人生初の友達ができたので一緒に世界救ってきます (せかます)

す!ず!は!

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章1

推しの居る世界こそ楽園(1)

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 道案内をしながらのバイク旅は、途中何度か休憩をはさんで一時間ほど続いた。

 休憩時は日本から飲み物を用意してきて、とりとめない話をして過ごす。

 どんな話でも彼が語ってくれるならそれで十分だが、とくに興味深いと思ったのは勝宏がこちらの世界で転生者ゲームに参加するようになってから、透と会うまでの一人旅の話だ。

 なにも重要な情報があるというわけではない。

 食べられる木の実の話や、虹色の鱗粉を持つ蝶の話。

 そこにあるはずなのになぜか裏側に通り抜けられる木の洞の話。

 はちみつをとろうとして蜂型の魔物に刺された話。
 刺された時はしょんべんかけるといい、っていうのはちょっと反応に困った。

 彼の冒険譚を聞きながら、最初から一緒に旅をできていればきっとこんな感じだった、なんて頭の中の勝宏の隣に自分を置いてみる。

 何をするにしても足手まといで、きっと今のように迷惑ばかりかけただろうけれど。

 想像の中の勝宏も、いまこうして話を聞かせてくれている勝宏も、楽しそうに笑っている。

「でもさ、拠点見つかってよかったな!」

「う、うん」

「これで透は、こっちに居ても安全な場所ができるわけだろ。詩絵里も言ってたけど、ダンジョンの中で透の店出すのもアリだよな」

 そういえば、詩絵里がそんな方向で出店計画をまとめていた気がする。

 勝宏たちがそれを望むなら、透としては精一杯頑張りたいところだが――仕込みの時間、調理の時間、仕入れは日本にも向かうだろうが、現地で調達できるものはそれを使った方がいい。

 料理をこちらで作ることになる場合、透の生活基盤はもうほとんどこちらの世界になってしまうだろう。

 それはまだ、少し躊躇する。

 食事も睡眠もこちらでできるから、完全に移住してしまうのは可能ではあるだろう。

 だが、それはつまりこの世界を作った元凶、アリアルの手の届く場所にとどまるということに他ならない。

 この世界は、アリアルによって維持されているただのつくりもの。

 そしてアリアルは、自分の意思でいつでもこの世界を閉じてしまうことができる。

 ウィルは、透がアリアルのものにならない限りはアリアルはこの世界を消すことはないだろうと言っていた。

 裏を返すと、アリアルの手に落ちればいつこの世界を消滅させるか分かったものじゃない、ということでもある。

 日本に未練があるわけじゃない。

 両親の遺した家が気にならないといえば嘘になるけれど、勝宏と同じ世界を生きたいという気持ちの方がずっと強い。

 ただ、安易にこの世界を選んでしまうわけにはいかないのだ。

 彼らのためにも――否、自分のせいで彼らを消してしまわないためにも。

「透?」

「あ、ごめん」

「オムライスとかどう、オムライス!」

 勝宏は店に出すメニューの話を続けていたようだ。

 でもこれはきっと、メニューに追加したい料理というよりは……。

「今日は、オムライス作ろうか」

「食べる!」

 夕食のリクエストだ。

 そろそろまた、移動を再開する頃合いである。

「あと15分くらいか?」

「そうだね」

 それだけ確認して、勝宏がバイクに乗り込んだ。

 続けて透も、彼の後ろに跨る。
 最初に言われていたように、勝宏の体に手を回してしっかり掴まった。

 彼の体温、彼のにおい。
 晴れの日に丸洗いして干したシーツみたいな、太陽のにおいに似ている。

 勝宏の服は透が自宅で洗ってきているので、使っている洗剤や柔軟剤は同じものである。

 なのに彼が着ているだけでこんなに安心できるにおいになるなんて、不思議な話だ。



 目的のダンジョン前まで到着して、勝宏はアイテムボックスから野営の準備に使う諸々を取り出した。

 テントでも張るのかな、と思っていると、彼は周囲の木をいくらか切り倒して次々木材を調達しはじめる。

「あの、何してるの?」

「小屋作ろうと思って」

 ……小屋。一人で作る気か。

 慌てて加勢しようとしたが、木材が重すぎて透には何もできることがなかった。

「いいって、暇つぶしがてら俺ひとりでやるから。
テラス席っていうの? とはちょっと違うけど、ダンジョンの外で気軽に食べれる場所あったら便利だろ。透が中で作って、俺らがこの小屋から出してもいいし」

 おそらく転生者も食事に来ることを見越して、拠点に使うダンジョンにわざわざ契約書を用いて招き入れるよりは……と考えたらしい。

 準備が整うまでは、たぶんここは勝宏が寝泊まりする場所になるのだろう。

「あ……じゃあ俺、詩絵里さんに報告に行ってくるね」

「おー! オムライスよろしく!」

 ここに居ても勝宏の作業の役に立つことはできない。

 彼のリクエストに頷きを返して、詩絵里たちが滞在する街の宿まで転移した。

 転移先の男部屋はやはり、誰もいない。

 女性メンバーが使う部屋にはだれか戻ってきているだろうか。

 廊下に出て隣の部屋をノックすると、はいはい、と扉が開かれた。

 出てきたのは詩絵里だ。

「あら、透くん。おかえりなさい」

「あ、あの、勝宏、ダンジョン着きました」

 ああいやこれ、ただいま、って返した方がよかったのかな。

 今しがた出したばかりの言葉の手遅れ反省会が頭の片隅で展開される。

「おつかれさま。今ちょっとね、お客さんが来てるのよ。透くんもしよければ、あっちで何かおいしい飲み物持ってきてくれないかしら」

「は、はい……お客さん……は、おひとりですか?」

「そうそう。私とルイーザ含めて女3人、透くんも合わせると4人分必要ね」

 わかりました。

 男部屋に戻り、本日何度目かの転移で飲み物の用意をする。

 日本の菓子がお客さんとやらの口に合うか分からないが、とりあえずクッキーをお茶うけにしておけば間違いはないだろう。

 再び宿に向かい、詩絵里たちの部屋の扉を叩く。

 招き入れられた女性陣の部屋の真ん中には、いかにも貴族然としたドレスの少女が座っていた。
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