神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜 あやめ

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第5章 あかりの帰省

第347話 悪い人と普通の人

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「じゃぁな、ねーちゃん、気を付けて帰れよ」

 篝町の駅前にて、荷物を持ったあかりに、弟の理久りくが声をかけた。

 あかりが実家に帰ってから、四日目。

 三泊四日の帰省が終わり、あかりは電車に乗って、桜聖市に帰るとこになっていた。

「あかり、忘れ物はないわね」

「うん、大丈夫だよ、お母さん。携帯も充電器も入れたし」

「そう。夏休みには、私達が、そっちに遊びに行くから」

「うん、理久と一緒にでしょ。わかってるよ」

「じゃぁ、何か困ったことがあったら、すぐに電話しなさいね」

「うん。ありがとう……じゃぁ、またね」

 母の稜子と理久に温かく見送られ、あかりはスーツケースを引きながら、駅の中に入っていった。

 だが、その姉の姿か見えなくなったあと、理久がぼそりと呟く。

「本当に、大丈夫かな?」

「大丈夫って言ってるんだから、あかりを信じてあげましょう」

「でも、この前、蒼一郎さんが来てから、また元気なかったし」

「仕方ないじゃない。蒼一郎君の顔を見ると、どうしても思い出してしまうんだから」

「あーもう! なんで、蒼一郎さんも、姉ちゃんしかいない時に来るのかな!?」

「こら理久。あなたは、蒼一郎君に対して、当たりが強すぎるわ。あの子は、何も悪いことしてないじゃない」

「そうだけど……っ」

 母から叱咤され、理久は小さく縮こまった。

 そう、蒼一郎は、何も悪くない。
 
 きっと悪い人は──誰もいない。

 だけど、姉の心には、今でも深い後悔が、その心に深く根付いてる。

「……でも、蒼一郎さんが恋人作って、結婚すれば、姉ちゃんだって……っ」

 苦痛の表情で理久が呟くと、稜子《りょうこ》は、そっとその肩を抱き寄せ、また穏やかに紡いだ。

「そうね……理久は、あかりが大好きだから、幸せになってほしいものね」

 いつまでも過去に囚われて、この先の未来を諦めては欲しくない。

 そう思うのは、当然の事だ。

 なぜなら、自分達は、あかりの「家族」だから。

 
 どうか願わくば 

 いつの日か、あかりが



 自分を、許せる日がきますように──…












「ねぇ、隆ちゃん! 今度一緒に、お花見いかない?」

 美里が経営する、喫茶ラ・ムールの店内にて。

 カウンター前に寄りかかった飛鳥は、バイト中の隆臣に、にっこりと笑いながら話しかけた。

 きっちりウェイター服を着た隆臣は、レジ前でお客様の会計を済ませた後だった。だが、そんな最中、いきなり現れた美人すぎる友人に、隆臣は眉をひそめる。

「なんだ、いきなり。冷やかしなら帰れ。営業妨害だ」

「うわ、ひど。デザート買いに来たのに。俺、お客だよ?」

「客ならいいけどな。しかし珍しいな。お前が、日曜日に現れるなんて」

 カウンター近くのショーケースの前に移動すると、三人分のケーキを選ぶ飛鳥を見て、隆臣は首を傾げた。

 飛鳥は、基本土日はあまり出歩かない。
 なぜなら、この容姿に、この華やかさ。

 街中を歩き回れば、自然と人を惹きつけ、ナンパやら、スカウトマンやらと出くわし、大変な目に合うからだ。

 すると飛鳥は、ここに現れた顛末を、ケーキを選びながら話し始めた。

「それが、蓮華れんげと一緒に"ケーキ食べたいね"って話になったんだけど……ジャンケンして、負けた」

「またかよ!」

「仕方ないだろ! なんかわかんないけど、俺、ジャンケンは弱いんだよ!! ていうか、アイツら双子が、いつも二人して同じ物出してくるから、三人でジャンケンしても、二人でジャンケンしてるようなものなんだよ!」

 そうなのだ。飛鳥は、双子とジャンケンをすると、高確率で負ける。

 そのせいで、大抵、ケーキが食べたい、アイスが食べたいとなった時は、よく飛鳥が買いに行く羽目になる。

「その弱点は、あまり人に知られないようにしとけよ。バレたら、みんなしてお前に、ジャンケンしかけて、無理難題もちこんでくるぞ」

「なにそれ、怖すぎ!?」

「それより、なんだ花見って?」

 すると、ふと先の話を思い出して、隆臣が問いかけた。
 この飛鳥が、自ら人ゴミに行く提案をしてくるなんて、天変地異に前触れと言ってもいいくらいレアなことだ。

「マジで冷やかしや冗談だったら、追い出すぞ」

「冗談じゃないよ。実は、この前、あかりに『一緒に桜を見に行こう』って誘ったんだけど」

「え?」

 瞬間、隆臣は目を見張った。

 これは思ったよりも、あかりさんとの仲が進展しているのかもしれない。

 そう、思ったのだが……

「あかりは、みんなで花見に行くと思ってるみたいで」

(あぁ、全然進展してねーな、これは)

