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章1
君を守る力(4)
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頼まれたものの買い出しを済ませ、宿に転移で戻ってくると、ちょうどルイーザが帰ってきていたところだった。
女性部屋で休むのではなく、透と勝宏の男部屋に集まっている。
彼女は確かシナリオ通りに敵のアジトが存在するかどうかを確認しに行っていたはずだが、何かあったのだろうか。
「おかえりなさい透さん! よかった、透さんまだ拉致られてませんでしたね」
透の顔を見るなり、ルイーザはほっと安堵の息をもらした。
詩絵里に視線を向けると、彼女が状況の説明を買って出てくれる。
「どうもね、マリウスルートのシナリオが急ピッチで進んじゃったみたいなの」
話の流れを説明すると、こうなる。
アジトが実在することを確認したルイーザは、内部の構造も知識通りになっているか確認のため一度アジトの中にまで潜入したのだそうだ。
透としては、一人でよくそんな思い切ったことができるなあと思ったが、それはさておき。
そこで彼女が見たものは、アジトの中で流れる外部の監視映像――マリウスとデヴィッドが、二人だけで武装してアジトに向かっている様子だった。
ヒロイン抜き、攻略対象のみで武装してアジトに乗り込むのは、シナリオ上ではヒロインが誘拐されてしまったあとの話である。
何かの手違いがあって透が早めに誘拐されてしまったのでは、と考えたルイーザは、慌てて宿まで引き返してきた――ということらしい。
「マリウスたちの行動から考えると、たぶん勝宏くんが変身した姿を見られたわね。
マリウスの部屋に、監視カメラみたいなものでも置かれていたんでしょう。
音声までは録れなかったか聞こえなかったかで、透くんは仮面の男に無理やり連れ去られてしまった、っていう解釈になった、と」
「あー……だったらあれですね。
スタンピードを起こそうとしている連中は女の子の誘拐もたびたびおこなっていた、という設定だったはずなので、マリウスがそれをなんでか知っていたから今回の件と結び付けられた……って感じですね」
「勝宏くんに顔を隠して助けろって言い置いたのは、間違えてデヴィッドルートあたりに入りかけた場合に取り戻せるように、だったんだけど……裏目に出ちゃったわね」
薬を渡しに行くどころの話ではなくなってしまった。
手に持ったままだったドラッグストアのビニール袋を机に置く。
「あでも、透さんが無事ならまあ、やりようはあるんじゃないですかね」
普段作戦提案は詩絵里に任せきりのルイーザが、珍しく口を開いた。
「私と詩絵里さんが、透さんを連れて安全に悪役側につけばいいんです」
それを聞いて、詩絵里がなるほど、と唸る。
「マリウスにとって敵と認識されているのは、勝宏くんが変身できる複数のヒーローのうちの1キャラだけ。
日本でそのキャラのお面か何かを用意して、それを私とルイーザがかぶって敵側に回れば、まあ話としては成り立つわね」
「俺は何すればいいんだ?」
「透くんのことは私たちで守れるわ。
その間、勝宏くんはマリウスたちと一緒に行動してあげて。
気分は「主人公たちを助太刀する謎の追加戦士」って感じでお願いね。できるでしょ?」
ルイーザの作戦に詩絵里がうまく補足していった。
勝宏の問いにも、彼女が答える。
「ああ……」
「勝宏さんがスキル使って変身する時は、透さんを連れ去った時のとは別のヒーローになればいいんです。
できる限りこの世界の騎士っぽい装甲のやつがいいかもですね」
「三人で組織を叩くのよ。わかったわね?」
夜使ったのとは別の……と、勝宏が頭をひねりながらステータス画面を確認しはじめる。
「あの……詩絵里さんたちは大丈夫なんですか?」
透は最悪の場合、ウィルに頼んで転移すればどのような状況からでも脱出できる。
だが、付き添いに来る詩絵里とルイーザはそうもいかない。
彼女たち自身の防衛策が薄い気がする。
「これがあるわ」
心配は無用とばかりに、透の疑問にはスマホが掲げられた。
詩絵里がアイテムボックスから取り出したそれは、あまり思い出したくない記憶のものである。
「あ、それ確か……前、女の子をスマホで召喚してた転生者の……?」
彼女の見せたスマホに、勝宏が反応する。
「ガチャスキル転生者の所持品ね。
これに関しては調べ終えたわ。スキルを持っていなくても、既にガチャで入手済みになっているキャラクターは呼び寄せられる……ガチャや強化はスキルがないとできないみたいだけどね」
なるほど、呼び寄せたキャラクターは何度でも召喚が可能。
召喚したキャラクターたちに詩絵里やルイーザを守らせて、透はさらにその後ろに下がって粛々と人質役を演じればいいわけだ。
「この子らを戦力として使って、私たちは敵のアジトに”仲間になりたい”というていで入り込むの」
「じゃあ透さん、帰ってきたばかりで申し訳ないんですけど、さっそく日本でヒーローもののお面を買ってきてください。
できれば勝宏さんが透さんを連れ去った時のヒーロー番組のやつを……私と詩絵里さんの二人分でだいじょぶです」
「わ、わかりました……」
ひととおり説明が済んだあたりで、透は改めてルイーザからおつかいを受けることになった。
「私とルイーザは、倒される時に転移のマジックアイテムを使ってこの宿に脱出するわ。
念のため、この間のイベント報酬で手に入れたリセットリングも装備していくから、気にせず戦ってちょうだい」
