私の心臓をつかむあなたの手が冷たくも温かい~収穫祭~

秦江湖

文字の大きさ
29 / 75

最後の晩餐

しおりを挟む
智花との夕食には腕をふるった。

「凄いね!ずっと一華の手料理食べてきたけど、今日のは特に凄い!綺麗!」

席に着いた智花は上機嫌だ。


「喜んでもらえて良かった。でも見た目だけじゃなく、味も抜群だから」

リモコンのスイッチをいれて音楽をかけると、智花と自分のグラスにワインを注いだ。

「では智花の潔白に乾杯」

「ありがとう一華」

ワインに口をつけた智花は料理に手をつけると絶賛した。


「美味しい!こんな美味しい料理はじめて!」

智花の手は止まらない。

「そう言ってもらえると嬉しいわ」


これが最後の晩餐よ。

存分に味わいなさい。


「さっきから気になってたんだけど、これって一華が作ったの?」

智花はようやく私の作品に興味を示した。

「ええ。今度の個展に出すの。まだ途中だけどね」

「凄いねえ……」


智花は一言感想を漏らすと、再び料理に手をつけた。

そんな智花を私は微笑みながら見つめた。

楽しい晩餐を締めくくるデザートをテーブルに置いてから、智花に質問した。


「ねえ、智花。あなたが不倫していた相手ってどんな方?」

「ああ、なんか日本とフランスのハーフで年下の超イケメン!でも不倫がバレたら連絡取れなくなってさあ。ついてないよね」

デザートをパクつきながら返す智花。

「その方って、今キッチンに立ってる彼じゃない?」

「えっ」

振り向いた智花の視線の先にはにこやかに手を振っているルイがいた。


「智花さん久しぶり!」

「は、はあ?あなた……一誠じゃない!どうして?」

智花はおもしろいように驚いた。

「彼はルイ。私のパートナー。それより一誠ってなによ?あなたそんな名前使っていたの?」

半笑いでルイに聞く。

「ハハハ。歩いてるときに目についたホストクラブの看板からもらったんだ」

「えっ?えっ?ど、どういうこと?」

智花が私とルイを交互に見る。


「アハハハハ……アッハハハ」


笑い出す私を智花は呆気にとられたように見ている。

続いてルイも笑いだした。



私たち二人の笑い声につつまれた智花の顔には不安と恐怖が見てとれた。

その様が余計に私を笑わせてくれた。

「アハハ……フフッ……もう智花ったらそんな顔しないでよ。笑いが止まらないじゃない」

「どうしたの一華?どういうことなの?」

引き攣り気味の智花の顔を見て、また笑いだしそうになったが必死に堪えると居住まいを正した。


「じゃあ教えてあげる」

私は掌を拝むように顔の前で合わせると説明を始めた。

「ルイは私の指示であなたと男女の仲になったの」

「なにそれ?」

「私が日本へ帰るよりずっと先にルイを日本へ行かせた。何度もね。そしてあなたと関係を持ったという報告を受けてから、知り合いに二人で会っているところ、ホテルから出てくるところを写真に撮らせたの」


「じ、じゃあ、近所にばらまかれた私の不倫写真って……」

「その人から私に届いたものをルイにばらまかせたわ」

「そういうこと。ごめんね智花さん」

ルイが笑顔で言う。


智花は混乱しているのか、泣いているのか笑っているのかわからない顔になっていた。

「わからない……なんでよ?なんで?」

「あっ。ちなみに同窓会の日に智花さんのバッグに薬物仕込んだのも俺だよ。スープに入れたものと同じやつをね」

ルイは笑みを絶やさない。


「智花を犯人扱いした動画を作成して公開したのも私たち。不倫暴露と犯人扱いで精神的に追いつめて、家にいれなくなるようにする必要があったの」

「ふ、ふざけないてよ!だったら今日までなんで私を匿っていたの?なんで助けたの?」


「あなたが実家にも帰れずに、ルイに助けを求めたという連絡を受けて、私から由利に電話をさせたの。私に連絡すれば悪いようにならないってね」


「由利?由利もグルだったの?どうして私にそんなこと」


「決まってるじゃない。あなたには私のお母さんの苦しみを味わって欲しかったから。あなた達がネットに、お母さんがあの男、義理の父親を殺したと書き込んだおかげでお母さんは精神的に追い詰められた。なんの証拠もないのに殺人をやったと大勢の人間から指さされてね」


「わ、私をどうするつもりなの?警察に突き出すの?だったらあんた達が同窓会での薬物事件の犯人だと言うわよ!」

智花は語気を強めた。


「警察?なんの話をしているの?」

「さ、さっき言ったじゃない。私が大きな犯罪の容疑者になっているって」

「あれね。あんなの嘘よ。もっと言えば、最初からね。警察はあなたを逮捕しようなんてしていなかった」

「じゃあ、じゃあなんで私を?」


「殺すためよ」


智花の顔から一気に血の気が引いた。

「う、嘘でしょう?あんなに優しくしてくれたじゃない?どうして?」

「そういう顔を見たかったの。だから優しくして信用させた」

智花は席を立って逃げようとしたが、バランスを崩して床に倒れこんだ。


「あ、あれ?脚に力が入らない……どうなってるの?」


「薬が効いてきたの。グラスに仕込んでおいたのよ。あらかじめ少量の薬を少量の水と一緒にグラスの底に凍らせておく。すぐにワインを注げば気がつかれない。現にあなたも気がつかなかったでしょう?」


「ど、どうして私だけ?あなたをいじめていたのは由利も茉莉も紅音も同じじゃない……どうして私だけを?」

「勘違いしないでね。由利は私に謝罪してきた。お母さんの件には関わっていない。だから許したの」


「ごめんなさい。ごめんなさい」


「ククク……ずっと私と一緒にいて、ようやく今になって謝罪したね」

私は肩をゆすった。


「それにあなただけじゃないから。茉莉と紅音ならあなたより前からこの家にいるわ。福山先生も。しかも目の前に。さっきからずっとそこにいるわよ」

「はあ?」

手をついて体を起こしリビングを見まわす智花。

「ど、どこに?」

「鈍いわねえ。そこよ」

私は作成中の「蜘蛛の糸」を指した。

智花の目が見開かれて釘付けになる。


「あの子たちの肉や内臓は庭にいる犬の餌にした。髪の毛は焼いて、骨は細かく砕いてから粘土に混ぜて作品にしたの。無価値なあの子たちを価値のある作品に生まれ変わらせてあげたってこと」

「ひっ……ひっひっ……」

智花はなにか言葉を発するでもなく、顔を引き攣らせて声を上ずらせているだけだ。


「でもあなたは私の作品にしてあげない。あなたにはそんな価値も資格もない」

「い、いや、いや……」

「内臓は掻き出して犬の餌。それから死体は辱めて晒してやる」


智花はようやくあらん限りの声を出して叫びだした。

泣きわめくような声はリビングにかかっている音楽が聞こえなくなるほどの音量だ。


次は千尋だ。

愛しい千尋。

私はあなたの幸せをなにもかも滅ぼすために帰ってきたの。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

せんせいとおばさん

悠生ゆう
恋愛
創作百合 樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。 ※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。

妻への最後の手紙

中七七三
ライト文芸
生きることに疲れた夫が妻へ送った最後の手紙の話。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

処理中です...