人生初の友達ができたので一緒に世界救ってきます (せかます)

す!ず!は!

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章1

ストーカー対策(4)

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『え? 私の愛しいあの方がすぐ近くに?』

『ああ……』

『イグニス、あなた……それを分かっていて一人で行きましたわね……』

 性質ゆえか、ウィルはセイレンやカルブンクよりも気配や魔力の残滓を追うことに長けている。

 途中まで向かったあの段階で、セイレンよりも早く風の悪魔の気配を察知して引き返してきたのだろう。

 透をわざわざ置いて行ったのは、透本人についているセイレンを物理的に自分から引き離すためか。

 なぜセイレンを風の人から引き離そうとしているのかは分からないが。

「透? 何かあったのか?」

 頭上で繰り広げられている尋問をぼんやり聞き流していると、勝宏が心配してこちらを覗き込んできた。
 そっか、二人とも実体化してないから勝宏には聞こえないんだ。

「えっと……ウィルが戻ってきたんだけど、詩絵里さんのところで何かあったみたいで」

「あの詩絵里にそうそう何か起きるか?」

「危険があったっていうか、詩絵里さん、向かった先で知り合いと合流したらしいんだけどね、その知り合いの女の人が、ウィルたちとおなじ種族の……風属性の人? と契約してたみたいで」

 このしっちゃかめっちゃかな状況、これで上手く説明できているだろうか。

「へえ。火水地闇で固まってるわけだし、風も味方してくれるんならいいんじゃないか?」

「そ、それでね、風の人は長年セイレンが探してた人で、ウィルが一人で行って会ってきたのをわざとだろうって……いま、俺の頭の上でちょうど揉めてる……」

「あー」

 基本面倒ごとには首を突っ込まないタイプのウィルにしては珍しい行動だ。
 逆に考えると、面倒ごとが面倒ごとで済まされない事態になりかねないということかもしれないが。

『この先におまえがいること予め伝えておいてやっただけじゃねえか』

『どういうことですの?』

『男にもいろいろあんだよ、察してやれ。……主に心の準備とか』

 あ、ウィルが説明を放棄した。

 しかし、放棄された説明を脳内補完したらしいセイレンは明かに機嫌が良くなっている。

『あら、あらあら、うふふふふ。そう……フォルカ様もシャイなところがありますのね』

 何も言うまい。

『とにかく、あっちにはフォルカがいる。早けりゃ明日にでも合流するだろうぜ』

 よくわからないが、風の人――フォルカもウィルと同じように移動に便利な能力を持っているのだろう。

 この屋敷の主と約束したのは一泊だけの滞在だった。
 この街に拠点を置くかどうかについても、明日には回答を求められる気がする。

 その場に詩絵里が居てくれるなら透としても心強い。

「明日あたり詩絵里さんたちが来るかもって」

「おお。今のうちに用意しとくもんとかないの?」

 用意しておくものか。明日交渉をするのなら、サンプルくらいはあった方がいいかもしれない。

「うーん……どんなものを作るのか、領主様に見てもらったりするかも」

「じゃあ日本に買い出しだな。俺は付き合えないけど、アイテムボックス収納くらいは任せて」

「ありがとう」

 もともとあちらから提案があった教会の件とは違って、出店の件はなぜ教会と一緒に、と疑問に思われる可能性もある。

 実際にサンプルを出した方が都合がいいかどうかは詩絵里に確認することになりそうだが、どのみち同じ商品を売るのだ。
 勝宏のアイテムボックスに収納しておけばいくら時間が経過しても劣化しない。
 用意しておいて無駄にはならないだろう。

『ファーストフード店ならまだ開いてるだろ。今から行くか』

「うん。勝宏、行ってくるね」



 まずは自宅に転移して、服を着替える。
 湯浴みのあとに領主邸で借りた服は、現代日本で着て歩くとただのコスプレになってしまう。

 あまり時間をかけて勝宏を待たせるのも悪い。

 自宅での雑事には今は手を付けず、着替え終えたら財布を掴む。
 靴を履いていると、急にウィルが訊ねてきた。

『透、やけに機嫌が良いな』

「そ……そうかな」

『俺がいない間に何かあったか?』

 自分が浮かれている、ということに、ウィルに指摘されて初めて気が付いた。

 そっか。嬉しいんだな、自分は。
 あんな酷い約束を取り付けておいて。

「……あ、あのね。勝宏に」

『あいつまた手だけ出したのか』

「好きって、言われた」

『あー、そうか。やっとか』

 彼の言う通りになったことを伝えると、ウィルはよくここまで気付かなかったもんだなと返してきた。

「ど、どうなるか分からないし、とりあえずこの旅の間だけ、ってことになって」

 なんだかすっかりまとまった、みたいな受け取り方をされている気がして、慌てて補足する。

『……透』

「勝宏に、こんなこと言わせるの、やっぱり俺……いやなやつだね」

『それでおまえは、幸せか?』

「うん。……勝宏に申し訳ないくらい」

 ウィルはまた、普段と変わらない声で、そうか、と相槌をうつ。

 いつもあれだけ勝宏のことを悪く言っている彼のことだから、いつかの時みたいに「あいつはやめとけって言っただろう」くらいは言われるだろうと覚悟していたのだけれど。

「……いい、のかな」

『俺はな、おまえが幸せなら、それでいいんだ』

 それはまるで、遠い昔。
 まだ両親と暮らしていたころのあたたかさを思い出させるような声色だった。

 ふいに、家族用では数の余るマグカップのことが頭に過る。
 父のもの、母のもの、透のもの。……最後に余ったひとつが、ウィルのものだったらよかったのにな。

「ウィル、」

 ありがとう、と言う前に、透はウィルによってファーストフード店前まで飛ばされてしまった。

 ああ、これは照れ隠しかな。
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