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第11章 恋と雨音
第440話 発熱と過保護
しおりを挟む「37.8℃……」
食事をとり、蓮を部屋に戻すと、先程、測った時よりも、熱が上がっていた。
ベッドに入った蓮は、氷枕をして布団にくるまっていて、しんどそうな表情をしている。
薬は飲ませたし、熱は直に下がると思うが、寝込んだ蓮を見つめる飛鳥は、不安げに、その青い瞳を伏せる。
家族が寝込むと、どうにも冷静ではいられなくなる。
それは、きっと、母さんが亡くなった時のことを思い出してしまうから──…
「蓮、本当に大丈夫?」
「うん、大丈夫だって……いつまでも子供扱いしないでよ」
「……っ」
子供扱い──そう言われると、自分も父と同じように、過保護なのでは?と思わされる。
すると、そのやり取りを見ていた華が、案の定、指摘してきた。
「もう、飛鳥兄ぃは、過保護すぎるの! 蓮は、大丈夫っていってるんだから! それじゃぁ、私も学校に行ってくるから、飛鳥兄ぃも、ちゃんとデートに行ってよ!」
尚も念押しすると、その後、華は蓮の部屋をでて学校へ行った。
そして、華を送り出した飛鳥は、一人リビングに戻ると、壁にかけられた時計を見つめる。
今の時刻は、8時すぎ。
待ち合わせは、10時だから、まだ時間はある。
飛鳥は、リビングの中を進み、ゆりの写真に目を向けた。
チェストの上に置かれた写真の中では、ゆりが、ふわりと優しい笑みを浮かべていた。
大好きだったゆりさんは、ある日、突然いなくなった。
「いつまでも……引きずってちゃダメだよな」
ゆりが、亡くなったのは、飛鳥のせいじゃない。
でも、あと数分でもいいから、自分が家に帰るのが早ければ、助かっていたかもしれない。
そう思うと、やはり、やるせない気持ちになる。
だから、もうあの時のように、後悔したくなかった。
双子のことは、なにがあっても守り抜こうと誓った。
でも、蓮や華の言うことも確かで、いつまでも、あの二人を、子供扱いするべきではない。
二つの選択肢で、心は迷う。
蓮の傍にいるべきか?
あかりの元に行くべきか?
だが、その答えは、すぐには見つからず、飛鳥は悩みながらもキッチンに立ち、朝食の片付けを始めたのだった。
*
*
*
一方、あかりは、キッチンで朝食を作っていた。
目玉焼きを焼こうと卵を割れば、ラッキーなことに双子だったため、フライパンの中には、二つの黄身が仲良く並んでいた。
そして、あかりは、目玉焼きを見つめながら、飛鳥のことを考える。
(どうしよう。緊張してきた……っ)
ついに、この日が来てしまった。
ジュージューと焼ける卵の前で、あかりは、頬を赤らめる。
だって、デートをするのだ!
あの神木さんと──
(2人っきりなんて、これまでにも何度もあったのに、なんでこんなにドキドキするの?)
いや、理由なら分かってる。
それは、まさに恋をしているから。
「はぁ、恋なんて出来ないと思ってたのに……でも、これが、最初で最後のデートになるんだろうな」
嫌われるために行くのだから、当然だろう。
それに、この先、恋人を作るつもりがないあかりにとって、今日は、人生最後のデートと言ってもいい。
だが、そのデートを好きな人といけるなら、ある意味、幸せなことなのかもしれない。
まぁ、いい思い出にならないのが、残念ではあるが……
(よし! とにかく今日は、神木さんが言ったことを、全て否定する!)
すると、最悪なデートにするため、あかりは隆臣の教えを元に、シュミレーションを繰り返した。
神木さんが、ポップコーンは、キャラメル味がいいといったら、私は塩味がいいという!
お昼は、和食がいいといったら、私は洋食がいいといおう!
とにかく、ことごとく反対のことを口にし、馬が合わないのかと思われたら、きっと嫌いになって諦めてくれるはず!
「よし! 今日は、めちゃくちゃ面倒臭い女になるのよ、私!」
握り拳をかまえ、あかりは、更に気合いを入れた。
だが、その瞬間、すこし焦げ臭い匂いが漂ってきた。
「あ! 目玉焼き!」
考え事をしていたせいか、目玉焼きが焦げて小さくなっていた。あかりは、あわてて蓋を開けるが
「あー、黄身、かたくなっちゃった……っ」
半熟派のあかりにとっては、残念でしかない。
だが、食べられないことはないだろう。
あかりは、サラダを盛り付けたプレートの上に目玉焼きを乗せると、ご飯をよそい、朝食をとり始めた。
だが、それから暫くして、待ち合わせ時間より前に、飛鳥から電話がかかってくるなんて、この時のあかりは、想像すらしていなかった。
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