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章1
ヒロインはどこだ?(4)
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食事の準備を終えて戻ってくると、話は詩絵里がまとめて伝えてくれた。
素材探しやダンジョン探しはいったん保留とし、フランクの話に乗ってみようという方向で決まったらしい。
勝宏は最後まで反対していたが、それに関しては詩絵里から条件付きで持ちかけられたとある提案で納得に至ったとのこと。
出会いイベントは攻略対象全員をこなしておき、実際に狙いを定めるのはマリウスでいいようだ。
よかった。
戦闘面で問題があるかと思ったが、チームのブレーン詩絵里と乙女ゲームに詳しいルイーザが問題ないと判断したなら安心してお菓子作りに励める。
これはきっと、戦闘の際はルイーザたちも共闘できる、ということだろう。
心強い。
「詳細はパソコンにも書いてるから、そっちも好きな時に読んでね」
早速鶏もも肉の照り焼きを食べ始める詩絵里が、あっと思い出したように補足する。
彼女の視線の先には、さきほどまで使われていたノートパソコンがスリープ状態で置いてあった。
「はちみつ風味! おいしいですねー!」
「ん、んう、むぐ」
ルイーザの台詞におそらく同調してくれているのか、口いっぱいに肉と白米を詰め込んだ勝宏が頷く。
ハムスターのように膨らんだ頬には、やっぱり米粒とたれが豪快についている。
ウエットティッシュで拭ってやると、彼が驚いた表情で目を丸くした。
「ん、ぐっ! ごふっ」
気管に入っちゃったかな。
水を渡してせき込む勝宏の背中をさすっていると、どうにか落ち着いた勝宏がこちらを見上げてくる。
「透、あの……そういうの、ってさ、どんな気持ちでしてくれてる?」
「えっ、あ……ごめん、つい」
その瞬間、声が戻ってきた。視線の位置が慣れた高さに変わる。
どんな気持ちで、と言われて正直に答えるなら、幼い子供を見ている気分、というのが正しい。
たった2歳しか離れていない彼を子ども扱いしていることになる。
これまで、何の疑問も抱かず彼の食事中に水を注いであげたり口を拭いてやったりしてきたが、この子ども扱いは彼にとっては不快だったのかもしれない。
どうしよう。
なにもこんなタイミングで声が戻ってくることないだろう。
何を話せというんだ。
勝宏の皿からトッピングのレタスとトマトが一掴みずつ掠め取られていく。
犯人は向かいに座った詩絵里であるが、透の方を振り返った姿勢の勝宏は気付かない。
ついでに、詩絵里の皿からチキンが二切れ勝宏の皿に移された。
等価交換だとでも言うつもりだろうか。カロリー的には全く等価じゃないけども。
「つい、か……悪い、なんでもない。忘れて」
「ご、ごめんね。もうしないから」
「あ! いや、嬉しいよ。でもその、まだ俺望みあるかなーって思っちゃうっていうか……」
勝宏の言葉に安堵する。
嫌がられてはいなかったらしい。
自分の皿に向き直った勝宏が、なぜか減っているトマトと増えている肉の数に首を傾げつつ箸を進める。
詩絵里はというと、勝宏に問いただされない限りは秘匿を続ける心づもりのようである。
クロの分も用意して、透もようやく食卓についた。
「ん? 勝宏くん、望みがどうこうって……何かあったの?」
「うっ……。あ、あとで詩絵里には、説明する……」
犯行がバレていないことを確信した詩絵里が、改めて勝宏に話しかけてきた。
別件のようだ。
透もこれまで、例の避妊具や夜の失敗について詩絵里に個人的に相談している。
勝宏にだって、彼女にちょっとした悩み事を相談するくらいあるだろう。
詩絵里さん、頼りになるからなあ。
「えっと、ルイーザさん」
「なんですかー?」
「マリウスって人の……好きなお菓子とか、教えてもらえますか。材料、買い出ししてくるので……」
これからしばらくの間、マリウスにお菓子を貢ぎ続けることになる。
苦手なものや食べられないものを作っていってしまわないように、事前情報が必要だ。
「ゲームで主人公ちゃんが作ってたのは確か、クッキーと、パウンドケーキと、マフィンと、シュークリーム……だったはずです」
「4種類をローテーションするんですか?」
「いやあ、作中4回しかお菓子渡す場面ないのでですねー」
なるほど。
ゲーム通りに4回お菓子を渡せばクリア、となるならそれに越したことはないが、そこまでシナリオ通りである保証はない。
だが、現段階で情報が少ないのは仕方のないことだ。
もし5回分以上お菓子が必要になるなら、この4種類に使われる材料で別のお菓子を作れば大きく外すことはないだろう。
食後、食器を片付けて戻ってくると、女性メンバーは既に自分たちの部屋に帰っていた。
ノートパソコンは置いたままにしてもらっている。
椅子に腰かけてパソコンのスリープモードを解除。
話し合いの詳細を確認しなければならない。
「……透、ちょっと俺出かけてくるから」
「あ、うん……いってらっしゃい」
透が戻ってくるのとほとんど入れ替わりに、勝宏が部屋を出て行ってしまった。
二人きりになるのを、避けられている?
