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第13話『なら! 私と一緒に逃げましょう!』
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ピリピリとしていた空気が、リヴィアナ様の登場で霧散したのだけれど、リヴィアナ様の話ですぐにまた同じ雰囲気が帰ってきてしまった。
「という訳でさ。現国王はエリカさんを嫁がせる計画を進めてて、発表までもう秒読みって感じかな。それで、それに対抗する為に、私もアルバート兄様と協力して、アルバート兄様の婚約者にするって方向で話を進めてたんだけどさ。いやー。分からない物だね。今までお人形みたいに静かだったエリオット兄様のお母上様が、救国の聖女はエリオット兄様の妻とする。なんて言い始めてさ。ここに来て野心にでも目覚めたのかな」
「……はぁ」
思わずという雰囲気でジュリアーナ様が溜息を漏らし、ローズ様は何処か遠い空の向こうを見ていた。
私も話の中心にいるという事は理解しているが、頭が上手く付いて行かず、どうすれば良いか困っている感じだ。
「何をされてらっしゃるのですか? 王族の方々は」
「いやー。面目次第もない。一応エリオット兄様はアルバート兄様に協力的でさ。お母上様を止めようとしているんだけど。ほら、あの方って旧ロザム王国のお姫様だったじゃない? だから多分ロザム王国をまた取り戻せるって舞い上がってるのよ。王家の血と、聖女の血。合わせて神聖王国の復活ってね。物語じゃよくある話だし。まだ年も二十代の小娘って感じだしね。夢見てるんじゃないかなー」
「あの。お話を遮って申し訳ないのですが、第二王子様は今年」
「気にしないで、アリスさん。エリオット兄様の年齢は今年で15だよ。アリスさんと同じだね」
「という事は……エリオット様のお母上様は」
「ま。そういう事よ。悲劇って言えば悲劇なんだろうけどね。こんな世界じゃどこにでもありふれた話だよ。私たちだって他人事じゃないしね」
「それは……」
「それにさ。夢見るだけの気力があるなら良いんじゃないかな。前は本当にお人形みたいだったけど。今は実に楽しそうだね」
「楽しい。という言葉だけでこの混乱を片付けて欲しくないですわね」
「おっと。手厳しい」
「あのお方の境遇には同情します。しかし、それはそれ。これはこれです」
「ごもっとも」
「それで? リヴィアナ様は今回の件についてどの様にお考えなのですか?」
「そうだねぇ。いっそ。反乱でも起こして、私が王になりたいな。みたいな気持ちだよ」
リヴィアナ様がケラケラと笑いながら発した発言で、私たちは皆動揺し、思わず意味を為さない声を漏らしてしまった。
そして、何も言えないまま口をパクパクとしている私の代わりにローズ様が言葉を発する。
「それはどの程度本気でお考えなのですか?」
「そりゃ出来ればしたくないって思うよ? でもさ。最近きな臭い話も多いしね。アルバート兄様もエリオット兄様も食事に毒が盛られてたなんて話もあるしさ。ここは私が王になって全部の争いを終わらせるか! なんて悲壮な覚悟にもなるってもんよ。エリカさんなら、私が毒を盛られても治せるし。女同士だから寝ても覚めても一緒に居られるじゃない? どう? 結構な名案だと思うけど」
「私なら、グリセリア派に気づかれぬ様に王城を急襲し、愚王の首を取り、王族を排し、新たなる王族として名乗りを上げますわね」
「あらー。ローズさんの方はどんな感じ?」
「まぁそのまま反対の意見という所ですね。ただ、私としてはあまり血が流れぬ方が良いと思いますので、リヴィアナ様方にはどこか自然豊かな土地へ移っていただきますが」
