神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜 あやめ

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【過去編】死と絶望の果て

第151話 死と絶望の果て⑨

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 男の人に付けられて、緒方くんと回り道にした後、交番のお巡りさんと少しだけ話をして、帰ってきた。

 俺は、緒方くんと別れると、住宅街を通り抜け、公園を横切りると、小走りで家まで急ぐ。

 少し遅くなった。

 いつもは寄り道なんてしないし、心配してるかもしれない。

 ◇

 その後、やっとの思いで家の辿り着くと、俺は門を開けて、玄関の前に立つ。

(……あれ?)

 だけど、いつもと違う違和感に気づいて、俺は玄関のドアにかけた手をピタリと止めた。

 華と蓮が、泣いてる。

 それも、すこし異常なくらい泣き叫んでる気がした。

 なんで?
 なにか、怒られることでもしたんだろうか?

 玄関の扉を開けて、家の中にはいると、その泣き声は、更に音量を増した。

「ただいまー」

 少しだけ声を大きくして、帰宅の挨拶をし、靴を脱ぐと、俺は華と蓮の元に向かった。

 いつもなら、すぐ駆け出してくるのに、今日は出てこない。

 廊下を進み、いつもみんなが集まる居間には、いなかった。俺は、ランドセルをほおり投げて、子ども部屋に急ぐ。

 ──おかしい。

 華と蓮、こんなに泣いてるに、お母さんは、何をしてるの?

「華、蓮? どうし──!?」

 子ども部屋について、部屋の中を覗き込んだ瞬間、目の前の光景にゾッとした。

 6畳の和室。その部屋の中心で、畳み掛けの洗濯物にまみれて見えたのは、酷く青ざめた顔をして、胸を掻き毟るように押さえて、息を弾ませ苦しむ──母の姿。

「ッ……お母さん!?」

 俺は目を見開くと、血相をかえて部屋の中に駆け込み、お母さんの側で大きく泣き叫んでる華と蓮の間に割りいった。

 なんで? どうして!?
 どうして、こんなに苦しそうなの!?

「お母さん! どうしたの!? ねぇ!お母さ……っ」

 必死に声をかける。

 だけど、お母さんは何か言いたそうに、口をかすかに動かすだけで、声にならない。

「え? なに? ねぇ……っ」

 どうしよう。
 どうしよう……っ

 俺、どうすればいいの?

 気が動転して、何をすればいいかわからなかった。それと同時に、華と蓮の泣き声が部屋中に響いて、二人の泣き声に釣られて、目にはじわりと涙が浮かびはじめた。

「……ふぇ、ぉかぁ……さ……っ」

 だけど、耐えきれず声を上げそうになった瞬間、そばに落ちていた携帯が、俺の手が触れた。

 ハッと我にかえると、俺は慌ててそれを手に取る。

 そうだ、救急車!
 救急車呼ばなきゃ!

 今にも溢れだしそうな涙を必死に堪えて、俺は震える手で、1のボタンを押した。

「うぁぁぁん! にーにぃ!!」

「えっと……」

 だけど、いつもなら覚えてるのに、肝心の時にその番号が出てこなかった。

「うわぁぁぁん…」

 華と蓮が、泣きながら俺にすがり付いてきて、俺はその間も、必至に思い出そうと思考をグルグルと巡らせる。

「11……なんだっけ……っ」

 早く……早く思い出さなきゃ!

「にーにぃぃぃ!」

 だけど、思い出そうとすればするほど、華と蓮の泣き声が酷く耳に響いた。

 耳障りな声──

 まとわりつかれると、タダでさえ震える手が更におぼつかなくなる。

 うるさい。
 うるさい。
 うるさい。

「ッ──うるさい!! 黙ってろッ!!」

 俺はぐっと奥歯を噛み締めて、すがり付く華と蓮をキッと睨みつけると、力まかせに怒鳴りつけた。

「ふぇ……っ」

 すると、その俺の声に、一瞬泣き止んだ華と蓮が、大きな目を更に丸くして、ひくひくと顔を歪めた姿が目に入った。

「「ひっ……うわぁぁぁぁ」」

「ぁ……ごめっ」

 気が動転しているとはいえ、怒鳴りつけてしまったことに酷く心が傷んだ。気がつけば、目に溜まった涙が、頬を伝い、ボロボロと溢れだしてきて……

「うっ……っ、ふ……」

 どうしていいか、分からなくなった。

 涙は止まらなくて、目の前で苦しみ続けるお母さんを見るのが、怖くて怖くて仕方なくて

 握りしめた携帯の液晶に、大粒の涙がポタポタと落ちれば、その青白く反射する画面を波立たせた。

「にーにぃ……?」

 すると、泣き出した俺を見て、華と蓮が心配そうに見つめてきた。

 華と蓮も不安なのに、俺がこんなことじゃ……ダメだなのに…っ

(俺が……しっかり……しなきゃ……っ)

 自分で決めたんだ。

 ゆりさんのこと、守るって───


 俺は涙を袖で拭うと、ぐっと唇を噛み締めて、また携帯に向かい文字を打ち始めた。

 それからすぐに電話が繋がって、電話先の指示通り、話をした。

 俺が電話する間も、お母さんは悶え苦しんでいて、見るたび恐怖で押しつぶされそうになる。

「はぁ……っ、は…」

 苦しそうな声。
 きつく目を閉じて痛みに耐える姿。

 それを見て、あの日の"ゆりさん"が、視界に重なった。

 俺の腕の中で、血を流しながら、目を閉じた、ゆりさん。

 嫌だ、嫌だ。

 お母さん、死んじゃったりしないよね?

 大丈夫だよね?


 すぐ、救急車くるから


 だから、お願い。


 俺たちを、置いていかないで




 ずっと、ずっと


 一緒にいるって









 『約束』したよね……?






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