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第10章 お兄ちゃんの失恋
第431話 水族館と映画館
しおりを挟む「わ、私は……飛鳥さんの……ことが……っ」
ゆっくりと紡ぎ出した言葉に、あかりの身体が更に熱を上げる。
頬が火照って仕方ない。なにより、たった二文字を言うだけで、こんなに熱くなるなんて──
(や……やっぱり、無理っ)
だが『好き』という言葉は、やはり簡単には口にできなかった。だいたい、二人きりでも恥ずかしいだろうに、人前で言うなんて──
「あかりちゃん、そんなに赤くなって」
「え……ッ」
すると、大野が悔しそうにそういって、あかりは更に赤くなった。
今、自分はどんな顔をしているのだろう?
もう、穴があったら入りたい!
「あかりちゃん、そんなに赤くなるほど、神木君のことが、好きなの?」
「だから、好きだっていってるじゃん。この顔見れば、俺のことが大好きなのは、一目瞭然でしょ」
(ああああああああぁぁぁ!!!)
そして、追い打ちをかけるように、飛鳥が、そう言って、あかりは自分の顔を両手で覆い隠した。
やめて!!
もう、やめて!!
これ以上、何も言わないで!!
羞恥心は、もはや限界だった。
というか、いつまで続くの!?
「だから、早く諦めたほうがいいよ。大野さんが完敗するのは、目に見えてるわけだし」
「……っ」
すると、あかりの気持ちを察してか、飛鳥がトドメを刺しにいった。
どの道、付き合ってはいなくとも、実際に両思いではあるのだ。それ故に、大野さんが入り込む隙はない。
だが、大野は、じとりと飛鳥を睨みつけると
「じゃぁ、なんであかりちゃん、泣いてたの?」
おっと、そうきますか?
泣いていた理由を、答えろと?
「ただの痴話喧嘩だよ。付き合ってれば、喧嘩の一つや二つあるでしょ?」
「痴話喧嘩?」
「うん。デートの場所で揉めてね。俺は、水族館に行きたいっていったんだけど、あかりは映画館がいいって言い出して」
「水族館と映画館?」
「うん。水族館で、今ペンギンの赤ちゃん産まれてるの知らない? 俺は、赤ちゃん見に行きたいなーって思ったんだけど、あかりは、今上映してる『ニャンピース』の映画が見たいって言い出して」
「そ、そうなんです! 私、ニャンピースが大好きで、いつか、でっかい猫とピースするのが夢なんです!!」
なんとか二人で話を示し合わせる。
すると、大野が、じっと黙り込んだ。
信じてくれただろうか?
これで、諦めてくれるだろうか?
「あかりちゃん、ニャンピース好きなの? 俺、ぬいぐるみとか持ってるよ。あげようか?」
いや、そっち!?
食いつくとこ、そこ!?
「い、いえ……ぬいぐるみは、飛鳥さんが、ゲーセンでとってくれるので」
(ゲーセン? 待って。俺、ゲーセンには、あまりいったことないんだけど)
ちなみに飛鳥くん。ゲームセンターやカラオケに行くと、人だかりができしまい、お店側に迷惑をかけてしまうため、あまり行ったことがありません。
だから、クレーンゲームは、めちゃくちゃ下手です。
すると、大野さんが
「へー。でもさ。デートで揉めたくらいで、泣く?」
うん、そうだよね?
そのくらいじゃ、泣かないよね?
しかし、もう乗ってしまった船だ!
このまま押し通すしかない!!
「大野さん、あかりのニャンピース好きを舐めない方がいいよ。こいつ、めちゃくちゃ猫が好きだから!」
「そうです! 私、誕生日すら、猫の日ですから!!」
「誕生日も!?」
あかりの話に、大野が驚く。
ちなみに、日本の猫の日実行委員会が制定した猫の日は、2月22日。そして、その日は、あかりの誕生日でもあった。
「はい。私、猫が大好きなんです! だから、ニャンピースも大好きなんです! 映画の入場特典は、今しか手に入らないので、どうしても欲しくて、泣いてしまったんです!!」
これでどうだ!!
というか、もう引き下がってくれ!!
これ以上、何か喋れば、墓穴を掘りそうだ!!
「そうなんだ……」
すると、大野は渋々だが、どこか納得したような声を発した。
やっと諦めたのか?と、飛鳥とあかりは、ホッと息をつく。だが、その後、大野は
「でも……なんか、取り繕ってるように見えなくもないというか」
「「!?」」
鋭い!?
意外と鋭いよ、大野さん!!
「だいたい、家を飛び出すほどの喧嘩して、本当に仲がいいって言えるの?」
「……っ」
これは、完全に仲を疑われている!!
((ど、どうしよう……っ))
二人は同時に、考え込んだ。
どうすれば、この大野さんの気持ちを、折ることができるのだろうか?
要は、疑う気持ちすら失せるほどの『何か』を見せつけないといけないわけだが、そんな方法が……
(あ……)
すると、その瞬間、飛鳥がふと閃いた。
飛鳥は、横にいるあかりを、そっと抱き寄せると
「そこまで疑うなら、今から、キスでもして見せようか?」
「!?」
その言葉には、大野だけでなく、あかりも驚いた。
キ……キス??
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