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章1
フラグクラッシャーならぬシナリオクラッシャー(3)
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「透さん……また勘違いされてますね」
お馴染みいつもの展開というやつだろうか。
ルイーザが呆れ顔になりながら、いつでも動けるようにか少しだけ姿勢を変えた。
「アマリア、その……スキルの情報って、誰に教えてもらったの?」
「皇国の“神子様”よ。まあ、あっちも十中八九転生者でしょうけどね」
「ルカナ皇国……エリクサー量産してるっていうやつか」
同じく緊張感を漂わせながら、詩絵里とアマリアのやりとりに勝宏も続く。
「……ちょうどいいタイミングでスキルが成長したわ」
ティーカップを置いたアマリアが、なにもない空中に手をかざしてにやりと笑う。
詩絵里がその言葉で咄嗟に席を立った。
「あなたのSスキル、私が貰う! 私が! この町の聖女に成り代わるの!」
がたんと椅子が倒れ、立ち上がったアマリアが何らかのスキルを発動させた。
彼女を中心に黒いもやが生まれ、彼女の影から闇の触手としか言いようのないものが全員へ向かってくる。
「ちょっ、これ透さんのあのヤバい魔法じゃないですか!」
そう、セイレンの即死魔法とほとんど同じエフェクトだったのだ。
全員がその場を離れ、部屋の外に出た。
狭く、太陽光の遮られる――影の触手の位置が分かりづらい暗がりの多い場所で相手にするのはまずい。
部屋の隅で丸まっていたクロも、一番近くにいたルイーザが回収してきてくれている。
「でも避けられなくはないな。透は大丈夫――だな」
危なげないタイミングで転移を発動させたウィルによって、透も同じく部屋の外に出てこれている。
勝宏の言うとおり、セイレンの即死スキルと違うところといえば影の触手そのものの移動速度が比較的遅く、分かっていれば回避が可能そうだという点だろうか。
「あれ透も使えるスキルなのか?」
「あ、勝宏さんは使ったとこ見たことないんですっけ。透さんも使えるスキルで、あの影に触れたら即死です」
アイテムボックスから武器を構えたルイーザと勝宏が、こちらを追ってゆったりと家を出てきたアマリアを注視しながら言葉を交わす。
そこに詩絵里が加わった。
「みんな、良いお知らせと悪いお知らせがあるんだけどどっちから聞きたい?」
「そんな悠長な……どっちでもいいですよ」
「じゃあ良いお知らせから。あのスキル、即死スキルじゃないわ。
エフェクトだけそっくりの別のスキル――生者をそのままゾンビに変える、呪術系のスキルだったわ」
あの瞬間、詩絵里の解析スキルが発動したらしい。
彼女からの情報なら間違いないだろう。
即死とゾンビ化では大差なさそうだが、呪術ということなら透にも治療することができる。
ひとまず最悪食らってもリカバリーはきくわけだ。
「そして悪い方のお知らせ。ステータス画面が読みとれたけど、アマリアは本当にSスキルの持ち主だったわ。
もう想像付いてるだろうけど、七大罪のうちのインヴィディア、嫉妬よ」
「それって、詩絵里のパソコンにはウルティナが片割れって書いてなかったか?」
「進化してるってことは、ウルティナさんは……?
あれ、でも嫉妬の種三分割とかじゃないですよね? あれ?」
考えられるパターンとしては、アマリアは元々はSスキル持ちでもなんでもない転生者だったがあのとき行方不明になった嫉妬の種を偶然取り込んで適合してしまった、とかだろうか。
他者への嫉妬が条件なら、適合したのも自分が原因のひとつになっている気がする。
過去自分たちに味方してくれたウルティナの生死が不明のまま、アマリアによって会話は一時中断になった。
「あんたたちが避ける気なら、先に他の連中から呪ってやるわ!」
アマリアの言葉とともに、彼女の影から再び触手が伸びる。
触手は町を歩いていた住民たちを捕捉して、その影からさらに触手が伸び、四方へ枝分かれしながら次々に人間を捕捉してゆく。
詩絵里の言葉の通り、影に触れた人間はいかにもアンデッドらしい青白い肌や赤い肌になって呻き声を上げ始めた。
あっという間に、町は透がフレグルシムに訪れた時とほとんど同じ光景になりつつある。
「わあ……2のヒロインちゃん、もともと土地を綺麗にする役割のキャラなのに逆を行ってますね……」
「アマリア! あなたのSスキルはもうとっくに完成してるわ!
今のはスキル成長じゃなくて進化だったのよ! この子はあなたの片割れじゃない!」
「明確に私のじゃまをするあんたたちと、情報をくれた神子様――どっちの話信じると思ってるの」
詩絵里がアマリアとの対話を試みてくれている間に、自分は自分でやれることをやろう。
(セイレン、いる?)