「国境付近の過疎地帯へと追放って事ね。見張りつきで。飼い殺しかぁ。ちなみにお二人の勝算ってどれくらいあるの?」
「グリセリア派閥が邪魔をしなければ確実に」
「まぁ、同じですね」
「うーん。これでも王都軍はヴェルクモント王国で最強って言われてるんだけど。主に現国王の周辺では」
「警戒すべき相手はそう多くいませんし。王国内最強の騎士と呼ばれているマルク・ヴェイン・ガーランド様に関して言うのであれば、問題とはならないでしょう」
「どういう事? いや、あの人忠誠心凄いから、裏切りとかは無いと思うよ?」
「まぁガーランド様は騎士として高潔ですからね」
「そうそう。ローズさん良い事言うじゃん」
「ですが」
「ん?」
「おそらく私と同じ情報をレンゲントさんも持っていると思いますが、ガーランド様は最近一人のお嬢さんにご執心だとの事で」
「……何か嫌な予感がするんだけど」
「あら。どうやら同じ情報を掴んでいた様ですわね。グリセリアさん。なら、あの噂も聞いているのかしら。ガーランド様はそのお嬢さんと観劇に行き、その劇と同じ事が起きたら、必ず自分がお嬢さんを護ると大衆の前で誓っていたという事を」
「えぇ、存じております。劇の内容は暴虐な王によって汚されそうになった小国の姫を、彼女の忠実な騎士が数多の敵に立ち向かって彼女を助けるというお話だったそうですね」
「……なんて、こった」
今思い出しても恥ずかしくなる様な話だ。
その話のお嬢さんというのは私の事なのだけれど、みんなにはバレないで欲しいと願ってしまう。
「王国最強の盾がもう完全に機能してないんだけど? どういう事? 裏切り宣言までされてるんだけど?」
「気に入らぬという事であれば首を落とせばよいのでは?」
「そんな事したら次の日にはヴェルクモント王国が世界から消えるよ! 周辺国に滅ぼされるか。怒りの民衆を率いた二人のどちらかに滅ぼされるか、わかんないけど!」
「そうですわね」
「安心してください。リヴィアナ様。私が攻める場合は命が続きますから」
「なーんにも安心できる要素無いけどね!? 僻地で生涯幽閉のどこに安心する要素あるのかなぁ!? てか、もしかして思ったよりこの国終わってる!?」
「えぇ」
「何を今更。既に王族の権威などなく、レンゲント派とグリセリア派でどちらが主導権を握るか、今はそれを水面下で争っている最中ですわ。まぁ、正直な所を言いますと、王弟殿下が立ち上がって下さるのが一番なのですが、あのお方はそれを良しとしませんからね。無駄に血が流れるからと。では、もはや我らが立つしか無いでしょう。あぁいえ。一つ良い手段がありましたね。リヴィアナ様。お飾りという事で良ければ今すぐにでもリヴィアナ様が王になれますが、如何でしょうか? 何も言葉を発せぬよう、喉は潰しますが」
「それで誰が喜ぶんだよ!」
「命は続きますし。同情はしますが、王家に生まれた宿命ですわね」
「……うぅ、何か、何か手はないのか。このままじゃ、王がエリカさんを迎え入れると宣言した段階で国が滅ぶ。呑気にアルバート兄様と婚約とか言ってる場合じゃないよ!」
「大丈夫。国名は残しますわ」
「何も大丈夫じゃ無いよ!!」
「ではこちらを」
「ん? 何、これ?」
「毒ですわ。苦しまずに逝けますので。いざという時はお使いください」
「慈悲も容赦もないのか!」
小瓶をジュリアーナ様から手渡されて、リヴィアナ様は吠えるが、ジュリアーナ様はどこ吹く風という様な姿だった。
先ほどから聞こえてくるリヴィアナ様の扱いがあまりにも可哀想で、私は見ていられず、思わず口を挟んでしまう。
「あ、あの! リヴィアナ様!」
「どうしたの? エリカさん。ま、まさか、エリカさんも私の事を」
