人生初の友達ができたので一緒に世界救ってきます (せかます)

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章1

箱庭世界のレヴィアタン(4)

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 お代を置いて店を出たアルスラッドを席から見送って、ルイーザが小さく手を挙げる。

「あの、アルスラッドさんが置いてったお金、まだ余裕あるみたいなのでもう一個食べてもいいですか?」

「ええ、いいわ。私もちょっと情報整理したかったから……透くん、こっちの席来てくれる?」

 ここぞとばかりに食に走るルイーザをよそに、詩絵里が透に手招きをする。
 彼女の座っている席の隣まで移動すると、周りから死角になる位置で詩絵里がアイテムボックスからノートパソコンを取り出した。

「この表を最新情報に更新すると、こんな感じね」



 ・傲慢(スペルヴィア)……仕様不明。候補者:【不明:脱落済】【組織のショタ:脱落済】→勝宏へ譲渡(未発芽)

 ・憤怒(イーラ)……嫉妬と似た条件下で発芽する模様。修復or回復補助スキル。候補者:【エリアス】【不明(スキル付与神官?)】

 ・嫉妬(インヴィディア)……発芽条件は「不幸」? 補助系スキル。候補者:【アマリア:脱落済】【不明:脱落済】→アルスラッドが回収

 ・怠惰(アケーディア)……転移系スキル。候補者:【リファス:脱落済】【不明(スキル付与神官?)】

 ・強欲(アウァーリティア)……仕様不明。候補者:【勝宏】【不明(スキル付与神官?)】

 ・暴食(グーラ)……捕食による模倣と吸収スキル。候補者:【不明:脱落済】【不明:脱落済】→アルスラッドが回収

 ・色欲(ルクスリア)……練成系スキル。候補者:【詩絵里】【神の雫の神子】



「それから追加情報も……」



【1】アリアル>陽光聖教会=例の組織>スキル付与神官・神の雫の神子→敵勢力

【2】Sスキル暴走で理性を失う?→嫉妬のSスキル所持者は突然泡になって消滅

【3】Sスキル統合、進化した転生者が6人(現地民の話では7人)揃うと供物の子が生まれる

【4】供物の子誕生で神と接触できる点から、一部転生者が陽光聖教会に荷担している



「2については、もうちょっと情報が欲しいわね。透くん、ウィルに何か聞いていたりしない?」

『俺も劣化コピー品の品質までは知らねえよ』

 詩絵里の言葉にすぐさまウィルが回答をよこしたため、そのまま首を振って否定する。
 そうよねえ、と詩絵里が再びパソコンの画面に目を落とした。

『あら。私の力は“羨望”と“道徳”でもありますわ』

(……どういうこと?)

『嫉妬は、相手の長所や能力を正確に認識できたうえで成り立つ感情。
羨望を生かすか殺すかの違いでしかありませんの』

 透とウィルとでアマリア消滅については分からないと回答を出したばかりだというのに、セイレンからの補足が始まってしまった。

『彼女はトールを羨み、成り代わりたいと願ったのでしょう?
 彼女は本当に適正がありましたわ。生きていれば、私の後を継ぐこともできるくらいに』

 後を継ぐ。その言葉にふと引っかかった。
 そういえば、ウィルたち悪魔がどうやって生まれてくるのか、透はよく知らない。

『“本物”のレヴィアタンに焦がれ、成り代わろうとして、模造品ゆえに手が届かなかった……ということですわ。
哀れな娘でしたわね』

(つまり……俺を攻撃しようとしたから自滅した、ってこと?)

『まあ、今はそのように捉えても良いでしょう』

 これは、詩絵里には訂正を入れたほうがいいだろう。

「3については、状況からしてアリアルの目的そのものと考えてよさそうだけど……ウルティナの件で読み違えちゃったばっかりだから、慎重に考えていくことにするわ」

 既に次の項目へ話を移していた詩絵里の袖を引っ張って止め、パソコンのキーボードを透の方へ向けてもらう。
 タイピング速度はあまり早くないが、メモ帳に書くよりはここへ直接打ち込んだ方がいいだろう。



【1】アリアル>陽光聖教会=例の組織>スキル付与神官・神の雫の神子→敵勢力

【2】Sスキル暴走で理性を失う?→嫉妬のSスキル所持者は突然泡になって消滅→嫉妬のSスキルには特殊な作用があり、透に敵意を向けた結果自滅した(セイレン談)

【3】Sスキル統合、進化した転生者が6人(現地民の話では7人)揃うと供物の子が生まれる

【4】供物の子誕生で神と接触できる点から、一部転生者が陽光聖教会に荷担している



「……ああ、確かに嫉妬のSスキルのことなんだから、セイレンの方に聞いたほうがよかったわね。
ありがと、透くん」

 少なくとも、Sスキルを使用すると問答無用で泡になるみたいな事態にはならなさそうだ。

 悪魔の「後継」については、後で話を聞いてみよう。

 情報をいったん仮入力しおえた詩絵里がノートパソコンを閉じ、アイテムボックスへ再び収納する。
 ルイーザの方も、追加で運ばれてきたケーキの最後のひとくちを頬張ったところだった。

「さて、ルイーザが食べ終わったらそろそろ私たちも出ましょうか。
勝宏くんが面白いことになってるかもしれないけど」

「あ、勝宏さん町の人たちにもみくちゃにされてましたねー」

 詩絵里とルイーザの言葉を聞いて、別行動中の勝宏が心配になってきた。
 自分たち三人がちょうどアルスラッドの隠蔽スキルで姿を消したため、ひとり残された彼は透が聖女として担ぎ上げられたのと同じような事態になっているかもしれない。

「転移装置もあとは設定するだけだし、ダンジョン管理系のスキルをそろそろ取っておく必要ありそうね」

「それ、私やりましょうかー?」

 一方二人の方は、勝宏のことはさほど気にしていない様子で話しながら席を立つ。

「ありがたいけど、ポイントは足りてる?」

「ポイントでも追加でひとつ取るくらいは足りますけど、私スキルまだ変えてないんで……」

「ああ、スキルリセレクトね。でも、いいの? 無難なスキルにするんじゃなかったかしら?」

 ダンジョン経営の話は確かに相談しておく必要がある。
 話を中断して勝宏をはやく迎えにいこう、とは言えないため――どのみち透は今声が出ないのだが――せめてテーブルの上に置かれた金貨を使って先に支払いへ向かった。

「領地経営っていうスキルがあるんですよ。
これはダンジョン管理系ですし、領地の設定は最小単位で家一軒分まで狭めることができるので、商人として生きていくにもちょうどいいかなって」

「まあ、確かにそれなら無難といえば無難かしら。
少なくとも、あえて口にしなければチート持ちとは思われない内容ではあるわね」

「個人的にはそこが重要なんでですね……」

 会計を終え、店の外に出るころには詩絵里とルイーザの話もまとまってきていた。

 これで、このあとはすぐ勝宏と合流できるだろう……と、元来た方向へ足を進めようとした矢先、透の足下に黒い生き物がのろのろと近付いてきた。

「あら、クロじゃない。勝宏くんと一緒にいたんじゃなかったかしら?」

 ずいぶん疲弊した様子で、やたらじゃらじゃらと装飾品をつけられたクロが透の足に顔を擦り付けている。
 詩絵里が屈み込んで頭を撫でると、クロは弱々しくぎゃう、と鳴いた。
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