人生初の友達ができたので一緒に世界救ってきます (せかます)

す!ず!は!

文字の大きさ
182 / 193
章1

幕間 【窓辺の月夜に読む話:契約】 (1)

しおりを挟む
 常時実体化を解いた状態で透のそばを付いて回るようになった俺は、接している時間が長いこともあって比較的早めに透から話を引き出せるようになった。

 まず、彼が身を寄せている親戚家について。
 養子として透を迎え入れたと同時に、藤次たちが住んでいた家――結構な大きさの屋敷だ――を売り払ったらしい。
 透には学費や食費、生活費などに必要だからと説明しているようで、養われている身である彼に反論の余地はない。

(僕まだ子供だから、お金なんてないし、おうちのことは、仕方ないかなって思うけど……やっぱり寂しいよ)

 念話に慣れてきた透が、親戚の家に持ち込んだわずかな私物を整理しながら話を続ける。

『なるほどな。……おまえは、このままここに住むのと、一人ぼっちで元の家に住むのと、どっちがマシだ?』

(そんなの……父さんや母さんと一緒にいた家がいいに決まってるよ。だって、僕一人じゃなくて、ウィルもついてきてくれるんでしょう?)

 当初考えていた選択肢ふたつを、さりげなく訊ねてみる。
 透の意思はどうも後者の方で決まっているようだ。

 既に売りに出されているなら、権利関係を気にする必要もない。
 さっさと土地ごと買い上げて、キープしておいてやろう。

 子供だけあって、透の就寝時間は早い。
 寝ている間に少々席を外し、久方ぶりのねぐらで、資金調達のために導入したインターネット回線とパソコンを繋いだ。



 実体化した姿で売り出された家を買い取り、確保するまではそう時間はかからなかった。
 不動産屋に話をつけ、本来不用品として引渡し前に処分される家具などもほとんどそのままだ。

 だが、それからが少々面倒だ。

 透はまだ小学生である。
 偽造の身分はあるにしても身内でない「ウィリアム」という男が、透を円満に引き取るにはどうすべきか。

 少し考えて、俺は透ではなく、親戚家の方にコンタクトを取ることにした。

 自分が透の父親の顔見知りであったことは確かだ。
 少々盛って海外で知り合った親友ということにして、このたび親友の住んでいた屋敷を買い取らせてもらったこと、透を住み込みのハウスキーパーとして雇いたいことを伝える。

 この国で透が正式に働ける年齢になるまであと七年。
 この件を了承してもらえるなら、それまで毎月70万円ほど養育費を援助する、という話も添えた。
 他人からの贈与という形で税金などを考慮しても、ひと月でこれだけあれば問題なかろうという計算だ。

 本来であれば、中学までしか進学させないにしても学費だけで300万近くが必要になる。
 それを見越しての屋敷の売却だったのだろうが、無事に売却金額は懐に入ってきた上に、加えてこの申し出である。
 彼らが税金関係をどう申告するかは知ったことではない。

