰するために、俺はひたすら華と蓮の預け先を探していた。

 だけど、保育園はどこも空きがなく、仕事を辞めるかも考えたけど、再就職にも明らかに不利なこの状況で、辞めるのは得策じゃなかった。

『神木、お前いつから出勤できるんだ?』

 そんな時、上司から電話がかかってきた。それは、妻が亡くなって二週間後のことだった。

「すみません。子供達の預け先がまだ見つからなくて、だから、もう暫く……」

『何を言ってるんだ。お前が働かないと、それこそ子供たち食わせていけないだろう。親でも親戚でも預けて、早く仕事に戻れ。それが、無理なら子供は』

「……ッ」

 電話先の上司の声に、酷く絶望した。

 働けるなら、働いてる。
 預けられるなら、預けてる。でも──

「それが出来ないから、こんなに悩んでんだろッ!!」

 受話器を叩きつけるようにして切ったあと、膝から崩れ落ちると同時に、そう叫んだ。

 味方など、誰もいないように感じた。

 誰もがみな「子供には母親が必要だ」と「子供は手放せ」と、そう俺に語りかけてくるようだった。

 上手くいかないことばかり続いて、イライラすることも増えて、それと同時に、体が思うように動かず、部屋で呆然とすることも増えた。

 何を食べていたかも、よく覚えていない。

 だけど、そんな俺のもとに、飛鳥はよく声をかけにきた。


 ◆

「お父さん、なにか食べて……」
「…………」

 薄暗い部屋の中で、呆然と座り込む俺のそばで、飛鳥が語りかける。

「ねぇ、お父さん」

 まだ小学二年生の、女の子みたいなか細い声をした飛鳥の……とてもとても不安そうな声。

 お父さん、お父さん、と。
 なんでもいいから食べてほしい……と。

 だけど、その時の俺には、そんな飛鳥の言葉すら心には響かず。

「……なぁ、飛鳥」

「?」

「子供には、母親がいなくちゃダメなんだってさ……お前も……そう思うか?」

「……」

「会いたいか……?」

 ──お母さんに。

 ただ漠然と、そうと問いかけた。
 今思えば、なんて残酷な問いかけだろう。

 だけど、俺は、無性に会いに行きたくなった。

 また、あの声を聞きたい。
 あの優しくて透き通るような、彼女の声を聞きたい。

 あの笑顔も、あのぬくもりも、あの心地良さも、何もかも全て取り戻したい。

「みんなで……会いにいくか……?」

 ぽつりぽつりと、亡霊のように呟いて、再び飛鳥に問いかけた。

 そうだ。みんな、会いたがってる。

 華も、蓮も、飛鳥も、俺も、みんなみんな、アイツに会いたがってる。

 なら、会いに行けば、きっと



 ─────みんな、幸せだ。




「会えないよ。お母さんは……もう、死んじゃったから」

「…………」
 
 だけど、静かな部屋の中に、また飛鳥の言葉が響いて、俺の思考は、再び現実へと引き戻された。

 妻が亡くなった受け止められない現実を、再度叩きつけられて、目の前が真っ暗になる。

 まるで闇の中に、一人置いてきぼりにされたような

 この先、どうすればいいのか
 どうなるのかすらわからない

 ────不安。




『侑斗と一緒にいたら、みんな不幸になっちゃうね』

 すると、その瞬間、また母のあの言葉が、俺の中に蘇ってきた。

 みんな、不幸になる?

 だから、アイツは死んだのか?

 俺と一緒にいたら、みんな不幸になって、辛い思いをするんだろうか?

 みんな、みんな、みんな、も、みんな



 ───────────不幸になる。





「……飛鳥」

 ずっと、流せていなかった涙が、不意に頬を伝って溢れだした。

 この子達の幸せを考えた時、もう、どうするのが一番いいのか、俺には分からなかった。

 だけど──


「飛鳥……今度、華と蓮を……施設に……預けに行くから……っ」


 だけど、きっとこれが

 





 ────"最善策"なのだと、思った。




しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

処理中です...