神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜 あやめ

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第2部 最終章 始と終のリベレーション

第262話 依存と覚悟

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「はぁ……」

 カチカチと時計の音が響くキッチンで、華は深く深くため息をついた。

 あの後、隆臣が撃退した恐喝まがいの男は、駆けつけた警察官に連れていかれた。

 事情聴取には、明日、隆臣と一緒に行くことになり、華達はそのまま、隆臣と一緒に自宅マンションまで戻ってきた。

 ダイニングテーブルには、いつもの兄の席に隆臣が座り、蓮がその向かい側に座っていた。

 特に会話もなく、刻々と時間だけがすぎる。

 そんな中、華は、余計なことばかり考えてしまうからとキッチンに立ち、のそのそと夕食の準備を始めたのだが……

「はぁ……」

 なかなか帰宅しない兄を心配してか、華は何度と溜息をつくばかりで、一向に作業は進まなかった。

 すると、そんな華を見かねて、隆臣が声をかけてきた。

「華、大丈夫か?」

「あ、ごめんなさい。隆臣さんも、お腹すいたよね! 今すぐ、ご飯作るから待っててね!」

「俺の事は気にしなくていい。それより、そんなにぼーとして、火傷するなよ」

「だ、大丈夫だよ! シチューはもう煮込むだけだし、あとはサラダ作るだけだから!」

 再度気合を入れて、また調理を再開する。

 すると、そんな二人のやり取りを聞いていた蓮が、リビングの時計を見て

「もうすぐ、9時か……」

 と、小さく呟くと、その言葉に、華と隆臣も同時に時計に目を移す。

 考えないようにと思っても、時間が過ぎれば過ぎるほど、兄のことが気になって仕方なかった。

「飛鳥兄ぃ、大丈夫かな……」

 キッチンでシチューを混ぜながら、華が不安げに呟く。

 兄が出ていってから、もう三時間。

 辺りはすっかり暗くなっていて、闇が濃くなれば、それだけ不安も増す。

 本当なら、今ごろ、勘違いしていたこととか色々謝って、また、いつもの兄妹弟に戻っていたはずなのに、どうしてこうも上手くいかないんだろう。

「はぁ……」

「華、そう考え込むな。ちゃんと帰ってくるって言ったんだろ」

「……うん。言ったけど」

「なら──」

「でも、やっぱり心配だよ!」

「……!」

「大事な、大事な家族のことだもの。心配するよ。だって、もし、また、あの時みたいに……っ」

 あの時みたいに──

 それが、10年前の事件のことを言っているのだとわかって、隆臣は目を細めた。

 飛鳥の事が心配なのは、隆臣だって同じだった。

 さっきは、いきなり電話がかかってきて、余裕のない飛鳥の声を聞いて、隆臣も酷く驚いた。

 何が起こっているのかは、わからなかったが、自分の一番大切な妹弟を託してまで、行かなくてはならないが、飛鳥には起こっていたのだろう。

 そんな飛鳥の様子をみて、華と蓮が心配にならないわけがない。

 だけど、その飛鳥に二人託された以上、この子達の不安を和らげてあげられるのも、今は隆臣しかいない。

「華、落ち着け。飛鳥なら大丈夫だ。アイツなんだかんだ、かなり悪運が強いからな」

「……悪運?」

「あぁ、今までにも、痴漢にあったり、教師に押し倒されたり、元カノに刺されそうになったこともあったが、全部、運良く切り抜けてきてるからな」

「え? ちょ、えぇ!?」

 突然、隆臣から飛び出した、兄の知られざる過去!!

 しかも、痴漢? 教師? 元カノ!?
 もう、どこから突っ込めばいいんだ、これ!!?

「ちょ、何それ!! 私、痴漢にあったってことくらいしか聞いたことないよ!?」

「俺も聞いたことない! てか、すっごい修羅場ばかりじゃん!」

「あぁ、飛鳥ガキの頃から綺麗だったけど、中学・高校の頃は無駄に大人っぽくなってきて、もはや歩いてるだけで老若男女、誘惑してたからな」

「「なにそれ、超迷惑!!?」」

 双子が同時に奇声をあげる。

 歩いているだけで誘惑!?
 本人には、全く自覚がないのだろうが、過去にそんなことがあったなんて、想像以上にヤバい兄だった!!

 しかも……

「てか、元カノってなに?」

「兄貴、彼女いたことあったの?」

「あー、やっぱり知らなかったのか……丁度、今のお前達と同じくらいの時に、数人付き合ってるぞ」

「私達と同じくらいの時って、高一!?」

「しかも複数!?」

 兄の知られざる過去第2弾!!
 それを聞いて、華と蓮は更に仰天する。

 いや、あの兄だ!彼女がいない方が、むしろおかしいと、今まで何度も思ってきたはず!

 だが……

「でも、兄貴そんなそぶり、全く……っ」

「そ、そうだよ……家に連れてきたこともないし」

「まぁ、そうだろうな」

 すると、蓮と華に続き、隆臣は改めて真面目な顔をして

「飛鳥は、お前達にしてたからな」

「え?」

「アイツは小5でであったあの頃から、もう既に、家族がすべてみたいなやつだった。お前達は、自分達のせいで飛鳥が犠牲になってるって思ってたかもしれないが、飛鳥は率先してお前達のことばかり考えてた。だから、彼女ができても何もいわなかったんだろ。第三者に、お前達との関係を壊されるのが嫌だったから」

「……」

「まぁ、そのせいで元カノから刺されかけた訳だけど……蓮華、お前達の兄貴はな。案外、脆いやつだぞ」

「え?」

「変わるのを怖がって隠し事ばかりしてる。……まぁ、彼女をつくったのは、飛鳥なりに変わろうとした結果なんだろうけど……でも、結局うまくいかなくて、今は彼女を作ることすらしてない。なんでアイツが、あんなに家族に依存するようになったのかは分からないけど、アイツにとっては、お前達と一緒にいる"今"の生活が、一番"幸せ"なんだろう。だから、変えたくなくて、隠し事ばかりして、今の関係を繋ぎ止めようとしてる」

「っ……」

 隆臣の言葉に、何かしら思い当たる節があって、華と蓮は困惑する。

(依存してる?)
(あの兄貴が?)

 だけど、そう言われても、上手く飲み込めなかった。一変に色々なことが起きすぎて、思考が追いつかない。

 すると、それからしばらく黙り込んだ双子を見て、隆臣は

「お前達は、どうなんだ?」

「え?」

「帰って来たら『全部話す』って言われたんだろ。飛鳥が、今までずっと話てこなかったのは、少なくとも、知られたくない何かがあるからだ。だけど、今、飛鳥は変えたくなかったお前達との関係が"壊れる覚悟で話す"って言ってる。飛鳥が帰って来た時──お前達は、それをしっかり聞くがあるのか?」

「……ッ」



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