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第5章 あかりの帰省
第348話 予定とケーキ
しおりを挟む「おっそーい!」
喫茶店から、ケーキを買って自宅に戻ると、リビングに入ったとたん、華が大声を上げた。
ジャンケンに負けて、ケーキを買いに行った飛鳥。だが、帰宅するまでに、かれこれ3時間もかかってしまったからだ。
「もー、また捕まってたの!? 毎回毎回、土日に出かける度に、これじゃん!!」
「仕方ないだろ。俺、こんな顔してるんだから、いい加減慣れろよ」
飛鳥だって、好き好んでスカウトやナンパに掴まってるわけではない。
だが、如何せんこの美貌が、それを回避してくれない。
「今日は何人?」
すると、リビングでゲームをしていた蓮が、またかと言いたげに口を挟んだ。
飛鳥は、手にしたケーキの箱をテーブルに置くと
「えーと、スカウトが一人と、ナンパが二人と、迷子が一人」
「「迷子!?」」
なるほど! つまり、スカウトやナンパに加えて、迷子の手引きまでしてきたと!?
それは、遅くなりますよね!!
(相変わらずだな、うちの兄貴は……)
(ていうか、なんでスカウト断るんだろうって、ずっと疑問に思ってたけど、子供の時にモデルやってたからなのか……)
兄から聞いた、昔の話。
自分達が知らなかった、幼い頃の兄の話。
そう、兄は幼少期、モデルをしていたらしい。
それ故に、頑なに断り嫌がっていたのだと、双子は今更ながらに思い知る。
きっと、兄にとってモデルは、幼い頃の辛い記憶を思い出させてしまう、呪いの言葉のようなものなのかもしれない。
(兄貴、子供の頃からすごかったんだな)
(普通、なろうと思っても、モデルとか簡単になれないし)
綺麗で美人なお兄様は、幼少期から、抜群の美貌と愛嬌を振りまいていたらしい。
だが、そのせいで、やりたくないモデルの仕事を、ミサさんにさせられていたのかと思うと、容姿が美しすぎるということは、必ずしも、良い面ばかりとは言えないのかもしれない。
「あ、そうだ。今月の28日、予定空けといて」
「え? 28日?」
すると、双子の思考を遮って、飛鳥が再び声を発した。
今月の28日。つまり3月28日だ。
「なにかあるの?」
「この前言っただろ。お花見の日程、28日にしようと思って」
「あー、エレナちゃんと、あかりさんもつれて行くって言ってたやつ!」
瞬間、華がぱっと顔を綻ばせた。
「エレナちゃん、お花見行ったことないって言ってたし、きっと喜ぶね」
「でも、エレナちゃんと兄貴なんて、目立つ人が二人もいたら、花見会場大変なことになるんじゃないの?」
「大丈夫だよ。運転手見つけたから、隣町まで車でいけるし、ついでに、美里さんから、穴場のお花見スポット教えてもらったから」
「ホント!」
「うん、ついでに隆ちゃんも誘ったから、いざとなったら、隆ちゃんに何とかさせればいいしね!」
「な、なんとかさせるって……っ」
「そりゃ、ボディーガードには、ボディーガードらしいことしてもらわないとね♡」
にっこり笑顔の兄に、双子は眉を顰める。相変わらず、この腹黒さは悪魔級だ。
だが、遊園地しかり、夏祭りしかり、人が多い場所に行くときは、それなりに配慮が必要になる神木家。
それにプラスして、エレナちゃんという、兄そっくりな美少女までいるなら、誘拐、盗撮、痴漢に盗難と、色々な面に気を配りながら、花見を楽しまねばならない。
それを見越して、兄はわざわざ隆臣さんを誘ったのだろう。
(……可哀想に、隆臣さん)
(でも、エレナちゃんもいるし。万が一、エレナちゃんに何かあったら、ミサさんが怖いし)
そう、兄が保険をかけたのは、きっとそのためだろう。
エレナちゃんに何かあったら、あの母親が、どうなるか分からない!!