「いえ。その。リヴィアナ様がもしも危ない時は、私がお助けします。そんな大した力は無いですけど、私にも出来る事はありますので」
「気持ちは嬉しいけどさ。正直王族に対して良い感情持ってる臣民なんて殆ど居ないから。私の味方になっても死ぬだけだよ? あー。いや聖女様はきっと助け出されて生涯教会とかで保護されるんだろうけどさ。それでも、私の味方をするだけで自由が奪われちゃう。だから、気持ちはホント―に嬉しいけど、それは駄目」
「……リヴィアナ様」
「まー。私が死んでから、たまーに思い出してくれたら嬉しいかな。なんて。なはは」
力なく笑うリヴィアナ様に私はカッと燃え上がる気持ちが胸の奥で生まれ、気持ちのままに叫ぶ。
「なら! 私と一緒に逃げましょう!」
「は?」
「私、町の人たちに聞いたんですけど。私みたいな力を持っている人は希少らしいので、多分お医者さんの様な事をして生きていけると思うんですよね。それなら、遠い場所でも二人で生きていけるじゃないですか」
「ちょ、エリカさん!? 落ち着いてくださいな!」
「私も国の事は色々とお勉強しました。正直、今この国が良くない状態だという事も分かっています。そして、それを改善する為には王族の方を排するのが一番容易い事だという事も! でも、私は、私にとって、リヴィアナ様は大切なお友達なので! お友達を見捨てる事は出来ないです! だから、二人で生きてゆきましょう! 王族であるという事を捨てて、ただのリヴィアナさんとして」
「エリカさん」
「あ、いや、あの、突然お友達なんて、申し訳ございません! 失礼な事を言ってしまい」
「ううん。私は嬉しかったよ。そっか。王族としての自分を捨てて、二人で生きるか。うん。それも悪くないかもね」
「失礼ながら! 私は反対です!」
「アリスちゃん」
「お二人で生きて行くなんて……! 私も連れて行ってください!」
「アリスさん!? 伯爵家はどうされるのですか!?」
「デイビッド君が居るので。私が居なくなっても問題なしです」
「問題しかありません!! イービルサイドの天使が消えたら、グリセリア派閥の中でも分裂と内乱が起こりますよ!」
「そこはローズ様に頑張っていただくという事で。私は争いの中、死んだことにしてください」
「なんて勝手な! それに、女性だけでこの世界を生きていけると本気でお考えなのですか?」
「それについても問題ありません。だって、先ほどローズ様も言っていたではないですか。恵梨香お姉様には忠実な騎士様が居ると」
「あ」
「という訳で、私もお姉様に付いて行きます。女三人で仲良く生きていきましょうね!」
「はい!」
アリスちゃんが最高に輝く様な笑顔で私に告げた事で空気が完全に固まってしまったが、その空気を打ち壊すようにリーザ様が右手を高く上に上げた。
「私も付いてゆきます。エリカさん」
「え」
「私はこれでも戦闘に自信があります。ですので、エリカさんの護衛は私が! いつ何時も離れず、その身を御護りします!」
「必要ないです! 私だって戦闘魔術くらい使えますから!」
「素人の言いそうな事ですね。実戦経験も無いくせに」
「なんですって!?」
「貴女こそ。足手まといになるだけなのですから。エリカさん。いえ。エリカお姉様の傍から離れ、イービルサイド領の発展に命を捧げなさい」
「恵梨香お姉様の事をお姉様と呼んでいいのは私だけです!!」
「血の繋がりも無いくせに」
「言ってはいけない事を言いましたね!?」
「「落ち着きなさい!! 二人とも!!」」
ヒートアップしてゆくアリスちゃんとリーザ様の言い争いに、ジュリアーナ様とローズ様の言葉が重なる。
そしてやや時間をおいてから、ジュリアーナ様が口を開いた。
