神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜 あやめ

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第7章 お姉ちゃんと美少女

第94話 飛鳥とエレナ

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「俺が、なんだって?」

 あかりとエレナが振り返ると、そこには「噂の先輩」がニッコリと笑みを浮かべて立っていた。

 その清々しいくらい綺麗な笑みをうかべた人物を見て、あかりは、とっさにエレナを抱き寄せると、まるで蛇に睨まれた蛙のように縮こまる。

「きゃぁぁぁ、なな、なんで……っ」
「?」

 蒼白するあかりを見て、エレナが首をかしげる。
 
 とても恐ろしいものでも見るかのように身を縮めたあかり。それを見て、エレナは改めて、その青年を見つめた。

 金色の長い髪に、青い瞳に、とても整った顔立ち。

 その青年は、まさに──

「あ! この人が、お姉ちゃんが言ってた性格の悪いお兄さん?」

「ひぃぃ、エレナちゃん!?」

 まるで追い討ちをかけるようにいったエレナの発言に、あかりが更に慌てふためく。

 一体、いつから、いたのだろう……。

 少し涙目になりながら、あかりが恐る恐る飛鳥を見上げると、飛鳥は再びにっこりと微笑み

「へー、性格の悪いお兄さんねぇ」

「あ、あの……これは、別に陰口を叩いていたわけじゃなくて……っ」

「えーと、なんだっけ? チャラそうで、ホストみたいで詐欺師みたいで? おまけに、女の子もてあそんで喜んでる悪魔みたいな人だっけ? これのどこが陰口じゃないのか言ってごらんよ。ゆっくり聞いてあげるから」

「……っ」

 ──怖い!!

