人生初の友達ができたので一緒に世界救ってきます (せかます)

す!ず!は!

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章1

菓子とゴリ押しと必勝法(1)

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 フランクの言う”才能を見出されて学院への入学を許された少女”には該当しない透は、当然ながら学生にはなれない。

 裏口入学を画策しようにも、学院への入学など一朝一夕でできるものではないのだ。

 詩絵里が言うには、四人の中で、学外での接触が容易なマリウスかシャルマンを攻略対象として選ぶのは当然のことだったらしい。

 ルイーザの持つストーリー知識と、詩絵里の考察で独自に編み出されたのが、パソコンに入力されていた例の攻略方法というわけだ。

 一方、フランクにはてきとうに話を合わせることになる。

 マリウスルートに決めたことを伝えると、フランクからは入学前提のゲーム攻略情報が伝授された。

 が、これは残念ながら、そのまま実行されることはない。



 マリウスは、入学式前に町でお菓子を買う。
 時間帯は閉店間際だ。

 閉店時、最後のひとつになってしまったクッキーの詰め合わせを主人公がタッチの差で購入してしまい、マリウスはお菓子を手に入れ損ねる。

 ゲーム通りならここで主人公が、「クッキーお好きなんですか?」と声をかけ、よかったらどうぞ、と買ったばかりのクッキーを譲る。



 しかし、入学できず、コミュニケーション能力もなく、そもそも声が出せない透にはそれが非常に難易度の高いミッションとなる。

 というわけで、詩絵里が考えた代替案が次の通りである。



 まず、菓子屋にルイーザが交渉。

 夕方から閉店までの短時間だけ、透が作ったクッキーを店に置いてもらう。

 そして、店で売っているお菓子類を詩絵里が買い占める。

 透の作ったクッキーだけが店で売れ残っている状態にするのだ。

 マリウスがやってきて、透のクッキーを買う。

 店から出てきたところで、ルイーザと一緒に声をかける――。



「あ! そのクッキー、買ってくださったんですねー!」

「……なんだ、君たちは?」

 目当てのお菓子を手に入れたマリウスが、いきなり声をかけてきたルイーザに胡乱げな目を向けた。

「それ、この子――透さんが作ったクッキーなんです。でも買ってくれる人がいなくて……。味はいいと思うんですけど、どうして売れないんでしょうか。食べてみてくれませんか?」

 マリウスのキャラクター設定上、彼は謎をとことん追求するタイプだ。

 イメージを保つため、人前でお菓子を食べることを避けている彼にこう問いかければ、マリウスはこの場で実食する大義名分が得られることになる。

 案の定マリウスは、包みを開けてクッキーを一枚口に運んだ。

「あの店のものより格段に美味いぞ。市販の粉っぽさがない。食感も柔らかく、なめらかな舌触りの素材が入っているな」

「それチョコチップですね」

「この味で売れないのだとしたら、入れ物か、価格か、宣伝力の問題だろう」

 包装は、この世界で一般的な木箱入りではなく、日本で用意した包装である。

 ビニールで包み、英字新聞のデザインに似せられた包装紙を挟んでいる。

 まあいわゆる、女子高生が学校に持ってくる手作りバレンタインクッキーの様相をしているのだ。

 ひとつも手に取ってもらえなかったのは単純に詩絵里が買い占めと見張りを続けていたからだが、その事実を知らなければ入れ物や宣伝に原因があると考えるのは当然である。

「そうですかー。あの、透さんはお菓子を発明、開発するのが好きなんです。ほかにもたくさん作ってるんですけど、お店に並べてもらう前にもっとよく考えた方がいいですね」

 見た目が少女になれても声が出せない透は、そのまま会話をルイーザに任せる。

「そうだ! よかったら、これから透さんのお菓子を食べて、それぞれどういう売り出し方をすれば効果的か、作戦を考えてくれませんか?」

 本題はこれ。

 学校に入り込むことができない代わりに、頻繁に会う機会を無理やり作るのが目的である。

 これが成功しない場合は、透は問答無用でシャルマンルート行き。

 狂愛と監禁の恐怖に怯えながら墓場まで会いに行かねばならない。

「……味は、悪くないんだ。自信を持て」

 二人の話をはらはら見つめていた透は、マリウスには不安そうに映ったらしい。

 出会って間もないというのに励まされてしまった。
 いい人だ。

「いいだろう。定期的に僕の屋敷に届けに来るなら、無報酬で協力してやる」

 マリウスの返事を聞いたルイーザの笑みは、完全に、商売の際にまいどありーです、と言う時の表情だった。



 第一関門はクリア。

 宿に戻って、詩絵里が買い占めたこの街のお菓子を食べながら再び打ち合わせだ。

「ウチの村にはお菓子なんてまず無かったけど、食べたら食べたでなーんかイマイチね」

「どうしても透さんの作るものや日本製品と比べちゃいますよねえ」

 クロと勝宏が大量に持っていくので、買い占めたお菓子は彼女たちが無理をして片付ける必要はない。

 ちなみに勝宏による護衛は本日からついていたようで、今日は店の屋根の上に待機していたそうだ。

「これと比べたら、透くん、何作っても胃袋掴めるわよ」

「いうことなしですね。ゲームシナリオでいうなら、次にお菓子を渡すのはお弁当イベントの時なんですけど……学生さんとランチ時に会うのは難しいので、日付だけ合わせて普通にお家突撃しちゃいましょう」

 詩絵里お手製の攻略方法にも記載されていた通り。
 特に変更はないようである。

「そういえば、攻略方法まとめてて気になったんだけど……ツンデレヤンキーのグレンが花をあげようとしていた病人と、ヤンデレ監禁シャルマンの、病で亡くなる予定の母親って同一人物?」

「ですです。最後のスチルでお墓に刻まれた名前がちろっと映ってて、それで判明するんですよお」

「なんの病気かしらね。伝染病だったらまた面倒だけど」

「んー、なんか回想シーンでげほげほしてる描写はありましたが……」

 小説や漫画などで病人をげほげほさせるのは、定番の描写といっていい。
 それだけで病気を特定するのは無理がある。

「案外日本の市販薬で治っちゃったりするかもですねー」
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