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第58話『そういう事もあり得ると思う。お姉ちゃんだし』
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フィンさんとリアムさん、そして私の三人旅に現状不満はない。
ただ、たまに出てくるお姉ちゃんの妙な話を除けば、だ。
「この辺り、覚えているか? リアム」
「あぁ。アメリアがあまりにも暴走するものだから、ロープで体を固定したな」
「あったあった。懐かしい話だ」
「えぇ……?」
お姉ちゃんに昔聞いた話では、魔物を捕まえてそれと戦う事で訓練をする集落があるという話で、その時、魔物をロープで固定しながら柵の中に入れるのだと聞いた。
お姉ちゃんの扱いはその魔物と同じである。
これはお姉ちゃんに酷い事をするなとリアムさんやフィンさんに怒るべきか。
もしくは何度か聞いているお姉ちゃんの奇行が二人に迷惑をかけた事を謝るべきか。悩ましい問題である。
思い返せば、お姉ちゃんは私たちと暮らしていた時も、困っている人、困っている魔族、困っている魔物。何でも手あたり次第に助けている様なお人好しであった。
ならそういう事もあり得ると思う。お姉ちゃんだし。
きっとその気持ちを持ったまま、リアムさん達と旅をしていたのだろう。
そう思うと、申し訳ないやら、懐かしいやら、何とも言えない不思議な気持ちになるのだった。
「そういえばリアム」
「なんだ」
「そろそろどうするか決めないと駄目だろう」
決める?
何のことだろうと、フィンさんを見ると、フィンさんは真剣な眼差しでリアムさんを見ていた。
そしてリアムさんもそれに応える様にフィンさんに視線と言葉を返す。
「俺は、正直このまま無視して先に行く方が良いと思っている」
「……リアム」
「カーネリアンはまだ若い。いずれ時が過ぎれば立ち直る事も出来るだろう。しかし今はまだ子供なんだ。俺たちに会えばまた傷を付ける事になる。それは避けたい」
「そうか……そうだな」
フィンさんは遠くを見ながらそう呟いて、二人の会話はそこで終わった様に思えた。
しかし、そんな二人の前に空から疾風が降りてくるのだった。
「っ!?」
「なんだ!?」
「きゃっ!」
「「リリィ!!」」
突然の暴風に私は吹き飛ばされそうになるが、咄嗟にリアムさんとフィンさんに支えられたため、何とかその場に留まる事が出来た。
そして、荒れてしまった髪を整えながら、進もうとしていた先を見ると、一人の少年が立っているのが見えるのだった。
「リアム兄ちゃん! フィン兄ちゃん! 久しぶりだな!」
「カーネリアン……!」
「なんだ。そんな顔して、俺になんか会いたくなかったってか? リアム兄ちゃんは相変わらずだな。ま、良いけどさ」
少年はリアムさんに拗ねた様な声で文句を言いながら、服に付いた汚れを払っている様だった。
私は咄嗟にフィンさんが隠した為、少年からは見えてないと思われる。
この行動で何となく察したのだが、もしかしたらこの少年が先ほど言っていたカーネリアンかもしれない。
という事は、私は姿を見せない方が良いのだろう。
それに気づき、私はフィンさんの背中にくっつきながら姿を隠し、やや離れた所から聞こえてくる少年の声に耳を澄ませるのだった。
「二人はもう姉ちゃんの家には行ったのか?」
「あぁ」
「そっか。どうだった……って聞かなくても、二人は生きてるんだから、そういう事だよな。それで? 二人でまた旅をしてるって感じか?」
「まぁな」
「ふぅん。そっか」
どこか寂しそうな声で呟く少年に、何だか胸の奥がキュッと締め付けられる様な気持ちになる。
「カーネリアン」
「なら、ならさ! 俺も……俺もまた一緒に旅しちゃ駄目かな!?」
「それは」
「なんだよ。俺だけ仲間外れか? 良いじゃんか。一緒に旅した仲間だろ?」
「いや、それはそうなんだがな。俺たちもちょっと色々と事情があってな」
「事情?」
少年……いや、カーネリアン君の声に合わせてフィンさんが少し動いてしまった為、私は思わず体勢を崩してしまった。
「ぁ」
そして同時に声も漏れる。
「ん? なんだ? 何か聞こえた?」