 その姿は、とても穏やかに笑ってはいた。だが、もはや怒っているオーラしか感じなかった。

「あ、あの……ごめんなさい……っ」

「あかり。お前、俺になにか恨みでもあるの?」

「いえ、今のは私が悪いです。ただ……その、呼び捨て……何とかなりませんか? せめて『さん』をつけるとかして頂きたいんですけど……」

「なんで?」

「なんで!?」

「別にいいだろ。呼び方なんてなんでも」

「よ、よくないです! 呼び捨ては困ります!」

「なにそれ、俺に名前呼ばれたら死ぬ呪いでもかけられてんの?」

 ──うん。まさしくそんな感じだ。

 あかりは、心の中でつっこんだ。

 悲しきかな、第一印象はとても良かったはずなのに、色々あったせいか飛鳥はあかりの中で既に「天敵」となりつつあった。

 なにより、彼のファンから下手な誤解を抱かれたくない。

「あの、本当にお願いですから、呼び捨てだけは……やめてください」

「…………」

 あかりが、頭を下げ、改めて頼み込む。だが、飛鳥は

「なんか……そこまで言われると、絶対言うこと聞きたくない」

「あなた、やっぱり性格悪いですね!」

「お前こそ、人のこと言えないだろ! 大体、お前は俺の後輩だよね? "先輩"に向かって、そんな態度とっていいの?」

「……っ」

 すると、あかりは言葉を噤んだ。

 確かに、先輩だ。
 まぎれもなく、先輩だ。

 その上下関係を突きつけられてしまうと、もう反論のしようがなかった。

「あ……すみませ」

「お姉ちゃんのことイジメるの、やめてください!!」

「!?」

 だがそこに、突如エレナが声を発した。

 困り果てるあかりを見て、咄嗟に身を乗り出したエレナは、飛鳥を見るなり、猫のように威嚇する。

 だが、そのエレナ容姿をみて、飛鳥は瞠目する。

 そこには、とても可愛らしい少女がいた。整った顔立ちをしていて、髪は自分と同じ色。

 その姿はどことなく、自分の幼い頃を彷彿とさせた。

「え? 誰、この可愛い子?」

「あ、この子は……」

 飛鳥があかりに問いかける。すると

「あれ? お兄さん、その髪地毛?」

 エレナもまた不思議そうに飛鳥を見上げてきた。

 見れば、すぐにわかった。

 その髪の光り具合を見れば、染めているような色合いではなかったから……

「うん。そうだけど……君も地毛だよね、それ」

「うん! すごーい! 私、地毛で同じ髪色の人初めてみた!」

「あーこの色、金髪の中でも珍しい色みたいだしね。君はハーフなの?」

「うんん、クォーター。おじいちゃんが、フランス人なの!」

「そうなんだ。俺もクォーターだよ。フランス人だったか、イタリア人だったかは覚えてないけどね?」

「へー、でも同じ髪色でクォーターだなんて、私たちお揃いだね!」

「そうだねー」

(……あれ? なんか、エレナちゃんと神木さんが、仲良くなりはじめてる?)

 始めの険悪な雰囲気はどこに行ったのか、一瞬にして意気投合した二人を見て、あかりは困惑する。

 だが、驚いたのはそれだけではなかった。

 何となく似ているとは思っていた。だが、こうして並ぶと──

(まるで、兄妹みたい……)

 しかも、二人とも綺麗だからか、もう既に公園内でも注目を集めていた。

 だが、そんな中エレナは……

(このお兄さん……なんだか、凄くうちのお母さんに似てる……)

 飛鳥との邂逅に、何かしら感じたのはエレナも同じだった。すると、エレナはふと気になったのか、唐突に飛鳥に問いかける。

「ねぇ、お兄さんの"お母さん"て、どんな人?」

「え?」

 瞬間、飛鳥が目を見開いた。

 いきなり、どうしたのか? 初対面の相手に、いきなり母親のことを聞く意図が分からなかったから……

「俺の母親に、興味があるの?」

 だが、真剣なエレナをみて、飛鳥も真面目に返事を返すと、自分の言動に恥ずかしさを感じたのか、エレナは一気に頬を赤らめた。

「あ、ごめんなさい! ちょっと、気になって……っ」

「エレナちゃんだっけ? 俺の母親はね。よく笑う人だったよ?」

「……え?」

 飛鳥は、恥ずかしがるエレナの目線に腰を落とすと、穏やかに、それでいて優しく話し始めた。

「そうだな……優しくて、いつも笑ってて、一緒にいたら凄く安心する、お日様みたいな人だったかな?」

「お日様?」

「うん。でも、俺が小学生の時に死んじゃったんだけどね」

「…………」

 その話を聞いて、エレナは再び考える。

(……死んじゃってるんだ。この人のお母さん)


 ピピピ……!

「!」

 すると、突如電子音が鳴り響いて、エレナは、ポーチを見つめた。

「どうしたの?」

「あ、ただのアラームだよ。お母さん今日、早く帰ってくるから、もう帰らなくちゃ!」

 あかりが問いかければ、エレナはスマホを取り出し、アラームをオフにすると、ベンチから立ち上がる。

「お姉ちゃん、今日はありがとう! あと、連絡先も教えてくれて」

「うんん。また何か辛いことがあったら、いつでも連絡してきてね。仕事が忙しくてても、電話ならできるかもしれないし、もし出れなくても、必ずかけ直すから」

「うん、ありがとう……っ」

 心のなしか目に涙を浮かべエレナが微笑めば、あかりも同じように、優しく微笑みかけた。

「じゃぁ、気をつけてね」

「うん……あ、お兄さんは、もうお姉ちゃんのこと、いじめないくださいね!」

「別に、いじめてないよ」

 するとエレナは、帰り間際改めて飛鳥に忠告すると、その後「バイバーイ!」と、二人に手を振りながら公園を去っていった。

 そして、そんなエレナの姿を見つめながら、飛鳥があかりに問いかける。

「……あれ? あかり、妹もいたの?」

「え? あー違いますよ。あの子は、うちの近所に住んでいる子で、私の"大切なお友達"なんです」

「へー……」

 あかりの返答を聞きながら、飛鳥は目を細めた。

(あの子……なんだか、少し似ているような気がする)

 ────"あの人"に。


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