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第7章 お姉ちゃんと美少女
第95話 意地悪な人と優しい人
しおりを挟むエレナを見送ったあと、公園のベンチには、飛鳥とあかりの二人だけが残った。
すると、それから一瞬の沈黙を挟んだあと
「えっと……どっちだっけ、聞こえる方?」
「え?」
飛鳥がそう問いかけて来て、あかりは目を丸くした。
"聞こえる方"とは、あかりの耳のことを聞いているのだろう。あかりは一瞬キョトンとしたのち
「あ……左です」
そう答えると、飛鳥は「左ね」と確認した後、そのままベンチの左側に腰かけた。だが、それを見て、あかりは更に困惑する。
「……座るんですか?」
「え? ダメ?」
「あ、いえ……ダメと言うわけでは……」
──そういえば、この人なにしに来たの?
飛鳥の行動に、あかりは改めて首をかしげた。それに、今の行動には不覚にもドキッとしてしまった。
自分が聞きとりやすいように、わざわざ左側に移動してくれたのがわかった。
さりげなく気遣ってくれたのだろう。きっと彼は、このような気遣いをさりげなくスマートに、それでいて嫌味なくこなせてしまう人なのだろう。その上、この綺麗な見た目と人懐っこい性格。あかりは、彼が人気者の理由を否応にも察してしまう。
(きっと、誰にでも優しくして、女の子を勘違いさせるタイプの人間ね)
「座らないの?」
「あ……」
ベンチの横で立ちすくむあかりに、今度は飛鳥が「早く座れ」とばかりに隣の席を指さしてきた。
この大学の人気者と、ここで二人っきりになるのは、あまり良くないような気がする。
だが、今更逃げるわけにもいかず、あかりは腹をくくると、飛鳥の隣に少し感覚をあけて腰かける。
「あの……私になにか、ご用ですか?」
「あー、ちょっとまってね」
「?」
すると、ニコニコと笑顔を絶やさない飛鳥は、その後、バッグの中から小ぶりの手提げ袋を取り出してきた。
だが、それを見たあかりは、更に困惑する。
何かを貰うほど、この人と仲良くなった覚えはなかったからだ。
「えっと……」
「そんな困った顔するなよ。この前のおばあさん、覚えてる?」
「……おばあさん?」
「そう。この前会った、大根とカボチャのおばあさん! さっき、バッタリあったんだけど、コレあかりに渡してほしいって」
「え……?」
差し出された手提げ袋を受け取れば、その中には、和菓子の箱が入っていた。
(……おばあちゃんに頼まれて、わざわざここまで、届けに来てくれたの?)
そんなことを思い、再度飛鳥を見れば、飛鳥は「なんで俺が」とでも言いたげに、軽く悪態づいているのが見えた。
でも、嫌なら断ることもできたはずだ。それなのに──
(なんだか、意地悪な人なのか優しい人なのか……良くわからない)
でも、こうして、おばあちゃんの気持ちを届けにきてくれたことは、素直に嬉しかった。
「ありがとうございます。今度おばあさんに、直接お礼しにいきますね」
するとあかりは、またふわりと笑って飛鳥に微笑みかけた。だが、その笑顔を見て、飛鳥は小さく眉をひそめる。
(なんなんだろう。この感じ……)
どうして、あかりといると、こんなに"懐かしい気持ち"になるのだろう。
「あ。それより、あなた同じ大学だったんでね」
「え?」
だが、その答えにたどり着く間もなく、あかりが再び声をかけてきて、飛鳥は先日、大学でばったり出くわした時の事を思い出した。
「あー……そう言えば、お前、なんで俺のこと無視したの?」
「っ……無視したくもなりますよ! なんで、一緒に歩いていただけで、命の危機にさらされなきゃいけないんですか!?」
「は? なにそれ、意味わかんない」
「だいだい同じ大学で、同じ学部で、しかも先輩だなんて……あなた一言も言わなかったじゃないですか……っ」
「あー、それで怒ってたんだ。でも、言っとくけど、俺は赤の他人にわざわざ個人情報ばらしたりしないよ。むしろ、お前の方こそ、危機管理がなってないんじゃない?」
