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章1
死に戻りの有無は?(1)
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「日本に避難できるなら、ここよりそっちの方がいいよ。でも、透と同じ転移能力持ちの転生者が、日本でポイント稼ぎに暗躍してる可能性だってあるだろ」
透の転移はスキルではなくウィルの力なのだが、彼の言うとおり転生時に得られるスキルの中に転移がラインナップされていないと断言することはできない。
怖い。帰ったら戸締まりちゃんとしなきゃ……いや、家の中に直接転移されたら意味ないか。
戦うすべを持たない自分は、もしそういう輩に出会ってしまったら天災にでも遭ったのだと思って諦めるしかない気がする。
「透みたいなのはポイント稼いでる連中の格好の標的になっちゃうよ。できれば、一発でやられないくらいにはこの世界でレベル上げした方がいいと思う。この世界に居る間は、俺が守るから」
得心から恐怖を抱いてそれが透の脳内で諦念になるまでの間にも、勝宏は話を進めている。
……レベル上げ?
「あの……俺、にはレベルとかないと思うんだけど」
正規の手順を踏んでここに来たわけではない透には、ゲームルールはきっと適用されない。レベルやステータスだって用意されていないだろう。せいぜいがゲームで言うところの村人A、NPCだ。
ついでに言うと、殺されても透はポイント変換対象にはならなさそうだとも思う。殺されてしまってからポイントにならないと知れたって後の祭りなので危険度に差はないが。
「ステータス見れないんじゃ、レベルとか言われてもしっくり来ないよな。レベルじゃなくてもさ、街に行けば、スクロールっていう魔法を覚えられるアイテムが手に入るから。最低限敵を追っ払えるくらいになっとこうぜって話だよ」
スクロールを入手すれば、魔法が使えるようになるのか。なんとも、携帯獣ゲームのわ○マシンを彷彿とさせるアイテムである。
『透、観光したいならこの面倒な世界より、別の世界の方がいいんじゃねーか?』
勝宏の話を受けて、ウィルが心配げに訊ねてきた。ドラゴンの時からしきりに気にかけてくれているけど、そうか、日本じゃなくてこの世界で死ぬと、転生システムか何かの関係でウィルとの約束が守れなくなる可能性もあるのかも。
確かに、良いカモだと狙われる危険性はとても高い。
軽い気持ちで訪れたこの異世界が、まさかそんな神様主催ゲームの会場だったとは思いもよらなかった。
(う、うん……でも、勝宏を置いて自分だけ逃げるのは)
談笑したからもう友達だなんておこがましいことは言わないが、こうして知り合った彼をこんな殺伐としたルール下に残して自分だけ身を潜めるのは気が引ける。
(そうだ、勝宏を日本に連れて帰ることはできないの?)
『無理だな。契約者と荷物くらいしか運べない。それに、連れて帰れたところでこいつの家ではもう葬式済んでてとっくに骨も墓の下だろ。身分証なきゃ何もできないあの国でどうやって生活するんだ?』
(そっか、ごめん……)
ウィルと相談している間、こちらの声が聞こえていない勝宏は透が迷っているのだと捉えているのだろう。
しばらく透の返答をじっと待ってくれていたが、しびれをきらして勝宏の方から口を開いた。
「透? どうする?」
「……えっと」
日本に連れて帰ることはできない。自分だけ逃げて忘れるのは後味が悪い。かといってこの世界で彼に守ってもらいながら戦う練習をするのも、申し訳ない。
煮え切らない透に、勝宏が苦笑した。
「じゃあこうしよう。透、俺から頼みがあるんだけど」
「なに?」
「俺、基本一人で行動してんだよね。そろそろ道中の話し相手もほしいし、透がたまに日本の食べ物買ってきてくれたらストレスフリーで冒険できそうなんだよな」
ああ、気を使ってもらってしまった。自分がはっきりしないから。
情けなさすぎて吐きそう。
「あれ、透? 顔色悪くない、大丈夫?」
「だい、じょぶ……」
「そうか? まあ、俺にメリットのある話なんだよ。透が一緒にいてくれたら嬉しい」
そうだ、自分にはそもそも「断る」という行為がまず無理だった。
ほとんど項垂れるように頷くと、決まりだな、と勝宏が笑顔で手を差し出してくる。
「これからよろしく、透」
「う、うん……よろ、しく」
良い人だ、実にすばらしいコミュ強だ。笑顔がまぶしい。
