聖女の証

とーふ(代理カナタ)

文字の大きさ
178 / 198

第80話『あぁ、そうなんですね。私も今知りました。とても素敵ですね!』

しおりを挟む
ドライアードさんの訴えから始まった同人誌事件は、一旦の終わりを迎えた。

正直何も解決はしていないのだけれど、本人たち同士で言い争いを始めているし、その言い争いもとてつもなく長い時間が掛かりそうなので、このまま放置だ。

多分、数百年単位でこの問題を話してゆくのだろう。

という訳で、まだ陰魔さん達と話をしているお姉ちゃんが合流次第、次なる場所を目指して旅に出る事にしたのだが……そこに思わぬ人が現れた。

そう。ケンタウルスのアシナーガヒコさんである。

彼は三体の巨人が戦う姿を見て、この世の終わりかと思い様子を見に来たとの事だった。

「いや。リリィに何も無くて良かったよ。君に何かあったら私のヤッコゥ! が元気をなくくしてしまうからね」

「ご心配ありがとうございます」

私はアシナーガヒコさんに頭を下げながら、リアムさん達にもアシナーガヒコさんを紹介した。

「皆さん。こちらケンタウルスのアシナーガヒコさんです。以前聖国の近くで釣りをしていた時に知り合いました。そして、アシナーガヒコさんこちら、私と一緒に旅をして下さっている皆さんです。端から、リアムさん、キャロンさん、カーネリアン君、フィンさんです」

「よろしく頼むよ。聖人の諸君。君たちが闇を封じているお陰で私も自由にヤッコゥ! する事が出来ているからね」

「……まぁ、よろしく頼む」

「えと。ごめんなさい。さっきから何かヤッコゥ。ヤッコゥ言ってるのは、なに?」

「ヤッコゥ! と言えば、ヤッコゥ! に決まっているじゃないか。私のこの立派なヤッコゥ! の事だよ!」

「はぁ……?」

「ふむ。分からぬか。人間は不便なものだな。ヤッコゥ! とは私のこの立派な下半身の事だ! フゥー! ヤッコゥ!!」

「あぁ、そうなんですね。私も今知りました。とても素敵ですね!」

「そうかそうか。触ってみるかい?」

「良いんですか?」

「勿論だとも! 背に乗っても構わないぞ!」

「リリィ!」

「え?」

「こっちに来なさい。リリィ」

「えと。はい」

アシナーガヒコさんと楽しく話をしていたら、わなわなと震えていたキャロンさんに呼ばれ、私はキャロンさんの傍に行く事にした。

そして、そのままこっちに居なさいと背中に隠される。

なんだろう?

「とんだ変質者も居たもんだ。リリィ。そのままキャロンの後ろに隠れてろ。コイツは危険だ。フィンと同じくらいな」

「なんで俺なんだよ! 俺はここまでじゃねぇよ! そもそも旅の途中じゃ誰にも手を出してないだろうが!」

「どうだかな」

「おいおい。勘弁してくれ」

「という訳だ。こっちにはもう女好きが居るからな。そのままお帰り願おうか」

「ふむ。何か誤解があるようだな?」

「誤解だと?」

ピリッとリアムさんとアシナーガヒコさんの間で緊張が走る。

なんで、こんな風になってるんだろう?

状況にまるで付いて行けず、私はオロオロとしていたのだが、そんな私を助ける様に遠くからお姉ちゃんの声が聞こえた。

そして私はお姉ちゃんが走ってきている方に視線を向けながら声を掛ける。

「お姉ちゃん!!」

「姫様!!」

「ん? 姫様?」

私は私の声と同時に聞こえた言葉に思わずアシナーガヒコさんを見た。

そして、どうやらアシナーガヒコさんの声に気づいたのは私だけでなく、走ってきたお姉ちゃんもビックリした様な顔でアシナーガヒコさんを見ているのだった。

『アシナーガヒコさん!?』

「姫様……! ご無事だったのですか!?」

『えと、無事かと言われると、何とも言えないのですが。魂は今でも空の果てに居ますよ』

「なんと! 魂は既に運ばれているというのに、地上へこうして存在しているとは……! 奇跡という他ありませんな」

『いえ。奇跡ではありませんよ。リリィや、リアムさん、フィンさん、カー君、キャロンさんの想いが、私を呼んでくれたのです。ですから、ここに』

「そうですか……! くぅっ、よかった……! どの様な形であれ、貴女様と再びこうして話が出来る。これほどの喜びはありません」

『もう。アシナーガヒコさんは大袈裟ですねぇ』

「しかし! こうして姫様と出会えた以上、このままという訳にはいきません! 是非、姫様には我が魂の故郷を案内させていただきたい!!」

『え? でも』

「大丈夫。無論、妹君も仲間の方も一緒ですよ! 今すぐ仲間を呼んでまいります! 少々お待ちを!!」

お姉ちゃんにそう言うと、アシナーガヒコさんはすごい勢いで森の方へ走っていってしまい、私たちはそのまま立ち尽くす事になってしまった。

そして、アシナーガヒコさんが帰って来るまでの間、お姉ちゃんがアシナーガヒコさんの言っていたヤッコゥ! というのが馬の下半身であるという事を説明し、何故かリアムさん達はそういう事かと安堵している様子だった。

