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第17章 華の憂鬱
第235話 隠し事と亀裂
しおりを挟む「どうしても、友達だっていうなら──なんでこの前、あかりさんのこと抱きしめてたのか、ちゃんと説明してよ!?」
勢いよくテーブルを叩き立ち上がると、華は大きく声をあげた。
するとその瞬間、飛鳥は口元を引き攣らせた。
「だ……抱きしめてたって」
「だから、この前あかりさんが、うちに来た日、抱きしめてたでしょ、マンションの前で! あかりさんのこと好きだから、あんなことしたんじゃないの!? 違うっていうなら、ただの友達を抱きしめた正当な理由、ちゃんと説明して!! じゃなきゃ納得できない!!」
言葉を荒らげ、更に問い詰める華。
あんな風に、抱きしめておいて。
自分たちも知らない顔で微笑みかけておいて。
それで、ただの友達だなんて、華には、とてもじゃないが信じられなかった。
だが、飛鳥からしたら、まさか、あの現場を見られていたなんて思いもせず……
「──ッ」
恥ずかしさのあまり、不覚にも顔を赤くした飛鳥は
慌てて華から視線をそらした。
(見られてたって……いつから?)
ていうか、どこから?
もしかして、エレナといた時も──?
(いや、華にLIMEしたのは、エレナを見送ったあとだったし……マンションの前でってことは、多分、あかりと二人きりの時だよね。でも、華が見てたってことは──)
飛鳥は、キッチンに立つ蓮にそっと目をむける。すると、兄と目があった瞬間、蓮は、平然と麦茶を飲みつつも、兄から視線をそらした。
(っ……やっぱり)
この反応は、確実に蓮も目撃してる。
そう確信すると、飛鳥は改めて、あかりを抱きしめた時のことを思い出し、頭を抱えた。
まさか、あんな恥ずかしいところを、妹弟に見られてしまうなんて!?
「ちょっと、お兄ちゃん! 聞いてるの!?」
「ぁ、いや、あれは……っ」
「あれは!?」
「だ……だから…っ」
身を乗り出し問いただす華に、飛鳥は口ごもる。
なぜなら自分だって、あの時、何故あかりを抱きしめてしまったのか、よくわからないのだ。
(説明なんて、言われても……)
そして、飛鳥がしどろもどろする中、蓮は麦茶を飲みながら、珍しく挙動不審な兄を見て目を細めた。
(まぁ、兄貴が悪いよなぁ……)
華の言う「倉色さん」が、先日、兄が連れ込んだ「お姉さん」なのは理解した。
だが、今更「友達」などと言われても、怪しいところがありすぎるのだ。
自分も華も、そう簡単に納得できるわけがない。
(しかし、怖ぇ……なんか、浮気現場見られて、妻に問いただされてる夫みたいな)
だが、まさか帰って来てそうそう、こんな修羅場に巻き込まれてしまうとは
「あかりさんのこと、本当は好きなんでしょ!?」
「だから、あかりは友達だって……!」
キッチンにいる蓮を板挟みに、目の前のテーブルでは、激しい兄妹喧嘩が繰り広げられていた。
しかも、いつもなら兄が勝るところ、今回は華の方が優勢だった。
「じゃぁ、なに!? お兄ちゃん、好きでもない子を、同意もなく抱きしめたりするような人だったの!? 無理矢理そんなことして、イケメンだったら何しても許されるとか思ってんの!?」
「ッ……!?」
なんか、すごい心をえぐられる。
確かに、同意は得てないし、無理矢理と言われたら、無理矢理……だったかもしれない。
だが、さっきから何を勘違いしているのかしらないが、あかりが『友達』なのは確かなわけで……
「華!」
「……っ」
すると、真面目な顔をした飛鳥が、華を威圧し、そのまま静止させた。
「確かに部屋には入れたし、抱きしめたのも事実だけど、それでも、あかりは友達だし、それ以上でもそれ以下でもないよ。なにをそんなに熱くなってるのか知らないけど──俺の言うこと、信じられないの?」
「……っ」
飛鳥が真っ直ぐに華を見据えると、華はぐっと言葉を飲み込みこんだ。
信じてる。
信じてるよ。
だけど……
「だって、お兄ちゃん、いつもそうじゃん……っ」
「え?」
「いつも、話しそらしてばかりで、私たちには何も話してくれない! 友達だっていうなら、なんであの時、紹介してくれなかったの!? まるで隠すみたいに、私たちのこと追い出して……っ」
さっきとは一変、弱々しい声を放つ華に、飛鳥は目を見開いた。
きゅっと拳を握りしめて俯く華の肩は、小さく震えていて
「華?」
「……の?」
「え?」
「なんで、あかりさんなの? なんで、お母さんに似た人なの? 私たちに言えないことも……あかりさんには、話してたりするの?」
「……っ」
今にも泣きそうな顔で問いかける華に、飛鳥は言葉を失った。
確かに、あかりには話した。
でも、それは──
「否定……しないんだ」
「……っ」
「もういい! あと、これ今日あかりさんに借りたから、お兄ちゃんから返しといて!!」
「え、ちょっ……華!!」
華は、そう吐き捨てると、あかりから借りたショッピングバックを差し出し、リビングから逃げるように出ていった。
震える声で絞り出された声は、今にも消えそうな声で
目には、溢れんばかりの涙が溜まっていて
そんな妹の姿に、飛鳥の心の中は、罪悪感でいっぱいになる。
「なんで……っ」
すると、困惑する飛鳥を見つめ、蓮は飲み終わったコップをシンクに置くと
「まぁ、華の気持ちは分かるよ」
「え?」
「兄貴、昔から、俺たちに隠し事ばかりだよね」
華と同じ色の瞳が、真っ直ぐに飛鳥を見つめて、そう告げる。
「っ……別に、あかりのことは、隠してたわけじゃ」
「あかりさんのことだけじゃないよ。子供の頃のこととか、兄貴の母親のこととか、俺達が知りたがってる分かってて……兄貴、いつも話しそらしてる」
「……」
「そりゃ、兄貴にとって、俺達はまだ子供で、頼りないのかもしれないけど……それでも俺たちだって、兄貴の役にたちたいって思ってるんだよ。辛いことがあるなら力になってあげたいし、悩んでることがあるなら助けてあげたい。それなのに……それなのに、俺たちより、あかりさんを選んで話してるんだって知ったら、さすがに悔しい……っ」
「……っ」
自分たち『家族』じゃなく『他人』を選んでるのが──悔しい。
力になれないのが、頼られないのが
悔しくて仕方ない。
「それに、これ以上隠し事が増えたら、俺達だって……」
兄貴の言葉を
素直に信じてあげられなくなりそうで……っ
「蓮……?」
「……うんん。なんでもない。とりあえず、華のことは俺がなんとかするよ。兄貴が行ったら、火に油注ぎかねないし、あーなった華、かなりめんどくさいし」
そういうと、蓮は荷物を手にして、リビングから出ていった。
「………」
一人残された飛鳥は、ゆっくりと視線をそらすと、チェストの上に飾られた『ゆり』の写真を見つめた。
「……隠し事、か。……確かに、その通りだな」
二人が知りたがってるのを分かってて、いつも、笑ってはぐらかしてきた。
いつか、話さなきゃいけないのも、分かってる。
でも……
「大切……だからこそ……っ」
巻き込みたくないからこそ
もう、失いたくないからこそ
「話したくないことも、あるんだよ……っ」
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