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第11章 恋と雨音
第443話 彼女と家族
しおりを挟む『えー、デート行けないの?』
『ごめん、華が熱だして』
当時、付き合っていた彼女と、デートの約束をしていたその日、タイミング悪く、華が熱を出した。
その頃は、彼女がいるなんて、家族には一切、話してなかったし、双子は、デートの約束があるなんて知らなかった。
それに、父はまだ海外勤務じゃなく日本にいたから、華が熱を出したと分かるなり、会社を欠勤した。
だから、行こうと思えば、行けなくはなかった。
でも俺は、彼女よりも、あっさり妹をとった。
『お父さん。お仕事、休んだんでしょ?』
『うん』
『じゃぁ、お父さんに任せておけば、大丈夫じゃない?』
『…………』
デートをしたい──そんな感情が溢れるような言葉をきいて、俺は黙り込んだ。
彼女の気持ちが、分からないわけじゃない。
好きな人とデートができる。
それも、街一番の美少年と──
だけど『家族よりも、自分を選んで欲しい』そんな風に言われた瞬間『あぁ、無理だな』って思った。
『そっか……じゃぁ、別れよっか♪』
『え!?』
『俺、君とは合わないみたいだし。それに俺、彼女より家族の方が大事なんだよね』
そして、掘り起こされる黒歴史!!
にっこりと天使のような笑みを浮かべて、当時の飛鳥は、残酷な別れを切り出した。
そして、そんな自分を思い出し、飛鳥は恥ずかしくなった。
(もっと、言い方ってあっただろ、俺……っ)
なんか、優しさの欠片すらないというか、我ながら、ひどいフリ方をしたものだ!
あれなら、刺されても文句は言えない。
だが、あの頃の自分は、なによりも家族で、家族以上に大切なものなどなかった。
(いや……もしかしたら、それは今も変わらないのかも?)
なによりも、家族が大切。
きっと、それは、今も変わらないのかもしれない。
だって、今日ここで、蓮を選んだということは、そういうことだから。
だけど、あの時と同じなはずなのに、あかりは、あの時の彼女とは、真逆のことを言った。
『蓮くんの傍にいてあげてください』
その言葉に、飛鳥は、スマホを握りしめたまま、小さく微笑む。
「……バカだなぁ。俺に嫌われたいなら、今が絶好のチャンスだったと思うけど?」
あかりは、俺に嫌われようと画策してるらしい。
でも、本当に嫌われる気があるのか?
話せば話すほど、どんどん好きになっていく──
きっとこの先、あかり以上に好きになれる人は、いないんじゃないかってくらい。
「──ありがとう、あかり」
自然と声は甘くなって、飛鳥は、スマホを見つめ、改めてお礼を言った。
とてもとても、愛おしそうに──
だが、そんな飛鳥とは、対照的に
(しまった……! 私、神木さんに嫌われるつもりだったのに!!)
と、あかりの方は、とてつもなく後悔していた。
(今の何が正解だったの? デートに行きたいって、駄々こねるべきだったの!?)
もちろん、あかりが探す正解とは「飛鳥に嫌われるための正解」である。
だが、先程の自分の返答は、正しかったのか!?
それが、今になって、間違いだった気がして、なんだか不安になってきた。
とはいえ、蓮が熱をだしたと聞いて、あかりが、そんなワガママを言えるわけがなく。
(心配だろうな、神木さん……)
あかりだって『弟』がいる。8つ下の理久は、幼い頃、よく熱を出していた。
だから、あかりも、よく心配したのだった。
まぁ、今の理久は、全く風邪をひかない健康優良児に成長しているが……
「あ、そうだ。映画」
瞬間、出かけなければと思い立ったあかりは、時計を見つめた。
飛鳥にも話したが、映画は見ておかねば、入場特典をGETできない。
(大丈夫かな? 私、隣町の映画館に行くの初めてだけど……)
飛鳥についていけば大丈夫だと思っていたから、あかりは、映画館の正確な場所が分からなかった。
だが、飛鳥がいないとなると、あかりは、自力で行くしかなかった。
(とりあえず、ナビを頼りに何とかしよう)
その後、あかりは、スマホをバッグの中に入れると、そそくさと出かける準備を始めた。
荷物を確認し、カーテンを閉める。
──ガチャ
そして、玄関をでれば、しっかりと鍵をかけた。
だが、そこに
「あかりちゃん!」
「……!」
突然、声をかけられ、あかりはビクッと肩を弾ませた。
嫌な予感がして顔を向ければ、そこには、隣の住人である大野さんがいた。
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