神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜 あやめ

文字の大きさ
397 / 554
第7章 未来への一歩

第375話 両思いと始まり

しおりを挟む

「連絡して……いいかな?」

 スマホを見つめたまま、少し迷う。

 さっきのことがあるからか、恥ずかしくて、あかりは、なかなか電話がかけられなかった。

 両思いだと気づいてしまったのは、ある意味『不幸』なことかもしれない。

 彼の気持ちに、自分の気持ちに、一切気づきさえしなければ、ずっとこのまま、友達として、変わらない日々を過ごせかもしれないのに──…

「……いつまでかな、この関係」

 あなたの近くで、友達として笑っていられるのは、あとどのくらいでしょうか?

 私が、ずっと、この気持ちを隠しさえすれば、この先も、ずっと続けられますか?

 でも、それは……

「神木さんのためには、ならないですよね?」

 スマホに表示された名前をみつめ、あかりは、切なげに呟いた。

 どうしたって、彼の気持ちには答えられない。

 だから、この両思いという関係を、素直に喜ぶことができない。

 だって、から。

 結婚も子供も持たない。そんな自分と、彼の未来は、どうしたって、交わることがないから。

「……離れなきゃ」

 離れなきゃいけない。
 傍にいちゃいけない。

 彼の時間を、私なんかに使わせちゃいけない。

 だから、あと1、二人だけの時間を過ごせたら、少しずつ、離れていくことにします。

 できるだけ傷つけないように、ゆっくりと距離をおいて『友達』から『他人』に戻ろうとおもいます。

 まぁ、その最後の時間が、女装をしてくれだなんて、少しおかしいかもしれないけど。

 でも、両思いだとわかったこの状況で『男性』の神木さんと過ごすのは、なんだかとても、恥ずかしいから……

「逆に、よかったかも?」

 とんでもないワガママを言ってしまったこと苦笑しつつも、あかりは、気持ちの整理をつけ、迷いのある表情を一新させた。

 離れる覚悟をきめた、表情。
 友達をやめる、決意の表情。

 そして、それは、友達としての今の関係を終わらせる、カウントダウンの始まり。

「うーん。でも、神木さんの女装姿は、すっごく気になる……!」

 だが、その後、あかりは、飛鳥の女装姿を想像して、歓喜の表情をうかべた。

 まさか、いいと言ってくれるとは、思わなかった!それに、あんなに綺麗なのだ!どんな服でも完璧にきこなしてくれそう!

「あの長い髪、一回いじってみたかったんだけど、触らせてくれるかな? エレナちゃんの髪はいじったことあるけど、やっぱりおなじ感じなのかな?……あ、そうだった!」

 すると、不意にあることを思い出して、あかりは、飛鳥の連絡先を消し、また別の連絡先を探し始めた。

 電話帳の欄に現れたのは『紺野 ミサ』の文字。
 実は、先日の花見の時、あかりはミサと連絡先の交換をしていた。

「あ、突然すみません。ミサさん、今、大丈夫ですか?」

『えぇ、大丈夫よ。今、ちょうどお昼を食べ食べ終わったところだから』

 あかりが電話をかけると、ミサはすぐに出てくれた。

 飛鳥が届けてくれたお弁当を食べ終えたミサは、ちょうどオフィスに戻る途中で、幸せそうにお弁当の袋を見つめたミサは、その後、廊下の隅により、あかりとの会話に集中する。