「え?」
「名前も知らない男に、通ってる大学だけじゃなく、学部、住所、それに一人暮らしだってことまで知られるなんて、俺が本当に"変質者"だったらどうすんの?」
「……っ」
ニコッと爽やかに笑って、放たれたその言葉にあかりは絶句した。
確かに、安藤達に聞くまでは、彼の名前すら知らなかったし、今でも知っているのは大学の先輩と言うことだけ。
名前も素性も知らない相手に、これだけの情報を引き出されていたのかと思うと、流石に自分の危機管理能力を疑いたくなってくる。
「本当バカだよねー。そんなんじゃ、いつか襲われちゃうよ」
「ッ……そうですね。 あなたのこと、いい人だと勘違いして気を抜いていたようなので、今後はこのようなことがないよう気を付けます」
「……お前、ホント可愛くないよね。もっと愛想よくできないの?」
「そっちこそ、さっきから、人のこと『お前』とか『バカ』とか、何なんですか?」
「あー、それはごめん。俺、ちょっと口悪いんだよね。子供の時に友達に作らないように、無理して冷たく接してた頃の癖が抜けきらなくて」
(何この人!? なんか、すごい闇を抱えてるんだけど!?)
「俺、こんな見た目だから、けっこう色々あったんだよね。痴漢や変態に追いかけられたり、コレクションにされそうになったり」
「こ……コレクション??」
何が? 何を?? さすがに、その言葉には、あかりも頭を抱えた。
だが、その後視線を落とし、どこか遠くを見つめた飛鳥は
「でも、本当、色々あって……未だにトラウマなんだよね」
「……」
そう言って、青い瞳を悲しげに揺らす飛鳥をみて、あかりは目を見開いた。
きっと見た目がいいが故に、怖い思いをしたり、苦労したこともたくさんあったのかもしれない。
どこか思い詰めたような表情をする彼に、あかりは素直に胸を痛めた。
「……そうなんですね……それで、友達できなかったんですか?」
「いや……"出来なかった"んじゃなくて"作らなかった"ね? なに、その可哀想な奴みたいな言い方」
思いもよらない返答に、飛鳥は黒い笑顔を浮かべた。
いちいち癇に障る女だ。
「あ! ごめんなさい! そういうつもちじゃなくて……ただ、その見た目だと、やっぱり友達作るのに苦労するのかなって……実はエレナちゃんも、友達ができないみたいで」
「え?」
「あの子、去年の冬にこちらに引っ越してきたんですけど、あの見た目で、しかもモデルの仕事もしているからか、なかなかクラスの子たちと馴染めないみたいで……それに、他にも色々と悩みがあるのに、私は全く助けてあげられなくて……っ」
「……」
そう言って、悲しそうに息をつめたあかりは「大切な友達」と言っていたエレナのことを、まるで自分のことのように心配しているのが見てとれた。
そして、そんなあかりの言葉に、飛鳥は再度エレナのことを思い浮かべる。
(あの子……モデルしてるんだ)
「あの、神木さんなら、エレナちゃんの気持ち、少しはわかるなかって思ったんですけど?」
「え? あー……それはどうかな? 俺は、友達を作らなかっただけで、普通にしてたらあっちから寄ってきてたから、友達作りで悩んだことないんだよね?」
「ですよね~……あなたに、エレナちゃんの気持ちが分かるかもと思った私がバカでした」
「ん? そっちから聞いといて、何その態度」
「……いえ、でも、あなたほどの人気者なら、友達を作るにしても、恋人作るにしても簡単にできるのかなーって。実際、悩んだことないみたいですし。特に、恋人作りには全く苦労しなさそうですよね? 大学でも、あなたに彼女になりたがってる子、たくさんいるみたいですよ?」
「……」
そう言って、感心しつつもあかりは笑顔で答えた。だが、飛鳥はその言葉に、逃げるように視線をそらすと
「……簡単なことじゃないよ」
「え?」
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