「皆さんのお気持ちは分りました。とりあえず事態が明確に動くまでは、まだ私たちも動きませんわ。それでよろしくて?」
私たちはその疲れ切ったジュリアーナ様の言葉に無言のまま頷き、波乱に満ちたお茶会は終了となるのだった。
「という訳でさ。現国王はエリカさんを嫁がせる計画を進めてて、発表までもう秒読みって感じかな。それで、それに対抗する為に、私もアルバート兄様と協力して、アルバート兄様の婚約者にするって方向で話を進めてたんだけどさ。いやー。分からない物だね。今までお人形みたいに静かだったエリオット兄様のお母上様が、救国の聖女はエリオット兄様の妻とする。なんて言い始めてさ。ここに来て野心にでも目覚めたのかな」
「……はぁ」
思わずという雰囲気でジュリアーナ様が溜息を漏らし、ローズ様は何処か遠い空の向こうを見ていた。
私も話の中心にいるという事は理解しているが、頭が上手く付いて行かず、どうすれば良いか困っている感じだ。
「何をされてらっしゃるのですか? 王族の方々は」
「いやー。面目次第もない。一応エリオット兄様はアルバート兄様に協力的でさ。お母上様を止めようとしているんだけど。ほら、あの方って旧ロザム王国のお姫様だったじゃない? だから多分ロザム王国をまた取り戻せるって舞い上がってるのよ。王家の血と、聖女の血。合わせて神聖王国の復活ってね。物語じゃよくある話だし。まだ年も二十代の小娘って感じだしね。夢見てるんじゃないかなー」
「あの。お話を遮って申し訳ないのですが、第二王子様は今年」
「気にしないで、アリスさん。エリオット兄様の年齢は今年で15だよ。アリスさんと同じだね」
「という事は……エリオット様のお母上様は」
「ま。そういう事よ。悲劇って言えば悲劇なんだろうけどね。こんな世界じゃどこにでもありふれた話だよ。私たちだって他人事じゃないしね」
「それは……」
「それにさ。夢見るだけの気力があるなら良いんじゃないかな。前は本当にお人形みたいだったけど。今は実に楽しそうだね」
「楽しい。という言葉だけでこの混乱を片付けて欲しくないですわね」
「おっと。手厳しい」
「あのお方の境遇には同情します。しかし、それはそれ。これはこれです」
「ごもっとも」
「それで? リヴィアナ様は今回の件についてどの様にお考えなのですか?」
「そうだねぇ。いっそ。反乱でも起こして、私が王になりたいな。みたいな気持ちだよ」
リヴィアナ様がケラケラと笑いながら発した発言で、私たちは皆動揺し、思わず意味を為さない声を漏らしてしまった。
そして、何も言えないまま口をパクパクとしている私の代わりにローズ様が言葉を発する。
「それはどの程度本気でお考えなのですか?」
「そりゃ出来ればしたくないって思うよ? でもさ。最近きな臭い話も多いしね。アルバート兄様もエリオット兄様も食事に毒が盛られてたなんて話もあるしさ。ここは私が王になって全部の争いを終わらせるか! なんて悲壮な覚悟にもなるってもんよ。エリカさんなら、私が毒を盛られても治せるし。女同士だから寝ても覚めても一緒に居られるじゃない? どう? 結構な名案だと思うけど」
「私なら、グリセリア派に気づかれぬ様に王城を急襲し、愚王の首を取り、王族を排し、新たなる王族として名乗りを上げますわね」
「あらー。ローズさんの方はどんな感じ?」
「まぁそのまま反対の意見という所ですね。ただ、私としてはあまり血が流れぬ方が良いと思いますので、リヴィアナ様方にはどこか自然豊かな土地へ移っていただきますが」
「国境付近の過疎地帯へと追放って事ね。見張りつきで。飼い殺しかぁ。ちなみにお二人の勝算ってどれくらいあるの?」
「グリセリア派閥が邪魔をしなければ確実に」
「まぁ、同じですね」
