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世界を縫い合わせる、金色の絆
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「……正気か、巴」
波旬様が、信じられないものを見る目で私を見つめている。
「俺を『接着剤』にするだと? 空間ごと俺を直す気か?」
「ええ、そうです」
私は強がりではなく、確信を持って頷いた。 「世界の歪みが貴方の身体のヒビと連動しているなら、逆もまた然りです。貴方の魔力を使って、この空間の亀裂を『金継ぎ』すれば、世界は安定し……同時に、貴方の身体の負担も消えるはず」
私は筆を構え、震える足を叱咤した。
「ただし、荒療治です。……波旬様、貴方には亀裂の中心に入ってもらいます。物凄い激痛が走るはずです。それでも耐えられますか?」
波旬様は一瞬、目を丸くし、やがて、いつもの不敵な笑みを浮かべた。
「ハッ。誰に口を聞いてやがる」 彼は大太刀を捨て、素手で構えた。 「俺は閻魔大王の息子、波旬だぞ。……地獄の痛みなんざ、慣れっこだ。好きにやれ!」
◆
「斬鉄さん! 行きますよ!」 『おう! 俺様の切れ味、神域まで高めてやる!』
私は夜狐さんに跨り、空へと舞い上がった。 目の前には、世界を引き裂く巨大な黒い亀裂。 そこから漏れ出す瘴気は、肌を焼くように痛い。
「まずは『下地処理』です! 斬鉄さん、亀裂の断面を綺麗に切り揃えて!」
『任せろォォッ!!』 斬鉄が巨大化し、銀色の閃光となって空間を薙いだ。 ザシュッ!! ギザギザに割れていた空間の縁(ふち)が、スパッと滑らかに切断される。
「今です、波旬様!」
「うおおおおぉぉッ!!」 波旬様が亀裂の中心へと飛び込んだ。 彼は両手を広げ、自身の体内から莫大な魔力を放出する。 黒い霧のような魔力が、亀裂の間を埋める「漆(パテ)」となって充満していく。
「ぐ、がぁぁぁぁ……ッ!!」 波旬様が絶叫した。 当然だ。世界の崩壊を、生身一つで受け止めているのだから。彼の皮膚に新たな亀裂が走り、血が噴き出す。
「波旬様……!」 胸が張り裂けそうだ。でも、今私が躊躇(ためら)えば、彼は無駄死にする。 私は涙を拭い、筆に「金粉」をたっぷりと乗せた。
「繋がれ……繋がれぇぇッ!!」
私は空中で筆を振るった。 波旬様の魔力(黒)と、私の金継ぎ(金)。 二つが混ざり合い、亀裂のラインをなぞっていく。
――ズズズズズ……。
奇跡が起きた。 裂けていた空間が、金色の光を帯びて引き寄せ合い、ゆっくりと閉じ始めたのだ。 それはまるで、世界そのものが癒やされていくような光景。
「まだだ……まだ足りねえ……!」 中心にいる波旬様が、血を吐きながら叫ぶ。
「もっと持ってけ! 俺の命ごと縫い合わせろ! 巴!!」
「死なせません! 貴方は私の……私の大切な旦那様なんだからッ!!」
私は叫び、最後の仕上げに入った。 金継ぎの極意。「景色」を作る。 ただ直すだけじゃない。壊れる前よりも美しく、強固に。 二人の愛(魔力)を、永遠の輝きに変えて――!
カッッッ!!!!
視界が真っ白に染まるほどの閃光が炸裂した。
◆
……静寂。 目を開けると、そこには穏やかな灰色の空があった。 あの禍々しい亀裂は消えていた。 代わりに、空間には一本の美しい「稲妻のような金色の継ぎ目」が走り、神々しい輝きを放っている。
「……は、じゅん、様……?」
私は慌てて地上へ降りた。 荒野の中央に、波旬様が倒れていた。
「波旬様! しっかりして!」 抱き起こすと、彼は薄っすらと目を開けた。
「……よう。……随分と派手な『手術』だったな……」
生きてる。 そして、私は息を呑んだ。 彼の上半身にあった、あの痛々しい無数の亀裂。 それが全て消え――胸の中央に一本だけ、空間と同じ「金色の継ぎ目」が、誇らしげに残っていた。 それはもう傷跡ではない。彼が世界を守り、私と共に歩んだ「勲章」に見えた。
「……痛みは?」
「……嘘みてえに消えた。身体が軽い」 波旬様は私の頬に手を添え、優しく微笑んだ。
「ありがとな、巴。……お前のおかげで、俺は初めて『生まれ変われた』気がする」
「うぅ……うわぁぁぁん!」 私はたまらず彼の胸に顔を埋めて泣いた。 良かった。本当に良かった。
『フン。見せつけてくれるわ』
地面に刺さった斬鉄が、やれやれと呆れている。 こうして、最後の、そして最大の試練「無間地獄」の修復は完了した。
しかし。 私たちが安堵していたその時。 空から、パチパチと拍手の音が降ってきた。
「――お見事です。まさか、本当に直してしまうとは」
冷ややかな声。 見上げると、そこには優雅な笑顔を浮かべた第二皇子・廉浄(れんじょう)様が浮いていた。 でも、何かがおかしい。彼の背後には、おびただしい数の武装した鬼の軍勢が控えていた。
「……廉浄? どういうつもりだ」 「兄上。ご苦労さまでした。貴方がその『汚れ役』で世界を直してくれたおかげで……ようやく私が、穢れなき『新世界の王』として即位できるのです」
最後の最後で、まさかの裏切り――!?