「了解」
「……あ、勝宏さんにアイテムボックスの中身全部預けていきますね!」
リセットリング使用する時になくなっちゃったら困るんで、と、ルイーザが商人の顔でぐっとサムズアップした。
女性部屋で休むのではなく、透と勝宏の男部屋に集まっている。
彼女は確かシナリオ通りに敵のアジトが存在するかどうかを確認しに行っていたはずだが、何かあったのだろうか。
「おかえりなさい透さん! よかった、透さんまだ拉致られてませんでしたね」
透の顔を見るなり、ルイーザはほっと安堵の息をもらした。
詩絵里に視線を向けると、彼女が状況の説明を買って出てくれる。
「どうもね、マリウスルートのシナリオが急ピッチで進んじゃったみたいなの」
話の流れを説明すると、こうなる。
アジトが実在することを確認したルイーザは、内部の構造も知識通りになっているか確認のため一度アジトの中にまで潜入したのだそうだ。
透としては、一人でよくそんな思い切ったことができるなあと思ったが、それはさておき。
そこで彼女が見たものは、アジトの中で流れる外部の監視映像――マリウスとデヴィッドが、二人だけで武装してアジトに向かっている様子だった。
ヒロイン抜き、攻略対象のみで武装してアジトに乗り込むのは、シナリオ上ではヒロインが誘拐されてしまったあとの話である。
何かの手違いがあって透が早めに誘拐されてしまったのでは、と考えたルイーザは、慌てて宿まで引き返してきた――ということらしい。
「マリウスたちの行動から考えると、たぶん勝宏くんが変身した姿を見られたわね。
マリウスの部屋に、監視カメラみたいなものでも置かれていたんでしょう。
音声までは録れなかったか聞こえなかったかで、透くんは仮面の男に無理やり連れ去られてしまった、っていう解釈になった、と」
「あー……だったらあれですね。
スタンピードを起こそうとしている連中は女の子の誘拐もたびたびおこなっていた、という設定だったはずなので、マリウスがそれをなんでか知っていたから今回の件と結び付けられた……って感じですね」
「勝宏くんに顔を隠して助けろって言い置いたのは、間違えてデヴィッドルートあたりに入りかけた場合に取り戻せるように、だったんだけど……裏目に出ちゃったわね」
薬を渡しに行くどころの話ではなくなってしまった。
手に持ったままだったドラッグストアのビニール袋を机に置く。
「あでも、透さんが無事ならまあ、やりようはあるんじゃないですかね」
普段作戦提案は詩絵里に任せきりのルイーザが、珍しく口を開いた。
「私と詩絵里さんが、透さんを連れて安全に悪役側につけばいいんです」
それを聞いて、詩絵里がなるほど、と唸る。
「マリウスにとって敵と認識されているのは、勝宏くんが変身できる複数のヒーローのうちの1キャラだけ。
日本でそのキャラのお面か何かを用意して、それを私とルイーザがかぶって敵側に回れば、まあ話としては成り立つわね」
「俺は何すればいいんだ?」
「透くんのことは私たちで守れるわ。
その間、勝宏くんはマリウスたちと一緒に行動してあげて。
気分は「主人公たちを助太刀する謎の追加戦士」って感じでお願いね。できるでしょ?」
ルイーザの作戦に詩絵里がうまく補足していった。
勝宏の問いにも、彼女が答える。
「ああ……」
「勝宏さんがスキル使って変身する時は、透さんを連れ去った時のとは別のヒーローになればいいんです。
できる限りこの世界の騎士っぽい装甲のやつがいいかもですね」
「三人で組織を叩くのよ。わかったわね?」
夜使ったのとは別の……と、勝宏が頭をひねりながらステータス画面を確認しはじめる。
「あの……詩絵里さんたちは大丈夫なんですか?」
透は最悪の場合、ウィルに頼んで転移すればどのような状況からでも脱出できる。
だが、付き添いに来る詩絵里とルイーザはそうもいかない。
彼女たち自身の防衛策が薄い気がする。
「これがあるわ」
心配は無用とばかりに、透の疑問にはスマホが掲げられた。
詩絵里がアイテムボックスから取り出したそれは、あまり思い出したくない記憶のものである。
「あ、それ確か……前、女の子をスマホで召喚してた転生者の……?」
彼女の見せたスマホに、勝宏が反応する。
「ガチャスキル転生者の所持品ね。
これに関しては調べ終えたわ。スキルを持っていなくても、既にガチャで入手済みになっているキャラクターは呼び寄せられる……ガチャや強化はスキルがないとできないみたいだけどね」
なるほど、呼び寄せたキャラクターは何度でも召喚が可能。
召喚したキャラクターたちに詩絵里やルイーザを守らせて、透はさらにその後ろに下がって粛々と人質役を演じればいいわけだ。
「この子らを戦力として使って、私たちは敵のアジトに”仲間になりたい”というていで入り込むの」
「じゃあ透さん、帰ってきたばかりで申し訳ないんですけど、さっそく日本でヒーローもののお面を買ってきてください。
できれば勝宏さんが透さんを連れ去った時のヒーロー番組のやつを……私と詩絵里さんの二人分でだいじょぶです」
「わ、わかりました……」
ひととおり説明が済んだあたりで、透は改めてルイーザからおつかいを受けることになった。
「私とルイーザは、倒される時に転移のマジックアイテムを使ってこの宿に脱出するわ。
念のため、この間のイベント報酬で手に入れたリセットリングも装備していくから、気にせず戦ってちょうだい」
「了解」
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