 話がまとまったところで、俺の前に透が連れてこられた。
 屋敷の案内に今から透を少し借りたい、との申し出があっさり通ったのだ。

 夜になって訪れた得体も知れない男に、よくもまあ子供一人をついていかせられるものである。

 寝ぼけまなこを擦りながら、養母に手を引かれている。
 透が眠ったあとを見計らって訪問したので当然だ。

 お礼を言いなさいと目の前に押し出された透は、突然のことで何も理解できていない。

「おまえの家に行くぞ」

「僕の家?」

「ああ」

 転移は使わずに、親戚家の者たちの目を誤魔化すために借りた車で屋敷へ向かう。
 無言が続いている透を助手席にしばらく車を走らせて、彼が住んでいた屋敷の前で降りた。

「おまえの家は俺が買った」

「そう……ですか」

 屈んで目線を合わせ、持参していたペンダントを首からかけてやる。

「中を案内してくれるか?」

「……はい」

 そのへんで買ってきた安物のペンダントに虫よけを施しただけの品だが、ないよりはマシなはず。

 こんな肝心な時にウィルがいないなんて、と思っていることだろう。
 不安げな透の頭をくしゃくしゃに撫で回した。

「俺は、藤次の知り合いだ」

「父さんの? お友達?」

「ああ。こんなに広いとは思わなかったから、透を連れてきた。おまえはこの家のこと、なんでも知ってるだろう?」

「うん」

 ほんの少しだけ、透の警戒心が薄れたように思う。

 屋敷と呼べる大きさの家に入り、慣れた様子で背伸びをして照明をつける。

「リビングこっち」

「そうか」

「そこ、キッチン、あのね、父さんがよくコーヒー作ってた」

「そうか」

 嫁からはまずいまずいと言われていただろうに、それでもコーヒーは藤次がいれていたらしい。

 冷えた屋敷の中を、子供に手を引かれながら歩いていく。

「僕も作れるよ。ちょっと待っててね」

 端に置かれた踏み台を引きずって、透がお湯を沸かし始めた。
 続いて戸棚からマグカップを取り出そうとして、透の手が止まる。

「黒と、赤と、青と、黄色。どれがいい?」

「なんだそれ?」

「父さんは黒、母さんが赤、僕は青でね、黄色はよくわかんない」

「なら黄色」

 家族向けの四個セットの品でも買って、余ったひとつは客用にしてるか何かなんだろう。

 黄色と青のマグカップに熱いコーヒーをなみなみ注いで、危なっかしく透が運んでくる。

「どうぞ」

「……おう」

 なし崩し的に、リビングでコーヒーを飲む流れになってしまった。

 ずいぶんてきぱきとこなしていると思ったが、たまにこうして両親に飲み物を用意してやると喜んでもらえたのだそうだ。

 そうまで言われてしまうと、飲まないわけにはいかない。
 泥水味を覚悟してマグカップに口をつけると、味も香りも全くの別物であった。

 いや、普通に美味い。

 おそらく、ごく普通のコーヒーの味というのがこれだ。

 ……あの野郎。やっぱあれは泥水だったじゃねえか。

「おいしい?」

「……ああ」

 どうやら父親には似なかったらしい。
 まあいいんじゃないだろうか、透のためにも。

「お兄さんは、ここに住むの? ……僕、ここ、遊びに来てもいい?」

 この家はもう自分たちのものではないということを、透はちゃんと理解しているようだった。

 だが、俺がこの家を買ったのは、俺が住むためではない。

「俺は使う気がないから、使いたければ使っていい」

「え?」

「養父たちにはちょうど、広い家を維持するお手伝いとして、透を引き取りたい、という話をしに来たところだった」

 青いマグカップを両手に持っている透が、湯気の向こうで首を傾げる。

「透が十五になったら、管理人として雇ってやる」

 じゅうごさい、と、透が繰り返す。

「僕、ここのお手伝いさんになるの?」

「住み込みでな。これはおまえが使え」

 屋敷の鍵と、証書の類をまとめて目の前の子供に手渡した。

 とはいえ、持ち帰るのは面倒なことになりそうだ。
 各書類はこの屋敷の透の私室に保管させ、鍵だけ持ち帰らせればいいだろう。

「……また、住めるんだ」

 十五になるまでは自由はきかないだろうが、いつでもここに逃げ込んでくるといい。
 そういう意味を込めて、鍵を渡したのだ。

 親戚家からこの屋敷までは物理的に遠い。
 子供の足ではとうていたどりつけない距離でも、俺が転移で運んでやることができる。

 自分が「ウィリアム」として、いまの透にしてやれるのはここまでだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

転生したらBLゲームのホスト教師だったのでオネエ様になろうと思う

ラットピア
BL
毎日BLゲームだけが生き甲斐の社畜系腐男子凛時(りんじ)は会社(まっくろ♡)からの帰り、信号を渡る子供に突っ込んでいくトラックから子供を守るため飛び出し、トラックに衝突され、最近ハマっているBLゲームを全クリできていないことを悔やみながら目を閉じる。 次に目を覚ますとハマっていたBLゲームの攻略最低難易度のホスト教員籠目 暁(かごめ あかつき)になっていた。BLは見る派で自分がなる気はない凛時は何をとち狂ったのかオネエになることを決めた オチ決定しました〜☺️ ※印はR18です(際どいやつもつけてます) 毎日20時更新 三十話超えたら長編に移行します メインストーリー開始時 暁→28歳 教員6年目 凛時転生時 暁→19歳 大学1年生(入学当日) 訂正箇所見つけ次第訂正してます。間違い探しみたいに探してみてね⭐︎ 11/24 大変際どかったためR18に移行しました 12/3 書記くんのお名前変更しました。今は戌亥 修馬(いぬい しゅうま)くんです

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? 夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)は、見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!?
幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良ワーウルフの悪友(同級生)まで……なぜかイケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない!恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!?
甘くて可笑しい、異世界学園BLラブコメディ! 毎日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

溺愛の加速が尋常じゃない!?~味方作りに全振りしたら兄たちに溺愛されました~

液体猫(299)
BL
毎日AM2:10分に予約投稿。   【《血の繋がりは"絶対"ではない。》この言葉を胸にクリスがひたすら愛され、大好きな兄と暮らす】  アルバディア王国の第五皇子クリスは冤罪によって処刑されてしまう。  次に目を覚ましたとき、九年前へと戻っていた。    巻き戻す前の世界とは異なるけれど同じ場所で、クリスは生き残るために知恵を振り絞る。  かわいい末っ子が過保護な兄たちに可愛がられ、溺愛されていく。  やり直しもほどほどに。罪を着せた者への復讐はついで。そんな気持ちで新たな人生を謳歌する、コミカル&シリアスなハッピーエンド確定物語。  主人公は後に18歳へと成長します(*・ω・)*_ _)ペコリ ⚠️濡れ場のサブタイトルに*のマークがついてます。冒頭のみ重い展開あり。それ以降はコミカルでほのぼの✌ ⚠️本格的な塗れ場シーンは三章(18歳になって)からとなります。

処理中です...