368 / 554
第5章 あかりの帰省
第346話 あかりと蒼一郎
しおりを挟む「ごめんね、あかりちゃん。急にきて」
「いいえ……」
その後、あかりは蒼一郎を奥の和室に通すと、お茶とお菓子を差し出した。
わざわざ訪ねてきてくれて、追い返す訳にはいかず、家の中には、蒼一郎と二人きり。
「二月から出張で、よそに行っててさ。昨日やっと帰って来れたんだ」
「そうだったんですね」
「あ、これお土産。稜子さん達とみんなで食べて」
「まぁ、ありがとうございます」
お菓子の紙袋を受け取り、あかりがにこやかに笑うと、蒼一郎は、また楽しそうに話しかけてきた。
「あかりちゃん、大分大人っぽくなったね!」
「え? そうですか?」
「うん、女子大生って感じ! 大学はどう?」
「はい、少ないけどお友達もできて、楽しく過ごせてます」
蒼一郎の年齢は、現在35歳。あかりとは、16歳ほどはなれた、まさにお兄さん的な存在だ。
短髪をワックスでしっかり整え、左耳にはピアス。少しヤンチャそうな見た目をしたお兄さんだが、気さくで話しやすく、あかりは、子供の頃から、何かしら親しくしていた。
ちなみに、蒼一郎は高梨家の長男で、今は一部上場企業でサラリーマンをしているらしい。
「もしかして、好きな人でも出来た?」
「え?」
「いや、元々可愛かったけど、ここ一年で更に綺麗になってるから」
「そ、そうでしょうか?」
好きな人──そう言われて、あかりの脳裏には、一瞬、ある人が浮かんだ。
だが、その顔を必死に振り払うと
「す、好きな人なんていません。あっちは、こっちの田舎と違って、みんな華やかなので、少しずつ馴染んでいった結果かなと」
「あはは、垢抜けちゃたわけだ。その調子なら、あっという間に彼氏も出来そうだね」
「いえ、彼氏を作るつもりは、ありませんから」
ピシャリと言い放つと、その瞬間、場の空気が一瞬静まりかえった。
カチコチと時計の音が響き、その後、お茶を手にした蒼一郎が、また問いかける。
「そうなんだ……まぁ、あかりちゃんに彼氏が出来たら、理久くん怒りそうだしね」
「そんなことはないと思いますけど……そう言う蒼一郎さんは、どうなんですか?」
「俺?」
「はい、彼女とか、ご結婚とか?」
「あはは、彼女はいないし、結婚もないよ。親には四六時中、言われてるけどね、早く結婚しろーって! この前は、無理やりお見合いまで、セッティングされて」
「お見合い?」
「まぁ、ガチなやつね。今どき珍しいだろ。田舎って感じだよなー。相手は、近所の娘さんで……まぁ、俺には勿体ないくらいのいい人ではあったけど」
「そんな素敵な方だったんですか? なら、お付き合いされてみれば……」
「しないよ。俺、まだ好きだから」
「……っ」
瞬間、あかりは息を飲んだ。
まだ、好きだから──その言葉に、心がキュッと締め付けられる。
「だから俺。一生、結婚はしないと思う」
「…………」
そして、ハッキリ紡いだ、その蒼一郎の言葉には、揺るぎない意志を感じた。
それが、本気なのだと分かるほどに──
「そう……ですか……っ」
再度、言葉を紡げば、辺りはまた静まり返った。
お茶の香りが広がる和室は、その後暫く、無音のままだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。
昼寝部
キャラ文芸
俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。
その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。
とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。
まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。
これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる