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第5章 あかりの帰省
第350話 警備員とファン
しおりを挟むカツンと、靴の音が響く。
その後、飛鳥のマンションにやってきたあかりは、中のエントランスを、ぐるりと見回した。
スタイリッシュな内装と、落ち着いた雰囲気。
奥には警備員も常駐しているらしく、防犯性がとても高いことがうかがえた。
(よかった。いつもどうりで……)
ポストの前にたつと、あかりは『神木』と書かれたプレートを探しながら、先程の飛鳥の対応を思い出した。
いつも通り『友達』としての対応に、思わずホッとしてしまった。
(やっぱり、勘違いかも? 神木さんが、私の事を好きだなんて……)
最近は、彼の言動には、振り回されてばかりだった。
まるで、全身で『好きだ』って訴えかけられているようにも感じて、それを必死に『違う』と言い聞かせた。
この人は、誰にでもこんな事を言う人だから、勘違いしてはダメだと──
(まぁ、そうだよね。あんなにモテモテな人が私なんか好きになるわけが……)
ちょっと勘違いしてしまった自分が、少し恥ずかしい。だが、いきなり
『本気で、付き合ってみる?』
なんて言われれば、勘違いもするだろう。
(本当に、思わせぶりな言動ばっかり……)
優しい上に、人タラシ。その上、あんなに綺麗でカッコイイ人に口説かれたら、女の子ならみんな好きになってしまう。
しかもそれを『自覚して』と言ってるのに、全く自覚する兆しがない。
だけど、それでも、自分は大丈夫だと思っていた。
『絶対に、好きにならない』と言えるほどの
自信があったから……
(私、華ちゃんにも、好きにならないから安心してとまで言ってるのに……)
まさか、こんなことになるなんて思わなかった。とんだ嘘つき女だ。
(……いやいや、まだ間に合う。いっそ、忘れよう。こんな気持ち)
ブンブン首を振ると、あかりは、今ある感情を、必死にふりはらった。
私は彼を、好きじゃない!
そう、今ならまだ、なかったことにできる!
(よし! こんな気気持ち、ただの勘違い!)
そう言い聞かせ、あかりは一度目を閉じると、気を取り直し、神木家のポストを探した。
「えーと、神木、神木……あった!」
すると、目線より少し上に『Kamiki』とローマ字で書かれたポストがあった。
あかりは、荷物の中から小ぶり紙袋を取り出すと、それをポストの中へ──
「!?」
と、思った瞬間、あかりは目を見張った。
なぜなら、そのポストには、しっかりと鍵がかかっていたから!!
(え!? うそ!)
わざわざ、ポストに入るサイズのお土産を選んできたのに、ポストに鍵がかかっていては、開けることができない!
(なんで!? 鍵がかかってるなんて言ってなかったのに……っ)
なんだ、これは?
新手の嫌がらせなのか?
いやまさか、そんなはずはない。
あかりは、ぐるぐると悩む。
だが、持って行くと言った手前、このまま帰るわけにはいかず、こうなると、電話でもして取りに来てもらうしか……
(どうしよう、せっかく会わずに渡そうと思ったのに……っ)
「──君!」
「?」
だが、その瞬間、どこからか声がした。
声の出処が分からず、あかりは、キョロキョロと辺りを見回す。すると、奥からマンションの警備員がこちらに向かって来るのが見えた。
「神木さんちに、なにか用?」
「え?」
警備員に疑惑の目を向けられ、あかりは困惑する。
これは、もしかして、怪しいヤツだと思われてる!?
「あ、あの……私は神木さんに、お土産を渡しに」
「あー、もしかして神木君のファンの子? ダメだよ。神木くん、ファンからの差し入れは受け取らないことにしてるから!」
「え!?」
なるほど。つまり、ファンと勘違いされたのか!?
まぁ、あの顔だ!
ファンなら沢山いるだろうが
(あ、鍵かかってたのって……もしかして、プレゼント防止のため?)
鍵をかけなければいけないほど、プレゼントがくるのだろうか。相変わらず、恐ろしい人だ!
「はい。だから、君も諦めて帰ってね!」
「あ、あの、違うんです! 私はファンじゃなくて、神木さんの友達で!」
「はいはい。ファンの子は、みんなそう言って、渡してもらおうとしてくるんだよ」
「え!? あの……!」
ダメだ、信じてもらない!!
だが、神木家に来たのは、まだ2回しかないため、あかり自身『友達』というには、まだちょっと説得力がなかった。
(仕方ない。迷惑だし、帰るしかないかな……)
神木さんには、後で謝ろう。
だが、そう思った時──
「あかり!」
と、声をかけられた。
目を向ければ、その奥には、少し息を切らしながら、飛鳥が駆け寄ってくるのが見えた。
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