人生初の友達ができたので一緒に世界救ってきます (せかます)

す!ず!は!

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章1

フラグクラッシャーならぬシナリオクラッシャー(2)

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 貰い受けたばかりでまだなにもない部屋だったのを、テーブルと椅子をとりだして配置することで殺風景ながらとりあえず話ができる状態にした。

 勝宏のアイテムボックスに入れっぱなしになっていた彼のお手製の家具類が大活躍だ。
 ちなみに彼の額は今、少女によって開け放たれた扉に思い切りぶつけて赤くなっていたりする。
 あれは、反応遅れるよね。日本家屋の玄関のドアは外開き中心だもんね。

 お茶と飲み物を用意するついでに冷やしたタオルを用意して勝宏に手渡しながら、詩絵里の向かいの席に座る少女を横目に見やる。

 彼女の名前はアマリア・グラフィル。
 フレグルシムのゾンビ騒動のため、マールヴィットからこちらにはるばる馬車と徒歩で移動してきた浄化の聖女だそうだ。

「ええっと?」

「魔法都市マールヴィットが舞台の……本来のヒロインちゃんじゃないかしら」

「ああ……」

 状況を飲み込めていなかった勝宏に、詩絵里がそっと補足する。

 そういえばマールヴィットでは転生者門番さん――フランクの希望もあって、シナリオが始まる前に攻略対象と接触してスタンピードを未然にくい止めることになったのだった。
 シナリオが始まる前なのだから当然正規ヒロインは見つからず、たまたま顔立ちの似ていた透(♀)が対応することになった。

 てっきり正規ヒロインはこの世界の住民で、今も普通に平和な学園生活を楽しんでいるものと思っていたのだが、その枠も転生者だったようだ。

 なんのことか分からないままつい反射的に謝罪してしまったが、不可抗力とはいえ彼女の楽しみを奪ってしまったのかもしれない。

「デヴィッド攻略したんですかー?」

「したわよ。しましたよ。
ゲーム通りの地点でイベント起きるの待ってても暴漢なんて来なかったから自作自演する羽目になったけどね……!」

「それはお気の毒……ですねー」

 改めて謝り直した方がいいだろうか。
 促されるまま勝宏の隣に腰を下ろすと、アマリアがこちらをギロリと睨みつけてきた。

「それで自分はちゃっかり本命の男一人連れて2の方に来てるってわけ?
 魔性の女気取りはさぞ気分がいいでしょうね!」

 聖女と呼ばれたり魔性の女と呼ばれたりと忙しないが、自分は男である。

「続編の恋愛戦華2の方ならイケると来てみれば……アンデッド事件も解決しちゃってるし……!」

 す、すみません。
 今回の件については本当に成り行きでこうなってしまったものだ。

 おろおろしていると、緑茶を啜っていたルイーザがテーブルの向こうでああ、と呟いた。

「なんか聞いたことのある名前だと思ってましたけど、そういえば続編の舞台でしたねーここ」

「どんな内容だったんだ?」

「えっと、フレグルシムという街がアンデッドに蹂躙されて、死の街に変わってしまうんですよー。
それの原因は領主の息子レオニスで、彼は責任を感じてアンデッドに変わってしまった領民たちを元に戻すために頑張るんですけど力及ばず。
周囲からは誤解されて、死霊王って呼ばれるようになるんです」

「ゲーム通りだと、この街は滅んでないといけないってことか?
 じゃあ透が早めに対処できてよかったじゃん」

「その死霊王のもとにやってきたヒロインちゃんが、浄化の力を身につけながら恋をするお話なんですけどねー……」

 被害が出なかったという意味では確かに勝宏の言っていることの方が正しい。

 しかし、アマリアの主張としてはゲームのシナリオをぶちこわすな、なのだ。
 問題はこの町とあちらの町を舞台にした乙女ゲームの主人公――シナリオ改変でもっとも被害を被るのが彼女であり、彼女に一度も相談をせずに事を進めたという点である。
 おそらく事情を事前に話せていれば早めに対処してシナリオを変えること自体には彼女も納得してくれたのだろうが。

 フレグルシムの方については事前相談などできた状況ではなかったのだけども。

「でも、1stのキャラ全員の好感度を上げてハーレムエンドで終わると2ndの時にデータ引継ぎで「フレグルシムの聖女」の見た目が1stの主人公のグラフィックになるってやつでしたよね?
 1stのキャラ、デヴィッドしか攻略できてないのによくこっちまで来ましたね」

 アマリアを宥める気がさらさらないのか、いつものことながらルイーザの言葉が歯に衣を着せなさすぎる。
 お世辞にもモブ顔とは言えない美少女の顔面が、般若のようにゆがんだ。
 ルイーザではなくこちらの方を向いた状態で。

「私はもともと2のレオニス推しなの!
 レオニスのためにマールヴィットでは難易度SSのルート攻略してやるつもりだったのに……」

 ルイーザからの無自覚の煽りでも、まるで透が言ったかのように敵意をこちらへ向けられている。
 胃が痛い。

「どうせあんたも、他の乙女ゲームの主人公なんでしょ。
隣の男が攻略対象? 攻略し終えたからって他のゲーム舞台まで荒らして回ってんのね」

 勝宏さんが乙女ゲームの攻略対象なら間違いなくおバカ枠ですね、人気投票下から数えて二番目とかくらいの。
 ぼそっと呟いたルイーザの言葉が偶然聞こえてしまった。

「なんとか言ったらどうなのよ!」

「アマリア? 今更なんだけど……ええとね、この子は声が出せないのよ」

 見かねた詩絵里が口を挟んで、その場がいったん沈黙状態になる。
 勢いを殺がれたアマリアもそのまま口を閉ざしてしまった。

「ごめんなさいね。マールヴィットもこの町も、本当に私たちは偶然通りがかっただけなの。
あなたに指摘されるまで、この町が乙女ゲームの舞台だったなんて分からなかったわ」

 詩絵里は嘘は言っていない。
 乙女ゲームだと思わなかった、の言葉の対象もちゃっかり「この町」に限定してあったりする。

「それに、私たちはレオニスには会ったこともないわよ。まだレオニス本人はこの子を聖女と認識していない」

 聖女が自分を救ってくれたってことは理解しているだろうから、遠からず結びつくとは思うけどね、と詩絵里が続けられたあたりで、アマリアが表情を変えた。

「そしてこっちの聖女は、あなたの言うとおり既に隣の子――勝宏くんとフラグ立ってる状況だから、あなたが今からレオニスに接触することはできると思うわ」

「……ただ浄化ができるだけの聖女と、傷や病を魔法の力で癒せる聖女と。
どっちが重視されるかなんて火を見るより明らかじゃない」

 アマリアの握りしめたティーカップが彼女の視線の先で震えている。

「あら? マールヴィットが舞台の主人公ちゃんって確か、時空魔法が使える女の子って設定じゃなかったかしら?」

「使えないのよ! 私のスキルは50パーセントの力しか発揮できない、Sスキルだから!」

 再び顔を上げたとき、やはりアマリアの怒りの矛先は詩絵里ではなくこちらに向けられていた。
 突如出てきた「Sスキル」の言葉に、その場にいた全員が反応する。

「代わりに時空魔法を駆使してみせた女がいたってマールヴィットで聞いて確信したわ」

 あ、この流れ知ってる。

「あんたが……私のスキルの片割れね?」

 違うと思います。
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