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「シア君、シア君すみません。ちょっと助けてもらえますか」
真夜中、珍しく切羽詰まった声のユージーンに起こされたシアは、目に飛び込んできた師匠の姿に絶句した。
血塗れ、だったのだ。
「依頼中ちょっと特殊な魔物の血を浴びちゃいまして、うまく魔法使えないんですよね。なので、魔法で作った水で洗い流して欲しいんですよ。あ、魔物はもう倒してあるので心配はいりません」
普通の水ではなく、魔力から生み出した水には少しだけ浄化作用がある。
夜中に起こされたということは、それなりに緊急事態だということだとすぐにわかった。
けれど、半年以上師事しているユージーンの初めて見るような失態の姿に、シアはうまく動けなかった。
「な、なな…」
「ああ、すみません。こんな姿見せるのは本意ではないんです、申し訳ない」
ユージーンのそれは本心だった。
考え事をしていたとはいえ、あんな魔物に遅れをとるなど。
しかし、魔物の特徴として、このまま血を浴びたままの時間が長くなればなるほど魔法を使えない時間が長引いてしまう。
「で、でも俺、人に向けて魔法使ったことない…」
「大丈夫ですよ。相手は私ですし、最近の君の魔力コントロールを見るに、問題ありません」
「でも、前みたいに熱湯になったら…」
「その時はその時です。でも大丈夫ですよ。私は無謀なことは頼まない主義です」
ユージーンの言葉には信頼というより、当然でしょう?という響きがあって、シアはごくっと唾を飲み込んだ。
「わかった。頑張る」
「ありがとうございます」
弟子の気合いの入った返答に、ユージーンはすこし嬉しそうに微笑んだ。
「どうすればいい、師匠」
ずぶ濡れになること必至なため、2人は庭にでる。
月の大きな夜だ。闇に目が慣れてくると、はっきりと姿が見えるくらいには明るかった。
「そうですね。両手で抱えられるくらいの水球をつくって、それを私の頭の上で破裂させてみてください。ああ、そんな不安そうな顔しないで。大丈夫、シア君なら問題なくできます」
「…わかった」
シアは集中する。
この半年、いろんな属性を試して、シアは火の魔法が得意ということがわかった。
それと同時に水の魔法と風の魔法にも適正があった。
三つも適正があるなんて、すごいじゃないか、とユージーンが嬉しそうに笑って、でも全属性に適正がある師匠にその褒められ方をしてもすごく微妙な気持ちになるなって思ったのは記憶に新しい。
それでも、そんなすごい師匠に、自分は今“頼ってもらえた”のだ。
それに応えないで、なにが一番弟子だ。
魔力を集めて、ユージーンの上に水球を作る。それは、前みたいに炎を纏ったりしていたい。
そして、その水球が、師匠を洗い流すイメージを膨らませた。
ユージーンは、頭の上で破裂させるようにと言っていたから、そのように。
けど、その水が決してユージーンを傷つけることのないように。
その水が、彼を癒すように。
「っ!」
降ってきた水に、ユージーンは息を呑んだ。
(これは、浄化の水?しかも、こんな、シャワーみたいな優しい降らし方……)
浄化の水自体はそこまで難しい魔法ではない。水魔法が得意属性なら、新人魔術師でも使える人はいる。
が、ユージーンは彼にまだそれを教えたことはない。
つまり、シアは自分で考え、自分で”魔法を想像し、創造した“ということだ。
この降らしかたもそう。彼が自分で、ユージーンの体が辛くないように、と考えた結果だろう。
とんでもない才能だな、と思った。
天才と名高いユージーンだが、それは長い長い生の中で少しずつたくさんの魔法を習得してきたからだ。才能がないとは思っていないが、本当の天才というのは、こういう子をいうのだろう。
人を想って、魔法を使えるというのも、また大切な才能だ。
血が全て洗い流されたところで、シアの体がぐらりと傾いた。
「おっと」
「あ、ししょ…」
「びっくりしました。すごいですよシア君。おかげでほら、身体中ピンピンしています」
ユージーンの言葉に、シアが嬉しそうに笑った。
「すげー、だろ」
「ええ、とても」
シアが倒れたのは魔力不足なのは明白だった。
「シア君、このままベッドに運んでいいですか?…魔力の補充も、なんですけれど…その…」
「?」
珍しく言い淀むユージーンにシアが首を傾げた。
しかし、続けられた言葉にびくり、と体が震えて、身体中が熱くなる。
「今、私はすごく…、君を抱きたい」
***
次回は背後注意回。
