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第8話『どんな仲だ! お前と我は敵だろう!?』
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魔王とは偉大なる存在である。
何故ならこの世界は魔力が支配しており、魔力を持つ者たち全ての王――つまりは支配者な訳だから偉くない訳が無いのだ。
だというのに、これはどういう扱いか! と魔王は人々が多く行き交う道の真ん中で叫び声を上げた。
「我に、この様な辱めを!! 許せん!!」
「まぁそうカッカするなよ。魔王」
「そうよ。ちょうど良い抱き心地だし。このままで良いじゃない」
「良いわけがあるか!! 我を辱めるのもいい加減にしろ!」
魔王はまるで幼子の様に抱きかかえられた状態で暴れ、地面に降りようとする。
しかし、魔王を抱きかかえている女騎士は、魔王の抵抗など無意味だとばかりに、より強くしっかりと抱え直すのだった。
そんな状態では力で劣る魔王に脱出する術などあるはずがないのだが、魔王は何の意味も無いのに暴れるばかりであった。
「どうどう。そう暴れるなよ」
「我を子供扱いするな!!」
「別に子供扱いはしちゃいねぇけどよ。アディがこうしたいって言うんだ。少し我慢してくれ。ほれ。俺と魔王の仲だろう?」
「どんな仲だ! お前と我は敵だろう!?」
「……まぁ、今はそうかもしれないけど、未来は分からないだろ?」
「フン! 知ったような事を言いおって! 我は魔王! 恐怖の体現者だ! どの様な未来が来ようと、お前たち人間と共にある未来など無いわ!!」
なおも暴れる魔王に、女騎士アディはしょうがないとばかりに溜息を吐いて、魔王を解放する。
自由になった魔王は、二人が休んでいるベンチから離れ、警戒する様に周囲を確認した。
そして安全が確認できた魔王は、両腕を組みながら偉そうに語り始めるのだった。
「フン! お前たち光の戦士が闇の化身たる我と共に在ろう等と、何を考えているのだ! 我らは敵対していた筈だろう? 何を絆されている」
「いや、敵対してた時も必死に命乞いしてただろ。お前」
「あれは、お主らが弱っている我を集団で叩こうとしたからだ。光の戦士であるならば、人間どもの希望になれる様に強く在らねばならない。そうであろう? そして闇は卑怯で無ければならない。いつ襲ってくるか分からない。恐怖でなければならない。そういう事だ!」
魔王の言葉に、レオンとアディは魔王から視線を外さぬまま考え込んだ。
それは、魔王の言葉に少しの違和感を覚えたからだ。
何故闇の存在である筈の魔王が、光の戦士の在り方をある意味で正しく語るのか。
「なぁ、魔王」
「なんだ。騎士レオン」
「お前の目的はなんだ」
「我の目的だと? そんなもの決まっているだろう。魔王として、完全な形での復活。それ以外にはない。そして全人類の支配だ!」
「……前からちょっと疑問だったんだけどな」
「うん?」
「なんでお前は、俺たち人類を滅ぼそうとしないんだ?」
「なんだと?」
「だっておかしいだろう。お前が人類の敵だって言うんなら、何故俺たち人間を滅ぼそうとしない。情けをかける! 本当は」
「想像していたよりも、お主らは抜けている様だな。どうりでこんなヌルイ生活を送れているわけだ」
「……」
感情が見えない魔王の表情に、レオンもアディも緊張を隠せぬままその話に耳を傾ける。
「以前も言っただろう? 我は不滅だ。お前たち人間が闇を恐れ続ける限り、闇に対する恐怖の体現者たる我が消滅する事はない。故にお前たち人間は我に支配され、闇を恐れ、我を恐れ、我を永遠の物にしなくてはならない。お前たちを殺す意味などない。むしろお前たち光の戦士は人間の希望としてより強く光れば良い。光が強くなればなるほどに、闇は深くなる。我にとってお前たちは餌も同然なのだ。故に、繁栄せよ。世界を必死に光で満たせ。どうあがいても勝てぬ闇に怯えろ。それがお前たちの未来だ」
