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第11章 兄と女の影
第165話 恋愛と電話
しおりを挟む「あかりさんを、厄介事に巻き込みたくないんだろ? 俺なら大学で話しかけても問題ないだろうし、代わりに返していてやろうか?」
「…………」
大学で話したくないという彼女の願いをききいれ、一切話しかけていない飛鳥。
ならば、あかりのことは、それなりに気に入っているのだろう。それは、そう思った隆臣の良かれと思っての提案だった。
だが……
「いや、いい……俺が、持ってく」
飛鳥は暫く考えた後、その提案をあっさり断った。
視線を落とし呟いた、飛鳥のその返答に、隆臣は一瞬驚いたが、その後、少しだけ口角をあげる。
「ほー」
「なに?」
「いや、これは、お前にまた彼女ができる日も、そう遠くねーのかなって?」
「は?」
ニヤつく隆臣をみて、今度は飛鳥が驚き、意味がわからないとばかりに、隆臣を見つめる。
「え? それは……あかりとってこと?」
「ほかに、誰がいるんだよ」
「あはは、それはないよ」
だが、さも当然とでも言うように隆臣が言った言葉に、飛鳥は、またいつものような綺麗な笑顔を浮かべて、言葉を返した。
それも、ハッキリとした"否定"の言葉を──
「え!? ない!?」
「うん。ない、絶対!」
(言い切った!)
ハッキリ、キッパリ『ない』と意志表示した飛鳥。それを見て、隆臣はぴくりとこめかみをひくつかせる。
てっきり、会いに行きたいから、自分の提案を断ったのだと思ったのに!
「なんでだよ。あかりさんの何が不満なんだ? 外見か!? 中身か!?」
「え? 外見は、普通に可愛いと思うけど(ちょっと、ゆりさんに似てるし)」
「(こいつはまた、あっさりと!?)じゃぁ、性格か?」
「いや、性格は似てない。あんなに抜けてなかったし、警戒心は人一倍あった」
「いや、誰の話してんの!?」
「え? だから……てか、さっきから、なに深読みしてんの。さっき断ったのは、この前、お世話になったから、直接、お礼しに行こうと思っただけだよ」
「それだけ?」
「それだけ。まー確かにあかりって話しやすいし、一緒にいると居心地いいというか、楽なのは認めるだけど」
(居心地は、いいのか)
「でも、それはさ。お互いに一切、恋愛感情がないからだよ」
「え?」
「恋だのなんだの、あかりは、俺のことそんな目で見てないんだよね。だから、気が楽っていうか」
「…………」
清々しいくらいキッパリといった、その言葉に、隆臣は、これまた、なんとも言えない感情を抱く。
「あくまでも、友達ってことか?」
「まー、そうだね」
「どうだか。俺は"男女の友情"は成立しないと思ってるタイプだから」
「あはは。俺もそうだよ。だから、どちらかが恋愛感情抱いた時点で、終わる関係なんじゃない?」
「…………」
あー、そうだった!!
こいつ、恋愛面に関しては、果てしなく終わってるんだった!!
「お前、本当そっち方面に関しては破滅的にドライだよな! 本気で誰かを好きになったことねーの!?」
「悪かったな。なろうとしたけど、無理だったんだよ」
「お前、いつまでもそれじゃ、マジで結婚できねーぞ! こじらせすぎてて、心配なんだけど!?」
「えー、なにそれ、親戚のオッサンみたーい。別に心配しなくても、俺こんな見た目してるんだから、その気になれば、結婚なんていつでもできるよ!」
「すげーな、お前!? 言ってみてーわ、そんなセリフ!」
「それに俺、元々恋愛にも結婚にも、あまり夢なんてもってないんだよね。だいたい、そんな、いつ壊れるか分からないものに、本気になってどうすんの?」
「……っ」
それは、飛鳥が時折見せる表情だった。
思わず見惚れてしまうほどの綺麗の笑み。だが、その瞳は、ぞっとするほど冷たく、異様な迫力に満ちていた。
「ま。そういうことだから、あまり遅くなるとあかりにも悪いし、俺、そろそろ行くね?」
その後、飛鳥は、隆臣を残し大学をあとにする。だが、隆臣は、そんなに飛鳥の後ろ姿を見つめると……
「いつ壊れるか、分からないって……っ」
だから、本気にはならないって、それは、妥協して相手を選ぶってことなんだろうか?
壊れてもいいような──相手を?
「お前は、それで、いいのかよ……っ」
◇
◇
◇
(はぁ……今日の夕飯、なに作ろうかなー)
その後、大学を出て、帰路についたあかりは、コツコツと靴の音を響かせながら、夕日の落ちかけた住宅街を進んでいた。
6時半を前にし、住宅街に立ち並ぶ一軒家からは、美味しそうな香りと、子供たちがはしゃぎ回るような声が聞こえていた。
そして、その子供たちの声に、ふとエレナのことを思い出したあかりは、瞼を重くし、悲しそうに目を伏せた。
『お姉ちゃんが、話聞いてくれるから、私頑張れるよ!』
そう言っていた、エレナ。
だが、あの日、公園の前を、母親に連れられ泣きながら歩いていた姿を最後に、会ってはいない。
(次のオーディションは、確か、9月の第1土曜だったはず……)
オーディションを受けるため、エレナは忙しくなるとは言っていた。だが全く音沙汰が無いことに、あかりは不安を抱いていた。
(一言でも、返信があれば、安心出来るのに……っ)
どうして、なんの連絡もないのだろう。
──トゥルルルル!
「!」
だが、その時だった。バックの中に入れていたスマホが、突然震え始めた。
着信と共にヴーヴーとなるバイブの感触に、あかりは、立ち止まり、その着信の相手を確認する。
「え?」
すると、着信画面には「紺野 エレナ」と表示されていた。
一瞬、驚いた。だが、そののち、すぐさま安心したような表情をうかべると、あかりは電話に出るなり、明るい声で話し始めた。
「エレナちゃん! 良かった、連絡ないから心配して──」
『初めまして』
「!?」
だが、その電話口から聞こえた声は、エレナのものとは明らかに違った。
とでも綺麗な声だった。
澄んだ湖のような、落ち着いた声。
だが、どこかひんやりとした、威圧的なその声は、あの日、エレナの手を引いていた
「……ミサ……さん?」
──紺野ミサの、声だった。
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