それを考えれば、ボディーガードは1人でも多いほうがいい。
ちなみに、隆臣は長い付き合いなため、この件は承知の上だろうが、あかりと運転手は、想像もしていないだろうと思う。
「とにかく、28日空けとけよ。あかりにもそう伝えとくから」
「うん、わかった~」
すると二人の返事を確認した後、飛鳥はあかりに電話をかけ始めた。
コール音が何度か鳴って、その後「はい」と言ってあかりがでると、飛鳥は普段通り話しかける。
「もしもし、あかり。今大丈夫?」
『……はい。大丈夫です』
「あれ? そしかして、今出かけてる?」
『あ、はい。……今、駅前なんです。さっき、実家から戻ってきて』
電話先の音は、少し騒がしかった。
それにより、あかりが今、外にいるのだと気づいた飛鳥は、少しばかり考える。
「聞こえづらいなら、後で、かけなおすけど?」
『あ、いえ、大丈夫です。どうしたんですか?』
「あぁ、花見の日程なんだけど、今月の28日、大丈夫かな?」
『28日……はい。大丈夫ですよ』
普段と変わらないやりとりをして、花見の日程や行先を伝えていく。
隣町まで行くと話せば、あかりは少し驚いていたが、楽しみだとも言っていた。
「じゃぁ、また細かい予定が決まったら電話するから」
『はい。……あ、神木さん』
すると、今度はあかりが引き止めて、飛鳥は耳をすませる。
『……あの、えっと……お土産があるので、後でポストにでも入れておきます』
「…………」
ポストに──そう言われ、飛鳥はなんとも言えない気持ちになった。
どうやら、あかりは、会わずにお土産だけおいて、帰るつもりらしい。
(この前『本気で付き合ってみる?』ていったの……やっぱり、まずかったかな?)
どことなく避けられているのでは……そう感じて、少しばかり不安になった。
あの日、とっさに言ってしまった言葉を、飛鳥は今更ながらに後悔していた。
人と人との繋がりは、ほんの少しの綻びから、あっという間にダメになってしまう。
だからこそ、今ここで、あかりとの繋がりを維持するためには『友達』としてふるまうのが一番なのかもしれない。
「うん、わかった。ありがとう」
あっさりとした返事を返して、会わずに受け取ることを伝えた。
本当なら、直接受け取りに行くと伝えたかったけど、きっと、この『友達』という関係が、今は最良の距離なのだろう。
『はい。じゃぁ、ポストにいれたら、LIMEしときますね』
すると、また穏やかなあかりの声が響いて、飛鳥は苦笑いをうかべた。
(……本当、少しくらい、ガッカリしてくれてもいいのに)
その反応に、友達としか思われていないことを、再度思い知らされる。
そして、その矛先は、隆臣へ
(きっと、隆ちゃんのせいだな。俺に変な呪いかけるから……)
◇
◇
◇
「橘くーん! 休憩終わったらホールの方お願い~!」
「あぁ、分かった」
そして、その頃、隆臣は喫茶店の奥で休憩をしていた。
お昼を取り、他の店員が休憩に入って来ると、再び仕事に戻る準備を始めた隆臣は、サテンエプロンをつけ、休憩室を出た。
この喫茶店で、隆臣が正式にバイトを始めたのは、かれこれ二年ほど前。
大学生になったのをきっかけにだったが、オーナーの息子でもある隆臣は、ホールからキッチンまで難なくこなすため、基本的に忙しい方に回されることが多かった。
だが、休憩後にホールでウエイターをお願いされるということは、それなりに人の入りが多くなってきたのだろう。
(しかし、あの飛鳥が、花見に行きたいと言い出すなんてな)
そんな中、隆臣はふと、先ほどやってきた飛鳥のことを思い出した。
あの人ゴミ嫌いな飛鳥が、自ら人ゴミに行くなんて言い出したもんだから驚いた。
それも、あのあかりさんを誘って……
(……皮肉なもんだな。あんなにモテまくってきたやつが、好きになって子には、見向きもされないなんて)
去年のクリスマスに『フラれる呪いかけとくから』などと冗談で言ってしまったことを、軽く後悔する。
だって、あの飛鳥がフラれるなんて、絶対にないと思っていたのだ。
それなのに、下手をすれば、それが現実になってしまうかもしれない。
(参ったな。今度、ケーキでもご馳走しとくかな)
お詫びといったらなんだが、その位はしてもいい気がしてきた。
──カランカラン~♪
「いらっしゃいま……」
だが、隆臣がホールに戻ったタイミングで店の扉が開いて、隆臣は目を見開いた。
突如、目に入ってきたのは、夕日の色にもにた、美しい金色の髪。
もう何年と見続けてきたその髪色と、同じく、見飽きたくらいの綺麗な青い瞳。
自分の友人と同じ色をもつその人物がはいってきた瞬間、隆臣は思わず息をのんだ。
(この人、もしかして……っ)
一度もあったことがない隆臣でも、それが、誰なのか一目でわかった。
なぜなら、その女性は、自分の親友に、あまりにもそっくりだったから。
そう、そこに現れたのは、飛鳥の母親である──紺野 ミサだった。
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