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章1
幕間 【どこかの世界の誰かの話:勇者】 (1)
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おれの名前は須藤八雲、12歳。
ごく普通の小学生だ。
兄ちゃんと母ちゃんと三人で暮らしている。
今までは兄ちゃんと相部屋だったんだけど、父ちゃんが病気で死んでから、父ちゃんの部屋がおれの部屋になった。
といっても父ちゃんの部屋はぜんぜん片付いてなくて、趣味のカメラやよれよれの文庫本なんかがたくさん残されている。
母ちゃんがとっておきたいと思ったものはもうとっくにこの部屋から持ち出しているらしい。
あとはおれに要るものと要らないものを分けて、兄ちゃんと相談して、残りは処分ってことになっている。
そんなわけで、おれは土曜日の学校のあとから日曜日にかけて部屋の整理中だ。
部屋の片付けに取り掛かってからもう一か月近くになるけれど、なかなか思うように進まない。
なぜなら、父ちゃんの部屋は面白いものであふれていたからだ。
ベッドの下にえっちな本があったので、これは兄ちゃんには見せずにおれが貰っておこうと思う。
遊び盛りの土曜日をつぶして発掘にいそしんでいる俺の戦利品である。
ていうかこれ父ちゃんの部屋にあったって知れたら、母ちゃんがなんていうかわかんないし。
えっちな本は、たまに河原に落ちてたりするけどだいたい大事なとこが破れてるんだよな。
まるっと全部読めるのは素晴らしいことだ。
他にも、父ちゃんが外国で撮ってきた写真とか。
すごい豪華なお城とか、でっかい神殿とか、いったいどの国で撮ってきたものなのかおれには見当もつかない。
土曜日が午前中しかないのは小学生のおれだけで、兄ちゃんは高校生なので学校が終わるのはまだもうちょっと先。
母ちゃんは仕事。
家に居るのはおれ一人だったりする。
つまり、土曜日のおれは自由なのだ。
宿題? 知らないなそんな存在。
今週は本棚ダンジョンを切り崩していこうと思う。
お宝が見つかるといいな、そう思って、新たな本を一冊、本棚から手に取ったところ――。
急に世界が真っ白になった。
太陽を直視して目がくらむのに近い。
とっさに両目を本で覆う。
焼かれた視界がもとに戻る頃合いで、おそるおそる目を開くと。
「……あれ? ここどこ」
そこは、父ちゃんのアルバムの中にあったような、すごい豪華なお城の中だった。
「ああ、おいでくださったのですね、勇者様!」
「ゆ、勇者?」
おれは今から、勇者ヤクモになるらしい。
謎のお城でおれを勇者様と呼んだのは、おっぱいの大きい女の子。
彼女の名前は、レイアというそうだ。
レイアはおれをここに呼び出した張本人で、このお城に住んでいるお姫様。
事情をていねいに説明してくれた。
まず、この国はアルカスフィア国という名前で、この世界は今、魔の種族、闇目ディザイアークに侵攻されている。
闇目たちに有効打となりうるのは、「ガイア」による攻撃のみ。
ガイアってのがいまいちわからなかったけど、どうも特殊な魔法の力みたいな感じっぽい。
それで、もちろんこの世界の人たちも「ガイア」を少なからず持ってるけど、地球の子供たちの方がガイアの潜在能力が高いんだそうだ。
それでレイアは、闇目たちを全部倒して世界を平和にすべく、地球から勇者の適性のある子供を召喚した、って流れ。
「突然このような形で召喚し、こんなお願いをするのは間違っていると思います。ですが私は、この国を……この世界を危機から救いたいのです」
そこまで言って、レイアはつらそうに俯いた。
この世界の人たちが困っているというのは分かった。
そして、おれにはそれを解決する力があるってことだろ。
それなら答えはひとつだ。
「おれでよければ、協力するよ」
あとやっぱ、女の子が悲しそうにしてるのを放っておくわけにもいかないもんな。
おれが続けると、レイアは涙を浮かべながらありがとうございます、と微笑んだ。
おれを召喚した場所でずっと話し続けるのもなんだということで、レイアに別の部屋を案内された。
そこは日本のおれの家よりもずーっと広い個室で、今日からしばらくおれはここで寝泊まりをすることになるらしい。
すごい凝った装飾の椅子に腰かける。
テーブルには、メイドさんがお茶と果物を置いていった。
「ガイアの力は、16歳までの間しか成長しないといわれています。ヤクモ様にはまず、修行によって神器を獲得していただきたいのです」
まあ、稽古をつける時間をくれるのは助かる。
ゲームみたいに剣とお金だけ渡されて放り出されると困るのはおれだ。
剣道も何もやってきたことがないので、レベル1のままではあっという間にやられてしまう。
「ガイアの力を操るための修行は――ウィリアム、いらっしゃい」
話の途中で、レイアが扉の向こうに声をかける。
すると遠慮のない音を立てて、おれの部屋の扉が開かれた。
入ってきたのは、金髪の男。
兄ちゃんと同い年か、それより少し上くらいかもしれない。
見た目が外国人っぽいから、実年齢はよくわからない。
「――彼が担当します。彼自身に宿るガイアの力は微弱なものですが、少量を創意工夫で使いこなすことに長けた人材です」
「へえ。よろしく、えーと……ウィリー!」
おれは席を立って、ウィリアムと呼ばれた男に手を差し出す。
握手のつもりだったのだけれど、ぺいっとはねのけられてしまった。
この国には、そういう文化はないのかもしれない。
「おい、がきんちょ。なんだその呼び方」
「え? ウィリアムだからウィリーじゃん?」
「……まあいい。俺様に教えてもらえること、ありがたく思えよ」