ふと過ぎった推測は頭を振って霧散させた。
お手伝いやちまちまとした討伐で少量の貨幣を得ているだけの透はともかく、詩絵里や勝宏たちは転生からこれまで稼いできた金貨の数が膨大だ。
避けるつもりなら同じ部屋に泊まろうとはしないだろう。
しばらく楽しいことばかり続いて、元来のネガティブ思考がなりを潜めていたはずだったが、また最近ぶり返してきている気がする。
あのダンジョンで見た真実がまだ、透の中で整理しきれていないのだ。
やめよう。
今は、フランクのことと攻略対象であるマリウスのことだ。
パソコンに表示された詩絵里の議事録に目を通す。
そこにはいつどこで誰と遭遇するのか、台詞は何を話せばいいのかなど攻略情報が詳細に書かれていて、もはやカンペかアンチョコのようだ。
これ、携帯で画面の写真撮っておけば役に立ちそう。
スマホのカメラを起動させ、全ページを写真に収めていく。
……うん?
ふと目に引っかかったページにカーソルを戻す。
これは、ええ、いいのこれ。
いいんだ……。
攻略情報の書き込まれた議事録には、端書きにて、「透が誰かに襲撃を受けそうになったら、勝宏は顔を隠せば乱入して敵を排除してよいものとする」と記載されていた。
ははあ、これか。
最後まで本件に反対していた勝宏を納得させた、「条件付きで持ちかけられたとある提案」の正体は。
顔を隠せばって、勝宏これ、どう考えてもスキル使って街中に颯爽と現れるやつじゃないかな。
乙女ゲーム、ちゃんとその体裁を保てるんだろうか。
素材探しやダンジョン探しはいったん保留とし、フランクの話に乗ってみようという方向で決まったらしい。
勝宏は最後まで反対していたが、それに関しては詩絵里から条件付きで持ちかけられたとある提案で納得に至ったとのこと。
出会いイベントは攻略対象全員をこなしておき、実際に狙いを定めるのはマリウスでいいようだ。
よかった。
戦闘面で問題があるかと思ったが、チームのブレーン詩絵里と乙女ゲームに詳しいルイーザが問題ないと判断したなら安心してお菓子作りに励める。
これはきっと、戦闘の際はルイーザたちも共闘できる、ということだろう。
心強い。
「詳細はパソコンにも書いてるから、そっちも好きな時に読んでね」
早速鶏もも肉の照り焼きを食べ始める詩絵里が、あっと思い出したように補足する。
彼女の視線の先には、さきほどまで使われていたノートパソコンがスリープ状態で置いてあった。
「はちみつ風味! おいしいですねー!」
「ん、んう、むぐ」
ルイーザの台詞におそらく同調してくれているのか、口いっぱいに肉と白米を詰め込んだ勝宏が頷く。
ハムスターのように膨らんだ頬には、やっぱり米粒とたれが豪快についている。
ウエットティッシュで拭ってやると、彼が驚いた表情で目を丸くした。
「ん、ぐっ! ごふっ」
気管に入っちゃったかな。
水を渡してせき込む勝宏の背中をさすっていると、どうにか落ち着いた勝宏がこちらを見上げてくる。
「透、あの……そういうの、ってさ、どんな気持ちでしてくれてる?」
「えっ、あ……ごめん、つい」
その瞬間、声が戻ってきた。視線の位置が慣れた高さに変わる。
どんな気持ちで、と言われて正直に答えるなら、幼い子供を見ている気分、というのが正しい。
たった2歳しか離れていない彼を子ども扱いしていることになる。
これまで、何の疑問も抱かず彼の食事中に水を注いであげたり口を拭いてやったりしてきたが、この子ども扱いは彼にとっては不快だったのかもしれない。
どうしよう。
なにもこんなタイミングで声が戻ってくることないだろう。
何を話せというんだ。
勝宏の皿からトッピングのレタスとトマトが一掴みずつ掠め取られていく。
犯人は向かいに座った詩絵里であるが、透の方を振り返った姿勢の勝宏は気付かない。
ついでに、詩絵里の皿からチキンが二切れ勝宏の皿に移された。
等価交換だとでも言うつもりだろうか。カロリー的には全く等価じゃないけども。