 だが、残念ながら期待はずれな答えが返ってきた。
 これは、全く進展してないどころか、飛鳥は未だに『友達』としか思っていないのだろう。

 しかし、これほどの男にデートに誘われていながら、デートとは一切思わないなんて……

「スゲーな、あかりさん。大学の女子たちが聞いたら批難殺到だな」

「……怖いこと言わないでよ」

「だってそうだろ。お前、自分の異常なモテ方、ちゃんと理解してるのか? お前と付き合うとなったら、相手は、絶対苦労するぞ」

「え? そんなに?」

「あぁ、お前は『普通』じゃないからな」

「…………」

 普通じゃない──その言葉に、飛鳥は眉を顰める。

 だが、そんなこと自分が一番よく分かっていた。これだけ、並外れた容姿をもって生まれてきたのから。

「普通か……俺は、普通のお兄ちゃんのつもりなんだけどな?」

「お前がそう思ってても、周りはそうは思わねーよ。世間から見たお前は、勝ち組だ。普通の人が羨むくらいの容姿を持っていて、その容姿で、楽に世の中を渡っていける、そう思われてる。実際は、そんなことないのにな」

「…………」

 そう、人は『普通』を基準に、周りを判断する。

 普通よりも『上』か『下』かで他人を見て

 上と分かれば、媚びへつらい
 下と分かれば、蔑みバカにする

 誰が決めたか分からない、その『普通』という基準は、時には薬にもなり、毒にもなる。


「あかりは、俺の事『普通の人』だって言ってくれたよ」

「………」

「ちゃんと、中身を見てくれて、媚び売ったり、特別扱いしたりしない」

「……そうか」

 だから、好きになったのだろうか?
 飛鳥は、あかりさんを……

 だけど、それは、あかりさんが、飛鳥を『友達』として見てるから──

「まぁ、この先、上手くいくにしても行かないにしても、人気者のお前と付き合うとなれば、それなりに覚悟が必要になる。異性なら尚更な。そこは理解しとけよ」

「覚悟か……隆ちゃんも覚悟した?」

「え?」

「俺の、友達になるって言った時」

「………」

 その言葉に、隆臣は小5の頃を思い出した。

 誘拐犯に襲われた後、飛鳥が学校に行くと、侑斗さんから聞いた日。

 飛鳥に、友達になろうと宣言した、あの日。

 正直に言えば、覚悟はした。だからこそ、空手を始めて強くなろうと思った。

 もう、二度と、飛鳥を置き去りにして逃げないように──


「さぁ、もう忘れた。そんな昔の話」

「うわ! どうせ、そんなことだろうと思ったよ」

「それより、花見ってどこに行くんだ」

「あー、さかき神社の裏にある、桜公園にしようかなーと?」

「榊神社って、バカかお前!? そんな近所の公園にあかりさん連れて行って、大学の奴らに見つかったらどうするんだよ!?」

「はぁ!? でも、あそこ結構穴場だろ?」

「あっちの大通りの公園よりはな! でも、家族だけで行くならいいけど、明らかに女の子が、それも大学の後輩が一緒にいたら、絶対変な噂がたつだろ! あかりさんを厄介ごとに巻き込みたくないから、悪いことは言わないから、市外にいけ!」

「市外!?」

「誰一人、知り合いに会わないようなところじゃないと、今後どうなるか分からないぞ」

「……っ」

 真剣が隆臣の表情に、さすがの飛鳥も怖気づく。確かに、大学の学生たちに見られたら、色々とマズイ。

 だが、さすがに市外は……

「でも、車もないし、電車で行くの?」

「……つーか、何人でいくんだよ?」

「えーと、蓮華とエレナとあかりと……」

「俺とお前の、6人ってことか?」

「今のところ。でも、結構な大人数だよね。それに、電車で長時間移動するのは、エレナが疲れちゃうんじゃないかな?」

「あー、エレナちゃん、あまり遠出したことないみたいだしな。なら車か」

 すると2人は、車を出せそうな人を思いうかべる。だが、美里は仕事があるし、侑斗は海外。

 かといって、飛鳥も隆臣も、まだ免許は持っていない。

 となると……

「あ!」
「?」

 瞬間、飛鳥が声を上げて、隆臣は首を傾げた。

「誰か、いたのか?」
「うん、いたいた♡」

 そういうと、飛鳥はスマホで電話をかけ始めた。

 果たして、飛鳥がかけた人物とは……?
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