なんだろう。

最初からずっとそう言っているのに、勘違いとはどういう事なのだろうか。謎だ。



それから、少し時間が経って、アシナーガヒコさんは何人かの仲間と思われる人を連れて帰ってきた……のだけれど、どうも妙な事になっていた。

「姫様。大変申し訳ございません」

『いえ。私は特に困っていませんが……アシナーガヒコさんは大丈夫ですか?』

「この程度の事は! 何ら問題にはなりません! えぇい! 貴様! 離れんか!」

そう言って、アシナーガヒコさんは体ごとぶつかってくる白い角の生えた馬……確か、ユニコーンと喧嘩をしていた。

どうやらここに帰ってくるまでの間に出会ってしまったらしい。

そして、お姉ちゃんをどちらが乗せるか喧嘩をしているという話だ。

「えと。お姉ちゃんを交互に乗せるという形では駄目なんでしょうか?」

『難しいと思います。ユニコーンは一度自分の背に乗った相手が他のユニコーンや、別のモノに乗る事を酷く嫌がりますから』

私はお姉ちゃんの説明を聞いて、なるほどと頷いた。

ならばと、私はユニコーンさんに近づいて、近くで頭をペコリと下げた。

昔、お姉ちゃんに聞いた話を思い出したのだ。

ユニコーンは汚れなき乙女であれば、その背に乗せてくれると。

私がその汚れなき乙女という奴なのかは分からないし、お姉ちゃんを背に乗せたいというユニコーンさんに私では物足りないかもしれないけど、アシナーガヒコさんは、お姉ちゃんと一緒に故郷へ行くことを切望していたのだ。

多分、ずっと、ずっと願っていたのだ。

その願いを叶えてあげたい。

「あの。ユニコーンさん。触れても、良いですか?」

ユニコーンさんは私をジッと見ると体の匂いを嗅いで、小さく頷いてくれた。

そして私はその白い肌にそっと触れる。

壊れ物を扱う様に。慎重に。

そのお陰か、ユニコーンさんは怒りを少しずつ静めてくれている様だった。

「あの。ユニコーンさん。図々しいお願いなのですが、お姉ちゃんの代わりに、私では駄目でしょうか?」

「……」

「アシナーガヒコさんはお姉ちゃんに故郷を見せたいと、ずっと思っていて、それで、その願いがようやく叶いそうなんです。だから……っ!」

ユニコーンさんは息を吐くと、私をジッと見つめて、頷いてくれた。

そして地面にしゃがんでくれる。

「良いんですか?」

「……」

ユニコーンさんは私の問いに小さく頷いてくれ、私は慎重にその背に乗せて貰った。

しかし、次の瞬間ユニコーンさんは勢いよく立ち上がった為、私はバランスを崩してユニコーンさんに抱き着いてしまった。

「あっ! ご、ごめんなさい!」

私は機嫌を悪くしてしまったかもしれないと、ユニコーンさんに謝るが、特に怒ってはいないようだった。

むしろ、喜んでいる?

なら、良いのかな。

「では、これからお願いしますね」

私はユニコーンさんの背を撫でながら、草原までの旅をお願いするのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

追放された聖女は旅をする

織人文
ファンタジー
聖女によって国の豊かさが守られる西方世界。 その中の一国、エーリカの聖女が「役立たず」として追放された。 国を出た聖女は、出身地である東方世界の国イーリスに向けて旅を始める――。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました

小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。 しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!? 助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、 「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。 幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。 ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく! ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【完結】追放された転生聖女は、無手ですべてを粉砕する

ゆきむらちひろ
ファンタジー
「祈るより、殴る方が早いので」 ひとりの脳筋聖女が、本人にまったくその気がないまま、緻密に練られたシリアスな陰謀を片っ端から台無しにしていく痛快無比なアクションコメディ。 ■あらすじ 聖女セレスティアは、その類稀なる聖なる力(物理)ゆえに王都から追放された。 実は彼女には前世の記憶があって、平和な日本で暮らしていたしがないOLだった。 そして今世にて、神に祈りを捧げる乙女として王国に奉仕する聖女に転生。 だがなぜかその身に宿ったのは治癒の奇跡ではなく、岩をも砕く超人的な筋力だった。 儀式はすっぽかす。祈りの言葉は覚えられない。挙句の果てには、神殿に押し入った魔物を祈祷ではなくラリアットで撃退する始末。 そんな彼女に愛想を尽かした王国は、新たに現れた完璧な治癒能力を持つ聖女リリアナを迎え入れ、セレスティアを「偽りの聖女」として追放する。 「まあ、田舎でスローライフも悪くないか」 追放された本人はいたって能天気。行く先も分からぬまま彼女は新天地を求めて旅に出る。 しかし、彼女の行く手には、王国転覆を狙う宰相が仕組んだシリアスな陰謀の影が渦巻いていた。 「お嬢さん、命が惜しければこの密書を……」 「話が長い! 要点は!? ……もういい、面倒だから全員まとめてかかってこい!」 刺客の脅しも、古代遺跡の難解な謎も、国家を揺るがす秘密の会合も、セレスティアはすべてを「考えるのが面倒くさい」の一言で片付け、その剛腕で粉砕していく。 果たしてセレスティアはスローライフを手にすることができるのか……。 ※「小説家になろう」、「カクヨム」、「アルファポリス」に同内容のものを投稿しています。 ※この作品以外にもいろいろと小説を投稿しています。よろしければそちらもご覧ください。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

処理中です...