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章1
菓子とゴリ押しと必勝法(3)
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「それ、薬合ってないんじゃないかしら」
あのあと、シェリアともう少し話して状況を聞き出した。
万能薬だという神の薬――日本の市販錠剤を買い求め、転売されまくって高額になったそれを飲み続けたところ、容態は回復に向かうどころか悪化してしまっているようだ。
携帯のムービーで録画された映像と音声を聞きながら、詩絵里が手元で錠剤を転がしている。
「いやね、日本の知り合いの話なんだけど。
ただの扁桃腺炎だと思って薬飲んでたら実は別の病気で、効かない薬を長期間ひたすら飲み続けた結果、肝臓やられちゃって即入院になった子がいたのよね」
初期なら市販薬でどうとでもなる症状だったにも関わらずよ、と彼女が続けた。
「ほら、風邪にもいろいろあるでしょ? 私も薬学方向はあんまり詳しくないけど、たとえば心臓が弱い人は気管支を広げる成分がダメだから、その成分が含まれてない風邪薬を選ばないといけないし……」
「もう何か月も飲み続けてるって話でしたし、なんかそれっぽい気配がしますね……解析はできそうですか?」
「まあ、ざっくりとだけど。これ風邪薬ね。詳細はもうちょっと時間かかりそうだから、しばらく私が持ってていい?」
それについては異論はない。彼女が持っていた方が都合がいいだろう。
「あの……」
「なに透くん?」
「す、すみません……反対では、ないんですけど、どうしてフランクさんに協力する方針になったんでしょうか……?」
話し合いの際、食事の用意をしていた透は肝心な点を聞きそびれていた。
PCにまとめられた資料にもそれらしき記載はなく、単純にフランクから逃げてしまうと転生者ゲーム関係でまずい展開になるんだろうか、くらいにしか考えていなかったのである。
だが、ここまでしっかり乙女ゲームに関わろうとするからには、何か別の理由がありそうだ。
「あ、透くんはあの時いなかったわね。ごめんね、私たちの探している”賢者の石”――ルイーザが言うには、フランクの乙女ゲームにおける課金アイテムの名前が”賢者の石”だったらしいのよ」
「アイテムっていうかー、厳密にはガチャ石ですね。賢者の石300個でガチャ単発でした。1個1円相当の課金になります」
「それでね、無課金勢は、章を1つクリアするたびに賢者の石50個が入手できる設定だったの」
詩絵里の説明にルイーザの補足が入る。
実際に賢者の石が手に入るかどうかは分からないが、試す価値はある、というわけだ。
「どこからどこまでが1章だったかちょっと覚えてないんですけど、攻略対象と初めてキスした時、スタンピードをクリアした時、元凶を捕まえた時、この3か所では間違いなく賢者の石50個入手できてたはずなんで――」
なるほど、メモを取っておこう。
ルイーザの言葉を要点だけ書き留めていると、彼女の言葉を途中で遮って勝宏が悲鳴を上げた。
「ちょ、おい! ルイーザ、俺それ聞いてないぞ!」
「え? 言いましたよ? 元凶捕まえたら50個……」
「違う! き、キス……すんの……?」
「ですね。乙女ゲームですから」
そっちは言ってませんでしたっけ、とルイーザが首をかしげている。
あの人とキスすることになるかもしれないのか。
透としては、既に見知らぬ男数人に強姦されかけたり、寝ている勝宏のものをつい舐めたりしてしまったあとである。
今更ファーストキスがどうこう言うつもりもないので、別に構わない。
それでも勝宏は透を気遣ってくれているらしく、真っ青になってルイーザと言い合いを続けている。
二人を横目に、詩絵里が透に手招きで耳打ちしてきた。
「ちょっと揉めそうね……」
いや、もう揉めてませんか?
