聖女の証

とーふ(代理カナタ)

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第81話『そっか。そうなんだね。こんなに簡単な事だったんだ。分かり合うって、こんなにも自由なんだ!』

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ユニコーンさんの背に乗って行う旅は非常に快適である。

たまに地面の問題か、普通に座っているだけだと危なくて、ユニコーンさんに抱き着かないといけない時はあるけれど、基本的には何も問題ない。

ただ……しいて言うなら、リアムさん達が問題だった。

「リリィ」

「はい。なんでしょうか?」

そう。それは草原に向かう途中の森の中で野宿していた時の事だ。

リアムさんはやや怒った様な顔で、ユニコーンさんと一緒に休んでいた私の所にきて、怖い事を言ってきたのだった。

「ソイツが気に入らなければ俺に言え、いつでも首を落としてやる」

「えぇぇえ!? 突然なんですか!?」

「とんだ害獣も居たもんだと思ってな。なぁ、ユニコーン」

リアムさんは怖い顔をしながら鞘に入ったままの剣を握っていて、私たちに緊張が走る。

ユニコーンさんなんて怯えてガクガクと震えているくらいだ。

私はそんな姿が可哀想になって、思わず抱き着きながら、リアムさんから守ろうと奮闘するのだった。

「リアムさん! ユニコーンさんをあまり虐めないで下さい!」

「虐めてるつもりはねぇよ。ただ、なんだろうな。そう。しいて言うなら、警告だな」

「警告、ですか?」

「そうだ。あまり調子に乗ってると、どうなるか分かんねぇぞ。っていう……警告だよ」

「……っ!」

「ユニコーンさん? どうしたんですか? ユニコーンさん?」

「ま。話はそれだけだ。お前も眠いだろう。さっさと寝ろ」

「えと。はい。分かりました。では、ユニコーンさん。また明日お願いしますね」

「……」

ユニコーンさんは珍しく、素直に頷いてくれ、私はお姉ちゃんの隣で眠る事にした。

最初の方は寂しがりなのか、一緒に寝ようと服を引っ張っていたのだが、私と一緒ではユニコーンさんが寝づらいという話をフィンさんから聞き、私は遠慮するべく説得していたのだが、時間が掛かっていたのだ。

それが、こんなに素直になるなんて。

あ。もしかしてさっきのリアムさんの話は、そういう話だったのかな? と私は何となく納得して頷くのだった。

言い方は悪いけど、ユニコーンさんを説得してくれたのかもしれない。

あんまり我儘を言っちゃ駄目だよ。みたいな感じで。

もう少しお姉ちゃんみたいに優しく言ってくれれば良いのにと思いながら、私はお姉ちゃんと手を繋いで、今日も眠るのだった。



そして、翌朝……事件が起きた。

とは言っても事件を起こしたのは私なのだけれども。

何となく、朝早く起きてしまった私は、ボーっとしながら、うつらうつらとしていたのだが、ユニコーンさんが私を呼んでいる姿を見て、眠ったままの頭でユニコーンさんの所まで行ったのだ。

そして、その背を撫でて笑っていると、何やら背に乗れと言っている様な気がして、背に乗ると、そのまま走り出してしまったのである。

アッと頭が冷静さを取り戻した時には既に遅く、ユニコーンさんは野宿していた場所から既に遠い場所へ走り出してしまっていた。

どこまでも、どこまでも駆けてゆく。

「ゆ、ユニコーンさん! 止まって下さい! このままじゃみんなとはぐれちゃいますよ!」

「……っ!」

必死にユニコーンさんへ話しかけるが、聞いてくれず、しかもまた危ない場所を通るのか荒々しい走りになってしまい、私は必死にユニコーンさんへしがみ付く事しか出来なかった。

