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第9話『頼りにしてるぜ。相棒!』(アリス視点)
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(アリス視点)
私はセシルさんとお話しした日から、ずっと己の行いを恥じていた。
お父様やデイヴが外見から勘違いされている事を知っていたというのに、噂だけを信じてセシルさんを疑ってしまった
前世でだって、親友が外見から疎まれていて、それを私は嫌だと感じていたというのに。
「あぁぁああああ、あうあうあうあー!」
もう恥ずかしいやら悔しいやらで、私は枕に顔を埋めながらずっと呻いていた。
本当に、私という奴は、どうしようもない奴だ。
「アリスお嬢様、お客様です」
「……今は会える気分じゃない」
「ですが、その、お相手はエリオット殿下でして」
「っ!!! 良い! 大丈夫!! 呼んで!」
私はベッドから飛び起きると、急いでエリオット君が座る様の椅子を引っ張ってきて、自分が座る方には大きめのクッションを置く。
「お嬢様。中へ入ってもよろしいでしょうか?」
「うん!」
「では、失礼します……っ!? アリスお嬢様! その恰好は!」
「良いの良いの。気にしないで。さ。入ってエリオット君」
「……あぁ」
「で、でででで殿下になんて呼び方を!」
「良いから! 誰も入って来ちゃ駄目だよ!」
私はエリオット君を部屋の中に入れると、扉をしっかりと閉めて、誰も入ってこない様にと言った。
そして、頭を抱えているエリオット君に椅子へ座る様に言うのだった。
「いらっしゃい。エリオット君」
「おい。アリス」
「なに? あ、お茶、なら今持ってきてもらうから」
「いや、良い。それよりもだ。お前、その恰好はどういうつもりだ」
「どういうって、寝るときの服だけど。なんかおかしい?」
「おかしいに決まっているだろう。人を招き入れるのにそんな肌が見えている様な薄い服で、何を考えているんだ。お前は」
「別に、相手はエリオット君だし。前世からの仲でしょ。待たせるのも悪いしさ」
「着替え程度の時間なら待つ。だから今すぐ着替えろ。俺は外に出てるから」
「えー。良いよ。面倒だし。ほら、話があるんでしょ? 聞かせてよ」
「ったく。コイツは……本当に。お前! この状況がどういう状況か理解出来ているんだろうな?」
「状況?」
「未婚の女性が、同じく未婚の男を室内に招き入れて、しかも外からは中が確認できない。そういう関係だと思われる可能性があるって言ってるんだ」
「恋人関係って事? 私は別にエリオット君なら良いけど。前世でも別に嫌いじゃ無かったし。エリオット君が他の誰かと付き合うとかじゃ無かったら、私と付き合ってた気もするし。結婚とかするんならエリオット君が良いなって」
「おまっ、お前なぁ! 軽々しくそういう事を言うなよ」
「何? エリオット君は私じゃ嫌なの?」
「嫌、という事は無いが……」
「なら良いじゃん」
「良いじゃんって、お前、本当に結婚ってどういう事か理解してるか? 前世も中学で終わったし。今回は箱入り娘だし。実はあんまり知らないんじゃないか?」
「おーおー。なんだなんだ。マウントか!? エリオット君はもっと長生きして楽しい人生を送ったよってマウントか? 私が居なくなってから幸せになりましたか」
「なる訳無いだろ!!」
「っ」
「あ……いや、怒鳴ってスマン」
「あー、うん。いや、私こそ、ごめん。良くない言葉だったね」
そう言えば。そうだった。
エリオット君に前世の事がバレた時、思い切り抱きしめられて、泣かれたんだった。
お前にまた会えて嬉しいって。
うぅ、何だかあの時の事を思い出すと恥ずかしくなってしまう。
「……っ」
そんな事考えてたら、何だかエリオット君と話しているのも恥ずかしくなってきて、私は近くにあったクッションを抱きしめて、顔を埋めるのだった。
「はぁ……もう良い。今更だしな。兄上には悪いが。これも運命だったと諦めてもらおう」
兄上って、アルバート様だよね? どういう事だろう?
