神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜 あやめ

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第15章 オーディション

第214話 母と似た人

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 その後、公園の東屋の中。華と蓮は無言のまま昼食を終えると、暫く黙り込んでいた。

 11時をすぎ、木陰である程度涼しいにしても、やはり、日が高くなり出してきた公園の中は、少し暑く感じた。

「なぁ、これからどうする?」

 すると、向かいに座っていた蓮が、華にむけてボソリと呟く。

「どうするって?」

「まだ、ここで時間潰す? それとも、どっか移動する?」

 この公園は、自宅から7~8分の距離にある。

 連絡が来たらすぐ帰れるようにと、ここで早めの昼食を取ることにしたのだが

「ね、ねぇ、蓮。そ、その……って、どのくらい時間かかるものなの?」

「え?」

 微かに頬を染めながら問いた華の質問に、蓮は首を傾げる。

「そ、そういうのって……っ」

「だ、だから! 私たち、あとどれくらい外で時間つぶせばいいのかな!? 未知の世界すぎて、わかんないっていうか、私たちなにも考えず、卵も買ってきたけど、さすがに、そろそろ冷蔵庫に入れた方がよくない!?」

「ッ俺に聞くなよ!! そんなの人によるだろ、人に!」

 終わったら連絡する──なんて言われたが、それが、どのくらいの時間で終わるのか、経験がない双子には、全くわからない。

「そ、それより、帰ってからどうする?」

「ど、どうって?」

「だから、兄貴に問いただすか、どうか?」

「……っ」

 すると、また蓮が神妙な顔で問いかけてきた。

 今までの行動や言動から推理して、結果的に良くない方に確定してしまった、兄の疑惑。

 もし本当に、そんな不純な関係の女の子がいるなら辞めさせた方がいいし、見て見ぬふりは出来ない。

 だが──

「ねぇ……なんで、だったのかな?」

「え?」

 華が少し俯きぎみに呟くと、蓮は華の言葉に、眉根を寄せた。

「なんでって……」

「だって、あの人、似てたでしょ? 私たちの"お母さん"に」

「…………」

 その言葉に、蓮は、ふと母の姿を思い浮かべた。

 写真の中でしか知らない母は、いつも柔らかく笑っている人だった。

 そっと包み込んでくれるような、そんな温かくて優しい雰囲気の人。

 そして、さっきみた、あの女の人は

 そんな母に、どことなく似ている気がした──

「っ……似てたら、何だっていうんだよ。そんなの、たまたまかもしれないだろ」

「そうだけど」

「うぇぇぇぇん、お兄ちゃぁぁん!」

「「!」」

 瞬間、少し遠くの方から、女の子の泣き声が聞こえた。

 その東屋から離れた砂場の前。見れば、転んでしまったのか、座り込んだ女の子に、お兄ちゃんらしき男の子が駆け寄っていくのが見えた。

「そう言えばさ……この公園、子供の頃、よく来たよね」

「え?……まぁ、前住んでたアパートからは、少し遠かったけどな。でも、こっちは遊具とか色々あったし、兄貴がよく連れてきてくれて」

「うん。それに……私が、あの日、のも、この公園」

「…………」

 今にも消えそうな小さな声で放たれた言葉に、蓮は「あの日」のことを思い出した。

 10年前、兄が誘拐されかけた、あの日のこと──

「っ……もう気にするなっていっただろ。ぬいぐるみは供養したし、それに、あの事件のあとだって、兄貴、普通に、この公園に連れてきてくれて」

「うん。そうなんだよね……あんなことがあったのに、誘拐犯とあったこの公園に、何事も無かったように連れてきてくれて……私は、ぬいぐるみ忘れたこと、ずっと後悔してたのに、お兄ちゃんは、あの後も……"いつも通り"だった」

 この公園で声をかけられた兄は、あの日の夜、ここから離れた別の公園で発見された。

 もう、そっちの公園に立ち寄ることはないけど、あの日、散々探し回って、やっと見つかった兄は、父にしがみついて震えながら泣いていて、その時、初めて泣いている兄を見て、すごくすごく怖くなった。

 公園に行ったら、外に出たら、またお兄ちゃんがいなくなるかもしれない。

 そう思ったら、外にでるのが怖くて仕方なくて、私たちは引きこもりがちになった。

 だけど、お兄ちゃんは──

『だからって、ずっと家にいるわけにはいかないだろ。俺ならもう大丈夫だから。ほら、外いくよ?』

 そう言って、まるでなにもなかったように、私たちを外に連れ出して、遊んでくれた。

「マンション決める時も、お父さんが、悩んでたでしょ? 立地も物件もいいけど、この公園が近いってのだけが引っかかってて……でも、お兄ちゃんは『俺は大丈夫だから、そこに決めれば?』って」

「……」

「強いなーって思った。いつも笑って『大丈夫だよ』っていってて。でも、本当に、大丈夫だったのかな?」

「……え?」

「小学5年生の男の子が、あんな怖い思いしたのに、本当に……っ」

 本当に──だったの?

「私たち、お兄ちゃんの言葉、鵜呑みにしすぎてたんじゃないのかなッ……本当は大丈夫じゃないのに、私たちに心配かけないように、無理してそう言ってたんじゃないのかな? なんで頼ってくれないのとか、隠し事せず、なんでも話しくれたらいいのにとか、そう思ってたけど……そういう環境を作ってあげなかったのは、私たちの方で……だから、私たちじゃない別の人に……甘えたくなっちゃったのかな?」

「…………」

 公園内に風が吹くと、二人の髪を静かに揺らした。

 俯いた華の顔を窺い知ることはできなくて、それでも、その表情が暗く重いものなのは、よく分かった。

「だから、母さんに似た人を選んだって、いいたいの?」

「だって、お兄ちゃんが、素直に甘えられたのは、お母さんだけだったって、お父さん言ってた。本当は大丈夫じゃなくて、誰かに頼りたいとか、甘えたいとか、そんな気持ちがお兄ちゃんの中にあって……それで、無意識にお母さんに似た人を選んだんだとしたら……私たちが、お兄ちゃんから、あの人を取り上げていいのかな……っ」

 本当に、そんな関係の人なら、正してあげた方がいいはずだった。

 だけど、あの真面目な兄が、そこに至ってしまったのに、もしなにか『理由』があったのだとしたら──…

「私たちに、話してくれないことも、あの人には話してたりするのかな?」

「……」

「もう、どうしてあげるのが、お兄ちゃんにとって、一番いいのか……分からなくなっちゃった……っ」

 どうして、お母さんに似た人だったんだろう。
 どうして、あの人を選んだんだろう。

 できるなら、もっと


 違う人なら良かったのに──…っ




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