「つい、か……悪い、なんでもない。忘れて」
「ご、ごめんね。もうしないから」
「あ! いや、嬉しいよ。でもその、まだ俺望みあるかなーって思っちゃうっていうか……」
勝宏の言葉に安堵する。
嫌がられてはいなかったらしい。
自分の皿に向き直った勝宏が、なぜか減っているトマトと増えている肉の数に首を傾げつつ箸を進める。
詩絵里はというと、勝宏に問いただされない限りは秘匿を続ける心づもりのようである。
クロの分も用意して、透もようやく食卓についた。
「ん? 勝宏くん、望みがどうこうって……何かあったの?」
「うっ……。あ、あとで詩絵里には、説明する……」
犯行がバレていないことを確信した詩絵里が、改めて勝宏に話しかけてきた。
別件のようだ。
透もこれまで、例の避妊具や夜の失敗について詩絵里に個人的に相談している。
勝宏にだって、彼女にちょっとした悩み事を相談するくらいあるだろう。
詩絵里さん、頼りになるからなあ。
「えっと、ルイーザさん」
「なんですかー?」
「マリウスって人の……好きなお菓子とか、教えてもらえますか。材料、買い出ししてくるので……」
これからしばらくの間、マリウスにお菓子を貢ぎ続けることになる。
苦手なものや食べられないものを作っていってしまわないように、事前情報が必要だ。
「ゲームで主人公ちゃんが作ってたのは確か、クッキーと、パウンドケーキと、マフィンと、シュークリーム……だったはずです」
「4種類をローテーションするんですか?」
「いやあ、作中4回しかお菓子渡す場面ないのでですねー」
なるほど。
ゲーム通りに4回お菓子を渡せばクリア、となるならそれに越したことはないが、そこまでシナリオ通りである保証はない。
だが、現段階で情報が少ないのは仕方のないことだ。
もし5回分以上お菓子が必要になるなら、この4種類に使われる材料で別のお菓子を作れば大きく外すことはないだろう。
食後、食器を片付けて戻ってくると、女性メンバーは既に自分たちの部屋に帰っていた。
ノートパソコンは置いたままにしてもらっている。
椅子に腰かけてパソコンのスリープモードを解除。
話し合いの詳細を確認しなければならない。
「……透、ちょっと俺出かけてくるから」
「あ、うん……いってらっしゃい」
透が戻ってくるのとほとんど入れ替わりに、勝宏が部屋を出て行ってしまった。
二人きりになるのを、避けられている?
ふと過ぎった推測は頭を振って霧散させた。
お手伝いやちまちまとした討伐で少量の貨幣を得ているだけの透はともかく、詩絵里や勝宏たちは転生からこれまで稼いできた金貨の数が膨大だ。
避けるつもりなら同じ部屋に泊まろうとはしないだろう。
しばらく楽しいことばかり続いて、元来のネガティブ思考がなりを潜めていたはずだったが、また最近ぶり返してきている気がする。
あのダンジョンで見た真実がまだ、透の中で整理しきれていないのだ。
やめよう。
今は、フランクのことと攻略対象であるマリウスのことだ。
パソコンに表示された詩絵里の議事録に目を通す。
そこにはいつどこで誰と遭遇するのか、台詞は何を話せばいいのかなど攻略情報が詳細に書かれていて、もはやカンペかアンチョコのようだ。
これ、携帯で画面の写真撮っておけば役に立ちそう。
スマホのカメラを起動させ、全ページを写真に収めていく。
……うん?
ふと目に引っかかったページにカーソルを戻す。
これは、ええ、いいのこれ。
いいんだ……。
攻略情報の書き込まれた議事録には、端書きにて、「透が誰かに襲撃を受けそうになったら、勝宏は顔を隠せば乱入して敵を排除してよいものとする」と記載されていた。
ははあ、これか。
最後まで本件に反対していた勝宏を納得させた、「条件付きで持ちかけられたとある提案」の正体は。
顔を隠せばって、勝宏これ、どう考えてもスキル使って街中に颯爽と現れるやつじゃないかな。
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