邪悪に嗤う魔王に、レオンは目を細めた。
戦意を高め、ここで魔王を討つべきか? と悩む。
しかし、それが難しいかもしれないとも考えていた。
無論、魔王の話を全て信じるのであれば、という話ではあるが。
「という訳だ。お前たちの行う役割は分かったであろう! であるならば、今度は我が行うべき事がある」
「魔王の……行うべき事、だと?」
レオンは緊張しつつ頭の中で、ルークに連絡を取るべきか、アディを逃がすべきか。オリヴィアは、ソフィアはと思考を巡らせつつ魔王を真っすぐに見据えた。
これから何をするつもりか、見極め、何をしてもすぐに反応出来る様にと。
そしてそんなレオンの前で魔王は怒りを示す様に強く地面を踏みつける。
「何をとぼけた事を言っておるか!! お主が言ったんだろうが!! アディなる娘へのプレゼントを選ぶ為に協力しろと!! なーにを忘れておるか!!」
「……は?」
レオンは気の抜けた様な声を上げながら、魔王を呆然と見る。
そしてそれはレオンの横に座っているアディも同じで、レオンと魔王の両方を交互に見ているのだった。
「何を呆けておるか! 良いか? 市場で買い物をするというのはな! 時間が大事なのだぞ!? 良い物は誰もが欲しい。だからこそ、誰よりも早く買わねば売れてしまう。そうであろう!? それとも何か! 貴様! 人に贈り物をするのに、どうでも良い物を贈るつもりか!? それでも騎士か! 貴様は!」
「い、いや。最高のものを、贈るつもりだ」
「え!?」
「そうであろう!! であるならば、すぐにでも向かわねばならんというのに、お主らはグダグダグダグダと、下らん話ばかりしおって!! 大事な物を見誤るなよ!?」
「なぁ、魔王。一つ聞いても良いか?」
「なんだ!? 宝石の真贋を見極める方法か!?」
「いや、それも気になるが、それより大事な事だ」
「それより大事……? 指輪のサイズをコッソリ調べる方法か? いや、それなら本人が横におるし、直接聞けばよかろう。今更サプライズも何も無いからな。であるなら、よきドレスの選び方、いや店の選び方か……そうか。分かったぞ! 脱がしやすい服をバレずに贈る方法だな!?」
「違うわ!!」
「なんと……違うのか。ではなんだ?」
混乱する魔王にレオンは深いため息を吐きながら、ベンチから立ち上がった。
自然な仕草で剣に手を掛けるのも忘れない。
「魔王。お前は俺たち人間を支配して、苦しめたいんじゃ無いのか? 闇を、お前を恐怖させるために」
「はぁ?」
「それで永遠に存在を確かなものにすると言っていたじゃないか」
「お前は何を言っておる。常に闇に覆われた世界で、人間が闇を恐れ続ける訳が無いだろう」
「……?」
「良いか? 騎士レオン。人はな。幸福があるからこそ、不幸をおそれるのだ。常に不幸な人間は不幸を恐れる事などない。もはやそれが当たり前の日常であるからだ。つまり、闇を畏れさせるには、お前たちが光の中に生きる事を当たり前だと思わねばならん。光の世界で生きて、幸せである事が日常でなければならん。そうでなければ闇を恐れる事も出来ぬだろう?」
魔王の言葉に、レオンは今日、一番の恐怖を感じて唾を飲み込んだ。
もし魔王の言う事が真実であるならば、人類に未来など無いからだ。
闇の恐怖から逃れる事など、出来ないからだ。
「だからな。騎士レオン。そしてアディとやら。幸せになれ。どんな者たちよりも幸せにな。そして人々は想うだろう。魔王を倒した英雄は誰よりも幸福で、誰よりも満ち足りた光の世界で生きた。この世界には希望があるのだと。貴様ら英雄がいる限り、この世界は光で満たされるのだと。そう想い、それが当たり前となった時、我は初めてお前たちの幸福を徹底的に破壊しよう。そして人間どもに恐怖を植え付ける。どれだけ光に溢れた世界であっても、闇は消えないと。闇はいつか自分たちを襲ってくると。恐怖する。それこそが、我の望みだ」
