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第8章 好きな人のお願い
第386話 虚偽とショッピングモール
しおりを挟むトゥルルルル……!
いきなりかかってきた隆臣からの電話に、飛鳥は眉をひそめた。
なんで、このタイミングでかかってくるのか?
噂の彼氏役からの連絡に、飛鳥はどうするかを考える。
出るか、出ないかではない。
利用するか、しないかの選択だ。
「もしもし、隆ちゃん♡」
すると、飛鳥はあっさり『利用する』を選んだらしい。普段以上に、可愛らしく声をかければ、やたら上機嫌な飛鳥に、隆臣は首を傾げる。
『ん? どうしたんだ。やたらと楽し』
「え、今から、会いたいの?」
『は?』
「そっかー、隆ちゃんて、相変わらず俺のこと大好きだよね♪」
『え? いや、え?』
「うん、分かってるよ」
『なにが!?』
「だから、俺も隆ちゃんのこと愛してるってこと! じゃぁ、今すぐ行くから、待っててね♡」
『…………』
多分、電話先で鳥肌でも立てているだろう隆臣を想像しつつ、飛鳥は一方的に話し、一方的に電話をブッチ切ると、その後、店員に向けて、変わらぬテンションで話しかけた。
「すみません。彼氏に呼び出されてしまったので、今日は帰ります」
「まぁ、お噂の彼氏さんですね! 電話のやり取りで、仲が良いのが伝わってきました! まさに、新婚さんって感じの雰囲気で」
「あはは。そうなんです。俺たち仲が良すぎて。おかげで、隆ちゃん、俺のこと片時も離してくれなくて」
ありえない嘘を、さも当然のごとく並び立てれば、自分で言っていて、鳥肌がたちそうになった。
なんで、アイツとラブラブな彼氏、いや彼女?を演じなくてはならないのか?
だが、この場を乗切るためなら、男友達と恋人のフリくらい、難なく、やってのけよう!!
「ありがとうございました~」
すると、そのおかげか、店員はあっさり引き下がり、飛鳥はウェディングドレスを試着することなく、店から抜け出した。
だが、店から離れたあと、限界を超えた華がそ偉大に大笑いをする。
「あははは! もう、飛鳥兄ぃ、演技うますぎ! 本当に隆臣さんと付き合ってるのかと思った!」
「付き合ってないよ」
すっぱりきっぱり否定すれば、飛鳥は、その後、隆臣に折り返しの電話をかけた。
「あ、隆ちゃん。会いになんて行かないから、本気にするなよ」
『…………』
すると、さっきの可愛らしい声とは打って変わって、普段の低めの声が響いて、隆臣は、あまりの変わりように、ぴくりと眉をひきつらせた。
『お前、さっきのなんなんだ!? 鳥肌がたったわ!』
「俺も鳥肌たった」
『お前が言ったんだろ!?』
「うん、まぁ、そうなんだけど……とりあえず、ありがとね。助かった」
『助かった?』
「うん。俺、もう少しで、ウェディングドレスを着た挙句、40万払わないといけなくなるところだった」
『お前、なにやってんだ?』
女装服選びは順調だろうかと、電話をかけてきた隆臣。だが、飛鳥の話しぶりから、どうやら上手くいっていないらしい。
親友の苦労をなんとなく想像し、隆臣は人知れず哀れんだのだった。
*
*
*
その後、道中のいざこざを何とか収めつつ、飛鳥たちは、やっとのことショッピングモールにやってきた。
昼を過ぎ、時刻は1時。
そして、華を先頭に、女性服ばかりのオシャレなお店に入れば、華と葉月は『どれがいいかなー』と、店の中を徘徊し始めた。
そして、その店の中でも飛鳥はかなり目立っていた。店員や女性客が、チラチラと飛鳥を盗み見ては、頬を赤らめる。
慣れたものだが、やはり場所が場所だけに、落ち着かない。
「ねぇ、飛鳥さん! あかりさんって、どんな服が好きなんですか?」
「え?」
すると、葉月が、いきなりあかりの趣味を聞いてきた。
あかりの服装と言えば、ワンピースやロングスカートといった、大人しめの服な多い気がする。のだが……
「どんなって言われても、あまり詳しくは」
「そっかー。どうせなら、あかりさん好みの衣装をと思ったんだけど……あ! そうだ! いっそのこと、あかりさんの服を借りてみるとか?」
「え? あかりの?」
「あー、葉月それいいかも! あかりさんの服なら、いくらでも、あかりさん好みの服に着せ替えられるし!」
キャッキャっと、楽しそうな女子二人。
それを見て、飛鳥は
(あかりの服を、俺が……?)
