佐々さんちの三兄妹弟

蓮水千夜

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ちっちゃな胸のおっきな悩み

△01▽ やっぱり、小さいよな

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 風呂上りに、洗面台の鏡に映った自分と、ふと目が合った。

 つり目がちな大きなひとみに、肩までかからない程度に切られた髪。真ん中から両サイドにわけられた前髪の左右の一部だけ、紫色に染めていて、それ以外の部分は金髪にしている。

 年の割には小柄な身長で、高校も卒業してしまった今、これ以上の成長は悔しいが……、望めそうになかった。

 だが、最たる悩みは──、

「……やっぱり、小さいよな……」

 言いながら、思わず自分の身体からだを見下ろす。そこには平原とは言わないまでも、ささやか過ぎる山があるだけだった。自分の手でそっと押さえるだけで完全に隠れてしまう。

「うわぁー」

 思わず、そんなつぶやきが漏れた。

(こうすると、本当に何もないみたいだな……)


 そう、くららの悩みは自分の小さすぎる胸だった。


 こんなことを話しても誰にも信じてもらえないだろうが、くららには前世の記憶がある。すべてのことをはっきりと覚えているわけではないが、少なくとも自分が何者であったかは、自覚していた。

 くららは前世で佐々さっさ成政なりまさ内蔵助くらのすけという、かの織田おだ信長のぶながに仕えていた武将だった。それなりに活躍もしたのだが、それは今は置いておくとして。

 つまり、何が言いたいかというと、前世が男だったわけで、そして現在いま前世むかしもくららは──、


 巨乳派だった。


「いや、絶対満足できないだろ、これぇッ……!!」

 くららのむなしい叫び声が、洗面台にこだました。  


◇◆◇◉◇◆◇


誠実せいじー。風呂、上がったぞー…」

 先ほどの件で、気分が晴れないまま誠実の部屋をおもむろに開けると、部屋にはすでに先客がいた。

「姉さん」
「くらら」

 くららを見て二人の兄弟がほぼ同時に声をあげる。

 この二人も、実は前世では成政と縁が深い人物だ。義理の兄である灰時はいじは、佐々孫介さっさまごすけという佐々家の次男で、腹違いの弟である誠実は長男の佐々政次さっさまさつぐだった。

 二人の兄は成政より先に討死うちじにしてしまい、三男の成政が家督かとくを継ぐことになるのだが……、まさかこんな形で再び二人に出会うことになるとは思ってもみなかった。

 兄二人に会えたなら、話したいこともいっぱいあったけれど、残念ながら灰時と誠実にその記憶はなかった。言っても混乱させるだけなので、特にその話は二人にはしていない。少しの寂しさはあるけれど、生まれ変わったのなら前世むかしのことなど気にせずに現在いまを生きるべきだ。

 もちろんそれは、くららに言えることでもある。最初こそ戸惑いはあったが、今は割と現在いまの自分を受け入れているつもりだ。まあ、いまだに気恥ずかしくて自分のことを『おれ』って言ったり、やっぱり胸のこととか気になることはいくつかあるけれども……。

 生まれ変わっても、再び兄妹弟きょうだいとして出会うことができたのは本当に奇跡だと思う。

 ……まぁ、まさか三人で付き合うことになるとは予想もしていなかったが。

「珍しいな。誠実の部屋に灰時がいるなんて」

 普段、灰時がくららの部屋に勝手に入ってくるのはしょっちゅうだが、誠実の部屋にずっといるのはあまり見たことがなかった気がする。

「あっ、じ、実は……」

 そう言って話し出した誠実の話をまとめると、最近誠実が所属している生徒会では、トランプの『大富豪』が流行っているらしいのだが、初心者だった誠実はなかなか勝てず、常にいわゆる『大貧民』になっているようだった。そこからなんとか抜け出したいと考えていたところ、ちょうど灰時が部屋に入ってきたため、灰時にやり方を聞いていて今にいたるというわけらしい。

「へー。なるほどなぁ。しかし、『大富豪』とは懐かしいな。トランプとかって何故なぜか一回は学生の間で流行はやるよなー」

 くららも中学や高校のときに、何人かで集まってよくトランプをやっていた時期があった。

「姉さんのときも流行っていたんですか?」
「あぁ。おれは結構強いぞ」

 学生時代の連勝時の記憶を思い出しながら語っていると、

「じゃあ、今度はくららも入れて三人でやってみようか」

「へっ?」

 今まで黙っていた灰時が急にそう提案してきた。

「でも……、ただでやるのは面白くないから、最下位の人は一位の人の言うことを何でも聞くっていうのはどうかな?」

 何故かとてもいい笑顔で、意味ありげな視線を送ってくる。

「はぁ~? 何だよそれ。って言うか二人とも、どっちかさっさと風呂に……」

 言いかけた言葉を遮るように、灰時が言葉を重ねた。

「ひょっとして、くらら。負けるのが怖いの?」

 その、挑発的な顔に思わずカチンとくる。くららは昔から負けず嫌いだった。

「なっ……、んでそうなんだよ。言っとくけど、おれは本当に結構強いからな!」
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