「うーん。これでも王都軍はヴェルクモント王国で最強って言われてるんだけど。主に現国王の周辺では」
「警戒すべき相手はそう多くいませんし。王国内最強の騎士と呼ばれているマルク・ヴェイン・ガーランド様に関して言うのであれば、問題とはならないでしょう」
「どういう事? いや、あの人忠誠心凄いから、裏切りとかは無いと思うよ?」
「まぁガーランド様は騎士として高潔ですからね」
「そうそう。ローズさん良い事言うじゃん」
「ですが」
「ん?」
「おそらく私と同じ情報をレンゲントさんも持っていると思いますが、ガーランド様は最近一人のお嬢さんにご執心だとの事で」
「……何か嫌な予感がするんだけど」
「あら。どうやら同じ情報を掴んでいた様ですわね。グリセリアさん。なら、あの噂も聞いているのかしら。ガーランド様はそのお嬢さんと観劇に行き、その劇と同じ事が起きたら、必ず自分がお嬢さんを護ると大衆の前で誓っていたという事を」
「えぇ、存じております。劇の内容は暴虐な王によって汚されそうになった小国の姫を、彼女の忠実な騎士が数多の敵に立ち向かって彼女を助けるというお話だったそうですね」
「……なんて、こった」
今思い出しても恥ずかしくなる様な話だ。
その話のお嬢さんというのは私の事なのだけれど、みんなにはバレないで欲しいと願ってしまう。
「王国最強の盾がもう完全に機能してないんだけど? どういう事? 裏切り宣言までされてるんだけど?」
「気に入らぬという事であれば首を落とせばよいのでは?」
「そんな事したら次の日にはヴェルクモント王国が世界から消えるよ! 周辺国に滅ぼされるか。怒りの民衆を率いた二人のどちらかに滅ぼされるか、わかんないけど!」
「そうですわね」
「安心してください。リヴィアナ様。私が攻める場合は命が続きますから」
「なーんにも安心できる要素無いけどね!? 僻地で生涯幽閉のどこに安心する要素あるのかなぁ!? てか、もしかして思ったよりこの国終わってる!?」
「えぇ」
「何を今更。既に王族の権威などなく、レンゲント派とグリセリア派でどちらが主導権を握るか、今はそれを水面下で争っている最中ですわ。まぁ、正直な所を言いますと、王弟殿下が立ち上がって下さるのが一番なのですが、あのお方はそれを良しとしませんからね。無駄に血が流れるからと。では、もはや我らが立つしか無いでしょう。あぁいえ。一つ良い手段がありましたね。リヴィアナ様。お飾りという事で良ければ今すぐにでもリヴィアナ様が王になれますが、如何でしょうか? 何も言葉を発せぬよう、喉は潰しますが」
「それで誰が喜ぶんだよ!」
「命は続きますし。同情はしますが、王家に生まれた宿命ですわね」
「……うぅ、何か、何か手はないのか。このままじゃ、王がエリカさんを迎え入れると宣言した段階で国が滅ぶ。呑気にアルバート兄様と婚約とか言ってる場合じゃないよ!」
「大丈夫。国名は残しますわ」
「何も大丈夫じゃ無いよ!!」
「ではこちらを」
「ん? 何、これ?」
「毒ですわ。苦しまずに逝けますので。いざという時はお使いください」
「慈悲も容赦もないのか!」
小瓶をジュリアーナ様から手渡されて、リヴィアナ様は吠えるが、ジュリアーナ様はどこ吹く風という様な姿だった。
先ほどから聞こえてくるリヴィアナ様の扱いがあまりにも可哀想で、私は見ていられず、思わず口を挟んでしまう。
「あ、あの! リヴィアナ様!」
「どうしたの? エリカさん。ま、まさか、エリカさんも私の事を」
「いえ。その。リヴィアナ様がもしも危ない時は、私がお助けします。そんな大した力は無いですけど、私にも出来る事はありますので」