なんというか、それは、ちょっと恥ずかしいような気がした。
いわゆる"彼シャツ"の逆バージョンみたいな話ではないだろうか? まぁ、彼女の服を、彼氏が着るのは、ちょっとマヌケな話かもしれないが……
「ねぇ、飛鳥兄ぃは、どう思う?」
すると、華に再度問われた。
あかりを服を着るかどうかの話だろう。
すると、飛鳥は……
「それは……少し、恥ずかしい……かも」
「お?」
珍しく赤くなった兄。それを見て、華が、ふふっと微笑めば
「へー、飛鳥兄ぃでも恥ずかしがったりするんだー。前は、普通に女子から制服かりて、女子高生役してたのに」
「う……っ」
「いやいや、華。そこは、好きな女の子の服だから恥ずかしいんでしょう~。そこら辺の女子の服とは重みが違うって!」
「あー、なるほどね。あかりさんが実際に着てる服だもんね。あかりさんの匂いとか染み付いつるかもしれないし。そりゃ、恥ずかし」
「俺、もう帰っていい?」
再び兄を茶化しだした女子高生二人に、ついには限界がやって来た! 飛鳥が、ニッコリって離脱を提案すれば、華は『えぇ!』と声を上げ
「なんで!? まだ、決まってないじゃん!」
「いや、なんかお前らと一緒に居たら、一生決まらない気がする」
「そんなことないし!」
そして、またギャーギャー兄妹喧嘩が始まった。
ただでさえ目立つこの二人組が、痴話喧嘩を始めたら、下手をすれば人だかりが出来かねない!
すると、葉月は
「ねぇ、華! アリス服があるよー!」
と、別の店のマネキンがいている服を指さした。
英国風の外観をした店先には、様々な種類のロリータ服やアリス服などが立ち並んでいて、華は、それをみて、おぉ!と唸る。
「確かに可愛いし、飛鳥兄ぃなら絶対似合う!」
「でしょ! 他にもゴシックドレスもあるし、あっち店には、チャイナ服もある!」
「あー、チャイナかー。確かに飛鳥兄ぃの美脚を活かすなら、チャイナもいいかも?」
「ね! あかりさんの服は保留にして、他の店も手当り次第見てみようー! ほら、飛鳥さんも行くよー!」
「え!?」
結局、葉月が機転をきかせたおかげで、兄の離脱はなくなり、それから暫く、行ったり来たり。
そして、それから、数時間後──
*
*
*
「はぁ……もう、疲れた」
女装服を選び終え、無事に帰宅した飛鳥は、リビングのソファーに腰かけ、一人項垂れていた。
朝から行って、まさに一日がかり。
帰りついたのは、もう7時前で、今日の夕飯はカップラーメンにしようと飛鳥が考えた時、一日ゴロゴロしていた蓮が、興味津々に口を挟む。
「それで。女装服、何に決まったの?」
「教えない」
弟からの問いかけをバッサリ切り捨てた飛鳥は、また、深く息をついた。
(俺、なんで、こんなに本気になってるんだろ?)
好きな人からのお願いとはいえ、こんなに疲れ果てるまで、真剣になっている自分に、飛鳥は少しだけ、恥ずかしくなったのだった。
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