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章1
たいへん失礼な先入観を持っていたことを懺悔します(3)
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天然の未登録ダンジョン探しは、思っていたよりも難航した。
ウィルは問題なく、条件に合致するダンジョンを多く見つけてきてくれる。
だが、透が一緒に転移して石版を確認しても、登録済みのダンジョンしかないのだ。
転移でダンジョンを探し回り、日が暮れたら日本に戻る。
その繰り返しだ。
今日は二日目。
午前中は一日目と同じく空振りが続いたが、昼休憩を挟んでの一発目でついに、当たりを引いた。
「ウィル、このダンジョンの所在地は地図に書ける?」
『おう。さっさとあの……エリアスだったか? あいつのとこ行って済ませようぜ』
ウィルに案内されて直接コアのフロアへ転移したため、どんなダンジョンなのかは分からなかった。
だが、改めて確認すると山奥の樹の洞から地下へ繋がるダンジョンのようである。
あらかじめ詩絵里に聞いていたエリアスの現在の拠点へ転移する。
ダンジョンの位置は、地図に丸印をつけてある。
これをエリアスに渡せば、ミッションコンプリートだ。
おつかいクエストのようなものとはいえ、飯炊きと日本への買い出し以外でようやく人の役に立つことができた。
意気揚々とエリアスが泊まっている宿の扉を開ける。
そして、そこで透を出迎えたのは……詩絵里だった。
「やっほ、透くん。ダンジョン見つかった?」
エリアスの借りている部屋で、椅子に腰掛けてパソコンをいじっていた詩絵里が軽く声を掛けてくる。
「あ、は、はい……あの……」
「ああ、私? 勝宏くんのことと、ご飯のことでちょっとね。ここで待ってれば透くんと会うだろうと思って、昨日の夜からお邪魔してるのよ」
どうしてここに。事後報告で単独行動してごめんなさい。
言おうとして出てこなかった言葉は、詩絵里が綺麗に遮った。
「とりあえず、ダンジョンの件はエリアスに先に報告してあげてちょうだい。私の話はその後ね」
エリアスなら、隣の食堂でお昼とってるはずだから。
彼女の言葉に、透は頷くしかなかった。
エリアスからの依頼のひとつはこれで完了。
彼らはこのあとギルド経由の採取依頼に出向くそうなので、エリアスの部屋はそのまま相談の場として使わせてもらうことになった。
詩絵里の話としては、こうだ。
昨日。
透が一時離脱したおかげでパーティーの食事情が非常に申し訳ないことになっていた。
尖塔には、ほとんどなんの食料も用意していなかったのである。
察しのいい彼女は、透が書いた手紙を見た時点で「勝宏くんと何かあったのね?」と一発で見抜いたそうだ。
そのうえで、一日目の食事に関して、詩絵里はクロに乗って近場で出来合いのものを買ってこよう、と提案。
だが、透がいつ戻ってくるか分からないから塔から動かない、と勝宏が拒否。
ルイーザはお金がもったいないです、と言い出した。
結局初日は、詩絵里のアイテムボックスに入っていたキッシュを食べてしのいだらしい。
「す、すみません……俺が勝手に、いなくなったせいで……」
「いいのいいの、勝宏くんとごたごたがあるのは別に悪いことじゃないじゃない。むしろ今までの関係から一歩前に進む良い機会よ」
だいたい食事については透くんに頼りすぎな私たちも悪いんだし。
透の謝罪は、からからと笑い飛ばされた。
「でもねえ、透くんが何日も不在となると、三食ともキッシュの生活が続くことになっちゃうでしょ?」
今後の方針の話し合いもなにもない。
勝宏が動かないせいで、遠出をするわけにもいかず、結局三人は塔から動かず待機を余儀なくされるというわけだ。
「ごめんなさい……その……」
「でも、ダンジョン見つかっちゃったんじゃ、単独行動する大義名分がなくなっちゃうわね」
一日距離を置いても、やっぱり勝宏に対してはまだ気まずい。
どうしようかと答えに迷っていると、詩絵里が先に口を開いた。