やたら態度のでかいその男は、大きくため息をついた。
どう考えても友好的ではないというのに、その様子がおれには、なんだかちょっといいなと思えた。
ごく普通の小学生だ。
兄ちゃんと母ちゃんと三人で暮らしている。
今までは兄ちゃんと相部屋だったんだけど、父ちゃんが病気で死んでから、父ちゃんの部屋がおれの部屋になった。
といっても父ちゃんの部屋はぜんぜん片付いてなくて、趣味のカメラやよれよれの文庫本なんかがたくさん残されている。
母ちゃんがとっておきたいと思ったものはもうとっくにこの部屋から持ち出しているらしい。
あとはおれに要るものと要らないものを分けて、兄ちゃんと相談して、残りは処分ってことになっている。
そんなわけで、おれは土曜日の学校のあとから日曜日にかけて部屋の整理中だ。
部屋の片付けに取り掛かってからもう一か月近くになるけれど、なかなか思うように進まない。
なぜなら、父ちゃんの部屋は面白いものであふれていたからだ。
ベッドの下にえっちな本があったので、これは兄ちゃんには見せずにおれが貰っておこうと思う。
遊び盛りの土曜日をつぶして発掘にいそしんでいる俺の戦利品である。
ていうかこれ父ちゃんの部屋にあったって知れたら、母ちゃんがなんていうかわかんないし。
えっちな本は、たまに河原に落ちてたりするけどだいたい大事なとこが破れてるんだよな。
まるっと全部読めるのは素晴らしいことだ。
他にも、父ちゃんが外国で撮ってきた写真とか。
すごい豪華なお城とか、でっかい神殿とか、いったいどの国で撮ってきたものなのかおれには見当もつかない。
土曜日が午前中しかないのは小学生のおれだけで、兄ちゃんは高校生なので学校が終わるのはまだもうちょっと先。
母ちゃんは仕事。
家に居るのはおれ一人だったりする。
つまり、土曜日のおれは自由なのだ。
宿題? 知らないなそんな存在。
今週は本棚ダンジョンを切り崩していこうと思う。
お宝が見つかるといいな、そう思って、新たな本を一冊、本棚から手に取ったところ――。
急に世界が真っ白になった。
太陽を直視して目がくらむのに近い。
とっさに両目を本で覆う。
焼かれた視界がもとに戻る頃合いで、おそるおそる目を開くと。
「……あれ? ここどこ」
そこは、父ちゃんのアルバムの中にあったような、すごい豪華なお城の中だった。
「ああ、おいでくださったのですね、勇者様!」
「ゆ、勇者?」
おれは今から、勇者ヤクモになるらしい。
謎のお城でおれを勇者様と呼んだのは、おっぱいの大きい女の子。
彼女の名前は、レイアというそうだ。
レイアはおれをここに呼び出した張本人で、このお城に住んでいるお姫様。
事情をていねいに説明してくれた。
まず、この国はアルカスフィア国という名前で、この世界は今、魔の種族、闇目ディザイアークに侵攻されている。
闇目たちに有効打となりうるのは、「ガイア」による攻撃のみ。
ガイアってのがいまいちわからなかったけど、どうも特殊な魔法の力みたいな感じっぽい。
それで、もちろんこの世界の人たちも「ガイア」を少なからず持ってるけど、地球の子供たちの方がガイアの潜在能力が高いんだそうだ。
それでレイアは、闇目たちを全部倒して世界を平和にすべく、地球から勇者の適性のある子供を召喚した、って流れ。
「突然このような形で召喚し、こんなお願いをするのは間違っていると思います。ですが私は、この国を……この世界を危機から救いたいのです」
そこまで言って、レイアはつらそうに俯いた。
この世界の人たちが困っているというのは分かった。
そして、おれにはそれを解決する力があるってことだろ。
それなら答えはひとつだ。
「おれでよければ、協力するよ」
あとやっぱ、女の子が悲しそうにしてるのを放っておくわけにもいかないもんな。
おれが続けると、レイアは涙を浮かべながらありがとうございます、と微笑んだ。
おれを召喚した場所でずっと話し続けるのもなんだということで、レイアに別の部屋を案内された。
そこは日本のおれの家よりもずーっと広い個室で、今日からしばらくおれはここで寝泊まりをすることになるらしい。
すごい凝った装飾の椅子に腰かける。
テーブルには、メイドさんがお茶と果物を置いていった。
「ガイアの力は、16歳までの間しか成長しないといわれています。ヤクモ様にはまず、修行によって神器を獲得していただきたいのです」
まあ、稽古をつける時間をくれるのは助かる。
ゲームみたいに剣とお金だけ渡されて放り出されると困るのはおれだ。
剣道も何もやってきたことがないので、レベル1のままではあっという間にやられてしまう。
「ガイアの力を操るための修行は――ウィリアム、いらっしゃい」
話の途中で、レイアが扉の向こうに声をかける。
すると遠慮のない音を立てて、おれの部屋の扉が開かれた。
入ってきたのは、金髪の男。
兄ちゃんと同い年か、それより少し上くらいかもしれない。
見た目が外国人っぽいから、実年齢はよくわからない。
「――彼が担当します。彼自身に宿るガイアの力は微弱なものですが、少量を創意工夫で使いこなすことに長けた人材です」
「へえ。よろしく、えーと……ウィリー!」
おれは席を立って、ウィリアムと呼ばれた男に手を差し出す。
握手のつもりだったのだけれど、ぺいっとはねのけられてしまった。
この国には、そういう文化はないのかもしれない。
「おい、がきんちょ。なんだその呼び方」
「え? ウィリアムだからウィリーじゃん?」
「……まあいい。俺様に教えてもらえること、ありがたく思えよ」
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