聖女の証

とーふ(代理カナタ)

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第57話『お姉ちゃんならきっとそう言ったと思います』

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フィンさんは私の目をジッと見たまま動かなかったが、やがてゆっくりと瞬きをした後、小さく息を吐いた。

「……リリィちゃんは厳しい事を言うんだね」

「はい。でも、お姉ちゃんならきっとそう言ったと思います」

「そうだね。うん。アメリアちゃんなら、そうだね。きっと」

フィンさんは天井を見ながらそう呟いた。

その頬を伝って落ちた涙はそのまま床に落ちて、消えていく。

「フィン」

「リアム。一つ聞きたい」

「なんだ」

「今、君はまた旅をしているのか?」

「あぁ。そうだ」

「旅の目的はなんだ」

リアムさんはフィンさんの言葉に一瞬どう話すか迷う様に私を見た。

私は、その視線を受け止めながら口を開く。

「お姉ちゃんの歩いた道を歩く為です」

「アメリアちゃんの歩いた道?」

「はい。私がリアムさんにお願いしました。お姉ちゃんが何を考えて、世界を旅したのか。何を見て、その命をかけたのか。何を想って、最期を迎えたのか。私は知りたい」

「話をして欲しいという事ならいくらでもするよ?」

「私は、自分の目で見たいんです」

「危険な旅だ。魔物だって出るし、世界の果てなんて行くべきじゃない」

「それでも、このまま何も知らないで生きていく事なんて出来ないんです」

「っ! そうやって!! そう言って、アメリアちゃんも世界の果てへ行って、そのままその先へ逝ってしまったんだ! 君も同じ事をするつもりか!?」

フィンさんは私の目を見ながら、強い口調で私の行動を止めようとする。

しかし、その声は私を心配するものであり、そこに大きな恐怖は感じない。

「お姉ちゃんと同じ様に、終わりの向こうへ行くつもりはありません。そこまで行かなくてもお姉ちゃんの気持ちを知る事はできますから」

「……っ」

私は強い視線で気持ちをフィンさんに打ち返す。

「危険だ」

絞り出す様なフィンさんの声に、私は一歩も退かず、立ち向かった。

「承知の上です」

「死ぬような目に遭うかもしれない!」

「本当なら、私が行かなくてはいけなかった道です!」

私は右手の甲をフィンさんに見せつけた。

お姉ちゃんを殺した聖人の証を。

そして、その証を見て、フィンさんは息を呑み込みながら、黙り込む。

「それに、一人じゃ無いですから」

私はリアムさんを見ながら、そうフィンさんに言った。

リアムさんには悪いけれど、理由にさせてもらおう。

「リアム……」

「あぁ」

「俺は、どうすれば良い」

「それはお前が決めろ。お前の人生だ」

「俺は、俺は……!」

私を床に下ろした後、フィンさんは近くにあった椅子に座り、項垂れた。

そして、私と同じ証が刻まれた右手で顔を覆い隠す。

このまま消えてしまいそうな空気を感じるが、それを壊したのはリーラさんの声だった。

「フィン!」

「リーラか」

「行きなさい。フィン。行きたいんでしょう?」

「いやっ! 俺は、分からないんだ。どうしたいのか」

「フィン。最初にアメリアちゃんに会った時の事を覚えてる?」

「あぁ。忘れた日なんて無い」

「あの時、アメリアちゃんが何て言ってたか。覚えてる? 『大切な人たちを護る為なら、どんなに苦しい旅でも諦めない。この目に映る全てを救って、世界を護る』ってさ。あの子、言ってたのよ。私も、そしてきっと貴女も、あの時、この言葉の本当の意味を理解していなかったんだわ」

「本当の、意味?」

「そう。あの子はね。初めから失う覚悟を持っていたのよ。最初に護ると誓った大切な物以外の全てを失っても構わないっていう覚悟よ。でも、あの子は優しい子だから、あなたやリアムに相談すれば、『大切な物』が失われてしまう。それはあなたやリアム、そして共に旅をした仲間よ。だから、たった一人。たった一つ、己が使える大切にしなくても良かった物をかけて、世界を救った。それだけなのよ」