「透くん、あと2、3日、気持ちの整理をつけるための時間がほしいでしょ? ……じゃあ、どうかしら。私たちの拠点にするダンジョンも見つけてきてもらうっていうのは?」
「へ?」
それは、拠点の運用などを相談してからという話ではなかっただろうか。
目を瞬かせる透の疑問に、詩絵里が先回りして捕捉を入れてくれる。
「拠点の運用の仕方やコア登録の仕方は、こっちでその間、考えておくわ」
「は、はい……ありがとうございます」
「うんうん。頑張って。こういう気持ちこそ、しっかり悩んで、納得のいく答えを見つけなきゃね」
詩絵里と相談した結果、以降は毎晩深夜0時ごろに彼女へ転移で経過報告を入れることになった。
そして報告の際に、作り置きの食事を三食三人分用意して渡す。
この時間指定は、勝宏が確実に眠っているであろう時間を詩絵里が提案してきたものである。
彼女にはなんだか勘違いをされているような気もするが、勝宏の件で透が気まずいと思っていることに間違いはない。
さすがに勝宏に何をしたかまでは打ち明けることは出来ないけれど、透が勝宏と顔をあわせないようにしていると把握してもらえるだけでもありがたいものだ。
さて、ダンジョン探しを始めて今日で4日目。空いているダンジョンはなかなか珍しいもののようで、ふたたび空振りの日々が続いている。
『ところで透。今日届いたゴムだけどよ』
はずれのダンジョンを抜け出して、ウィルがふと訊ねてくる。
今日は、午前中は通販の避妊具が届くのを待ってからの出立だった。
「う、うん」
『エリアスのやつのはともかく、あのアホの分はなんて言う気だ? おまえが知らないことになってるはずの、あいつのサイズぴったりのコンドーム』
言われて、血の気が引いた。
「え、あ、」
そうだった。
せめて全サイズ注文していれば、「分からなかったから全部買ったよ、合うやつ選んでね」で済ませられたものを。
なんの考えもなしに、ピンポイントで勝宏のものにフィットするサイズをひと箱取り寄せてしまっている。
今から取り寄せ直すか。
ああでも、エリアスの分が先に届いて、勝宏の分があとになるのはまずい。
今後、エリアスと勝宏が二人で話す機会ができれば、到着日時が違うことに気付かれてしまう。
「ど、どうしよう……」
ウィルは問題なく、条件に合致するダンジョンを多く見つけてきてくれる。
だが、透が一緒に転移して石版を確認しても、登録済みのダンジョンしかないのだ。
転移でダンジョンを探し回り、日が暮れたら日本に戻る。
その繰り返しだ。
今日は二日目。
午前中は一日目と同じく空振りが続いたが、昼休憩を挟んでの一発目でついに、当たりを引いた。
「ウィル、このダンジョンの所在地は地図に書ける?」
『おう。さっさとあの……エリアスだったか? あいつのとこ行って済ませようぜ』
ウィルに案内されて直接コアのフロアへ転移したため、どんなダンジョンなのかは分からなかった。
だが、改めて確認すると山奥の樹の洞から地下へ繋がるダンジョンのようである。
あらかじめ詩絵里に聞いていたエリアスの現在の拠点へ転移する。
ダンジョンの位置は、地図に丸印をつけてある。
これをエリアスに渡せば、ミッションコンプリートだ。
おつかいクエストのようなものとはいえ、飯炊きと日本への買い出し以外でようやく人の役に立つことができた。
意気揚々とエリアスが泊まっている宿の扉を開ける。
そして、そこで透を出迎えたのは……詩絵里だった。
「やっほ、透くん。ダンジョン見つかった?」
エリアスの借りている部屋で、椅子に腰掛けてパソコンをいじっていた詩絵里が軽く声を掛けてくる。
「あ、は、はい……あの……」
「ああ、私? 勝宏くんのことと、ご飯のことでちょっとね。ここで待ってれば透くんと会うだろうと思って、昨日の夜からお邪魔してるのよ」
どうしてここに。事後報告で単独行動してごめんなさい。
言おうとして出てこなかった言葉は、詩絵里が綺麗に遮った。
「とりあえず、ダンジョンの件はエリアスに先に報告してあげてちょうだい。私の話はその後ね」
エリアスなら、隣の食堂でお昼とってるはずだから。
彼女の言葉に、透は頷くしかなかった。
エリアスからの依頼のひとつはこれで完了。
