神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜 あやめ

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第12章 二人の母親

第179話 お母さんとお姉ちゃん

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「おねぇちゃん……っ」

 校門をでてすぐ、聞き覚えのある声に呼びかけられ、エレナは足を止めた。

 見れば、エレナの数メートル先で、どこか悲しそうな目をして佇む、あかりの姿が目に入った。

「エレナちゃん、良かった……っ」

 そういって、駆け寄り、心配そうにのぞき込んできたあかりを見て、エレナはグッと息を飲む。

「ゴメンね。待ち伏せをするのは良くないと思ったんだけど……こうでもしないと、会えないと思ったから」

「……」

 どこか震えるような、安心したような、そんなあかりの声。

 家に行くと、母親に見つかる可能性があることを配慮して、わざわざ小学校の前で、待っていてくれたのだろう。

 だが──

「なにしに来たの?」

「え?」

 瞬間、エレナは迷惑そうな声を発し、あかりをジッと見つめ返してきた。

 その顔は、酷く無表情で、久しぶりに会ったエレナは、とても冷たい雰囲気を纏っていた。

「帰って。私、お姉ちゃんと話すことなんて、何もない」

「──っ」

 七月中旬、まだ日の高い夏の路上は、夕方でも暑いくらいなのに、その言葉は、芯から冷えるような、冷たい言葉だった。そして、それを見てあかりは

(エレナちゃん……どうして? この前までは、あんなに……っ)

 少し前まで、とても慕ってくれていた。
 目が合えば、笑顔で駆け寄ってきてくれた。

 そんなエレナが────なぜ??

「じゃぁ私、急ぐから」

 すると、エレナはランドセルを握りしめたまま、あかりの横をすり抜けた。そんなエレナの豹変ぶりに、あかりは、じわりと嫌な汗をかく。

 きっと、ここでなにもしなければ、もう、会えなくなる。そして、会えなくなれば

「───待って、エレナちゃん!!」

 瞬間、あかりは、振り向きざまに声をかけた。

 以前、止まることなくスタスタと歩いていくエレナ。あかりは、そのあとを追いかけながら、話し続ける。

「お母さんから、連絡があった、もうエレナに付きまとわないでって!! 一体、何があったの!?」

 あの日、怒られていたのは、なぜ?
 エレナちゃんは、今……っ

「また、閉じ込められたり……してない?」
「……っ」

 その言葉に、エレナが足を止めた。

 あの日、言いつけを破り、放課後、友達と公園で遊んでいるところを、母に見つかった。

 その後は、母に叱られ、家から出るのを禁止された。でられるのは、学校に行く時と、モデルの仕事で事務所やスタジオに行く時だけ。

 学校と家。事務所と家。ただ、その往復を繰り返す毎日で、家に帰ると、二階の自分の部屋に閉じ込められ、そのあとは、一時間に一回、母が様子を見に来る。

 まるで、監視でもするかのように──…

「だったら、なに……っ」

 あかりに背を向けたまま、エレナがボソリと呟く。それは、何かを噛み潰すような悲痛な声で

「やっぱり……閉じ込められてるの?」

「そうだよ。でも、そんなのだもの。それに、私がいけないの。私が、お母さんの言いつけを破ったから……悪いことしたら、叱られるのは当前だよ!!」

「だからって、閉じ込めるのは違うよっ!!」

「違わないよ!!」

「……ッ」

 一切振り返ることなく、肩を震わせ話すエレナに、あかりはぐっと息を詰めた。すると、エレナは

「……閉じ込められてるだもの。花瓶が割れたり物が壊れるより、ずっとマシ。モデルの仕事だってちゃんとできるよ。お母さんの言うこと聞いて、早く立派なモデルになって……これは全部、私のためなの。私のために……お母さんは……ッ」

 全部、全部、私のため。
 私のために、お母さんがしてくれること。

 《これは全てエレナのためなのよ?》

 全部、全部、全部。
 なにもかも、全部、私の───

「それは本当に、エレナちゃんのためなの?」

「……ッ」

 瞬間、あかりの言葉が、スッと胸に突き刺さった。

 ずっと疑問に思っていたことがあった。
 ずっと考えないようにしていることがあった。

 オカアサン、ソレハ本当ニ……私ノタメ?