「透くん、別の話になるんだけど。勝宏くんのことどう思ってる?」
「ど、どうって……?」
「まだ好き?」
別の話とは前置きされたが、唐突すぎる。
本当のところは、この世界の裏側のことや住民が皆架空の人物であることなど、いろんなものが絡み合っていてもう透には分からない。
けれど、世界の裏側の話なんて、打ち明けられもしないものを挟み込むわけにもいかない。
あの日見たすべてをなかったことにできるなら、透の答えは間違いなくイエスだ。
「は……はい」
「そう。じゃあやっぱり勝宏くんの勘違いね」
なんのための確認作業だったのだろう。
それ以上詩絵里から話があるでもなく、彼女は再び回収した”神の薬”――もとい、市販の風邪薬をステータス画面越しに観察し始めた。
「あの……?」
「ああ、気にしないで、とりあえず透くんは、今夜マリウスの攻略。引き続きよろしくね」
「頑張ります」
母親であるシェリアとかかわってしまったため、ひょっとするとシャルマンとは一度は会うことになるかもしれない。
だが、現段階ではデヴィッドと接触の予定はないのだ。
ひとまず、シェリアの薬の件とマリウスの攻略にだけ注力していればいいことになる。
シェリアの薬については詩絵里に任せ、透は次にマリウスへ渡すお菓子の準備だ。
そして約束通り、その日の夜はマリウスの自宅を訪問した。
マリウスに関しては、必要なのはあくまでも「攻略」である。
恋愛関係に至らせるにあたって、第三者、それも女性であるルイーザがついていくわけにはいかない。
今夜は透一人でマリウスに会う。
事前にメモ帳に、こちらの世界の文字で”すみません、ルイーザは所用のため来ていません”、それから”自分は喋れません”と用意しておき、いざ攻略対象のもとへ。
勝宏は今夜もやはり、陰で護衛に回ってくれているようだ。
マリウスからは、屋敷を訪れる際は裏口へ回れと言われている。
言いつけの通りに裏口へ向かうと、使用人ではなく彼自身が出迎えてくれた。
「トール、だったな。入れ。この時間に女を連れ込んだとあっては父に何を言われるか分からないからな……すまないが、たいしたもてなしはできないぞ」
どうやら、直接彼の部屋に案内されるらしい。
あのあと、シェリアともう少し話して状況を聞き出した。
万能薬だという神の薬――日本の市販錠剤を買い求め、転売されまくって高額になったそれを飲み続けたところ、容態は回復に向かうどころか悪化してしまっているようだ。
携帯のムービーで録画された映像と音声を聞きながら、詩絵里が手元で錠剤を転がしている。
「いやね、日本の知り合いの話なんだけど。
ただの扁桃腺炎だと思って薬飲んでたら実は別の病気で、効かない薬を長期間ひたすら飲み続けた結果、肝臓やられちゃって即入院になった子がいたのよね」
初期なら市販薬でどうとでもなる症状だったにも関わらずよ、と彼女が続けた。
「ほら、風邪にもいろいろあるでしょ? 私も薬学方向はあんまり詳しくないけど、たとえば心臓が弱い人は気管支を広げる成分がダメだから、その成分が含まれてない風邪薬を選ばないといけないし……」
「もう何か月も飲み続けてるって話でしたし、なんかそれっぽい気配がしますね……解析はできそうですか?」
「まあ、ざっくりとだけど。これ風邪薬ね。詳細はもうちょっと時間かかりそうだから、しばらく私が持ってていい?」
それについては異論はない。彼女が持っていた方が都合がいいだろう。
「あの……」
「なに透くん?」
「す、すみません……反対では、ないんですけど、どうしてフランクさんに協力する方針になったんでしょうか……?」
話し合いの際、食事の用意をしていた透は肝心な点を聞きそびれていた。
PCにまとめられた資料にもそれらしき記載はなく、単純にフランクから逃げてしまうと転生者ゲーム関係でまずい展開になるんだろうか、くらいにしか考えていなかったのである。
だが、ここまでしっかり乙女ゲームに関わろうとするからには、何か別の理由がありそうだ。
