西伊豆の廃屋から東京のタワマンへ。美しき食人鬼たちは、人間を喰らって愛を成す

秦江湖

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星の降るハイウェイ

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 国道から、高速道路へ。 車は東名高速を東へとひた走る。 深夜の高速道路は、まるで血管の中を流れる赤血球のように、赤いテールランプが連なっていた。


「綺麗だね、お兄様」 

「ああ。みんな、どこへ行くんだろうね」


 お兄様は、流れる景色を愛おしそうに眺めていた。 車内には、ジャズのCDが静かに流れている。 密室。 時速100キロで移動する鉄の箱。 ここには、あたしたちを縛るものは何もない。

「ねえ、犬飼さん。お腹空かない?」

あたしが尋ねると、犬飼はビクリと肩を震わせた。

 「い、いえ……私は大丈夫です」

 「あたしたちは空いたの。  ……次のサービスエリアで、休憩しましょう」

「犬飼さん。停めてくれないか」


お兄様が言うと、犬飼は無言でウィンカーを出した。 『海老名SA 2km』の標識が見える。



深夜のサービスエリアは、独特の空気に満ちていた。 大型トラックのアイドリング音。 休憩する長距離ドライバーたちの紫煙。 修学旅行生のような若者の集団。 眠らない光の中で、人々がゾンビのように彷徨っている。


「降りようか、世璃」


あたしたちは車を降りた。 お兄様は、ロングコートの襟を立て、帽子を目深に被っている。 あたしは、那美の白いワンピースの上に、カーディガンを羽織った。


自動販売機の明かりに群がる蛾のように、あたしたちは人混みの中へ歩いていく。 すれ違う人々が、ギョッとして振り返る。 お兄様の顔立ちが美しすぎるからか、それとも、隠しきれない「捕食者」の気配を感じ取ったからか。


「……いい匂いがする」


 お兄様が鼻をひくつかせた。 焼きそばやラーメンの匂いじゃない。 疲労、焦燥、そしてドロドロした欲求不満の匂い。それと同時に、凄まじい「騒音」が押し寄せてきた。 
 
 耳に聞こえる音じゃない。何百人もの人間が放つ、ドロドロした思考のノイズだ。


  『眠い』『腹減った』『あいつムカつく』『死にたい』  


 無数の欲望が、電波のように空気を震わせている。静寂を愛するあたしたちにとって、それは頭痛がするほどの公害だった。  お兄様が、不快そうに眉間のしわを揉む。


 「……うるさいね。都会の人間は、頭の中まで騒々しい」 

 「うん。耳を塞ぎたくなっちゃう」 

 「でも、これだけうるさいということは、それだけ『生命力(カロリー)』が溢れているということだ。  ……少し、間引いてあげないと。静かな夜を取り戻すために」  


お兄様の目に、冷酷な光が宿る。それは騒音に悩む住人の目ではなく、増えすぎた害虫を駆除しようとする管理者の目だった。


「あそこのベンチ。……質の悪そうなのがいるね」

お兄様の視線の先。 喫煙所の近くに、改造車に乗った数人の男たちがたむろしていた。 金髪にジャージ姿。大声で笑いながら、通りがかる女性に野次を飛ばしている。


「おい姉ちゃん! 一人? 俺らと遊ばない?」

 「無視すんなよブス!」


下品な笑い声。 お兄様は、ふっと目を細めた。

 「……マナーがなってないな。  公共の場では、静かにしないと」


お兄様が、彼らの方へ歩き出した。 あたしも、スキップをしてついていく。 犬飼だけが、遠くの柱の陰で「また始まった……」と頭を抱えているのが見えた。


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