人生初の友達ができたので一緒に世界救ってきます (せかます)

す!ず!は!

文字の大きさ
124 / 193
章1

君を守る力(1)

しおりを挟む
 攻略のためマリウスの家に通うのは、基本的に夜間だ。

 このまますべてうまく事が運べば、賢者の石は手に入る。

 すると足りない素材はあと世界樹の種とエリクサーとギベオンの三つである。

 詩絵里たちに相談して、透は日中、コア未登録ダンジョンをウィルとともに探すこととなった。

『このあたりだと、出入り口の存在しないフロアはあと二か所だな』

「うん、お願い」

『いいけどよ、おまえがダンジョン探しに必死になる必要はないんじゃねえか』

 エリアスの時、比較的簡単に見つかったのは運が良かったのかもしれない。

 だが、ダンジョン探しは透だからできること。
 ちょっと見つからないからといってあきらめるわけにはいかない。

 意気込んでいると、ウィルが「まさかとは思うが」と詰め寄ってくる。

『透おまえ、あいつらとこっちに住む気じゃねえだろうな』

 つい昨晩考えていたことをそっくりそのまま言い当てられてしまった。

「それは……その」

 まだそうと決めたわけではない。
 自分がこちらの世界に居たい理由のほとんどは勝宏で、彼には別に想いを寄せる女性がいる。

 その人が転生者なのかこの世界の住民なのかは分からないけれど、できることなら、以前詩絵里が話していたような「ダンジョンに村をまるごと格納してダンジョン村を作る」方向でその女性も勝宏もダンジョンに住んでほしい。

