人生初の友達ができたので一緒に世界救ってきます (せかます)

す!ず!は!

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章1

フラグクラッシャーならぬシナリオクラッシャー(4)

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「……まあ、あのとき種回収できなかった時点でなんとなくこうなりそうな気はしてたんですけどね」

 ぼやいたルイーザの現在の役割は、前線から少し離れた位置で壁を背後にとりながら、詩絵里を周囲の雑魚ゾンビ――もとい、アンデッド化してしまった住民たちの妨害からかばう盾役だ。

 初期と比べると勝宏と詩絵里の連携も熟達しており、勝宏と打ち合っているアマリアへ向けて詩絵里も危なげなく援護射撃を差し込めている。
 ちょっと前まで誤爆しそうになっていた覚えがあるが、もう慣れたものだ。

「そうよ。最初からやり直せばいいのよ。
目撃者は全員アンデッドにして、町を救ったはずだった聖女が実は黒幕で、再び呪いを拡散させたことにするの」

「やってるのはおまえだろ!」

「さんざん私をかたって私のものを奪ってきたんだもの、自業自得じゃない」

 アマリアの言い分も分からないでもないが、こちらも拠点を得るためにはある程度イレギュラーな対応をせざるをえなかったのだ。

 確かに彼女に迷惑をかけたとは言えるが、全て彼女の思うとおりにことが進んでいるとこの町は滅んでいたわけで――どちらが正しいかの話ではなくなってくる。
 ルイーザとしては、もう勝った方が正義でいいんじゃないか、である。

 呪いによって再びゾンビに変えられてしまった町の住民たちを極力傷つけないように捌いていると、ふと上空がほの明るく光った。
 雪のように降りてきた光の粒がゾンビたちの動きを止め、アンデッドらしい見た目から人間のそれへと変えてゆく。

「きた! 透くんね!」

「いやでもいきなりこの場で人間に戻られても戦闘に巻き込みかねなくないですか!」

「そこは自力で逃げて貰うわよ!」

 ルイーザの背後に庇っていた詩絵里が、アマリアに向けて魔法を放った。
 魔法というよりは呪術に近いようなエフェクトだったが――そこで、正気をとりもどした住民たちがアマリアを見て悲鳴を上げ始める。

「え、え? なんですか今の」

「補助魔法のひとつね。
一定レベル以下の人間から見た場合に、対象は本人が一番恐ろしいと感じる見た目になるっていうやつ」

 なるほど確かに、住民たちはまるで凶悪な魔物と対峙してしまったかのような反応で一目散に距離をとりだした。

 聖女になりたい女の子にかける魔法ではないような気もするが、非常事態である。

 外見は化け物限定なのか、それとも鬼嫁が怖い旦那さんとかが見たら鬼嫁の見た目になったりするんだろうか。

「私たちは冒険者です! “あれ”は私たちで対処します、落ち着いて避難してください!」

 詩絵里が拡声魔法を使って、住民たちに声を届けている。
 混乱させている張本人が言っていると思うとちょっとおもしろいけど。

 とはいえ、ひとまずこれで邪魔は入らなくなった。
 透が転移によって詩絵里の横に戻ってきて、こちらはほぼ最大戦力だ。

 勝宏の振り下ろした剣を、アマリアが交差した短剣で受け止める。
 その瞬間。

「えっ? な、なによこれ」

 彼女が突然、両手に持っていた短剣を取り落とした。
 指先が泡になり、手首から先がじわじわと消えていく。

 淡い水色のシャボン玉のようなエフェクトが彼女の身体のあちこちから湧き出てきて、泡が空へ昇るたびアマリアの身体が薄れていった。

「うそ! どうして、私はまだ負けていないのに……!」

「アマリア!」

 たった今まで剣を交えていた少女が目の前で消えていくのに、勝宏が思わず手を伸ばした。

 しかし彼の手は泡のひとつを掴んだだけに終わり、短剣が二本、その場に残る。

「転生者の消滅エフェクトじゃ……なかったですね」

「ええ……それに、私たちの勝利条件には合致する状況じゃないと思うけど、ルイーザはどう?」

「ですです。なんだかまるで別の魔法やスキルで消えたみたいな……」

 アマリアの泡が消えて、呆然としていた勝宏の方へ光の玉が進み出した。
 こちらは見覚えがある。
 Sスキル持ちの転生者が倒された時に起こるスキル譲渡だ。

「勝宏さん! その光ダメなやつです! 避けてください!」

 アリアルの種子を既に持っている勝宏が、嫉妬の種――セイレンの種子まで拾ってしまったらどうなるか分からない。
 ルイーザが叫ぶと、勝宏は咄嗟に飛び退いた。

 光の玉自体の動きは鈍い。
 こんな危険なものは処分してしまうのが良いような気もするが、詩絵里の消滅魔法等で対応できるものだろうか。

「泡沫になって消えていく美しい少女。いや、悲劇的だね」

 突如、そんな言葉とともに光の玉が凍り付いた。

 本質的に光ではないのか、氷の中に閉じこめられた嫉妬の種がゴトリと地面に落ちる。

 声のした方に目を向けると、へらっとした笑顔で立っていたのは少し前にSスキルに関する情報交換を行った、アルスラッドだった。



----------



 町の住民たちの解呪を終えた透が勝宏たちのもとへ戻ってくると、決着がつく寸前だったのかアマリアが消滅する瞬間に居合わせることになった。

 おつかれさま、も無事でよかった、も女の姿の今は声にすることができない。
 先ほどの解呪はカルブンクの力を使ったわけではないので、女体化続行中なのは聖女様然とした女性用の衣装を着せられてる透へのセイレンの配慮なのだろうが。
 この格好のままで男に戻ってしまったら悲劇である。
 領主邸で宿を借りた際の替えの服が、そのまま借りっぱなしになってしまっている。あとでお返ししておきたい。

 行き違いでアマリアを追いつめてしまったことについては、もっと平和的な解決がなかっただろうかという思いはある。
 町の人たちを巻き込んでの自作自演は、止めないわけにはいかなかっただろうけれど。

 Sスキル持ちの転生者を倒したことにより、嫉妬の種が光の玉としてふよふよと浮いている。
 警戒して全員で距離をとるのとほぼ同時に、種が氷の中に閉じこめられた。

 あれは、アルスラッドのスキルだ。
 少し前に、契約の魔道具を一時的に凍らせて無効にしていたのを覚えている。

「あら、お久しぶり。……あなたのスキル、Sスキルの種子にも使えるのね」

「やあ、詩絵里ちゃん、ルイーザちゃん。元気だったかい?」

「……いまのは?」

「彼女が手に入れた“種子”は、一定時間内に願いを叶えられないと自滅するようになっていたのさ」

 アマリアと入れ替わるように突然登場したアルスラッドに、詩絵里が慎重に言葉を重ねる。

「アマリアは、それを知らなかったようだけど?」

「そうだね、これは一部の人間しか知らない情報だから」

 胡散臭い、としか言いようのない笑顔で、アルスラッドが氷塊を拾い上げた。
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