「結婚やら何やらの話はまた別の機会だ。今日来たのは他でもない。例の聖女についての情報だ」
「何か分かったの!?」
「あぁ、色々とな。聖国の聖女セシルは聖国の外れにある小さな村の出身だ。そこはとても貧しい場所だった様だが、特にこれといった問題もなく、近くの村との関係も良好だったようだな。しかし、ある時盗賊の襲撃を受けて、村は二人の少女を残し全滅した。盗賊の襲来を察知した近くの村から救援に行った時には、既に盗賊も殆ど撤退している状況だったそうだ。しかし壊滅した村で、大量に出血しながらも、必死に息絶えそうな女の子を癒していたのがセシルという少女だったらしい。その後二人は救出され、セシルはそのまま聖女として大教会の奥で隠される様に育ったようだ。まぁそんな状態でもたまに大教会を出て炊き出しを行ったり、病で苦しむ人間に癒しの魔術を使ったりはしていたらしいがな」
「……そっか」
何となくその光景を頭に思い浮かべて、やっぱり私は駄目だなと嫌な気持ちになった。
自らが傷つきながらも、友の為、そして傷ついている誰かの為に戦う彼女は間違いなく聖女だ。
同じ光の魔術を使えるとしても、私とは大違いである。
「しかし、聖女としての力や在り方が本物だとしても、聖国を信用する理由にはならない」
「っ」
「アリス。俺はこれでもお前とは長い付き合いだ。考えている事も何となくだが察しが付く。まぁお前が単純というのもあるがな」
「む、そんな事!」
「だからこそだ。そんなお前を利用しようとする奴も居るだろう。純粋であるという事が悪では無いが、そのまま進むというのは愚かだ。何かが引っかかるのなら、相談しろ。少なくとも俺はお前の敵にはならん」
「……うん。ありがと。エリオット君」
「良いさ」
かつて私たちが同じ時間を生きていた時と同じように、エリオット君は私の言葉に目を閉じながら穏やかに笑った。
それが何だか懐かしくて、心地いい。
「やっぱりエリオット君は良いね。うん。じゃあ私はエリオット君のいう事を信じるよ」
「それで良いのか? 兄上やローズ嬢や、恵梨香嬢も居るだろ?」
「アルバート殿下とかローズ様に頼るのもね。申し訳ないし」
「なんだ俺なら良いのか」
「当然だよ! 頼りにしてるぜ。相棒!」
「はぁ。分かった分かった。で? 恵梨香嬢は」
「恵梨香ちゃんはー。まぁ、正直私以上に人を疑わないからなぁ。多分私が注意する側になっちゃうよ。あ。そうだ! エリオット君! 恵梨香ちゃんとも結婚してよ!」
「はぁ!? 何言ってんだお前は! 出来る訳無いだろ!」
「えー? でも結構そういう人って多いじゃない? 二人とか三人と結婚してる人。国王様だってそうでしょ? ねー? おねがーい。恵梨香ちゃんともずっと一緒に居たいの。エリオット君だってこんなに可愛い女の子が二人もお嫁さんになったら嬉しいでしょ?」
「そういう問題じゃない」
「じゃあどういう問題なのさ」
「恵梨香嬢の気持ちはどうなる。お前が決めていい問題じゃ無いだろ」
「大丈夫だって。恵梨香ちゃんは今好きな人居ないらしいし。しいて言うなら私だって言ってたから。エリオット君の魅力をこれでもかってくらい恵梨香ちゃんに教えればきっと頷いてくれるよ」
「無茶苦茶な事言うな」
「えー。だってさぁ。恵梨香ちゃんを一人にしたら、怖い人達に攫われちゃうかもしれないし。その点エリオット君なら安心。前世の時もそうだったけど、今なんてもっと強いもんね。どんな人に襲われてもえいや! ってやっつけちゃうでしょ?」
「……俺でも出来ない事はある。そもそも俺は領地経営なんて出来んぞ」
「そこはこの天才アリスちゃんにお任せですよ。お父様に教わってるから結構優秀だよ。それにさ。多少失敗しても私たちなら何とかなるよ」
「楽観的だな」
「それが私の良さですから」
「分かった。俺も努力はする。だが、恵梨香嬢に余計な事を言うなよ。良いな?」
「はぁーい」
エリオット君はそれからいくつか世間話をした後、部屋から出て行った。
そして一人部屋に残された私はセシルさんへのお詫びとか、聖国への警戒とか、そういう事を考えつつも、エリオット君との未来に向けてかなり前向きに考え始めたのである。
