神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜 あやめ

文字の大きさ
367 / 554
第5章 あかりの帰省

第345話 帰省と来客

しおりを挟む

「ただいまー」

 3月初旬──

 まだ肌寒さが残る春の日、あかりは宇佐木市にある実家に帰ってきた。

 あかりの実家は、篝町という小さな町外れにあった。

 緑豊かで、どこか風情のある田舎町。あかりはそんな町で、約1年前まで両親と弟の四人で暮らしていた。


「姉ちゃん、おかえりー」

 荷物を持ち、家に入ると、奥から理久が駆け出してきた。

 現在、小学四年生の理久は、あかりの弟だ。あかりと同じく栗色の髪に、まだ少年らしい愛らしい顔つき。

 だが、その見た目とは裏腹に、口はだいぶ憎たらしくなってきた。

「おせーよ。何やってたんだよ」

「仕方ないでしょ。バスの時刻が改正になってたんだもの」

「ちゃんと調べてからでろよ」

「うるさいなー。それより、お母さんは?」

「あぁ、多分すぐ」

 すると、理久が振り返ったタイミングで、奥の和室から、母親の稜子りょうこが襖を開けて出てきた。

「おかえり、あかり」

 優しく微笑み挨拶をした稜子は、あかりと理久の母親だ。

 おっとりとした雰囲気は、二人にとてもよく似ていて、3人並べば、親子だとよく分かるほど

「ただいま、お母さん」

「お盆以来ね、あかりが帰ってきたの」

「うん、ごめんね。お正月は帰省できなくて」

「いいのよ。あっちの生活は変わりない?」

「うん、変わらないよ」

 そう言って、ふわりと笑えば、あかりは靴を脱ぎ、廊下を進む。

 実は、現在アルバイトを探していることを、あかりは家族に内緒にしていた。

 隣の人がしつこくて、大学の先輩に彼氏のフリをしてもらってるなんて、さすがに言えなかった。

 なにより大野の件は、夏に帰省した際『もう、諦めたみたいだから、大丈夫』としっかり伝えてしまっていて、これで、まだ諦めていないと言うことがわかれば、また心配をかけてしまう。

 それに、これ以上、飛鳥と恋人のふりを続けるのも考えものだった。

 なぜなら、あかりは

 飛鳥と、ずっと『友達』でいたいから──


(早く、何とかしなきゃ……)











「じゃぁ、いってきまーす!」

 それから三日がたった平日の朝。紺のランドセルを背負った理久が、学校に行くため声を上げた。

「いいよなー、姉ちゃんは、もう春休み入ってるんだから!」

「理久だって、もうすぐ春休みでしょ」

「まだ、二週間もあるし!」

「あはは。ほら、うだうだ言ってないで。早くでないと遅刻するよ」

「ハーイ、じゃぁな、姉ちゃん!」

「行ってらっしゃい」

 パタパタ出ていく理久を見送ると、その後母の稜子も仕事の準備を終えて出て来た。

「じゃぁ、私も仕事にいってくるから」

「うん」

「お友達と会うのは午後から?」

「うん、午前中はゆっくりして、一緒にお昼を食べにいこうって」

「そう、高校の友達に会うのも久しぶりなんじゃない? 帰ってきた時しか会えないし、楽しんできなさいね」

「ありがとう。お母さんもお仕事、気をつけて行ってきてね」

 軽く手を振り母を見送ると、あかりは家の中で一人になった。

(なにして、すごそうかな?)

 そんなことを考えながら、あかりは、かつての自分の部屋へ戻る。

 階段を登った先にある部屋は、あかりが家を出たあとも変わらずに残っていた。

 娘がいつ戻ってきてもいいようにと、家具もベッドも一年前のまま。

 あかりは、その後自分の部屋に入ると、ベッドの上に腰掛け、スマホを手に取った。

 画面に表示させたのは、求人情報サイトだ。

 帰省後、また桜聖市に戻ったら、あかりはアルバイトの面接を受けようと思っていた。

 スーパーのレジやコンビニ、はたまた居酒屋など、学生が働きやすいのは、その辺の接客業らしいのだが

(接客業……か)

 融通が効くバイトは、大学生のあかりには、なにかとありがたい。

 特に『学生大歓迎』などと書かれた案内を見れば尚更。

 だが、あかりは接客業という仕事に、少しばかり不安を抱いていた。

(片方、耳が聞こえないなんていったら、やっぱり働かせてもらえないかな?)

 接客業は人の話を聞き、それに答えるのが仕事。

 騒がしい場所では、明らかに聴力が劣るあかりにとって、それは、とても雑雑な悩みでもあった。

(うーん……私ちゃんと、仕事できるのかな?)

 普通の人と、生活はなにも変わらない。

 だが、人よりハンデがある分、選べる職種は限られてくる。

 なにより、あかりが教育学部で司書の資格を取ろうとしているのも、難聴でも働きやすい職種を選んだからとも言える。

 司書の仕事は、基本的に図書館。

 そして、図書館は、誰もがみんな静かにすごすことを理解している。

 だからこそ、本が好きで、静かな場所で仕事をしたいあかりにとっては、まさにうってつけの仕事だった。

 だが、今は早くお金を貯めて、引っ越さなければ……

(あ、大学の近くのファミレスが募集してる。ウエイトレスじゃなくて、キッチンの仕事ならまだ何とかなるかな?)

 色々と求人を探しながら、時間を潰す。

 なにより、今までアルバイト自体したことがないあかりにとっては、初めての仕事。何かと慎重にもなる。

 ──ピンポーン!

「?」

 だが、それから暫くたった頃、インターフォンがなった。

 あかりは、すぐさま部屋をでると、玄関から話しかける。

「はい、どちらさまですか?」

 あかりの家の玄関は、昔ながらの引き戸式。その扉越しに声をかければ

「こんにちは、蒼一郎です」
「……!」

 そこに現れたのは、高梨たかなし 蒼一郎そういちろうだった。


しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

処理中です...