魔王は、光を背にしながら邪悪に嗤う。
「だからな。幸福になれ。騎士レオン」
そんな魔王の放った言葉は、呪いに似ていた。
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「我に、この様な辱めを!! 許せん!!」
「まぁそうカッカするなよ。魔王」
「そうよ。ちょうど良い抱き心地だし。このままで良いじゃない」
「良いわけがあるか!! 我を辱めるのもいい加減にしろ!」
魔王はまるで幼子の様に抱きかかえられた状態で暴れ、地面に降りようとする。
しかし、魔王を抱きかかえている女騎士は、魔王の抵抗など無意味だとばかりに、より強くしっかりと抱え直すのだった。
そんな状態では力で劣る魔王に脱出する術などあるはずがないのだが、魔王は何の意味も無いのに暴れるばかりであった。
「どうどう。そう暴れるなよ」
「我を子供扱いするな!!」
「別に子供扱いはしちゃいねぇけどよ。アディがこうしたいって言うんだ。少し我慢してくれ。ほれ。俺と魔王の仲だろう?」
「どんな仲だ! お前と我は敵だろう!?」
「……まぁ、今はそうかもしれないけど、未来は分からないだろ?」
「フン! 知ったような事を言いおって! 我は魔王! 恐怖の体現者だ! どの様な未来が来ようと、お前たち人間と共にある未来など無いわ!!」
なおも暴れる魔王に、女騎士アディはしょうがないとばかりに溜息を吐いて、魔王を解放する。
自由になった魔王は、二人が休んでいるベンチから離れ、警戒する様に周囲を確認した。
そして安全が確認できた魔王は、両腕を組みながら偉そうに語り始めるのだった。
「フン! お前たち光の戦士が闇の化身たる我と共に在ろう等と、何を考えているのだ! 我らは敵対していた筈だろう? 何を絆されている」
「いや、敵対してた時も必死に命乞いしてただろ。お前」
「あれは、お主らが弱っている我を集団で叩こうとしたからだ。光の戦士であるならば、人間どもの希望になれる様に強く在らねばならない。そうであろう? そして闇は卑怯で無ければならない。いつ襲ってくるか分からない。恐怖でなければならない。そういう事だ!」
魔王の言葉に、レオンとアディは魔王から視線を外さぬまま考え込んだ。
それは、魔王の言葉に少しの違和感を覚えたからだ。
何故闇の存在である筈の魔王が、光の戦士の在り方をある意味で正しく語るのか。
「なぁ、魔王」
「なんだ。騎士レオン」
「お前の目的はなんだ」
「我の目的だと? そんなもの決まっているだろう。魔王として、完全な形での復活。それ以外にはない。そして全人類の支配だ!」
「……前からちょっと疑問だったんだけどな」
「うん?」
「なんでお前は、俺たち人類を滅ぼそうとしないんだ?」
「なんだと?」
「だっておかしいだろう。お前が人類の敵だって言うんなら、何故俺たち人間を滅ぼそうとしない。情けをかける! 本当は」
「想像していたよりも、お主らは抜けている様だな。どうりでこんなヌルイ生活を送れているわけだ」
「……」
感情が見えない魔王の表情に、レオンもアディも緊張を隠せぬままその話に耳を傾ける。
「以前も言っただろう? 我は不滅だ。お前たち人間が闇を恐れ続ける限り、闇に対する恐怖の体現者たる我が消滅する事はない。故にお前たち人間は我に支配され、闇を恐れ、我を恐れ、我を永遠の物にしなくてはならない。お前たちを殺す意味などない。むしろお前たち光の戦士は人間の希望としてより強く光れば良い。光が強くなればなるほどに、闇は深くなる。我にとってお前たちは餌も同然なのだ。故に、繁栄せよ。世界を必死に光で満たせ。どうあがいても勝てぬ闇に怯えろ。それがお前たちの未来だ」