余計な事を言うなとは言われたけど、するなとは言われていない。
だから、私は先ほどエリオット君に言われた事を参考にしながら、どうやって世間的に恵梨香ちゃんとエリオット君がそういう仲だと思わせる事が出来るか、色々作戦を立てる事にしたのであった。
まぁ実行する前には恵梨香ちゃんの気持ちは確認しないといけないけどね。
ふふ。未来は明るいなぁ。
私はセシルさんとお話しした日から、ずっと己の行いを恥じていた。
お父様やデイヴが外見から勘違いされている事を知っていたというのに、噂だけを信じてセシルさんを疑ってしまった
前世でだって、親友が外見から疎まれていて、それを私は嫌だと感じていたというのに。
「あぁぁああああ、あうあうあうあー!」
もう恥ずかしいやら悔しいやらで、私は枕に顔を埋めながらずっと呻いていた。
本当に、私という奴は、どうしようもない奴だ。
「アリスお嬢様、お客様です」
「……今は会える気分じゃない」
「ですが、その、お相手はエリオット殿下でして」
「っ!!! 良い! 大丈夫!! 呼んで!」
私はベッドから飛び起きると、急いでエリオット君が座る様の椅子を引っ張ってきて、自分が座る方には大きめのクッションを置く。
「お嬢様。中へ入ってもよろしいでしょうか?」
「うん!」
「では、失礼します……っ!? アリスお嬢様! その恰好は!」
「良いの良いの。気にしないで。さ。入ってエリオット君」
「……あぁ」
「で、でででで殿下になんて呼び方を!」
「良いから! 誰も入って来ちゃ駄目だよ!」
私はエリオット君を部屋の中に入れると、扉をしっかりと閉めて、誰も入ってこない様にと言った。
そして、頭を抱えているエリオット君に椅子へ座る様に言うのだった。
「いらっしゃい。エリオット君」
「おい。アリス」
「なに? あ、お茶、なら今持ってきてもらうから」
「いや、良い。それよりもだ。お前、その恰好はどういうつもりだ」
「どういうって、寝るときの服だけど。なんかおかしい?」
「おかしいに決まっているだろう。人を招き入れるのにそんな肌が見えている様な薄い服で、何を考えているんだ。お前は」
「別に、相手はエリオット君だし。前世からの仲でしょ。待たせるのも悪いしさ」
「着替え程度の時間なら待つ。だから今すぐ着替えろ。俺は外に出てるから」
「えー。良いよ。面倒だし。ほら、話があるんでしょ? 聞かせてよ」
「ったく。コイツは……本当に。お前! この状況がどういう状況か理解出来ているんだろうな?」
「状況?」
「未婚の女性が、同じく未婚の男を室内に招き入れて、しかも外からは中が確認できない。そういう関係だと思われる可能性があるって言ってるんだ」
「恋人関係って事? 私は別にエリオット君なら良いけど。前世でも別に嫌いじゃ無かったし。エリオット君が他の誰かと付き合うとかじゃ無かったら、私と付き合ってた気もするし。結婚とかするんならエリオット君が良いなって」
「おまっ、お前なぁ! 軽々しくそういう事を言うなよ」
「何? エリオット君は私じゃ嫌なの?」
「嫌、という事は無いが……」
「なら良いじゃん」
「良いじゃんって、お前、本当に結婚ってどういう事か理解してるか? 前世も中学で終わったし。今回は箱入り娘だし。実はあんまり知らないんじゃないか?」
「おーおー。なんだなんだ。マウントか!? エリオット君はもっと長生きして楽しい人生を送ったよってマウントか? 私が居なくなってから幸せになりましたか」
「なる訳無いだろ!!」
「っ」
「あ……いや、怒鳴ってスマン」
「あー、うん。いや、私こそ、ごめん。良くない言葉だったね」
そう言えば。そうだった。
エリオット君に前世の事がバレた時、思い切り抱きしめられて、泣かれたんだった。
お前にまた会えて嬉しいって。
うぅ、何だかあの時の事を思い出すと恥ずかしくなってしまう。
「……っ」
そんな事考えてたら、何だかエリオット君と話しているのも恥ずかしくなってきて、私は近くにあったクッションを抱きしめて、顔を埋めるのだった。
「はぁ……もう良い。今更だしな。兄上には悪いが。これも運命だったと諦めてもらおう」
兄上って、アルバート様だよね? どういう事だろう?
