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第9章 【過去編】偏愛と崩壊のカタルシス
第126話 偏愛と崩壊のカタルシス⑨
しおりを挟む「お兄さんさ。この子、もういらないの?」
「は?」
誰もいない静かな公園に、ゆりさんの声が響くと、その言葉に、父が不機嫌そうな声を発する。
「だってこの子『自分は、いらない子だから』って、いってたから」
「…………」
グッと父が押し黙る。
なにを考えているかは、分からなかったけど、その顔はとても険しい顔をしていた。
「……飛鳥は、妻が引き取ることになってる。だから──」
「それは飛鳥の気持ちをきいて決めたの? この子はさ、お父さんと一緒にいたいんだって」
「…………」
父は以前変わらない表情で、ゆりさんをじっと見つめていた。
なにも返事を返さない父に、俺の不安は更に高まって、ゆりさんにしがみつく手に更に力がこもった。
「この子、幼稚園やめさせられて、部屋に鍵かけて、ずっと閉じ込められてたんだって」
「──え?」
「モデルやってるのは知ってる? 本当は嫌で辞めたいのに、お母さんが怖くて、そんなこと言えなくて、それて追い詰められて、今日家出してきた」
「……っ」
その言葉を聞いて、父がやっと表情を崩した。
──父は、知らない。
俺が閉じ込められてたことも。
幼稚園にいってないことも。
そして、モデルの仕事をしていることも。
きっと、なにも──
「この子、まだ4歳だよ。大人と一緒に仕事して、こんな環境におかれてるから、こんなしっかりした子になっちゃたんだろうけどさ。4歳って、本当ならもっと甘えてわがままいっててもいい頃だよ? お兄さんは、この子みてどう思うの?」
「……っ」
そのゆりさんの言葉は、俺の心にもひどく突きささった。
自分が子供らしくないのは、よく理解していた。
でも、わがままなんて許されなくて、思ったことを素直に口にするなんて、怖くて出来なくて
そして、それは、今も変わらなくて……っ
「飛鳥、お前……っ」
「──ッ」
瞬間、父によばれて、体がビクリと震えた。
恐る恐る顔を上げれば、父のその顔は、あまりにも無表情で、俺はそれを見て、また泣きそうになって、涙が溢れそうなるのをグッと堪えた。
あぁ、どうしよう。
また、拒絶されたら──
「閉じ込められてたって、本当なのか?」
「……っ」
なんて、言っていいのかわからなかった。
言葉が、うまく出てこない。
「何も、言わなきゃわからないだろ! どっちなんだ!!」
「ひ……ッ」
黙りこくる俺に、父が痺れを切らして声を張上げた。俺は怖くなって、ゆりさんの後ろに、服に顔をうずめるようにして隠れた。
すると──
「ちょっと、ちょっと! なに余計に追いつめてんの!?」
そんな父をみて、ゆりさんが信じられないとばかりに顔を歪め、声を上げれば
「父親でしょ~。もうちょっと優しく聞いてあげてよ?」
「君は部外者だろ? 他人が口を挟まないでくれ」
「っ……まあ、部外者ですけどね! でも、家出するほど追い詰められてんだよ!? マジそれはないわ!」
「じゃぁ、どうしろって言うんだ!? 大体、本当に飛鳥は、俺といたいって言ったのか!? もう、ミサが飛鳥を引き取るって話はついてるんだ! 今更──」
「う……っ、ごめっ……ごめんなさいッ」
「「!?」」
父の言葉を聞いて、涙が堪えちれなくなった俺は、またポロポロと泣き始めた。
父とゆりさんは、そんな俺を見て、一瞬沈黙すると──
「あーもう! ほんと最低! お兄さん最低すぎる! 鬼畜! ハゲろ!」
「なんで、初対面の子にそこまで言われなくちゃならないんだ!!」
「私は、今日初めて飛鳥に会ったけど、この子が嘘をついてるとは思えない! 父親と母親、どっちがいいか考えて、飛鳥は父親を選んだんでしょ! 子供だからって、なんでも勝手に決めていいわけじゃない! 気持ちくらいは、話くらいは聞いてやりなよ! そのうえで無理なら、ちゃんと無理な理由を話して、納得させてあげればいい! それなのに、話も聞かないで、大人が勝手に決めたことに子供はただ黙って従ってろての!? 子供は親の一部じゃない、子供だって、一人の人間なんだから!」
「ッ…………」
二人は口論を始めたあと、ゆりさんの言葉を最後に、父が口を噤んだ。
すると、その言葉には、なにか思うところがあったのか、父は深く息をついたあと、俺の目線に座り込んで、今度はゆっくりと落ち着いた声で話しかけてきた。
「飛鳥、俺は……お前はミサの所にいたほうがいいと思ってる」
「……っ」
だけど、紡がれた言葉は、あまりに残酷で。
あぁ、やっぱり。
お父さんにとって俺は……っ
「俺はな、飛鳥。ろくな家庭で育ってきてないんだ。子供のことなんて道具みたいにしか思ってない、そんな親の元で育ってきた」
「……」
「でも、それが嫌で仕方なくて、絶対あんな奴らみたいになるかって思って結婚したはずのに……いざ、結婚してみたら、だんだんうまくいかなくなって……改めて思ったよ。あんな家庭で育った俺が、幸せな家庭なんて築けるわけなかったんだって……」
「…………」
「飛鳥、俺はきっと父親には向いてない人間だ…それでもお前は……俺と、一緒にいたいと思うか?」
そう言って、悲しそうな笑みを浮かべた父の顔はら大好きな父の優しい顔だった。
一緒にいたい。
そういえば、一緒にいても……いいの?
「……っ、う、ぉ……れ……っ」
必死に思いを伝えようと、声を出した。
だけど。たった一言。
それだけでいいはずなのに、うまく言葉が出てこなくて──
「飛鳥」
すると、ゆりさんは、俺の名を呼んで、背にそっと手を当てた。優しいおされて、父の前に立つと、改めて、父と視線が合う。
ふと、ゆりさんと見上げれば、ゆりさんは優しく笑っていて、それは、まるで、頑張れと、励ましてくれているようにも見えて……
「……っ、お父さん……っ、おれ、ね。おれ……おとう、さんと……いっしょに、いたい……っ」
「……」
「おいてかないでッ……おれも……つれてって……っ」
ひくつきながら声をだして、泣きながら必死に訴えた。
すると──
「……そうか」
と一言だけいって、父は優しく笑うと、その瞬間、自分の手をつつんだ温かい感触に俺は目を見開いた。
見れば、父が俺の震える手をギュッと握りしめていて──
「わかった──なら、俺ももう一度、ミサとちゃんと話してみる」
「……っ」
大きくて暖かい父の手に、ひどく安心して、ぎゅっと、その手を握りしめれば、またそれを父が握り返してくれた。
「ひっく……ぅ、……お、とぅさ……っ」
あの頃、一度は振りほどかれて絶望した。
でも、そんな俺の手を、父はまた握り返してくれた。
伝わったんだ。ちゃんと自分の気持ちが……
言いたかったこと
伝えたかったこと
それを、しっかり自分の声で伝えられた。
そう思うと、涙が止まらなくなって、俺はそのまま父に抱きつくと、しがみついたまま声をあげて泣き続けた。
そして、そんな俺を、父は泣き止むまでずっと抱きしめてくれた。
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