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章1
幕間 【どこかの世界の誰かの話:勇者】 (2)
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「おまえらの世界にはガイアを使う風習はないんだろう? まずは、ガイアを感じるところからだ」
翌日からさっそく、ウィリーによる個人レッスンが始まった。
魔法とは違うのだろうけど、魔法とか超能力とかそういうものに憧れるのは男のサガというやつだ。
おれも修行を終えたら、竜を一撃で仕留めたり、手からすごい光線を出したりできるようになるんだろうか。
わくわくしながら修行に臨んだのに、いまいち勝手が分からない。
「感じるったって、見えないもんどうやって感じるんだよ?」
「あー、しゃーねえな。手を前に出しておけ」
言われるまま、手を突き出して漫画で見たようなポーズを取る。
手のひらから光線を出すみたいなやつだ。
ウィリーはおれの背に回って、後ろから覆いかぶさるみたいにおれの腕に手を添えた。
「今からおまえの中にガイアを流し込む。何か来てるのが分からないか?」
何かっていうか、それ以前に耳元で喋られるとくすぐったい。
耳たぶにかかる吐息にそわそわして、おれはそれどころじゃなくなってしまった。
「おい、集中しろ」
「しゅー、修行って、たいへんだな……!」
まさかこれも修行のうちとか? 気になって仕方のないウィリーの体温を考えないように、考えないように。
触れられている腕にむりくり意識を向けると、彼の体温とは別のひやりとした何かが通り始めているのがわかった。
なんだろう、病院で点滴さしてもらってる時みたいな感じか。
「あ、これ? ひやってした感じ?」
「……ああ。おまえの中にも、同じものがあるはずだ」
ガイアの力……レイアが言うには、できる限り年齢が低い方がガイア値も純度も高いらしい。
そしてガイアは、16歳までの間しか成長しない。
幼いころから修行して、16歳ギリギリまで自分の持つガイアを育てるのが一番効率的なレベル上げというわけだ。
それから、闇目たちを倒せば元居た世界――日本で、召喚されたその時間軸に戻ることができる、とも聞いている。
あっちに残してきてしまった母ちゃんと兄ちゃんのことが心配だったから、そういうことなら年単位の修行になっても大丈夫だ。
レイアの話から、おれは長期間の修行の日々を覚悟していたのだけれど。
「うわ、なんだこれ!」
気付くと、ウィリーに言われて前に突き出していたおれの手の中に長い棒が現れていた。
棒っていうかこれは、槍?
「槍か。おまえ、あっちの世界で槍術でも習ってたのか?」
「え? いやぜんぜん。物干し竿で遊んで怒られたことはあるけど」
「その槍が、おまえのガイアが具現化した力だ。闇目に対する強力な武器となる」
「へえ。ウィリーは何の武器?」
物干し竿と同じくらい長いのに、おれには全然重さを感じない。
勇者なのに剣じゃないって不思議だなあ、なんて思いながら背後の彼に訊ねると、ウィリーはさっとおれから離れていった。
「俺にはねえよ。ガイアの武器を持つには相当大きな器が要るからな」
そういうもんなのか。
悪いこと訊いちゃったかな、と思ったけど、振り返って目に入ったウィリーの表情はさほど気にした様子もない。
「ヤクモ、おまえはその槍を育てることになる。今日は一日、その槍を出しっぱなしにしておけ。力が途切れればガイアの武器――神器は消え失せる。生成した神器を長時間維持する訓練だ」
「わかった!」
そうそう、レイアには予知能力があるんだって。
おれが神器を手にしたら、どんどん知り合いが増えていって、エナっていう女の子の格闘家と、オルグっていう男の、えっとヒーラー? 回復役だ。
その二人がおれの仲間になるらしい。
どこで出会えるのかまではまだ分からないみたいだけど、神器を獲得したらいずれ、みたいな感じだった。
仲間を集めたら、まずは城を拠点に各地の闇目たちに対応して。
あらかた対応が終われば、この国から北上して北方山脈にある”暗黒の塔”で闇目の創造主と戦うことになる。