「あ、透くんはあの時いなかったわね。ごめんね、私たちの探している”賢者の石”――ルイーザが言うには、フランクの乙女ゲームにおける課金アイテムの名前が”賢者の石”だったらしいのよ」
「アイテムっていうかー、厳密にはガチャ石ですね。賢者の石300個でガチャ単発でした。1個1円相当の課金になります」
「それでね、無課金勢は、章を1つクリアするたびに賢者の石50個が入手できる設定だったの」
詩絵里の説明にルイーザの補足が入る。
実際に賢者の石が手に入るかどうかは分からないが、試す価値はある、というわけだ。
「どこからどこまでが1章だったかちょっと覚えてないんですけど、攻略対象と初めてキスした時、スタンピードをクリアした時、元凶を捕まえた時、この3か所では間違いなく賢者の石50個入手できてたはずなんで――」
なるほど、メモを取っておこう。
ルイーザの言葉を要点だけ書き留めていると、彼女の言葉を途中で遮って勝宏が悲鳴を上げた。
「ちょ、おい! ルイーザ、俺それ聞いてないぞ!」
「え? 言いましたよ? 元凶捕まえたら50個……」
「違う! き、キス……すんの……?」
「ですね。乙女ゲームですから」
そっちは言ってませんでしたっけ、とルイーザが首をかしげている。
あの人とキスすることになるかもしれないのか。
透としては、既に見知らぬ男数人に強姦されかけたり、寝ている勝宏のものをつい舐めたりしてしまったあとである。
今更ファーストキスがどうこう言うつもりもないので、別に構わない。
それでも勝宏は透を気遣ってくれているらしく、真っ青になってルイーザと言い合いを続けている。
二人を横目に、詩絵里が透に手招きで耳打ちしてきた。
「ちょっと揉めそうね……」
いや、もう揉めてませんか?
「透くん、別の話になるんだけど。勝宏くんのことどう思ってる?」
「ど、どうって……?」
「まだ好き?」
別の話とは前置きされたが、唐突すぎる。
本当のところは、この世界の裏側のことや住民が皆架空の人物であることなど、いろんなものが絡み合っていてもう透には分からない。
けれど、世界の裏側の話なんて、打ち明けられもしないものを挟み込むわけにもいかない。
あの日見たすべてをなかったことにできるなら、透の答えは間違いなくイエスだ。
「は……はい」
「そう。じゃあやっぱり勝宏くんの勘違いね」
なんのための確認作業だったのだろう。
それ以上詩絵里から話があるでもなく、彼女は再び回収した”神の薬”――もとい、市販の風邪薬をステータス画面越しに観察し始めた。
「あの……?」
「ああ、気にしないで、とりあえず透くんは、今夜マリウスの攻略。引き続きよろしくね」
「頑張ります」
母親であるシェリアとかかわってしまったため、ひょっとするとシャルマンとは一度は会うことになるかもしれない。
だが、現段階ではデヴィッドと接触の予定はないのだ。
ひとまず、シェリアの薬の件とマリウスの攻略にだけ注力していればいいことになる。
シェリアの薬については詩絵里に任せ、透は次にマリウスへ渡すお菓子の準備だ。
そして約束通り、その日の夜はマリウスの自宅を訪問した。
マリウスに関しては、必要なのはあくまでも「攻略」である。
恋愛関係に至らせるにあたって、第三者、それも女性であるルイーザがついていくわけにはいかない。
今夜は透一人でマリウスに会う。
事前にメモ帳に、こちらの世界の文字で”すみません、ルイーザは所用のため来ていません”、それから”自分は喋れません”と用意しておき、いざ攻略対象のもとへ。
勝宏は今夜もやはり、陰で護衛に回ってくれているようだ。
マリウスからは、屋敷を訪れる際は裏口へ回れと言われている。
言いつけの通りに裏口へ向かうと、使用人ではなく彼自身が出迎えてくれた。
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