邪悪に嗤う魔王に、レオンは目を細めた。
戦意を高め、ここで魔王を討つべきか? と悩む。
しかし、それが難しいかもしれないとも考えていた。
無論、魔王の話を全て信じるのであれば、という話ではあるが。
「という訳だ。お前たちの行う役割は分かったであろう! であるならば、今度は我が行うべき事がある」
「魔王の……行うべき事、だと?」
レオンは緊張しつつ頭の中で、ルークに連絡を取るべきか、アディを逃がすべきか。オリヴィアは、ソフィアはと思考を巡らせつつ魔王を真っすぐに見据えた。
これから何をするつもりか、見極め、何をしてもすぐに反応出来る様にと。
そしてそんなレオンの前で魔王は怒りを示す様に強く地面を踏みつける。
「何をとぼけた事を言っておるか!! お主が言ったんだろうが!! アディなる娘へのプレゼントを選ぶ為に協力しろと!! なーにを忘れておるか!!」
「……は?」
レオンは気の抜けた様な声を上げながら、魔王を呆然と見る。
そしてそれはレオンの横に座っているアディも同じで、レオンと魔王の両方を交互に見ているのだった。
「何を呆けておるか! 良いか? 市場で買い物をするというのはな! 時間が大事なのだぞ!? 良い物は誰もが欲しい。だからこそ、誰よりも早く買わねば売れてしまう。そうであろう!? それとも何か! 貴様! 人に贈り物をするのに、どうでも良い物を贈るつもりか!? それでも騎士か! 貴様は!」
「い、いや。最高のものを、贈るつもりだ」
「え!?」
「そうであろう!! であるならば、すぐにでも向かわねばならんというのに、お主らはグダグダグダグダと、下らん話ばかりしおって!! 大事な物を見誤るなよ!?」
「なぁ、魔王。一つ聞いても良いか?」
「なんだ!? 宝石の真贋を見極める方法か!?」
「いや、それも気になるが、それより大事な事だ」
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「違うわ!!」
「なんと……違うのか。ではなんだ?」
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「魔王。お前は俺たち人間を支配して、苦しめたいんじゃ無いのか? 闇を、お前を恐怖させるために」
「はぁ?」
「それで永遠に存在を確かなものにすると言っていたじゃないか」
「お前は何を言っておる。常に闇に覆われた世界で、人間が闇を恐れ続ける訳が無いだろう」
「……?」
「良いか? 騎士レオン。人はな。幸福があるからこそ、不幸をおそれるのだ。常に不幸な人間は不幸を恐れる事などない。もはやそれが当たり前の日常であるからだ。つまり、闇を畏れさせるには、お前たちが光の中に生きる事を当たり前だと思わねばならん。光の世界で生きて、幸せである事が日常でなければならん。そうでなければ闇を恐れる事も出来ぬだろう?」
魔王の言葉に、レオンは今日、一番の恐怖を感じて唾を飲み込んだ。
もし魔王の言う事が真実であるならば、人類に未来など無いからだ。
闇の恐怖から逃れる事など、出来ないからだ。
「だからな。騎士レオン。そしてアディとやら。幸せになれ。どんな者たちよりも幸せにな。そして人々は想うだろう。魔王を倒した英雄は誰よりも幸福で、誰よりも満ち足りた光の世界で生きた。この世界には希望があるのだと。貴様ら英雄がいる限り、この世界は光で満たされるのだと。そう想い、それが当たり前となった時、我は初めてお前たちの幸福を徹底的に破壊しよう。そして人間どもに恐怖を植え付ける。どれだけ光に溢れた世界であっても、闇は消えないと。闇はいつか自分たちを襲ってくると。恐怖する。それこそが、我の望みだ」
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