彼らはこのあとギルド経由の採取依頼に出向くそうなので、エリアスの部屋はそのまま相談の場として使わせてもらうことになった。
詩絵里の話としては、こうだ。
昨日。
透が一時離脱したおかげでパーティーの食事情が非常に申し訳ないことになっていた。
尖塔には、ほとんどなんの食料も用意していなかったのである。
察しのいい彼女は、透が書いた手紙を見た時点で「勝宏くんと何かあったのね?」と一発で見抜いたそうだ。
そのうえで、一日目の食事に関して、詩絵里はクロに乗って近場で出来合いのものを買ってこよう、と提案。
だが、透がいつ戻ってくるか分からないから塔から動かない、と勝宏が拒否。
ルイーザはお金がもったいないです、と言い出した。
結局初日は、詩絵里のアイテムボックスに入っていたキッシュを食べてしのいだらしい。
「す、すみません……俺が勝手に、いなくなったせいで……」
「いいのいいの、勝宏くんとごたごたがあるのは別に悪いことじゃないじゃない。むしろ今までの関係から一歩前に進む良い機会よ」
だいたい食事については透くんに頼りすぎな私たちも悪いんだし。
透の謝罪は、からからと笑い飛ばされた。
「でもねえ、透くんが何日も不在となると、三食ともキッシュの生活が続くことになっちゃうでしょ?」
今後の方針の話し合いもなにもない。
勝宏が動かないせいで、遠出をするわけにもいかず、結局三人は塔から動かず待機を余儀なくされるというわけだ。
「ごめんなさい……その……」
「でも、ダンジョン見つかっちゃったんじゃ、単独行動する大義名分がなくなっちゃうわね」
一日距離を置いても、やっぱり勝宏に対してはまだ気まずい。
どうしようかと答えに迷っていると、詩絵里が先に口を開いた。
「透くん、あと2、3日、気持ちの整理をつけるための時間がほしいでしょ? ……じゃあ、どうかしら。私たちの拠点にするダンジョンも見つけてきてもらうっていうのは?」
「へ?」
それは、拠点の運用などを相談してからという話ではなかっただろうか。
目を瞬かせる透の疑問に、詩絵里が先回りして捕捉を入れてくれる。
「拠点の運用の仕方やコア登録の仕方は、こっちでその間、考えておくわ」
「は、はい……ありがとうございます」
「うんうん。頑張って。こういう気持ちこそ、しっかり悩んで、納得のいく答えを見つけなきゃね」
詩絵里と相談した結果、以降は毎晩深夜0時ごろに彼女へ転移で経過報告を入れることになった。
そして報告の際に、作り置きの食事を三食三人分用意して渡す。
この時間指定は、勝宏が確実に眠っているであろう時間を詩絵里が提案してきたものである。
彼女にはなんだか勘違いをされているような気もするが、勝宏の件で透が気まずいと思っていることに間違いはない。
さすがに勝宏に何をしたかまでは打ち明けることは出来ないけれど、透が勝宏と顔をあわせないようにしていると把握してもらえるだけでもありがたいものだ。
さて、ダンジョン探しを始めて今日で4日目。空いているダンジョンはなかなか珍しいもののようで、ふたたび空振りの日々が続いている。
『ところで透。今日届いたゴムだけどよ』
はずれのダンジョンを抜け出して、ウィルがふと訊ねてくる。
今日は、午前中は通販の避妊具が届くのを待ってからの出立だった。
「う、うん」
『エリアスのやつのはともかく、あのアホの分はなんて言う気だ? おまえが知らないことになってるはずの、あいつのサイズぴったりのコンドーム』
言われて、血の気が引いた。
「え、あ、」
そうだった。
せめて全サイズ注文していれば、「分からなかったから全部買ったよ、合うやつ選んでね」で済ませられたものを。
なんの考えもなしに、ピンポイントで勝宏のものにフィットするサイズをひと箱取り寄せてしまっている。
今から取り寄せ直すか。
ああでも、エリアスの分が先に届いて、勝宏の分があとになるのはまずい。
今後、エリアスと勝宏が二人で話す機会ができれば、到着日時が違うことに気付かれてしまう。
「ど、どうしよう……」
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