「友達をつくらせないことが、エレナちゃんのためなの? 家から出さないことが? それは、本当に──」

「そうだよ!!」

 不意に核心をつかれて、目頭が熱くなる。

 だが、心の中に閉じ込めていた疑問が次々と溢れだしそうになる中、エレナはあかりの言葉を否定していた。

「そうだよ……っ、だって、ずっと、そうやって生きてきたの! お母さんの言うことさえ聞いていれば、間違いないのっ!」

 振り向き声を上げると、また再びあかりと視線が合わさった。

「お姉ちゃんには、わからないよ……両親揃って姉弟もいて、温かい家庭で育ったお姉ちゃんには、私の気持ちなんて、わかるわけないよ……私には、お母さんしかいないの!! お母さんに見捨てられたら……私、もぅ……生きて、いけない……っ」

 今にも溢れそうな涙を溜めて叫ぶエレナは、今にも壊れてしまいそうだった。

「エレナちゃん……っ」

 それを見て、あかりがそっと手を伸ばす。
 だが──

「もう、私の前に現れないで」

「……っ」

「お姉ちゃんに会ったら、またお母さんに怒られるの!! だからもう、LIMEも電話も絶対しないで、連絡先も消して! 何もできないくせに、これ以上優しくなんてしないで!!」

「……っ」

 その言葉に、伸びた手がピタリと止まる。

 何も出来ないくせに──その通りだ。
 何も出来なかった。

 家族に恵まれた自分には、エレナの気持ちは、わからない。分かってあげられない。

 でも──

「消さない」

「……え?」

「連絡先は、絶対に消さないから」

 その言葉に、エレナは目を見開いた。

 繋いだ糸を、決して断ち切らせないように。そんな思いを込めた言葉に、エレナはまた涙が溢れそうになるのを必死に堪えた。

「──────」

 そして、声には出さない言葉を発したあと、ランドセルをきつく握りしめたエレナは、逃げるようにその場を立ち去った。

 あかりは、一人走り去るエレナの後ろ姿をみつめながら

「ごめん……ごめんね。なにも……できなくて」

 どうして私は、いつもこうなんだろう。

 肝心な時に役に立たなくて、いつも助けてあげられない。

 私はもう、あの時みたいに

 ──『後悔』したくないのに。



 ◇

 ◇

 ◇

「はぁ、はぁ……っ」

 その後エレナは、息を切らしながら通学路を走りさり、暫く進んだ先で、側にあった電信柱に手をついた。

 久しぶりに全力で走った。

 エレナは、その場にしゃがみ込むと、息を整えながら、あふれ出しそうになる涙を必死に堪える。

(ダメ、ダメ、ダメ……ッ)

 絶対、泣いちゃ、ダメ。
 泣いたら、お母さんに気づかれる。

 こんな顔で帰って、もし、お姉ちゃんにあったなんて知られたら、お母さんは、絶対、お姉ちゃんを許さない。

 それだけは、嫌。
 それだけは、絶対に──

「ふ……っ、ふぇ、お願い、止まって……っ」

 あかりのことを思い、必死になって涙を抑える。

 「何も出来ない」なんて思ってない。心配して、会いに来てくれて、本当は、嬉しかった。

 それなのに──

「ごめんね……っ、ごめんなさいっ」

 先程、声にできなかった言葉を、エレナは繰り返す紡ぐ。

 酷いことを言って、突き放した。
 言いたくないことを、口にした。

 でも、これでいい。
 もう、お姉ちゃんには、関わらない。

 関らわせない。


 あかりお姉ちゃんだけは

 絶対に、傷つけたくないから……っ



 《連絡先は、絶対に消さないから》


「……っ」

 だが、不意に先ほどの言葉を思い出すと、涙は止まらずに、また頬へと流れだした。

 いつでも連絡してと、繋がりを切らないでいてくれた。それは、出会ったあの時と同じように、優しくて、温かくて……

「ふ、ぅ……お姉ちゃん……っ」

 だけど、もう会わないと決めた。
 もう、連絡しないって決めた。

 お姉ちゃんは、私にとって、とてもとても

 ────「大切な人」だから。



「ぅっ……ありが……とう、ぉ姉……ちゃん……っ」


 でも────サヨウナラ。





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