日本に戻ったらとりあえず、胃薬を買って服用してこようと思う。
----------
一旦日本に戻って、歩きやすい服装と防寒具、水筒とお弁当と、なんて登山装備で旅支度をしてきた透に勝宏が「そんな荷物持ってこなくてもその都度取りに行けばいいじゃん」と突っ込んできた。それもそうでした。
携行品と服装を見直して、結局先ほどと大して変わりのない格好での出発である。
街に行くだけが目的ならば場所を指定してウィルに連れて行ってもらえばいいのだが、勝宏の誘いの主旨は透をそれなりに鍛えること。
主に食料の関係で、毎日日本に戻るつもりではあるけれども。それこそ勝宏の要望で。
さて、勝宏がドラゴンの話を仕入れたという近くの町までは、徒歩で三日だそうだ。
日本人転生者が町のトップで、そのスキルと現代知識、圧倒的な力をもって町を防衛しているため、町の規模こそ普通でも他と比べて治安が良く魔物の心配もないと評判らしい。
なるほど、そんな中に「日本出身者をピンポイントで狙うドラゴン」が現れたら気にもなるだろう。
町を防衛するために力を割いている転生者が町の外まで顔を出すわけにはいかないし、普通の冒険者に依頼を出してもドラゴンはこちらの住民は狙ってこない。
同じ転生者、かつテイマー系スキルでないことが分かる――ステータス画面を快く見せてくれるような者が偶然町にやってきて協力してくれるのを待つしか方法がなかったのだ。
そんな都合の良い条件が勝宏によって実現してしまったから、彼はドラゴンと戦っていたというわけである。
森を抜け、地面が固められただけのほぼ草原な街道を歩きながら、透は銃を握らされていた。
どこから出したか。答えは簡単、勝宏の変身スキルを使って、装備とセットで出てきた武器の一つを貸してもらったのだ。
無論、変身中しか使うことができないため隣を歩くのは全身ぴっちり赤スーツのヒーローである。
勝宏のMPが尽きる前に返却し、MPが回復したらまた借りる。武器の扱いに慣れるためだ。
透の転移はスキルではなくウィルの力なのだが、彼の言うとおり転生時に得られるスキルの中に転移がラインナップされていないと断言することはできない。
怖い。帰ったら戸締まりちゃんとしなきゃ……いや、家の中に直接転移されたら意味ないか。
戦うすべを持たない自分は、もしそういう輩に出会ってしまったら天災にでも遭ったのだと思って諦めるしかない気がする。
「透みたいなのはポイント稼いでる連中の格好の標的になっちゃうよ。できれば、一発でやられないくらいにはこの世界でレベル上げした方がいいと思う。この世界に居る間は、俺が守るから」
得心から恐怖を抱いてそれが透の脳内で諦念になるまでの間にも、勝宏は話を進めている。
……レベル上げ?
「あの……俺、にはレベルとかないと思うんだけど」
正規の手順を踏んでここに来たわけではない透には、ゲームルールはきっと適用されない。レベルやステータスだって用意されていないだろう。せいぜいがゲームで言うところの村人A、NPCだ。
ついでに言うと、殺されても透はポイント変換対象にはならなさそうだとも思う。殺されてしまってからポイントにならないと知れたって後の祭りなので危険度に差はないが。
「ステータス見れないんじゃ、レベルとか言われてもしっくり来ないよな。レベルじゃなくてもさ、街に行けば、スクロールっていう魔法を覚えられるアイテムが手に入るから。最低限敵を追っ払えるくらいになっとこうぜって話だよ」
スクロールを入手すれば、魔法が使えるようになるのか。なんとも、携帯獣ゲームのわ○マシンを彷彿とさせるアイテムである。
『透、観光したいならこの面倒な世界より、別の世界の方がいいんじゃねーか?』
勝宏の話を受けて、ウィルが心配げに訊ねてきた。ドラゴンの時からしきりに気にかけてくれているけど、そうか、日本じゃなくてこの世界で死ぬと、転生システムか何かの関係でウィルとの約束が守れなくなる可能性もあるのかも。
確かに、良いカモだと狙われる危険性はとても高い。
軽い気持ちで訪れたこの異世界が、まさかそんな神様主催ゲームの会場だったとは思いもよらなかった。
(う、うん……でも、勝宏を置いて自分だけ逃げるのは)
談笑したからもう友達だなんておこがましいことは言わないが、こうして知り合った彼をこんな殺伐としたルール下に残して自分だけ身を潜めるのは気が引ける。
(そうだ、勝宏を日本に連れて帰ることはできないの?)