「あぁ……」

「私たちはあの時、気づくべきだった。いえ。気づかなくてはいけなかったのよ。そうすれば、あの子は今も変わらずここに居たかもしれない」

「……そうか。それが、俺たちの、罪か」

「でも、アメリアちゃんは優しい子だから、償うチャンスを残してくれたわ」

「それは……そうか。アメリアちゃんが一番最初に大切にしていた物、か」

フィンさんは熱い火が灯った様な瞳で私を見た。

そしてその瞳で私を射抜いたまま立ち上がる。

「二度は無い」

「え?」

「もう一度、アメリアちゃんに誓おう。アメリアちゃんの事は守れなかったが、アメリアちゃんの大切な物。護りたかった物は必ず守り抜いてみせる。今度こそ。君の願いと夢を、俺はあらゆる脅威から、守り、世界の果てまで付いて行くと誓おう」

「……フィンさん」

「どうかな。リリィちゃん。君の大切なお姉ちゃんを守れなかった俺に、一つチャンスを貰えないだろうか」

「……分かりました。では、お願いします」

「あぁ!」

私はフィンさんの言葉に頷いて、目を閉じながらお姉ちゃんを想った。

多くの人がお姉ちゃんに救われて、傷ついた。

お姉ちゃんはこの世界に生きているべきだった。

でも、それでも今、この世界にお姉ちゃんは居ない。

どうしてお姉ちゃんは、自分の命を捨てて、世界を、私を選んだのだろうか。

その答えが知りたい。

「リアム。という訳だ。これからまた、よろしく頼む」

「それは構わないが、良いのか? リーラたちは」

「それは」

「構わないよ! このままウジウジされても困るからね。リリィちゃんと一緒に旅をして、絶ち切れない後悔を振り切って来なよ。フィン」

「リーラ……ありがとう」

「良いよ。私はいつまでも待ってるからさ。今度こそ、未来を掴んできな」

「あぁ!」

フィンさんはリーラさんを強く抱きしめて、笑う。

私は、その光景を見ながらようやく一息吐く事が出来るのだった。



フィンさんも旅の仲間に加わり、私たちはフィンさんの町を出て、次なる町を目指し歩き始めた。

とは言っても、道中の道は変わらないどこまでも続く、木々の道だ。

道を外れれば、魔物と出会うかもしれない森の中に入る以上、人が多く歩いている道の上を行くのが安全である。

「ついこの間までこうして旅をしていたのに、随分と懐かしい気持ちになるな」

「そうだろうな」

「リアムも同じ気持ちか?」

「あぁ」

「そうか。そうだな。あぁ、そうだろうな」

リアムさんとフィンさんは分かりにくい会話をしていたが、多分お姉ちゃんがいた時の話をしているんだと思う。

なら、二人で話す方が良いかなと私は少しだけ歩くペースを落として、二人が話しやすい様にしたのだが、二人は私が遅れている事に気づいて、すぐに速度を落とした為、結局私と横並びになってしまった。

両側に立つ二人は何も気にした様子はなく、二人で話をしている。

「……」

「どうした? リリィ」

「いえ」

「何か気分でも悪いのか?」

「いえ、別に」

両側から心配そうに話しかけられるが、少々煩わしい。

いや、心配してくれているのだから、そんな風に思うのは良くないだろう。

しかし……。

「ところでリアム。リリィちゃんはどこまでアメリアちゃんに似てるんだ?」

「見た目だけだ」

「そうか。なら、急に飛び出す事はほぼ無いと思って良いか?」

「あぁ」

お姉ちゃん?

「あー。でも一応言っておいた方が良いよな。リリィちゃん。木々の向こうに何かが見えても急に走って行っちゃ駄目だぞ」

「……そんな事、分かってますけど」

「そうか。それなら良かった」

「……」

お姉ちゃん?

「後、怪しげな老人が居ても話しかけない。付いて行かない」

「おー。それもあったな。分かったかな? リリィちゃん」

「それも、分かってます」

「そうか。リリィちゃんはいい子だな」

お姉ちゃん!!?

どんな旅をしてたの!!

私は姿の見えないお姉ちゃんがテヘッと笑ったのを頭の中で想像して、見えない姉に心の中で絶叫するのだった。
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