「気持ちは嬉しいけどさ。正直王族に対して良い感情持ってる臣民なんて殆ど居ないから。私の味方になっても死ぬだけだよ? あー。いや聖女様はきっと助け出されて生涯教会とかで保護されるんだろうけどさ。それでも、私の味方をするだけで自由が奪われちゃう。だから、気持ちはホント―に嬉しいけど、それは駄目」
「……リヴィアナ様」
「まー。私が死んでから、たまーに思い出してくれたら嬉しいかな。なんて。なはは」
力なく笑うリヴィアナ様に私はカッと燃え上がる気持ちが胸の奥で生まれ、気持ちのままに叫ぶ。
「なら! 私と一緒に逃げましょう!」
「は?」
「私、町の人たちに聞いたんですけど。私みたいな力を持っている人は希少らしいので、多分お医者さんの様な事をして生きていけると思うんですよね。それなら、遠い場所でも二人で生きていけるじゃないですか」
「ちょ、エリカさん!? 落ち着いてくださいな!」
「私も国の事は色々とお勉強しました。正直、今この国が良くない状態だという事も分かっています。そして、それを改善する為には王族の方を排するのが一番容易い事だという事も! でも、私は、私にとって、リヴィアナ様は大切なお友達なので! お友達を見捨てる事は出来ないです! だから、二人で生きてゆきましょう! 王族であるという事を捨てて、ただのリヴィアナさんとして」
「エリカさん」
「あ、いや、あの、突然お友達なんて、申し訳ございません! 失礼な事を言ってしまい」
「ううん。私は嬉しかったよ。そっか。王族としての自分を捨てて、二人で生きるか。うん。それも悪くないかもね」
「失礼ながら! 私は反対です!」
「アリスちゃん」
「お二人で生きて行くなんて……! 私も連れて行ってください!」
「アリスさん!? 伯爵家はどうされるのですか!?」
「デイビッド君が居るので。私が居なくなっても問題なしです」
「問題しかありません!! イービルサイドの天使が消えたら、グリセリア派閥の中でも分裂と内乱が起こりますよ!」
「そこはローズ様に頑張っていただくという事で。私は争いの中、死んだことにしてください」
「なんて勝手な! それに、女性だけでこの世界を生きていけると本気でお考えなのですか?」
「それについても問題ありません。だって、先ほどローズ様も言っていたではないですか。恵梨香お姉様には忠実な騎士様が居ると」
「あ」
「という訳で、私もお姉様に付いて行きます。女三人で仲良く生きていきましょうね!」
「はい!」
アリスちゃんが最高に輝く様な笑顔で私に告げた事で空気が完全に固まってしまったが、その空気を打ち壊すようにリーザ様が右手を高く上に上げた。
「私も付いてゆきます。エリカさん」
「え」
「私はこれでも戦闘に自信があります。ですので、エリカさんの護衛は私が! いつ何時も離れず、その身を御護りします!」
「必要ないです! 私だって戦闘魔術くらい使えますから!」
「素人の言いそうな事ですね。実戦経験も無いくせに」
「なんですって!?」
「貴女こそ。足手まといになるだけなのですから。エリカさん。いえ。エリカお姉様の傍から離れ、イービルサイド領の発展に命を捧げなさい」
「恵梨香お姉様の事をお姉様と呼んでいいのは私だけです!!」
「血の繋がりも無いくせに」
「言ってはいけない事を言いましたね!?」
「「落ち着きなさい!! 二人とも!!」」
ヒートアップしてゆくアリスちゃんとリーザ様の言い争いに、ジュリアーナ様とローズ様の言葉が重なる。
そしてやや時間をおいてから、ジュリアーナ様が口を開いた。
「皆さんのお気持ちは分りました。とりあえず事態が明確に動くまでは、まだ私たちも動きませんわ。それでよろしくて?」
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