『無理だな。契約者と荷物くらいしか運べない。それに、連れて帰れたところでこいつの家ではもう葬式済んでてとっくに骨も墓の下だろ。身分証なきゃ何もできないあの国でどうやって生活するんだ?』
(そっか、ごめん……)
ウィルと相談している間、こちらの声が聞こえていない勝宏は透が迷っているのだと捉えているのだろう。
しばらく透の返答をじっと待ってくれていたが、しびれをきらして勝宏の方から口を開いた。
「透? どうする?」
「……えっと」
日本に連れて帰ることはできない。自分だけ逃げて忘れるのは後味が悪い。かといってこの世界で彼に守ってもらいながら戦う練習をするのも、申し訳ない。
煮え切らない透に、勝宏が苦笑した。
「じゃあこうしよう。透、俺から頼みがあるんだけど」
「なに?」
「俺、基本一人で行動してんだよね。そろそろ道中の話し相手もほしいし、透がたまに日本の食べ物買ってきてくれたらストレスフリーで冒険できそうなんだよな」
ああ、気を使ってもらってしまった。自分がはっきりしないから。
情けなさすぎて吐きそう。
「あれ、透? 顔色悪くない、大丈夫?」
「だい、じょぶ……」
「そうか? まあ、俺にメリットのある話なんだよ。透が一緒にいてくれたら嬉しい」
そうだ、自分にはそもそも「断る」という行為がまず無理だった。
ほとんど項垂れるように頷くと、決まりだな、と勝宏が笑顔で手を差し出してくる。
「これからよろしく、透」
「う、うん……よろ、しく」
良い人だ、実にすばらしいコミュ強だ。笑顔がまぶしい。
日本に戻ったらとりあえず、胃薬を買って服用してこようと思う。
----------
一旦日本に戻って、歩きやすい服装と防寒具、水筒とお弁当と、なんて登山装備で旅支度をしてきた透に勝宏が「そんな荷物持ってこなくてもその都度取りに行けばいいじゃん」と突っ込んできた。それもそうでした。
携行品と服装を見直して、結局先ほどと大して変わりのない格好での出発である。
街に行くだけが目的ならば場所を指定してウィルに連れて行ってもらえばいいのだが、勝宏の誘いの主旨は透をそれなりに鍛えること。
主に食料の関係で、毎日日本に戻るつもりではあるけれども。それこそ勝宏の要望で。
さて、勝宏がドラゴンの話を仕入れたという近くの町までは、徒歩で三日だそうだ。
日本人転生者が町のトップで、そのスキルと現代知識、圧倒的な力をもって町を防衛しているため、町の規模こそ普通でも他と比べて治安が良く魔物の心配もないと評判らしい。
なるほど、そんな中に「日本出身者をピンポイントで狙うドラゴン」が現れたら気にもなるだろう。
町を防衛するために力を割いている転生者が町の外まで顔を出すわけにはいかないし、普通の冒険者に依頼を出してもドラゴンはこちらの住民は狙ってこない。
同じ転生者、かつテイマー系スキルでないことが分かる――ステータス画面を快く見せてくれるような者が偶然町にやってきて協力してくれるのを待つしか方法がなかったのだ。
そんな都合の良い条件が勝宏によって実現してしまったから、彼はドラゴンと戦っていたというわけである。
森を抜け、地面が固められただけのほぼ草原な街道を歩きながら、透は銃を握らされていた。
どこから出したか。答えは簡単、勝宏の変身スキルを使って、装備とセットで出てきた武器の一つを貸してもらったのだ。
無論、変身中しか使うことができないため隣を歩くのは全身ぴっちり赤スーツのヒーローである。
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