「結婚やら何やらの話はまた別の機会だ。今日来たのは他でもない。例の聖女についての情報だ」
「何か分かったの!?」
「あぁ、色々とな。聖国の聖女セシルは聖国の外れにある小さな村の出身だ。そこはとても貧しい場所だった様だが、特にこれといった問題もなく、近くの村との関係も良好だったようだな。しかし、ある時盗賊の襲撃を受けて、村は二人の少女を残し全滅した。盗賊の襲来を察知した近くの村から救援に行った時には、既に盗賊も殆ど撤退している状況だったそうだ。しかし壊滅した村で、大量に出血しながらも、必死に息絶えそうな女の子を癒していたのがセシルという少女だったらしい。その後二人は救出され、セシルはそのまま聖女として大教会の奥で隠される様に育ったようだ。まぁそんな状態でもたまに大教会を出て炊き出しを行ったり、病で苦しむ人間に癒しの魔術を使ったりはしていたらしいがな」
「……そっか」
何となくその光景を頭に思い浮かべて、やっぱり私は駄目だなと嫌な気持ちになった。
自らが傷つきながらも、友の為、そして傷ついている誰かの為に戦う彼女は間違いなく聖女だ。
同じ光の魔術を使えるとしても、私とは大違いである。
「しかし、聖女としての力や在り方が本物だとしても、聖国を信用する理由にはならない」
「っ」
「アリス。俺はこれでもお前とは長い付き合いだ。考えている事も何となくだが察しが付く。まぁお前が単純というのもあるがな」
「む、そんな事!」
「だからこそだ。そんなお前を利用しようとする奴も居るだろう。純粋であるという事が悪では無いが、そのまま進むというのは愚かだ。何かが引っかかるのなら、相談しろ。少なくとも俺はお前の敵にはならん」
「……うん。ありがと。エリオット君」
「良いさ」
かつて私たちが同じ時間を生きていた時と同じように、エリオット君は私の言葉に目を閉じながら穏やかに笑った。
それが何だか懐かしくて、心地いい。
「やっぱりエリオット君は良いね。うん。じゃあ私はエリオット君のいう事を信じるよ」
「それで良いのか? 兄上やローズ嬢や、恵梨香嬢も居るだろ?」
「アルバート殿下とかローズ様に頼るのもね。申し訳ないし」
「なんだ俺なら良いのか」
「当然だよ! 頼りにしてるぜ。相棒!」
「はぁ。分かった分かった。で? 恵梨香嬢は」
「恵梨香ちゃんはー。まぁ、正直私以上に人を疑わないからなぁ。多分私が注意する側になっちゃうよ。あ。そうだ! エリオット君! 恵梨香ちゃんとも結婚してよ!」
「はぁ!? 何言ってんだお前は! 出来る訳無いだろ!」
「えー? でも結構そういう人って多いじゃない? 二人とか三人と結婚してる人。国王様だってそうでしょ? ねー? おねがーい。恵梨香ちゃんともずっと一緒に居たいの。エリオット君だってこんなに可愛い女の子が二人もお嫁さんになったら嬉しいでしょ?」
「そういう問題じゃない」
「じゃあどういう問題なのさ」
「恵梨香嬢の気持ちはどうなる。お前が決めていい問題じゃ無いだろ」
「大丈夫だって。恵梨香ちゃんは今好きな人居ないらしいし。しいて言うなら私だって言ってたから。エリオット君の魅力をこれでもかってくらい恵梨香ちゃんに教えればきっと頷いてくれるよ」
「無茶苦茶な事言うな」
「えー。だってさぁ。恵梨香ちゃんを一人にしたら、怖い人達に攫われちゃうかもしれないし。その点エリオット君なら安心。前世の時もそうだったけど、今なんてもっと強いもんね。どんな人に襲われてもえいや! ってやっつけちゃうでしょ?」
「……俺でも出来ない事はある。そもそも俺は領地経営なんて出来んぞ」
「そこはこの天才アリスちゃんにお任せですよ。お父様に教わってるから結構優秀だよ。それにさ。多少失敗しても私たちなら何とかなるよ」
「楽観的だな」
「それが私の良さですから」
「分かった。俺も努力はする。だが、恵梨香嬢に余計な事を言うなよ。良いな?」
「はぁーい」
エリオット君はそれからいくつか世間話をした後、部屋から出て行った。
そして一人部屋に残された私はセシルさんへのお詫びとか、聖国への警戒とか、そういう事を考えつつも、エリオット君との未来に向けてかなり前向きに考え始めたのである。
余計な事を言うなとは言われたけど、するなとは言われていない。
だから、私は先ほどエリオット君に言われた事を参考にしながら、どうやって世間的に恵梨香ちゃんとエリオット君がそういう仲だと思わせる事が出来るか、色々作戦を立てる事にしたのであった。
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