『どうかしたの? もしかして、エレナになにか?』

「あ、いいえ。エレナちゃんのことではなくて、今日は、神木さんのことで」

『飛鳥の?』

「はい。実は先日、ミサさんが話していた、神木さんと橘さんの件は、みたいです」

『へ? 間違い?』

「はい。お二人は、お付き合いもしていないし、恋人同士でもないみたいです」

『え!? そうなの!?』

「はい。はっきりしたので、一応お伝えしておこうと」

『そうだったの。ありがとう……あれ、じゃぁ、今日のあれは、誰のことだったのかしら?』

「え?」 

『あの子、私が「本当に好きなら応援する」っていったら「認めてくれるんだ」って、少し安心したような顔をしていたから……他に好きな子がいるってことかしら?」

「…………」

 そのミサの言葉に、あかりは暫く黙り込む。

 飛鳥の好きな相手が、誰なのかは、あかりにははっきり分かっていた。だが、その相手が自分だなんて、口が裂けても言えない。

「さぁ、私も、そこまでは」

『そうよね。ごめんなさい、わたしのせいで、迷惑かけてしまったわね。じゃぁ、隆臣くんも、友人として付き合ってるってつもりで話してしたのかしら? あ、でも、エレナの『友達以上の関係』って、なんだったのかしら?』

「友達以上?」

『えぇ、エレナが、そういっていて……飛鳥は、昔から可愛かったし、女の子みたいで、だから、私はてっきり恋人同士なんだと』

「うーん……もしかしたら、それは『親友』って意味だったんじゃないでしょうか?」

『え?』

「あの二人とても仲がいいので……それにエレナちゃんは、親友というものに、憧れがあるみたいですし」

『親友……そう、それは、きっと、私がエレナから奪ってきたせいね』

 友達なんて必要ない──と、仲良くなろうとする子供たちを、エレナから遠ざけ、エレナ自身にもそれを強要していた。

 自分が臆病だったせいで、エレナの大事な友達との時間を奪ってきた。

 すると、昔自分が、あかりに『エレナに近づかないで』と忠告した日のことを思い出した。

 強くトゲのある言葉を、この子に向けた。
 本来なら、離れてもおかしくない。

 それでも、あかりさんは、エレナの友達でいてくれた。

『あかりさん、あらためてお礼を言わせて……あの子の──エレナの友達になってくれて、ありがとう』

 ミサが、ふわりと微笑めば、桜が空に舞い上がる。

 うららかな、春の日。

 この日、ミサとあかりは、未来への一歩を踏み出した。


 片方は、大切な我が子たちの未来を守るために

 もう片方は、好きな人との、別れの未来を覚悟して


 春の空はには、桜が舞う。

 それは、暖かく、穏やかに

 だけど、少しだけ──切なげに漂っていた。




 ✿

 ✿

 ✿




「え!? 誤解といてくれたの!?」

 そして、そのあと、あかりは心機一転、飛鳥に電話をかけたのだが

『はい、ミサその方には、はっきりと付き合っていないことを伝えておいたので、もう大丈夫だと思います』

「そ、そうなんだ……っ」

 あかりの言葉を聞いて、飛鳥はほっと息をついた。

 なぜなら、実の母親に男と付き合ってないことを説明することに、とてつもない苦痛を感じていたから!!

「っ……ありがとう、あかり。助かった」

「助かった?」

「いや……それと、隆ちゃん、俺のこと恋愛対象としては見てないって」

『あぁ、聞いたんですね』

「お前が、あんなこと言うからだろ!」

『あはは。それと、私、無事に親からアルバイトの許しをもらえたんですが、神木さん、本当に女装してくれるんですか?』

「うん、するよ。もう、女装だっていくらでも。本当に、ありがとう!!」

 この恩は、しっかり返す──とばかりに、ミサの誤解をといてくれたあかりに、飛鳥は激しく感謝する。

 だが、そんな飛鳥の会話を聞いていた双子は

(飛鳥兄ぃ……最近、女装することに躊躇いがなくなってきてる気がする)

(兄貴、あかりさんの前でマジで女装するのか。まぁ、楽しいからいいけど)

 兄は、一体、好きな人の前で、どんな女装姿を披露するのだろうか?

 そんなことに、不安と、微かな期待をふくらませながら、双子は二人あわせて「ごちそうさまでした」と手を合わせ、ラーメンを食べ終えたのだった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...