『あらあら……また町全体に解呪を施しましょうか?』
それも頼みたいところだが、そのためには全体に解呪の光が行き渡るよう町の中心まで移動する必要がある。
(その前に、勝宏たちに呪いがかからないようにするバリアみたいなのってできるかな)
『結界ですわね。対象はお仲間三人でよろしいかしら?』
(クロにも、念のため)
透の降らせた雨でまだ湿る町の中を、承ったとばかりにセイレンが飛んでゆく。
透たちの上空にとどまった彼女が青い光のベールを降らせると、勝宏たちひとりひとりを包み込むように光が舞いおりてきた。
これでよし。
声が出せない現状、結界を張ったことを伝えるすべがないが――と、そこで詩絵里がこちらを一瞥した。
もしや、と頷くと、頷き返される。
「透くんが呪術耐性を上げてくれたみたいよ。今のうちにアマリアを無力化しましょう」
伝わった!
対人コミュニケーションに難のある自分としては、言葉なしでこういう場面に正確にコミュニケーションを取れたという事実に感動を覚えるくらいである。
今は敵対するアマリアに加え、町中の人間がゾンビ化して勝宏たちに向かってきている状況だが、ここでゾンビ化を解ければアマリア一人に対しこちらの戦闘要員は3人だ。
(ウィル!)
『分かってる』
町中でアマリアと対峙することになっている時点で転移を隠すなんて今さらだ。
自分の足で中央まで行くよりもずっと早く、ウィルが町の中心まで転移を発動させる。
『次は私ですわね』
この町にやってきたときと同じように、セイレンの解呪の光が空へ放たれ光の雨になった。
----------
「あの女はどこ! 時空魔法で別の場所へ逃げたのね……!」
セイレンのレプリカ枠とはいえ、100パーセントの力を発揮できるようになった完成品のSスキルはやはり手強かった。
前衛として渡り合えているのはアリアルの種子の四分の三を手にしている勝宏だけで、それもスキルを駆使して能力を底上げして互角といったところか。
セイレンの力の系統からして“インヴィディア”は祝福と呪い、ゲーム風に言うとバフ・デバフスキルを両方扱える補助職のスペシャリストになる。
いくらステータスが優秀でも戦闘のセンスは本人依存。
アマリアはもともと乙女ゲームの主人公格キャラクターなこともあり後衛寄りのスペックをしているはずである。
それを、彼女はSスキルによってカバーできてしまっているのだ。
ナイフとも呼べる大きさの二本の短剣でスカートを翻しながら、乙女ゲームの主人公然とした少女が舞うように戦っている。特撮ヒーローを相手に。
事態は楽観視はできないが、乙女ゲームに明るく、特撮にはあまり明るくないルイーザからすればこの構図は正直ちょっとシュールである。
お馴染みいつもの展開というやつだろうか。
ルイーザが呆れ顔になりながら、いつでも動けるようにか少しだけ姿勢を変えた。
「アマリア、その……スキルの情報って、誰に教えてもらったの?」
「皇国の“神子様”よ。まあ、あっちも十中八九転生者でしょうけどね」
「ルカナ皇国……エリクサー量産してるっていうやつか」
同じく緊張感を漂わせながら、詩絵里とアマリアのやりとりに勝宏も続く。
「……ちょうどいいタイミングでスキルが成長したわ」
ティーカップを置いたアマリアが、なにもない空中に手をかざしてにやりと笑う。
詩絵里がその言葉で咄嗟に席を立った。
「あなたのSスキル、私が貰う! 私が! この町の聖女に成り代わるの!」
がたんと椅子が倒れ、立ち上がったアマリアが何らかのスキルを発動させた。
彼女を中心に黒いもやが生まれ、彼女の影から闇の触手としか言いようのないものが全員へ向かってくる。
「ちょっ、これ透さんのあのヤバい魔法じゃないですか!」
そう、セイレンの即死魔法とほとんど同じエフェクトだったのだ。
全員がその場を離れ、部屋の外に出た。
狭く、太陽光の遮られる――影の触手の位置が分かりづらい暗がりの多い場所で相手にするのはまずい。
部屋の隅で丸まっていたクロも、一番近くにいたルイーザが回収してきてくれている。
「でも避けられなくはないな。透は大丈夫――だな」
危なげないタイミングで転移を発動させたウィルによって、透も同じく部屋の外に出てこれている。
勝宏の言うとおり、セイレンの即死スキルと違うところといえば影の触手そのものの移動速度が比較的遅く、分かっていれば回避が可能そうだという点だろうか。
「あれ透も使えるスキルなのか?」
「あ、勝宏さんは使ったとこ見たことないんですっけ。透さんも使えるスキルで、あの影に触れたら即死です」
アイテムボックスから武器を構えたルイーザと勝宏が、こちらを追ってゆったりと家を出てきたアマリアを注視しながら言葉を交わす。
そこに詩絵里が加わった。
「みんな、良いお知らせと悪いお知らせがあるんだけどどっちから聞きたい?」
「そんな悠長な……どっちでもいいですよ」
「じゃあ良いお知らせから。あのスキル、即死スキルじゃないわ。
エフェクトだけそっくりの別のスキル――生者をそのままゾンビに変える、呪術系のスキルだったわ」
あの瞬間、詩絵里の解析スキルが発動したらしい。
彼女からの情報なら間違いないだろう。
即死とゾンビ化では大差なさそうだが、呪術ということなら透にも治療することができる。
ひとまず最悪食らってもリカバリーはきくわけだ。
「そして悪い方のお知らせ。ステータス画面が読みとれたけど、アマリアは本当にSスキルの持ち主だったわ。
もう想像付いてるだろうけど、七大罪のうちのインヴィディア、嫉妬よ」
「それって、詩絵里のパソコンにはウルティナが片割れって書いてなかったか?」
「進化してるってことは、ウルティナさんは……?