「気のせいだろう!」
「いや、確かに」
「カーネリアン。また今度話をしよう。今は」
「あ。フィン兄ちゃんの後ろか!」
「待て! カーネリアン!」
疑う様な声と共に、緊迫した空気が辺りに満ちて行き、やがてカーネリアン君が確信に満ちた声を出した瞬間に、周囲に突風が吹き荒れた。
そして、私は風と共に何かに体を攫われ、空中を横抱きにされたまま飛ぶ。
「へへーん。二人とも俺の事舐めすぎだって……え?」
「……」
カーネリアン君は最初、得意げな顔をしていたが、私と視線を交わらせた事で、困惑に代わり、やがてその表情は驚愕に変わった。
「姉ちゃん……?」
「カーネリアン」
「なんだ。俺、夢でも見てるのかな。おかしいな。そんな訳無いのに。またこの夢か。くそっ」
「……」
涙を流しながら、笑ったり、怒ったり、表情をコロコロと変えながら、苦しそうにもがくカーネリアン君はそれでも私を地面に下ろす事はなく、抱きかかえたまましゃがみ込んだ。
その姿を見ている事が出来ず、私は上半身を起こして、カーネリアン君を抱きしめる。
そして、心の奥にある、お姉ちゃんの力から聞こえてきた声に言葉を合わせた。
「『カー君』」
「っ! ねぇ、ちゃん」
「『元気にしてましたか?』」
「元気、だよ。元気だったよ! でも、俺、一人で、ずっと耐えてた。いつかこの胸の痛みが消えるって、信じて、でも消えなくて、ずっと、ずっと!!」
「カーネリアン」
「でも、姉ちゃんが生きてた。なら、もう良いんだよな? 我慢しなくて、良いんだよな!?」
「『残念ですが』私は、お姉ちゃんではありません。カーネリアン君」
「……え? どういう事だよ。だって、姉ちゃんだろ? アメリア姉ちゃん。見間違える訳無い。確かにアメリア姉ちゃんだ!」
「いえ。私はアメリアお姉ちゃんではなく、妹のリリィです」
「嘘だ!!」
「嘘ではありません。確かに私は」
「嘘だ嘘だ嘘だ!! みんなで俺の事を騙そうとしてるんだろ!? なぁ!」
「カーネリアン。リリィの言う事は本当だ」
「……うそだ」
カーネリアン君は信じられないと言うように首を振ると、そのまま私を強く抱きしめて、立ち上がった。
横抱きにしたまま、地面を蹴ったのだろう。空へと跳ぶ。
「カーネリアン! 待て!!」
「っ!!」
カーネリアン君は、遠くから聞こえてくるリアムさんやフィンさんの声を無視して、木の枝から木の枝へ飛び跳ね、森の奥へと進んでゆく。
その途中に私の頬に水の雫が当たったのは、きっとカーネリアン君の涙だったのだろう。
「姉ちゃんの妹だなんて、嘘だ」
「だって、こんなに似てるじゃないか」
「もし姉ちゃんじゃないって言うんなら、きっと忘れてるんだ」
「なら、思い出して貰うんだ。俺の事、リアム兄ちゃんの事、フィン兄ちゃんの事、キャロン姉ちゃんの事。旅の事も、全部、全部!!」
「そうだよ。忘れたんなら、思い出して貰えば良いんだ」
「そうだろ? アメリアお姉ちゃん!」
カーネリアン君の言葉も、その目に映る姿も、私ではなく、私の向こうに居るお姉ちゃんに向けられていた。
でも、それが嫌だとは感じない。
むしろ、申し訳なさと……同情があるだけだ。
現実を受け入れらない気持ちは、私も同じだから。
だから、私は何とか右手だけを自由にして、カーネリアン君の目から溢れ続ける涙をそっと拭うのだった。
ただ、たまに出てくるお姉ちゃんの妙な話を除けば、だ。
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「あぁ。アメリアがあまりにも暴走するものだから、ロープで体を固定したな」
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「えぇ……?」
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きっとその気持ちを持ったまま、リアムさん達と旅をしていたのだろう。
そう思うと、申し訳ないやら、懐かしいやら、何とも言えない不思議な気持ちになるのだった。
「そういえばリアム」
「なんだ」
「そろそろどうするか決めないと駄目だろう」
決める?