 勝宏たちが暮らす隣に家を用意して、そこで寝泊まりすれば毎日でも会うことができる。

 偽りの世界といっても日本と同じように時間が流れ、転生者たちは年齢を重ねている。
 きっと透がここにとどまれば、時を同じくして生きていくことができるだろう。

 ただ、勝宏の意中の女性がダンジョン暮らしを良しとしなかった場合。
 こればっかりは透にはどうしようもない。

 お隣さんとして一緒にいたい気持ちはあっても、安全と言い切れない外の世界で生活していれば、少なからず透はカルブンクやセイレンの力にも頼ることになる。

 すると一時的とはいえ透の見た目は女になってしまうのだ。

 見知らぬ女が周りをうろついていたら、さすがに良い気分はしないだろう。

『いいか透。この世界はアリアルの”巣”だ。間違いなく、アリアルに協力している人間もいる。そいつが外からこの世界のデータを削除してみろ、中にいるおまえはどうなる』

 データの削除。

 あえて考えないようにしていた可能性を言葉にされ、ダンジョン内を歩いていた透の足が止まる。

『転生者が入り込めないダンジョンを手に入れたところで、この世界が他人の手に握られていることに変わりはねえんだよ。俺としてはさっさとここを出ろと言いたいが――』

「勝宏たちを置いていくなんてできないよ」

 この世界の元になるデータが削除されたら。
 もしウィルの転移が間に合わなければ、透は命を落とすことになるのかもしれない。

 だが、ウィルの力でもこの世界から脱出できない勝宏たちはどうなる。
 消滅する以外に道がないだろう。

 身動きの取れない勝宏たちにとって、それは「5分後の未来に世界中の核爆弾が爆発するとしたら」……とでもいうような、途方もない話なのだ。

『ったく妙なところで頑固だよな、おまえもよ』

 次に頭に響いたのは、ウィルの呆れ声だった。

 自分の考えが柔軟とは言いにくいことは理解しているつもりだけれど、頑固な人って他にいたかな。

『アリアルにとって、透、おまえは極上の餌だ。データを削除する前に、必ずおまえを捕食する手段を考えてくる。……それまでに、身の振り方を考えろよ』

 それはつまり、透がアリアルという悪魔によって殺されるまではこの世界が消されてしまうこともない、ということの裏返しだ。

 だとしたら、透がアリアルを追い払えるほどの力を持てば、勝宏たちは消えずに済むのかもしれない。

『おい、二つ目行くぞ』

「わかった」

 強くなりたい。

 皆の足手まといにならないように、じゃなくて。もっと明確な、力が欲しい。



 昨晩と同じ時間。

 適度に魔法を撃って見た目を女の子に変え、お菓子を用意してマリウスの元へ向かうと、彼はやはり周囲を気にしながら部屋の中に招き入れてくれた。

「来たか。昨晩はすまなかったな、商談の話になってしまって」

 大丈夫です。
 メモ帳に一言書き込んでみせる。

「チョコレートの件は、いずれ君の家に日を改めて、僕から交渉を持ち掛けることにしよう。もちろん日中に伺うよ」

 それは困る。透は現在、詩絵里たちとともに宿暮らしである。
 この街に実家があるわけではない。

 少し悩んで、メモ帳に言い訳を綴る。

「なに……君は、実家を出てきたのか。ではケーキやクッキーに使ったチョコレートは……?」

 少量であれば、自分で用意できます。

 マリウスは透が書き込むメモ帳を食い入るようにのぞき込んでいる。

「なるほど。ではやはり、君とは直接取引を――ああ、いや、そうだな……」

 透が持参したお菓子に手をつけることさえなく、マリウスが昨晩と同じような商談の話を展開し始めた。

 これは、ひょっとして今日も進展なしかな。
 考え込むマリウスを苦笑で見つめていると、ふいに彼から両肩を掴まれた。

「トール。君は、僕と結婚する気はないか?」

 プロポーズ?

 ルイーザから聞いていたシナリオの流れと大幅に違う。

 プロポーズされるのはもっと後、四つ目のお菓子を彼に渡して、一緒に魔法研究を頑張ろうと約束するシーンのはずである。

 これでは、お菓子は手元にある三つ目さえ日の目を見ないことになってしまう。

 最大の目的である、クリア報酬の賢者の石はどうなるんだろう。

「僕は姉上の目を治すため、魔法技術を磨いて研究にも打ち込んできた。姉上の目を無事に治療することができれば、君の声も取り戻すと誓おう」

 混乱している透に畳みかけるように、マリウスが迫ってくる。これでは、メモ帳へプロポーズに対する返事を書き込むことすらできない。

 どうしよう、というところで、マリウスの肩越しにぬっと人影が現れた。

 勝宏。

 いつの間にか屋敷の中に侵入してきていた彼は、マリウスの首に手刀を叩き込んだ。

 いや、勝宏の力でそれは、死にませんか?
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

転生したらBLゲームのホスト教師だったのでオネエ様になろうと思う

ラットピア
BL
毎日BLゲームだけが生き甲斐の社畜系腐男子凛時(りんじ)は会社(まっくろ♡)からの帰り、信号を渡る子供に突っ込んでいくトラックから子供を守るため飛び出し、トラックに衝突され、最近ハマっているBLゲームを全クリできていないことを悔やみながら目を閉じる。 次に目を覚ますとハマっていたBLゲームの攻略最低難易度のホスト教員籠目 暁(かごめ あかつき)になっていた。BLは見る派で自分がなる気はない凛時は何をとち狂ったのかオネエになることを決めた オチ決定しました〜☺️ ※印はR18です(際どいやつもつけてます) 毎日20時更新 三十話超えたら長編に移行します メインストーリー開始時 暁→28歳 教員6年目 凛時転生時 暁→19歳 大学1年生(入学当日) 訂正箇所見つけ次第訂正してます。間違い探しみたいに探してみてね⭐︎ 11/24 大変際どかったためR18に移行しました 12/3 書記くんのお名前変更しました。今は戌亥 修馬(いぬい しゅうま)くんです

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? 夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)は、見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!?
幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良ワーウルフの悪友(同級生)まで……なぜかイケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない!恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!?
甘くて可笑しい、異世界学園BLラブコメディ! 毎日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

溺愛の加速が尋常じゃない!?~味方作りに全振りしたら兄たちに溺愛されました~

液体猫(299)
BL
毎日AM2:10分に予約投稿。   【《血の繋がりは"絶対"ではない。》この言葉を胸にクリスがひたすら愛され、大好きな兄と暮らす】  アルバディア王国の第五皇子クリスは冤罪によって処刑されてしまう。  次に目を覚ましたとき、九年前へと戻っていた。    巻き戻す前の世界とは異なるけれど同じ場所で、クリスは生き残るために知恵を振り絞る。  かわいい末っ子が過保護な兄たちに可愛がられ、溺愛されていく。  やり直しもほどほどに。罪を着せた者への復讐はついで。そんな気持ちで新たな人生を謳歌する、コミカル&シリアスなハッピーエンド確定物語。  主人公は後に18歳へと成長します(*・ω・)*_ _)ペコリ ⚠️濡れ場のサブタイトルに*のマークがついてます。冒頭のみ重い展開あり。それ以降はコミカルでほのぼの✌ ⚠️本格的な塗れ場シーンは三章(18歳になって)からとなります。

処理中です...