闇目の創造主との戦いが、おれにとっては最終決戦。
ラスボス戦ってとこだ。
「一定時間維持できるようになれば、あとは実戦経験だな。俺が付き添ってやるから、低級の闇目と戦ってみろ」
おお、さっそく初めての実戦か。
レイアに聞いていたことだけど、闇目たちには強さの順にS、A、B、C、D、Eのランクがつけられている。
E級の闇目であれば、ガイアを使える冒険者がレベル20そこらでパーティーを組んでいれば討伐可能。
逆にS級は、レベル80の冒険者を揃えても討伐できるかどうかは時の運。
そして闇目の創造主はS以上、暫定的にSS、SSSとされている。
ちなみに、地球の子供がガイアを扱えるようになったなら、レベルが一桁であっても単独でD級の討伐は可能で、レベルが10にもなれば単独でB級の討伐もできるという話だ。
「そうだな、俺も居るわけだし、D級に挑戦してみていいだろう」
レベル一桁でD級という話だったけれど、レベル一桁っていうかおれはまだレベル1なんだよな。
ウィリーがサポートしてくれるっていうから、そこは任せよう。
「そういえばさ」
「ん?」
「ウィリーは、旅には一緒に来てくれないのか?」
おれの仲間は「エナ」と「オルグ」だということが、レイアの予知能力で分かっている。
でもそこに、ウィリーが同行しているという話はなかった。
なんらかの理由で一緒に行けなかったりするんだろうか。
ゲームじゃないんだから、序盤のチュートリアルキャラゆえに一緒に居られないってわけじゃあるまいし。
おれの問いかけに、ウィリーはにたりと笑った。
「あー、どうだろうなあ……まあ、俺様の力が必要だってんなら? 上司に言っといてやるぜ」
「やった!」
「期待はすんなよ」
なんか、ウィリーの言動はおれに反感を抱かせようとしてるみたいな感じがする。
でもおれはそのへんもまとめて彼のことが気に入っていて、一緒だったら楽しいだろうなあ、なんて考えるのだ。
翌日からさっそく、ウィリーによる個人レッスンが始まった。
魔法とは違うのだろうけど、魔法とか超能力とかそういうものに憧れるのは男のサガというやつだ。
おれも修行を終えたら、竜を一撃で仕留めたり、手からすごい光線を出したりできるようになるんだろうか。
わくわくしながら修行に臨んだのに、いまいち勝手が分からない。
「感じるったって、見えないもんどうやって感じるんだよ?」
「あー、しゃーねえな。手を前に出しておけ」
言われるまま、手を突き出して漫画で見たようなポーズを取る。
手のひらから光線を出すみたいなやつだ。
ウィリーはおれの背に回って、後ろから覆いかぶさるみたいにおれの腕に手を添えた。
「今からおまえの中にガイアを流し込む。何か来てるのが分からないか?」
何かっていうか、それ以前に耳元で喋られるとくすぐったい。
耳たぶにかかる吐息にそわそわして、おれはそれどころじゃなくなってしまった。
「おい、集中しろ」
「しゅー、修行って、たいへんだな……!」
まさかこれも修行のうちとか? 気になって仕方のないウィリーの体温を考えないように、考えないように。
触れられている腕にむりくり意識を向けると、彼の体温とは別のひやりとした何かが通り始めているのがわかった。
なんだろう、病院で点滴さしてもらってる時みたいな感じか。
「あ、これ? ひやってした感じ?」
「……ああ。おまえの中にも、同じものがあるはずだ」
ガイアの力……レイアが言うには、できる限り年齢が低い方がガイア値も純度も高いらしい。
そしてガイアは、16歳までの間しか成長しない。
幼いころから修行して、16歳ギリギリまで自分の持つガイアを育てるのが一番効率的なレベル上げというわけだ。
それから、闇目たちを倒せば元居た世界――日本で、召喚されたその時間軸に戻ることができる、とも聞いている。
あっちに残してきてしまった母ちゃんと兄ちゃんのことが心配だったから、そういうことなら年単位の修行になっても大丈夫だ。
レイアの話から、おれは長期間の修行の日々を覚悟していたのだけれど。
「うわ、なんだこれ!」
気付くと、ウィリーに言われて前に突き出していたおれの手の中に長い棒が現れていた。
棒っていうかこれは、槍?