そして、走り続けたユニコーンさんはその勢いのまま水辺へと入り、段々と速度を落としてゆく。

「わっ、わぷっ、水が」

「……っ!」

「あ、ありがとうございます! わっ、つめたい……」

寝起きに近い状態で、いきなり水の中に入ってしまった為、大分動揺していたが、それでも水浴びはやはり心地よく、心が落ち着く。

私はユニコーンさんに手を付いたまま降りて、水の中で軽く泳いだ。

どうやらユニコーンさんはここから動くつもりは無いらしく、静かに水の中で目を閉じていた。

「もしかして、水浴びがしたかったんですか?」

「……!」

何度も頷くユニコーンさんに、私は困ったなぁと思いながらも笑う。

そしていつも乗せて貰っているし、その体を手で洗うのだった。

「どうですか? 気持ちいいですか?」

ユニコーンさんは心地よさそうに頷く。

それは良かったと思いながら、私も体を洗い続けるのだった。

そして、ユニコーンさんを洗い終わった後は、私自身も水浴びをする事にした。

さっきまで着ていた服を脱いで、近くの木に干しておく。

「んー! やっぱり朝の水浴びは最高ですね」

誰も居ないというのを良い事に私はそのまま水の中で泳ぎ始めるのだった。

何だかんだと、常識人なお姉ちゃんが、キャロンさんと一緒に水浴びをする時は泳ぐ事を許可してくれないから、一人というのはとても気分が良い。

そのまま気が済むまで泳いで、一緒に泳ぎたかったのか寄ってきたユニコーンさんと一緒に泳いで、十分に満足してから私は野宿している場所にユニコーンさんと一緒に戻るのだった。

しかし、気分が良かったのも戻るまでで、戻ってからは激怒したリアムさんに怒られ、お姉ちゃんにもお説教され、ユニコーンさんと一緒に反省していますと頭を下げる事になった。



そんなこんなでドタバタワイワイとした旅を続け、私たちは遂に目的の場所へとたどり着いた。

アシナーガヒコさんの故郷であり、お姉ちゃんの魂が居るであろう空の果てに繋がる場所。

地平線の向こうまで続く、どこまでも果てのない草原に。

「……ここが、草原なんだ」

「そうだ。美しい所だろう?」

「……うん」

アシナーガヒコさんの言葉に応えながら、私は周囲の景色を見渡した。

そして、大きく息を吸って、吐く。

何だか気持ちが昂って落ち着かなかった。

「ねぇ。ねぇ! お姉ちゃん! リアムさん! 少し走ってきても良い!?」

「良いが、あんまり遠くへ行くなよ」

『ユニコーンさんにも迷惑を掛けちゃ駄目ですよ』

「うん! 分かった!! ユニコーンさん! お願いします!」

「……!!」

ユニコーンさんは私が体を撫でると、勢いよく走り出して、どこまでも広がる世界を駆けてゆく。

どれだけ走っても世界に終わりは無くて、この世界はどこまでも自由なんだという事を私に教えてくれていた。

「わぁぁああああああ!! わっ、わぁああああああ!!!」

両手を広げながら、全身で風を受けて、私は心を解き放った。

目を閉じながら、世界にその身を委ねれば、心にある澱みなど全て消えてゆく。

ここには世界の全てがあった。

「そっか。そうなんだね。こんなに簡単な事だったんだ。分かり合うって、こんなにも自由なんだ!」

私は何だかおかしくて、笑いながらユニコーンさんからゆっくりと降りて地面に寝転がって空を見た。

世界はどこまでも果てが無くて、でもそれは怖い事じゃない。

私たちはどこまでも行けるという事なのだから。

それはとても素敵な事だ。

今まで私が生きてきた世界なんてちっぽけな物だ。

「……あぁ、そっか。そうなんだね。これが、そうなんだ」

そして、私は唐突にお姉ちゃんがどうして世界の為に命を使ったのかを理解した。

お姉ちゃんはこの世界を知っていたんだ。

世界はこんなにも広くて、自由だから、みんな怖いんだ。生きていく事も、この世界に存在するという事も。

「だから、お姉ちゃんは……みんなの希望になろうとしたんだね」

あの空に輝く星の様に。涙を堪えて空を見上げた人が、そこに希望を見つけられる様に。

「なら、私は……」
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