あれ、でも嫉妬の種三分割とかじゃないですよね? あれ?」
考えられるパターンとしては、アマリアは元々はSスキル持ちでもなんでもない転生者だったがあのとき行方不明になった嫉妬の種を偶然取り込んで適合してしまった、とかだろうか。
他者への嫉妬が条件なら、適合したのも自分が原因のひとつになっている気がする。
過去自分たちに味方してくれたウルティナの生死が不明のまま、アマリアによって会話は一時中断になった。
「あんたたちが避ける気なら、先に他の連中から呪ってやるわ!」
アマリアの言葉とともに、彼女の影から再び触手が伸びる。
触手は町を歩いていた住民たちを捕捉して、その影からさらに触手が伸び、四方へ枝分かれしながら次々に人間を捕捉してゆく。
詩絵里の言葉の通り、影に触れた人間はいかにもアンデッドらしい青白い肌や赤い肌になって呻き声を上げ始めた。
あっという間に、町は透がフレグルシムに訪れた時とほとんど同じ光景になりつつある。
「わあ……2のヒロインちゃん、もともと土地を綺麗にする役割のキャラなのに逆を行ってますね……」
「アマリア! あなたのSスキルはもうとっくに完成してるわ!
今のはスキル成長じゃなくて進化だったのよ! この子はあなたの片割れじゃない!」
「明確に私のじゃまをするあんたたちと、情報をくれた神子様――どっちの話信じると思ってるの」
詩絵里がアマリアとの対話を試みてくれている間に、自分は自分でやれることをやろう。
(セイレン、いる?)
『あらあら……また町全体に解呪を施しましょうか?』
それも頼みたいところだが、そのためには全体に解呪の光が行き渡るよう町の中心まで移動する必要がある。
(その前に、勝宏たちに呪いがかからないようにするバリアみたいなのってできるかな)
『結界ですわね。対象はお仲間三人でよろしいかしら?』
(クロにも、念のため)
透の降らせた雨でまだ湿る町の中を、承ったとばかりにセイレンが飛んでゆく。
透たちの上空にとどまった彼女が青い光のベールを降らせると、勝宏たちひとりひとりを包み込むように光が舞いおりてきた。
これでよし。
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もしや、と頷くと、頷き返される。
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伝わった!
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今は敵対するアマリアに加え、町中の人間がゾンビ化して勝宏たちに向かってきている状況だが、ここでゾンビ化を解ければアマリア一人に対しこちらの戦闘要員は3人だ。
(ウィル!)
『分かってる』
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自分の足で中央まで行くよりもずっと早く、ウィルが町の中心まで転移を発動させる。
『次は私ですわね』
この町にやってきたときと同じように、セイレンの解呪の光が空へ放たれ光の雨になった。
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「あの女はどこ! 時空魔法で別の場所へ逃げたのね……!」
セイレンのレプリカ枠とはいえ、100パーセントの力を発揮できるようになった完成品のSスキルはやはり手強かった。
前衛として渡り合えているのはアリアルの種子の四分の三を手にしている勝宏だけで、それもスキルを駆使して能力を底上げして互角といったところか。
セイレンの力の系統からして“インヴィディア”は祝福と呪い、ゲーム風に言うとバフ・デバフスキルを両方扱える補助職のスペシャリストになる。
いくらステータスが優秀でも戦闘のセンスは本人依存。
アマリアはもともと乙女ゲームの主人公格キャラクターなこともあり後衛寄りのスペックをしているはずである。
それを、彼女はSスキルによってカバーできてしまっているのだ。
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