「槍か。おまえ、あっちの世界で槍術でも習ってたのか?」
「え? いやぜんぜん。物干し竿で遊んで怒られたことはあるけど」
「その槍が、おまえのガイアが具現化した力だ。闇目に対する強力な武器となる」
「へえ。ウィリーは何の武器?」
物干し竿と同じくらい長いのに、おれには全然重さを感じない。
勇者なのに剣じゃないって不思議だなあ、なんて思いながら背後の彼に訊ねると、ウィリーはさっとおれから離れていった。
「俺にはねえよ。ガイアの武器を持つには相当大きな器が要るからな」
そういうもんなのか。
悪いこと訊いちゃったかな、と思ったけど、振り返って目に入ったウィリーの表情はさほど気にした様子もない。
「ヤクモ、おまえはその槍を育てることになる。今日は一日、その槍を出しっぱなしにしておけ。力が途切れればガイアの武器――神器は消え失せる。生成した神器を長時間維持する訓練だ」
「わかった!」
そうそう、レイアには予知能力があるんだって。
おれが神器を手にしたら、どんどん知り合いが増えていって、エナっていう女の子の格闘家と、オルグっていう男の、えっとヒーラー? 回復役だ。
その二人がおれの仲間になるらしい。
どこで出会えるのかまではまだ分からないみたいだけど、神器を獲得したらいずれ、みたいな感じだった。
仲間を集めたら、まずは城を拠点に各地の闇目たちに対応して。
あらかた対応が終われば、この国から北上して北方山脈にある”暗黒の塔”で闇目の創造主と戦うことになる。
闇目の創造主との戦いが、おれにとっては最終決戦。
ラスボス戦ってとこだ。
「一定時間維持できるようになれば、あとは実戦経験だな。俺が付き添ってやるから、低級の闇目と戦ってみろ」
おお、さっそく初めての実戦か。
レイアに聞いていたことだけど、闇目たちには強さの順にS、A、B、C、D、Eのランクがつけられている。
E級の闇目であれば、ガイアを使える冒険者がレベル20そこらでパーティーを組んでいれば討伐可能。
逆にS級は、レベル80の冒険者を揃えても討伐できるかどうかは時の運。
そして闇目の創造主はS以上、暫定的にSS、SSSとされている。
ちなみに、地球の子供がガイアを扱えるようになったなら、レベルが一桁であっても単独でD級の討伐は可能で、レベルが10にもなれば単独でB級の討伐もできるという話だ。
「そうだな、俺も居るわけだし、D級に挑戦してみていいだろう」
レベル一桁でD級という話だったけれど、レベル一桁っていうかおれはまだレベル1なんだよな。
ウィリーがサポートしてくれるっていうから、そこは任せよう。
「そういえばさ」
「ん?」
「ウィリーは、旅には一緒に来てくれないのか?」
おれの仲間は「エナ」と「オルグ」だということが、レイアの予知能力で分かっている。
でもそこに、ウィリーが同行しているという話はなかった。
なんらかの理由で一緒に行けなかったりするんだろうか。
ゲームじゃないんだから、序盤のチュートリアルキャラゆえに一緒に居られないってわけじゃあるまいし。
おれの問いかけに、ウィリーはにたりと笑った。
「あー、どうだろうなあ……まあ、俺様の力が必要だってんなら? 上司に言っといてやるぜ」
「やった!」
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なんか、ウィリーの言動はおれに反感を抱かせようとしてるみたいな感じがする。
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