波旬様が、信じられないものを見る目で私を見つめている。
「俺を『接着剤』にするだと? 空間ごと俺を直す気か?」
「ええ、そうです」
私は強がりではなく、確信を持って頷いた。 「世界の歪みが貴方の身体のヒビと連動しているなら、逆もまた然りです。貴方の魔力を使って、この空間の亀裂を『金継ぎ』すれば、世界は安定し……同時に、貴方の身体の負担も消えるはず」
私は筆を構え、震える足を叱咤した。
「ただし、荒療治です。……波旬様、貴方には亀裂の中心に入ってもらいます。物凄い激痛が走るはずです。それでも耐えられますか?」
波旬様は一瞬、目を丸くし、やがて、いつもの不敵な笑みを浮かべた。
「ハッ。誰に口を聞いてやがる」 彼は大太刀を捨て、素手で構えた。 「俺は閻魔大王の息子、波旬だぞ。……地獄の痛みなんざ、慣れっこだ。好きにやれ!」
◆
「斬鉄さん! 行きますよ!」 『おう! 俺様の切れ味、神域まで高めてやる!』
私は夜狐さんに跨り、空へと舞い上がった。 目の前には、世界を引き裂く巨大な黒い亀裂。 そこから漏れ出す瘴気は、肌を焼くように痛い。
「まずは『下地処理』です! 斬鉄さん、亀裂の断面を綺麗に切り揃えて!」
『任せろォォッ!!』 斬鉄が巨大化し、銀色の閃光となって空間を薙いだ。 ザシュッ!! ギザギザに割れていた空間の縁(ふち)が、スパッと滑らかに切断される。
「今です、波旬様!」
「うおおおおぉぉッ!!」 波旬様が亀裂の中心へと飛び込んだ。 彼は両手を広げ、自身の体内から莫大な魔力を放出する。 黒い霧のような魔力が、亀裂の間を埋める「漆(パテ)」となって充満していく。
「ぐ、がぁぁぁぁ……ッ!!」 波旬様が絶叫した。 当然だ。世界の崩壊を、生身一つで受け止めているのだから。彼の皮膚に新たな亀裂が走り、血が噴き出す。
「波旬様……!」 胸が張り裂けそうだ。でも、今私が躊躇(ためら)えば、彼は無駄死にする。 私は涙を拭い、筆に「金粉」をたっぷりと乗せた。
「繋がれ……繋がれぇぇッ!!」
私は空中で筆を振るった。 波旬様の魔力(黒)と、私の金継ぎ(金)。 二つが混ざり合い、亀裂のラインをなぞっていく。
――ズズズズズ……。
奇跡が起きた。 裂けていた空間が、金色の光を帯びて引き寄せ合い、ゆっくりと閉じ始めたのだ。 それはまるで、世界そのものが癒やされていくような光景。
「まだだ……まだ足りねえ……!」 中心にいる波旬様が、血を吐きながら叫ぶ。
「もっと持ってけ! 俺の命ごと縫い合わせろ! 巴!!」
「死なせません! 貴方は私の……私の大切な旦那様なんだからッ!!」
私は叫び、最後の仕上げに入った。 金継ぎの極意。「景色」を作る。 ただ直すだけじゃない。壊れる前よりも美しく、強固に。 二人の愛(魔力)を、永遠の輝きに変えて――!
カッッッ!!!!
視界が真っ白に染まるほどの閃光が炸裂した。
◆
……静寂。 目を開けると、そこには穏やかな灰色の空があった。 あの禍々しい亀裂は消えていた。 代わりに、空間には一本の美しい「稲妻のような金色の継ぎ目」が走り、神々しい輝きを放っている。
「……は、じゅん、様……?」
私は慌てて地上へ降りた。 荒野の中央に、波旬様が倒れていた。
「波旬様! しっかりして!」 抱き起こすと、彼は薄っすらと目を開けた。
「……よう。……随分と派手な『手術』だったな……」
生きてる。 そして、私は息を呑んだ。 彼の上半身にあった、あの痛々しい無数の亀裂。 それが全て消え――胸の中央に一本だけ、空間と同じ「金色の継ぎ目」が、誇らしげに残っていた。 それはもう傷跡ではない。彼が世界を守り、私と共に歩んだ「勲章」に見えた。
「……痛みは?」
「……嘘みてえに消えた。身体が軽い」 波旬様は私の頬に手を添え、優しく微笑んだ。
「ありがとな、巴。……お前のおかげで、俺は初めて『生まれ変われた』気がする」
「うぅ……うわぁぁぁん!」 私はたまらず彼の胸に顔を埋めて泣いた。 良かった。本当に良かった。
『フン。見せつけてくれるわ』
地面に刺さった斬鉄が、やれやれと呆れている。 こうして、最後の、そして最大の試練「無間地獄」の修復は完了した。
しかし。 私たちが安堵していたその時。 空から、パチパチと拍手の音が降ってきた。
「――お見事です。まさか、本当に直してしまうとは」
冷ややかな声。 見上げると、そこには優雅な笑顔を浮かべた第二皇子・廉浄(れんじょう)様が浮いていた。 でも、何かがおかしい。彼の背後には、おびただしい数の武装した鬼の軍勢が控えていた。
「……廉浄? どういうつもりだ」 「兄上。ご苦労さまでした。貴方がその『汚れ役』で世界を直してくれたおかげで……ようやく私が、穢れなき『新世界の王』として即位できるのです」
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