明日更新予定です。
真夜中、珍しく切羽詰まった声のユージーンに起こされたシアは、目に飛び込んできた師匠の姿に絶句した。
血塗れ、だったのだ。
「依頼中ちょっと特殊な魔物の血を浴びちゃいまして、うまく魔法使えないんですよね。なので、魔法で作った水で洗い流して欲しいんですよ。あ、魔物はもう倒してあるので心配はいりません」
普通の水ではなく、魔力から生み出した水には少しだけ浄化作用がある。
夜中に起こされたということは、それなりに緊急事態だということだとすぐにわかった。
けれど、半年以上師事しているユージーンの初めて見るような失態の姿に、シアはうまく動けなかった。
「な、なな…」
「ああ、すみません。こんな姿見せるのは本意ではないんです、申し訳ない」
ユージーンのそれは本心だった。
考え事をしていたとはいえ、あんな魔物に遅れをとるなど。
しかし、魔物の特徴として、このまま血を浴びたままの時間が長くなればなるほど魔法を使えない時間が長引いてしまう。
「で、でも俺、人に向けて魔法使ったことない…」
「大丈夫ですよ。相手は私ですし、最近の君の魔力コントロールを見るに、問題ありません」
「でも、前みたいに熱湯になったら…」
「その時はその時です。でも大丈夫ですよ。私は無謀なことは頼まない主義です」
ユージーンの言葉には信頼というより、当然でしょう?という響きがあって、シアはごくっと唾を飲み込んだ。
「わかった。頑張る」
「ありがとうございます」
弟子の気合いの入った返答に、ユージーンはすこし嬉しそうに微笑んだ。
「どうすればいい、師匠」
ずぶ濡れになること必至なため、2人は庭にでる。
月の大きな夜だ。闇に目が慣れてくると、はっきりと姿が見えるくらいには明るかった。
「そうですね。両手で抱えられるくらいの水球をつくって、それを私の頭の上で破裂させてみてください。ああ、そんな不安そうな顔しないで。大丈夫、シア君なら問題なくできます」
「…わかった」
シアは集中する。
この半年、いろんな属性を試して、シアは火の魔法が得意ということがわかった。
それと同時に水の魔法と風の魔法にも適正があった。
三つも適正があるなんて、すごいじゃないか、とユージーンが嬉しそうに笑って、でも全属性に適正がある師匠にその褒められ方をしてもすごく微妙な気持ちになるなって思ったのは記憶に新しい。
それでも、そんなすごい師匠に、自分は今“頼ってもらえた”のだ。
それに応えないで、なにが一番弟子だ。
魔力を集めて、ユージーンの上に水球を作る。それは、前みたいに炎を纏ったりしていたい。
そして、その水球が、師匠を洗い流すイメージを膨らませた。
ユージーンは、頭の上で破裂させるようにと言っていたから、そのように。
けど、その水が決してユージーンを傷つけることのないように。
その水が、彼を癒すように。
「っ!」
降ってきた水に、ユージーンは息を呑んだ。
(これは、浄化の水?しかも、こんな、シャワーみたいな優しい降らし方……)
浄化の水自体はそこまで難しい魔法ではない。水魔法が得意属性なら、新人魔術師でも使える人はいる。
が、ユージーンは彼にまだそれを教えたことはない。
つまり、シアは自分で考え、自分で”魔法を想像し、創造した“ということだ。
この降らしかたもそう。彼が自分で、ユージーンの体が辛くないように、と考えた結果だろう。
とんでもない才能だな、と思った。
天才と名高いユージーンだが、それは長い長い生の中で少しずつたくさんの魔法を習得してきたからだ。才能がないとは思っていないが、本当の天才というのは、こういう子をいうのだろう。
人を想って、魔法を使えるというのも、また大切な才能だ。
血が全て洗い流されたところで、シアの体がぐらりと傾いた。
「おっと」
「あ、ししょ…」
「びっくりしました。すごいですよシア君。おかげでほら、身体中ピンピンしています」
ユージーンの言葉に、シアが嬉しそうに笑った。
「すげー、だろ」
「ええ、とても」
シアが倒れたのは魔力不足なのは明白だった。
「シア君、このままベッドに運んでいいですか?…魔力の補充も、なんですけれど…その…」
「?」
珍しく言い淀むユージーンにシアが首を傾げた。
しかし、続けられた言葉にびくり、と体が震えて、身体中が熱くなる。
「今、私はすごく…、君を抱きたい」
***
次回は背後注意回。
明日更新予定です。
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