何のことだろうと、フィンさんを見ると、フィンさんは真剣な眼差しでリアムさんを見ていた。
そしてリアムさんもそれに応える様にフィンさんに視線と言葉を返す。
「俺は、正直このまま無視して先に行く方が良いと思っている」
「……リアム」
「カーネリアンはまだ若い。いずれ時が過ぎれば立ち直る事も出来るだろう。しかし今はまだ子供なんだ。俺たちに会えばまた傷を付ける事になる。それは避けたい」
「そうか……そうだな」
フィンさんは遠くを見ながらそう呟いて、二人の会話はそこで終わった様に思えた。
しかし、そんな二人の前に空から疾風が降りてくるのだった。
「っ!?」
「なんだ!?」
「きゃっ!」
「「リリィ!!」」
突然の暴風に私は吹き飛ばされそうになるが、咄嗟にリアムさんとフィンさんに支えられたため、何とかその場に留まる事が出来た。
そして、荒れてしまった髪を整えながら、進もうとしていた先を見ると、一人の少年が立っているのが見えるのだった。
「リアム兄ちゃん! フィン兄ちゃん! 久しぶりだな!」
「カーネリアン……!」
「なんだ。そんな顔して、俺になんか会いたくなかったってか? リアム兄ちゃんは相変わらずだな。ま、良いけどさ」
少年はリアムさんに拗ねた様な声で文句を言いながら、服に付いた汚れを払っている様だった。
私は咄嗟にフィンさんが隠した為、少年からは見えてないと思われる。
この行動で何となく察したのだが、もしかしたらこの少年が先ほど言っていたカーネリアンかもしれない。
という事は、私は姿を見せない方が良いのだろう。
それに気づき、私はフィンさんの背中にくっつきながら姿を隠し、やや離れた所から聞こえてくる少年の声に耳を澄ませるのだった。
「二人はもう姉ちゃんの家には行ったのか?」
「あぁ」
「そっか。どうだった……って聞かなくても、二人は生きてるんだから、そういう事だよな。それで? 二人でまた旅をしてるって感じか?」
「まぁな」
「ふぅん。そっか」
どこか寂しそうな声で呟く少年に、何だか胸の奥がキュッと締め付けられる様な気持ちになる。
「カーネリアン」
「なら、ならさ! 俺も……俺もまた一緒に旅しちゃ駄目かな!?」
「それは」
「なんだよ。俺だけ仲間外れか? 良いじゃんか。一緒に旅した仲間だろ?」
「いや、それはそうなんだがな。俺たちもちょっと色々と事情があってな」
「事情?」
少年……いや、カーネリアン君の声に合わせてフィンさんが少し動いてしまった為、私は思わず体勢を崩してしまった。
「ぁ」
そして同時に声も漏れる。
「ん? なんだ? 何か聞こえた?」
「気のせいだろう!」
「いや、確かに」
「カーネリアン。また今度話をしよう。今は」
「あ。フィン兄ちゃんの後ろか!」
「待て! カーネリアン!」
疑う様な声と共に、緊迫した空気が辺りに満ちて行き、やがてカーネリアン君が確信に満ちた声を出した瞬間に、周囲に突風が吹き荒れた。
そして、私は風と共に何かに体を攫われ、空中を横抱きにされたまま飛ぶ。
「へへーん。二人とも俺の事舐めすぎだって……え?」
「……」
カーネリアン君は最初、得意げな顔をしていたが、私と視線を交わらせた事で、困惑に代わり、やがてその表情は驚愕に変わった。
「姉ちゃん……?」
「カーネリアン」
「なんだ。俺、夢でも見てるのかな。おかしいな。そんな訳無いのに。またこの夢か。くそっ」
「……」
涙を流しながら、笑ったり、怒ったり、表情をコロコロと変えながら、苦しそうにもがくカーネリアン君はそれでも私を地面に下ろす事はなく、抱きかかえたまましゃがみ込んだ。
その姿を見ている事が出来ず、私は上半身を起こして、カーネリアン君を抱きしめる。
そして、心の奥にある、お姉ちゃんの力から聞こえてきた声に言葉を合わせた。
「『カー君』」
「っ! ねぇ、ちゃん」
「『元気にしてましたか?』」
「元気、だよ。元気だったよ! でも、俺、一人で、ずっと耐えてた。いつかこの胸の痛みが消えるって、信じて、でも消えなくて、ずっと、ずっと!!」
「カーネリアン」
「でも、姉ちゃんが生きてた。なら、もう良いんだよな? 我慢しなくて、良いんだよな!?」
「『残念ですが』私は、お姉ちゃんではありません。カーネリアン君」
「……え? どういう事だよ。だって、姉ちゃんだろ? アメリア姉ちゃん。見間違える訳無い。確かにアメリア姉ちゃんだ!」
「いえ。私はアメリアお姉ちゃんではなく、妹のリリィです」
「嘘だ!!」
「嘘ではありません。確かに私は」
「嘘だ嘘だ嘘だ!! みんなで俺の事を騙そうとしてるんだろ!? なぁ!」
「カーネリアン。リリィの言う事は本当だ」
「……うそだ」
カーネリアン君は信じられないと言うように首を振ると、そのまま私を強く抱きしめて、立ち上がった。
横抱きにしたまま、地面を蹴ったのだろう。空へと跳ぶ。
「カーネリアン! 待て!!」
「っ!!」
カーネリアン君は、遠くから聞こえてくるリアムさんやフィンさんの声を無視して、木の枝から木の枝へ飛び跳ね、森の奥へと進んでゆく。
その途中に私の頬に水の雫が当たったのは、きっとカーネリアン君の涙だったのだろう。
「姉ちゃんの妹だなんて、嘘だ」
「だって、こんなに似てるじゃないか」
「もし姉ちゃんじゃないって言うんなら、きっと忘れてるんだ」
「なら、思い出して貰うんだ。俺の事、リアム兄ちゃんの事、フィン兄ちゃんの事、キャロン姉ちゃんの事。旅の事も、全部、全部!!」
「そうだよ。忘れたんなら、思い出して貰えば良いんだ」
「そうだろ? アメリアお姉ちゃん!」
カーネリアン君の言葉も、その目に映る姿も、私ではなく、私の向こうに居るお姉ちゃんに向けられていた。
でも、それが嫌だとは感じない。
むしろ、申し訳なさと……同情があるだけだ。
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